「体験入隊?」

「そう。
各隊をまわって、そのうえで配属先を希望するって事になったんだよ」

「・・・はぁ・・・?」

首を傾げる冬獅郎に
ニコリと感じの良い笑顔で藍染は微笑んだ







一番隊五席 日番谷冬獅郎
彼にこの度、異動の辞令が発表された

『○○番隊副隊長』
それが冬獅郎の次の地位

番号の部分が何故○かと言うと・・・











「そらボクんとこの三番隊やろ。早く副隊長を貰わんと、ウチの三席以下の連中が過労死してまう」

まず、立候補したのは市丸の三番隊


「それは市丸が仕事をサボってばかりだからだろう?山じぃ、俺の所は随分長い間副隊長が不在なんだ
そろそろ十三番隊に副隊長を」

浮竹の十三番隊


「突然なんだけど、僕の隊の副隊長が急死してしまってね
彼は優秀だったからその代わりが出来る死神となるとなかなか・・・」

何故か昨日副隊長が死体で発見されたらしい藍染の五番隊

(このオッサン汚いわ〜・・・この為に殺りよったな・・・)


「はいはいはーい!十番隊は隊長がいませーん!
あのコ隊長にくださーい!!」

総隊長に手を振ってアピールしているのは十番隊副隊長の松本
しかし、『冬獅郎を副隊長に希望する隊』と言っているのに隊長にして配属してくれという松本の意見は却下された・・・


納得出来ませーん
と泣きながら(嘘泣き)訴える松本や
お互いを牽制しあう各隊長達の輪から少し外れた所で残りの隊長達が集まっていた


残念ながら彼らの隊は副隊長が在籍している為、今回参加する権利はない

残念だと思う者、興味が無い者、このやり取りを面白がっている者等様々であったが・・・


そんな輪の中で京楽は朽木の姿に気がついた

「そう言えば、朽木隊長の所も副隊長がいないんじゃなかった?」
「・・・そうだったな・・」

今気がつきました、と遅ればせながら朽木の六番隊も立候補に加わる





何はともあれ
冬獅郎を欲しいと『三』『五』『六』『十三』が立候補してしまい
お互いに譲ろうとしない為、今にも戦闘を開始してしまう勢いだった


「山じぃ!」「総隊長!」「総隊長はん!」「・・・」
「なんで駄目なんですか?私、部下に言っちゃったのに〜隊長ゲットするって〜」

「だまらっしゃい!!」
「「「「!!!」」」」

収集のつかない状況に
とうとう総隊長山本の雷が落ちてしまった


三時間お説教コースを覚悟した一同だったが、山本の発した言葉は予想外だった


「冬獅郎は一番隊所属!それ以外ない!!」
「「「はぁ?」」」

((((何を言ってんだこのジジィ))))

今回の冬獅郎の異動
それは山本の意思ではなかった
『副隊長の空席が目立つ』
といって四十六室が無理矢理に行ったものである

「他の隊に行ってしまっては、カワイイ孫と思うように会えぬではないか!!」
「しかし四十六室の命令ですし・・・」

駄々をこねはじめる山本を一番隊副隊長雀部が諌めようと近づいた

「・・・そうじゃ・・・長次郎、お主が異動せい」
「は!?い今何と?」
「冬獅郎の代わりにお主が他の隊へ行けば良いのじゃ!
そうすれば冬獅郎は一番隊副隊長じゃ」
「そ・・・そんなぁ・・・」


泣き崩れる雀部
決まりじゃ決まりじゃと喜ぶ山本

だが、それを許す立候補者達ではなかった









「さっそくで悪いんだけど、今日から開始するから」

「まず最初に」
と藍染が説明を始めようとするのを冬獅郎は止めた

「なんだい?」
「あの・・・後ろの柱に縛られてるのは・・・」
「ああ・・・」

後ろを振り返り、冬獅郎の言う柱を確認した藍染は
ニコリと笑って

「山本総隊長だよ」

と答えた

「はぁ・・・」

チラっと冬獅郎は山本を窺う
柱に縛り付けられている山本はかなり暴れていたが、霊力を封じられているようでジタバタしているだけだった
「うー!うー!」
と何か言っているのだが、猿轡をされていて冬獅郎には理解できない



