「松本」


凛とした、毎日聞く声が私を呼ぶ

だけど今の私はその声の主に振り向く事が出来ない
私は今、一人の動かなくなってしまった隊員の遺体にしがみついて泣いているから


『松本副隊長に憧れて十番隊に入ったんです』


眼をキラキラさせて、私にこの子がそう言ったのはもう何年も前
毎日この子は頑張った
一生懸命職務に励み
力を伸ばそうと修行もしていた

やっと席官になれたと喜んでいた

なのに・・・


「松本」


また、私を呼ぶ声


「・・・すみません、暫く・・・一人にしてください・・・」


こんな私を見られたくないから
もう少しだけ泣いたら
ここから出たらいつもの私に戻るから
今だけは一人にして


「・・・お願いします・・・」


はぁ・・・とため息が聞こえた
その後、人が動く気配がする
願いを聞き入れて一人にしてくれるんだ、そう思っていたら

ふわりと背中から抱きしめられた


「たい・・・」
「・・・俺に・・・嘘をつくな・・・」


いつもより近くで聞こえる声


「一人でいるのが・・・嫌なくせに」


感じる隊長のあたたかさ


「一人で泣くな、俺以外のやつの前で泣くな」


腕も、体も
細くて小さいのに
どうしてこんなに落ち着くんだろう
大きく感じるんだろう


「っ隊長!」


私は振り返って隊長にしがみつき
泣いた
声を殺さずに、大声で

隊長はもう一度ぎゅっと私を抱きしめてくれた

本当は一人でなんていたくなかった
一人でいると悲しみに飲み込まれそうだったから

でも「一人にしないで」なんて言う弱い私を誰にも見せたくなかった
それを見ても良いのは一人だけ


「お前のこんな姿、見て良いのは、知っても良いのは俺だけだ」


そう、弱い私を見ても良いのはあなただけ


「俺だけだ・・・・乱菊・・・」







私が泣いて良い場所は

あなたの腕の中だけ