六番副隊長と十番隊長観察日誌 1
藍染の一件から数日が経った
俺たちが現世へと帰るために浮竹さんたちが穿界門の準備をしてくれている
その間、尸魂界を見てまわったり、一度は敵対していた死神達とも友好を深めていた
そんな平和な時間を過ごしていたある日
「くーろーさーきーくーーーん!!たいへーん!!!」
今日は剣八に追いかけられる事も無く、ゆっくりと昼ごはんも食べる事が出来た
平和って良いよな、とささやかな幸せをしみじみと感じながらウトウトとしていた
そんな時に聞こえてきた井上の俺を呼ぶ声
今回の一件で研ぎ澄まされた?俺のカンが言っている
きっとろくでもないことなんだろうな・・・と
「恋次が十番隊の日番谷に告白した?」
大変だ!一大事だ!とあまりに騒ぐので、仕方ないと話を聞くことにした
それはほんの一時間ほど前の事だったという
食堂で同僚の死神達と食事をしていた『ヒツガヤ』という名の死神に、恋次が『ずっと好きでした!』と大声で告白したらしい
しかもその場には何十人と人が居たにもかかわらず・・・
「つーか・・・日番谷ってどんなのだっけ?」
敵として戦った十一番隊や治療してくれた四番隊
何度か顔を会わせた隊長達ならともかく、今居る十一番隊のお隣だというのに、十番隊の連中とはあまり会った事がないな・・・
話したことがあるもの副隊長の松本さんぐらいか・・・
隊長にもまだ会ってないし
「も〜。昨日会ったでしょ?お昼に松本さんと一緒に居た・・・」
へ?昨日・・・?
***
『朽木さんに美味しいランチのお店を教えてもらった』
と井上に無理やり引っ張られ、俺たちは昼食をとりに出かけた
「は〜・・・流石に・・」
「混んでるな・・・」
美味しいと評判の店だけあって店は混んでいた
かなりの人数が待ってるし、これは食べれるまでにかなりかかりそうだ
「ねぇ、あんた達」
諦めて帰ろうとした俺たちを松本さんが呼び止めた
「あ、松本さん。こんにちは」
「あんた達も食べにきたの?」
「そうなんです。でも満席みたいで・・・」
「ここ、人気店だからね」
井上と松本さんが話しているのを聞きながら「腹へったなぁ・・」と思う
「じゃあ私たちと相席しない?」
「え?良いんですか?」
「勿論よ」
松本さんは自分の立場を利用し(十番隊副隊長)予約を取っていたらしい
落ち着いて食べたかったので、奥の座敷の部屋を取っていたのだ
「でも、達ってことは連れの人がいるんじゃ・・」
「いーのいーの。ね、たいちょ」
「・・・嫌だっつっても無駄なんだろ?」
俺の後ろから聞こえてきたのは不機嫌そうな少年の声
振り返ったそこに居たのは・・・
***
「ああ!あの時のちっこいの!」
銀髪で碧の眼の子供
そういえば隊長の証でもある白い羽織を着てたっけ
「でも・・・あいつ男じゃなかったっけ?」
名前も立派で、松本さんに
『我が十番隊隊長 日番谷冬獅郎で〜す。カワイイっしょ?』
と紹介された
「そう!だから一大事なの!!」
井上が何時になく真剣だ・・・
.
井上の背中にメラメラと燃える炎が見える
一体どうしたんだ?
あ!もしかして井上は男と男のカップルが許せないタイプなのか?
俺は気にしないけど・・・駄目だぞ〜そんな偏見は・・・
「日番谷君は恋次君の愛を受け入れるのか?
もしカップル成立した場合はどんなオツキアイをするのか?
今まで想像するしかなかった世界が目の前に現れるかもしれなんだよ!?こんなの一生にそう何度もあるもんじゃないんだからね!?」
・・・見たかったのか?
ってか今まで想像してたのかよ?
「この告白劇の全てを見るためには日番谷君か恋次君の側に居ないと!!ッて訳で黒崎君!!」
「え?俺?」
「恋次君と仲が良い黒崎君と居れば自然と恋次君の側に居れると思うの」
「・・仲が良いっつーか・・・」
「・・・協力してくれるよね・・・」
怖っ!