「まぁ、あれは放っておいていいから」

良いのかよ!と心の中でツッコミを入れる冬獅郎

「抽選の結果、十三→五→三→六番隊の順で行ってもらうよ
途中で『この隊が良い』って思ったら全部回らなくて良いからね」

「解りました」


なにはともあれ
体験入隊スタート



十三番隊へ







「いらっしゃい、良く来たねVv」
「しばらくお世話になります。一番隊五席 日番「しばらくなんて言わずにずーーっと居てくれて良いからねVv」」

自己紹介もそこそこに、浮竹に「座って座って」と執務室のソファに座らされる

「・・・え・・・っと・・・隊長「隊長!!?」」

俺は何の仕事をしたら良いですか
と尋ねようとしたのだが、再び浮竹に遮られる

「隊長だなんて他人行儀な!!」

いや、他人だから
と冬獅郎は声には出さずにつっこんだ

「是非、お父さんと呼んでくれ」
「へ?」
「パパも良いな。父様ってもの捨てがたい」

どれにしよう
と本気で悩んでいる浮竹に冬獅郎は
(だから、親子じゃないから!!)
とまたつっこみをいれていた


「あの・・・それより仕事の事なんですけど」

このままでは延々と待たされると判断した冬獅郎は
悩む浮竹に声をかけた

「ん?ああ、そうだったな、仕事仕事っと」

漸く仕事をする気になった浮竹は自分の机の上をあさる
しかし

「・・・無いな」
「へ?無い?」
「無いんだ」
「いったいどうして?」

仕事が無いなんてありえない
冬獅郎も席官であるので、一番隊で多くの仕事をしている
(一部、山本の話し相手という迷惑な仕事も彼にはあるのだが)
最近では副隊長の仕事を教わるという事で、雀部に付いていた為
毎日どの程度の仕事量があるか想像がつく
なのに無い とは

「ほら。俺がこんな体だから、山じぃが他の隊に振り分けてくれてんだよ」

(それで良いのか?)

「今日もきっと俺と冬獅郎が親子水入らずですごせる様に山じぃがやってくれたんだよ」

うんうん
とニコニコ笑っている浮竹に
冬獅郎は頭痛を覚えた

(総隊長・・・甘やかせすぎだ・・
ってゆーか、呼び捨てだし・・・親子水入らずって・・・)


「って訳で父様とピクニックに行くか?」
「へ?つーか父様ってなんですか!?」
「パパの方が良かったか?」
「いやそういう問題じゃなくて・・・」
「ついでだから京楽も誘って・・・」
「たいちょう・・・」
「息子を紹介しないと」
「だから・・・」
「あ、やちるも連れて行こう」
「俺の話を「お弁当も用意しないとVv」」



結局、この後連れ出され
翌日もなんやかんやと遊びに連れて行かれ(本当に病人なのか!?と冬獅郎は疑問に思ったという)

この隊では仕事になりません!
と三日目で他へ移る事となった




「冬獅郎・・・パパは何時までもまってるからね〜」
「十四郎君・・・実の親子じゃないんだよ・・」




五番隊へ










「おはようございます。よろしくお願いします」
「おはよう。こちらこそ宜しく、日番谷君」


今日から五番隊へ体験入隊となった冬獅郎
五番隊は幼馴染の雛森が所属している事もあり、ちょこちょこ顔を出していた
その為、席官達とも顔見知りで一番仕事がやりやすそうな隊だ
と冬獅郎は思っている

「君の事務処理能力の高さは雀部副隊長から聞いているよ」
「あ・・・どうも・・・」

冬獅郎は少し照れつつ
雀部を始めとする一番隊の事を思い出した
まだ一番隊を離れて数日しか経っていないのにとても懐かしかった

「じゃあ、今日はこの書類を整理してそれから・・・」





「・・・終わった」
「お疲れ様」

どうにか本日分の仕事をやり終えた
いくら事務処理能力が高いからといっても雀部に教わっていたとしても
初めての副隊長業務
冬獅郎にしては意外にも手間取った
気が付けば夜の十一時をすぎている
五番隊舎に残っているのも藍染と冬獅郎に二人だけ

「すいません。俺が手間取ったから・・・」
「いやいや。早い方だよ?いつもならもっと時間がかかってるから」


藍染の気遣いに再度「すみませんでした」と頭をさげた

「今日はこれで終わりですよね?俺は片付けて帰りますから隊長はもうお帰りになってください」
そう言って冬獅郎は席を立つ
すると藍染が冬獅郎の背後に立った

「まだだよ、日番谷君」
「え?」

他になにか?と尋ねようとした時
冬獅郎の体がふわっと浮いた

「!あ、藍染隊長!!?」

冬獅郎は藍染に所謂お姫様抱っこされていた
いきなりの事なので、抵抗する事を忘れている冬獅郎

藍染はニコリと笑ってそのまま隣の部屋にうつる


「お・・・下ろしてください」

隣の部屋は藍染の仮眠室になっている
だが今日来たばかりの冬獅郎はそんなことは知らなかった
なぜ藍染が自分を抱っこしているのか解らないが、恥ずかしいので早く下ろしてくれと頼んだ

「・・・良いよ」

藍染はゆっくりと冬獅郎を下ろす

「あ・・・れ?」

下ろされた場所はベッドの上
冬獅郎が「何で?」と思っていると今度はベッドに押し倒される

「!隊長!?」

のしかかって来る藍染の体を押し返そうと手を出したが、簡単に捕まれ
頭の上で固定される

「痛っ」
「日番谷君」

藍染は冬獅郎の耳元で囁いた

「副隊長の仕事の一つに「隊長の夜伽」というのがある事は知ってたかい?」
「?よ・・とぎ?」

そう と言いながら藍染は冬獅郎の耳にふぅっと息を吹きかける

「ん!っや!」
「隊長の夜の相手だよ。隊長の仕事って大変な仕事が多いからね
ストレスも溜まるし・・・性欲も溜まる」

藍染は左手で冬獅郎の手を固定したまま右手を冬獅郎の死覇装に滑り込ませ胸の突起を転がす

「ちょ!・・やぁ・・・あ」
「それを発散させる副隊長の閨での役目だよ」

(・・・なんてね)

勿論、そんな仕事があるわけが無いのだが

「あっ・・・あ・・・」

片手で死覇装の帯を解き襟を広げる
露になった冬獅郎のもう一つの突起をペロリと舐める

「ひっ!」

(思ったより感度が良いね)

「んあっ!・・いっ・・やぁ!・・」

ニヤリを笑った藍染は冬獅郎の体を舐めながら、右手を下半身に


「はい。そこまでです」
「・・・卯ノ花隊長・・・」

突然現れたのは卯ノ花
その背後には刑軍の姿が

「いけませんね。幼い子供を毒牙にかけようなど」
「・・・いや・・・その・・・」

藍染は冬獅郎から離れじりじりと後ずさる

「言い訳は総隊長の前でなさってくさだいね」

にっこりと笑う笑顔の下に恐ろしい般若の顔を見た
と後に藍染は語る



「・・・日番谷さん。大丈夫ですか?」
「・・・っく・・ふぇ・・・」
「あらあら」


卯ノ花によって助けられた冬獅郎だったが、余程怖かったのだろう
卯ノ花の腕の中で泣いてしまった


結局
五番隊での就任の話は消え
卯ノ花に「このことは秘密にしてください」と頼み
次は三番隊へ






「あ・・・日番谷さんに夜伽の話は嘘ですよって言い忘れましたわ・・・まぁ面白くなりそうですから放っておきましょうか」








*藍染謀反発覚少し前の会話*

「あの時は実に惜しかった。そうだ、混乱に乗じて日番谷君を虚圏に連れて行くってのはどうかな?」
「ええ考えですわ。ついでに洗脳して仲間にしたらええんやないですか?華があってええですやん」
「言っておくが彼の最初は私だよ」
「何言うてますの?ボクが処女貰うんです」
「私の力で洗脳するんだから」
「ほな、ボクは愛の力で」
「ギン!私に逆らうのか!?」
「日番谷はんに関しては譲れまへん!」










とにかく
次は三番隊










「はぁ・・・」

昨日の五番隊での一件のせいですっかり副隊長になることが嫌になってしまった冬獅郎
しかし根がとても真面目な彼は今日も休むことなく出勤している

今日から三番隊勤務だ

(確かここの隊長は市丸ギン
サボり魔って聞いたことがある)

冬獅郎は市丸を遠目でしか見たことがなかったが
自分と同じような銀髪の持ち主であったと記憶している

(・・・き・・・昨日みたいな事になったらどうしよう・・・)

昨日はかろうじて卯ノ花が助けてくれたが、今日も助けてくれるとは限らない
もしあんな事が今日もおこったら
力でも体格でも完全に負けている

(どうしよう・・・)