こんな井上初めて見た
このままではささやかな幸せがぶっ壊されちまう!
「・・・あー!窓の外に恋次と冬獅郎!!」
「え〜!?どこどこ恋次くーん!・・・って居ないじゃな・・・黒崎君?」
井上が窓に眼をやった隙に俺はなんとか逃げる事に成功した
.
「あ〜やっと昼寝が出来るってもんだ」
井上から逃れた俺はどこかの建物の屋根の上に居た
ヘタに下に居ると井上や手合わせを希望する十一番隊奴等に見つかってしまう
なので、ここで昼寝をする事に決めた
「・・・ん?」
うつらうつら良い気持ちで眠れそうだった俺だが、他人の気配で目が覚めてしまった
ったく。今度は誰が邪魔しやがったんだ?
勢い良く上体を起こし、キッとその気配の人物を睨む
「・・・あ・・・あんたは確か」
「・・・お前、昨日の旅禍?」
そこにいたのは先程井上の話題に上った十番隊隊長 日番谷冬獅郎だった
・
どうも冬獅郎は俺がここに居たことにとても驚いているようだった
その理由を聞くと「この下は技術開発局で、迂闊に近づくと何かの実験台にされると噂のある場所」なんだそうだ
「・・・まさか・・・」
「過去、ここで昼寝をしたヤツは二度とここに近づかないって話だ。それに、局長があの涅だ。事実かもしれない」
その涅ってのは知らないけど、なんだかヤバそうな場所だってのは解った
「んじゃ、なんで冬獅郎「日番谷」・・日番谷は「隊長」日番谷タイチョーはここに?」
俺がそう尋ねると冬獅郎は眉間の皺を一本増やした
「ん?」
なんかまずい事聞いたか?
「下にいると周りが五月蝿い」
周りが・・・ああ、恋次の件か
ふう
と、冬獅郎はため息を吐くと、俺から少し離れたところで座った
大変だなぁコイツも。恋次ももうちょっと時と場所を考えて告白しろっつーんだよ
俺はじっと冬獅郎を見てみた
見た目は確かに美形っての?整ってるよな
外見は子供。ウチの妹達と同じくらいか?
いくら尸魂界では外見通りの年齢では無いにしても、コイツはいくらなんでも子供だろう
恋次、ショタコンか?
「・・・何見てんだよ・・・」
ありゃ?怒らせちまった?
「あ〜わりぃ」
睨んでる睨んでる
ふん、と顔を背けられてしまった
やべぇなぁ
「・・・」
怒らせてしまった冬獅郎と十分ぐらい無言の時間が流れた
冬獅郎は一人になりたくてここに来たのだから、「ごめん」と謝ってどこかに行けば良かったのかもしれない
だけど、妹達と同じ年恰好のコイツを放ってはおけなかった
「恋次になんて返事したんだ?」
「!!」
冬獅郎は何で知ってるんだ!?と言わんばかりに眼を見開いて俺に振り返った
「驚く事じゃねぇだろ?恋次が告白した時にたくさん人がいたんだから」
「・・・」
冬獅郎は、そうだったなと俯いてしまう
その表情はどこか苦しそうだった
「・・・返事はしてない」
「なんで?さっさとしちまえば騒ぎも収まるんじゃねぇか?」
「したくない」
したくない?何故だ?
.
「阿散井は本気じゃない」
本気じゃない?
冗談で冬獅郎に告白したのか?