と顔を青ざめていると


「・・・いい加減中に入り、ボクまで入られへん」
「!ひゃあ!?」

後ろから声
冬獅郎は執務室の扉の前で考え込んでいたのだ



「ボクが隊長の市丸言います。よろしゅうな、日番谷はん」
「・・宜しくおねがいします・・・」

市丸が笑顔で挨拶をしているというのに冬獅郎の表情は硬い

「どないしたん?」

気分でも悪いんか?と熱を測ろうと手を伸ばした瞬間

「!!」
「った!」

その手をたたかれてしまった

「!あ!す・・すみません」

慌てて頭を下げる姿を見て冬獅郎は意識してやったのではないと解った

(・・・そう言えばさっき入り口にいた時も少し震えとったな・・)

「い・・・市丸隊長?」
「何や?」

不安そうな怯えた眼で冬獅郎は市丸を見る
何故そんな顔をするのか
そんな顔をしてほしくなかった

「お・・俺!夜伽は出来ませんから!!」
「はい?」




「そうか・・・そら怖かったな」

思い出したのか冬獅郎はカタカタと震えている
(・・・にしてもあのオッサン!強姦未遂やなんてやってくれるわ!!)

すっかり警戒されとるやないの!!
とかつての上司を思い浮かべた

「すみません・・・っく・・・俺、絶対に・・・ひっく・・・無理・・」

とうとう泣き出してしまった

「ああ〜泣かない泣かない。大丈夫や。ボクはそんな事したりせぇへんよ」
(ホンマはヤリたいけどな・・・そんな事言ったら二度とボクに近づいてくれへんやろうし)

「ほら、おいで」

市丸は冬獅郎を抱きしめた

「!やっ!!」

市丸の腕の中から抜けだそうと冬獅郎は思い切り抵抗する

「大丈夫大丈夫・・・ボクは何にもせぇへんよ」

他人の温もりで安心したのか、冬獅郎はしばらくすると大人しくなった
(アカン・・・いつまで理性が保てるやろう・・・)
出来ることなら今すぐにでも押し倒したい
だがそうすれば嫌われてしまう
だが襲いたい
市丸は激しいジレンマに陥っていた


「あー!もう我慢できへん!!」
「ふぇ?」

このままでは襲ってしまう
そう考えた市丸は自分に張り付いてしまっている冬獅郎の体を押し返した

「市丸隊長?」

首を傾げ市丸を窺う冬獅郎
その姿は市丸の理性を完全に吹き飛ばした

「日番谷はん!!」
「?はい」
「君が好きや!本気で好きや!!」
「??ぅえ?」

何を言ってるんだ?と思った瞬間
冬獅郎はソファに押し倒されていた

「んなっ!」
「もう・・・とまらへん・・・ゴメン」

市丸は冬獅郎の帯に手をかけた


「はい、失格」

ガン!!
という大きな音と共に市丸は冬獅郎に倒れこんできた

「うぇ!!」
「・・・いったぁ・・・」
「あ。ごめんね日番谷君。大丈夫?」

市丸に押し潰される状態になった冬獅郎を突然現れた松本が心配そうに窺う
その手には木製のバッド
どうやらそれで市丸の頭を殴ったようである

「乱菊、なにすんねん!?」

頭をさすりながら市丸は起き上がる
その瞬間に冬獅郎は市丸の下から逃げ出した

「あぁ!日番谷はん!」
「はい、日番谷くん保護」

捕まえた〜と松本は冬獅郎を抱きしめる
今度はその巨乳に押し潰される事になり、日番谷はじたばたと暴れていた

「乱菊!日番谷はんを返し!!」
「何言ってんの。このコを襲った時点で三番隊は失格、次は六番隊よ」
「えぇ!!?」
「当たり前でしょうが」

昨日の藍染の一件から、冬獅郎に危害を加えた場合は即失格という新ルールが加えられていた
その為、市丸は失格
冬獅郎の三番隊への就任は消えてなくなった

「そんな〜」
「このコはいずれウチが隊長に貰うのよ!アンタなんかに穢されてたまるもんですか!!」
「日番谷はんとの甘い生活が・・・執務室でのHが・・・」
「そんな夢をもってたの・・・」
「う〜うう・・(く・・・苦しい・・・胸に殺される)」














「・・・六番隊隊長 朽木白哉だ」
「日番谷冬獅郎です、宜しくお願いします」
「うむ」



冬獅郎の就任先の候補はこの六番隊が最後となった
はっきり言って冬獅郎はもうこの話を断ってしまおうと考えていた

昨日まで三つの隊を見てきたが、正直どの隊にも入りたくない
そしてこの六番隊にも期待はしていなかった

それというのもここの隊長が上級貴族だから

そもそも冬獅郎は貴族にはあまり良い印象を持っていない
自分の身分ばかり自慢して
実力も無いくせに大きな口ばかりたたく
そのくせ全ての仕事や失敗の責任は部下にとらせる
そして冬獅郎のような流魂街出身者を蔑んでいるのだ

全ての貴族がそうではない
それは解っている

だが、そんな貴族達を霊術院時代、十三隊入隊当初に多く見てきたのだ

そしてそんな連中ほど上級貴族だった

だから、朽木隊長は非常に出来る隊長という話だが「どうせ部下にやらせてんだろう」程度にしか思っていなかった




「・・・・」
「・・・どうした?」

冬獅郎は次々に出来上がる書類の出来栄えに驚きを隠せないでいた

「・・・いえ、なんでも・・・」
「そうか」

処理の早さにも驚いたが、内容の出来の良さにも驚いた

(すげ・・・でも、事務仕事だけしか出来ない人かもしれないし)





「散れ、千本桜」
「・・・」

目の前にいた虚が一瞬で倒される
誰一人傷つくことなく
あっさりと

(強い・・・この人は本当に強い)





気がつけば体験入隊としてやってきて既に三週間が経っていた

(今まで上級貴族って奴等を馬鹿にしてたけど・・・)

朽木は冬獅郎にとって今までの考えを払拭させる存在だった

(あの人は強くて優秀で・・・この隊であの人の下について色々勉強しても良いかもな〜)

朽木という隊長は部下に優しいわけではないが、ちゃんと部下の事を見ている人物のようで
冬獅郎から見ても身分関係無く公平に部下の事を評価していた

本当に配属先を選んで良いのなら六番隊にしてもらおう
冬獅郎の心は決まっていた



「日番谷」
「はい」

今日も大量にある書類に格闘しながらなんとか片付けていると
珍しく朽木から話しかけてきた

「午後から十三番隊との合同任務があるようだな」
「はい。席官でない下位の死神達のですね」
「・・・我等も行くぞ」
「え?」

合同任務
これは訓練ではなく虚討伐の任務だが、上位席官ましてや隊長格が参加せねばならない程の虚は確認されていない
なのに

「不服か?」
「いえ・・・ただなぜ隊長が行かれるのか説明を・・・」

下位の死神といえど自隊の死神
実力を信じていないとは思えないが・・・

「・・・ただの気まぐれにすぎぬ」

これ以上は聞くな、と言われているような気がして
冬獅郎は解りました、とだけ答えた




「こ・・・これは?」

午前の仕事が思ったより多く、結果として遅れて現場へと着いた冬獅郎と朽木
二人がそこで眼にしたのは傷つき倒れている隊員達
冬獅郎は近くの一人に近寄った

「おい!しっかしりろ!!」

何度か冬獅郎が呼びかけるとピクリと反応した

「ひ・・・つがや・・・」
「何があった!?他の連中は?」

その隊員は冬獅郎の姿を見るとほっとしたような表情をした後、仲間を助けてくださいと言った

「・・・彼らはどこに?」
「みな・・・み・・」

南の森に、と言い残しその隊員は息を引き取った

「・・・行くぞ」
「はい」

二人は南の方角へと急いだ

(報告された数より多かったか、レベルが高かったか・・・それとも・・・)

予想できない特殊能力があったか
ここ最近虚の進化が見られる、と話題になっていた
以前とは違う
虚に何かが起こっている


「近い」

朽木の言った通り
このすぐ向こうで多くの霊圧と虚の気配

「!居た!!」

冬獅郎達が眼にしたのは必死になって戦っている隊員達
虚の数が多い
そのせいでこんな事になったのだ


「俺が先に行きます」

冬獅郎は氷輪丸を抜き飛び出した



「霜天に坐せ!氷輪丸!!」

始解した氷輪丸から氷の竜が現れる
そして瞬く間に虚を凍りつかせた

「た・・・助かった・・・」
「日番谷副隊長・・」

隊員達はもう限界だったのか、冬獅郎の姿を見て安堵し力が抜けたのか
何人もその場に座り込んでしまった

「ここにいる者で全員か?」

六番隊の者ならば解るが、流石に十三番隊の者の顔までは覚えていない
十三番隊の者がキョロキョロして確認していると「いない」という声が聞こえた

「え?・・・隊長?」

その声は朽木のものだった
そして彼はそこから更に南へと走り出す

「朽木隊長!?」

冬獅郎もあわてて後を追う
その際、十三番隊の者の「朽木がいない」と言う声を聞いた




(十三番隊の朽木・・・ルキア。確か隊長の義妹)