でもアイツがそんなイタズラするとは思えないけどなぁ
「俺、聞いちまったんだ」
***
冬獅郎が聞いてしまった話
それは俺たちが尸魂界に乗り込む少し前
珍しく仕事が早く片付き、時間を持て余した冬獅郎は運悪く?京楽隊長と松本さんに飲み屋へとつれていかれた
『隊長はお子様だからお酒はほどほどにね〜』
とあまり飲ませてもらえてない冬獅郎は殆ど素面
大人二人はすっかり出来上がっていた
『面白くねぇ・・・』
不機嫌になった冬獅郎は気分を変えようと店の外に出ようとした
その時によく知っている六番隊副隊長の声を聞いた
『んじゃ、賭けは副隊長の負けっすよ』
『くそ〜!!自信あったんだけどなぁ』
恋次は六番隊の隊員と来ているようだった
彼らも個室になっている部屋で飲んでいるようで、姿を見ることは出来なかったが間違いなく恋次の声だった
『俺も男だ!罰ゲーム、やってもらおうか』
話からすると彼らは何かの勝負をしていて、恋次がそれに負け、これから何かの罰ゲームをやるらしい
(何やってんだか・・・)
さっさとその場を離れれば良かった
だけど、恋次がどんな罰を受けるのか気になってそのまま聞いてしまった
『え〜っと「公衆の面前でどこかの隊長に愛の告白」っす』
『はぁ?何言ってんだお前ら!?』
恋次が慌てるのも無理はない
どの隊長に告白するかは自由だとはいえ、白哉や剣八に告白しようものなら間違いなく一刀両断だろう
『俺に死ねって言ってるようなもんだろうが!?』
『大丈夫ですよ。浮竹隊長や京楽隊長なら冗談だって言えば笑って許してくれそうじゃないですか』
『そうそう』
『それが朽木隊長にバレたら・・・俺は殺される!!』
『頑張ってください副隊長〜』
『・・・あのなぁ』
***
「その時は何とも思わなかった。
だけど、今日アイツは俺に好きだと言ってきやがった
あの時の話を思い出した。そしたら腹がたった」
成る程
そういう事だったのか
恋次はショタコンじゃなかったんだな〜
「だったらなんで『これは罰ゲームだったんだ』って言わないんだ?」
そうすれば冬獅郎は皆から色々聞かれずに、いつも通りに生活出来るんじゃないか?
俺がじーっと冬獅郎を見ながら返事を待っていると、その顔はみるみるうちに真っ赤になってしまった
「と・・・冬獅郎?」
「・・・嬉しかったんだ」
もしかして
「嘘だって解ってても『好きだ』って言ってもらって凄く嬉しかった
俺、阿散井が好きだったから」
うわ〜
やっぱり
「でも、そんな俺に嘘の告白をしてきた阿散井と、それを聞いて喜ぶ俺に腹が立った」
嬉しいはずなのに喜ぶ事が出来ない
きっと冬獅郎は混乱したんだろう
そして、冬獅郎の反応を待っている恋次から逃げてしまった
「・・・あのな、冬獅郎」
俺は思う
「俺は、お前程恋次と付き合いは長くねぇ。だけど、アイツはそんな冗談を言うようなヤツじゃない」
アイツは真っ直ぐなヤツで
「本当に罰ゲームが理由でお前に告白したとは思えないんだ」
.
「俺がわかるんだ。アイツを好きだって言うお前ならちゃんと解るはずだろ?」
きっと恋次は冗談や遊びで冬獅郎に告白なんてしたりしない
多分アイツは
「・・・本当に俺の事好き?」
昨日やさっき俺と会ったときとは違う冬獅郎の表情
不安で仕方が無い
誰かに助けてもらいたがってる
「俺の知ってる阿散井恋次なら、きっとそうだと思う」
俺は冬獅郎の手を引きながら立ち上がる
「確かめて来い。で、お前の気持ちも伝えて来い」
ぽんっと冬獅郎の背中を押してやる
冬獅郎は一度だけ俺を振り返ったが、次の瞬間にはこの場所を後にしていた
***
「日番谷隊長、あまり俺達から離れないでくださいよ。銀髪の小学生なんて珍しいから誘拐されちゃいますよ?」
「阿散井・・・コロス・・・」
結局
恋次と冬獅郎がどうなったのか俺は知らない
だけど、二人仲良く・・・か、どうかは解らないが・・・オマケ付きだが・・・、一緒に現世に来ているところを見ると上手くいったのかもしれない
この二人がどうなるのか
これからもっと観察してみようかな・・・