会った事はないが話は聞いている
流魂街出身で朽木家に養女にされた死神

どういう理由で彼女が養女にされたのかは知らないし、知る立場ではない
だが
(噂では隊長は彼女に無関心だって聞いてたんだが・・・)

きっとそうではなく
今回の任務への参加も彼女を心配しての事だったのだろう



ぐおぉぉぉぉ

「!虚!」

冬獅郎たちの向かう先から虚の声

「朽木ルキア!?」

たどり着いた冬獅郎が見たものは
虚と対峙するルキア
だがルキアは負傷しているらしく刀を構えてはいるが、戦う力が残っていないようだった

「まずい!」

飛び出そうとした冬獅郎だったが朽木の声で留まった

「散れ、千本桜」

一撃で虚は消え去った



「朽木!大丈夫か!?」
「あ・・・なたは日番谷副隊長・・・」

ルキアは駆け寄る冬獅郎を見て
何故ここにいるのかと驚いた表情をしていた
そしてすぐに冬獅郎の後ろにいる朽木を見つける

「に・・・兄さま」
「・・・」

何も言わずじっとルキアを見ていた朽木だったが
誰かがこちらにやってくる気配を感じ取ると踵を返した

「誰かそこにいますか!!?」

やってきた誰かは四番隊の者でどうやら救護にやってきたようだ

「!・・・ここだ!」

冬獅郎は大きく声を出して答えた


「日番谷、帰るぞ」
「え?でも・・・」

冬獅郎を待たず朽木は歩き出す

「隊長、彼女はあなたの妹では「日番谷副隊長」」

朽木を呼び止めようとする冬獅郎をルキアが制する

「良いのです」
「朽木・・・」
「貴方も、もう行って下さい」




六番隊舎の廊下を歩きながら
冬獅郎は少し前を歩く朽木に眼をやった

(解らない)

本来なら参加する程度の事ではない任務に参加し
妹を探し、危ない所を助けておきながら何故一言も声をかけてやら無いのか

朽木がルキアを大切に思っていることは解った
なのにどうしてこんな線を引いたように接するのか・・・


「ルキアは・・・」
「はい?」

朽木はそういったまま次の言葉を発しなかった
(ああ・・・)
冬獅郎は彼が何を言いたいのか解った

「朽木ルキアの怪我はたいした事はないようです。霊力を使い果たしているようですが、安静にしていれば何も問題はありません」
「・・・そうか・・・」


朽木はそのまま振り返らずに執務室へと帰っていった



「不器用だけど・・・優しい人なんだな・・・」




冬獅郎は執務室には入らず
一番隊へとむかった









「・・・六番隊じゃと?」
「はい」

冬獅郎が会いに行ったのは総隊長山本
やっと決心がついたと言う事で自分の意思を告げに来たのだ

「・・・・うぅ〜む・・・」
「朽木隊長の下ででしたら副隊長としてやっていけると判断しました」
「・・・・こまったのう・・」
「・・・何か問題でも?」

まさか一番隊から六番隊は遠い!とか言わないよな
と冬獅郎は心配になった

「十番隊からこのようなものが・・・の」

山本の差し出した紙を受け取る

「嘆願書?」
「そうじゃ」

それは冬獅郎に十番隊隊長になってほしいとの十番隊からの嘆願書だった
十番隊の全隊員の署名もあり、かなりの本気のようだ

「と言うか、俺卍解出来ませんけど?」
「それでも良いから就任させろと五月蝿いのじゃ」

良くねぇだろ

「とにかく、俺は六番隊に行きたいので、そう辞令をだしてください」
「出さなきゃだめか?」

酷く落胆している様子の山本を見て一瞬「この話は無かった事に」と言おうとしたのだが
「六番隊は丁度半分の距離じゃし、まだマシか」と呟いたのを聞き思いとどまった







翌朝

「今日から正式に副隊長としてお世話になります」
「・・そうか・・」

殆ど表情は変わらなかったが少しだけ微笑んだのを見逃さなかった

「では、業務を始めるぞ日番谷」
「はい、隊長」




こうして冬獅郎は六番隊副隊長に就任した
一年も経たないうちに冬獅郎が卍解を会得してしまい
すぐに十番隊隊長になってしまうのだが
それはまたのお話