三月十四日
ホワイトデー
一ヶ月前に貰ったチョコのお返しを渡す日・・・
当然、学校でもあちこちでその光景が見られている
そして、俺もまた・・・
「ありがとう黒崎君Vv一生大事にするねVv」
俺の目の前には井上
一ヶ月前にチョコ・・・(思い出すだけで冷や汗が・・・)
をくれた人物
貰ったからには返さなくては・・・とクッキーを用意してきた
井上・・賞味期限が切れる前に食べてくれよ
「じゃあ、私次の人から貰わないといけないから」
と去っていく
アレを貰ったの俺だけじゃなかったんだ!!
顔も名前も知らないが何となく親近感
仲間がいたんだなぁ
神様ありがとう
と、空に祈っていると白い物が振ってくる
雪だ
「こんなに暖かいのに・・・」
最近の気温は高く、もう桜も咲くんじゃないかと言われているこの頃
季節外れの雪を見てあの小さいのを思い出した
十番隊隊長 日番谷冬獅郎
氷雪系最強といわれるアイツの斬魄刀
天候さえも操るんだ と恋次に自慢げに言われたっけ
別にお前の斬魄刀じゃないんだから・・・と思った事を覚えている
・・・とか何とか考えていたら雪はどんどん降ってきて
突然の吹雪
気温もどんどん下がっている
もしかしなくても冬獅郎の奴がどっかで暴れているのか?
だけど隊長が出てくるような虚が出たらまず俺の所に連絡が入りそうなんだが・・・
それとも、恋次の馬鹿が怒らせるような真似でもしたかな?
「ただい・・・って、誰もいないのかよ!!」
帰宅した俺はリビングのテーブルの上にある手紙をとった
親父は妹達と夕飯を食べに出たようだ
どうやらこちらもお返しって事で出かけたみたいだ
で、俺の夕飯はカップラーメン一個
腹が立つと言うか・・・
空しいと言うか
「・・・ん?」
グシャっと手紙を握りつぶしたと同時に俺は二階に何者かの気配を感じた
コン?
いや違う
ルキアは尸魂界だ
そして家族はいない・・・
・・・空き巣か?
「・・・・」
いい度胸だ
この黒崎家に侵入するとは
俺はなるべく気配を消し、ゆっくりと二階への階段をのぼった
どうやらソイツは俺の部屋にいる様だ
どこまでも度胸のある奴め
足音をたてないようにゆっくりと進む
「・・・・」
だが、俺は気が付いてしまった
ソイツの気配、いや霊圧に
一応・・・一応もう一度確かめる
だが間違いない
俺はため息をはいて、部屋のドアに手をかける
そして思いきり開いた
「冬獅郎!お前勝手にヒトん家・・・」
勝手にヒトん家入るんじゃねぇ!とか
どうやって入った?とか
いろいろ言いたいことはあった
あったんだが・・・
文句を言いたかった子供はワンカップ○関をグイっと飲み、だん とテーブルを叩いた
「・・・おせぇよ・・・」
一体何本飲んだんだ?
冬獅郎の周りに空き瓶が転がっている
つーか、どこで買ってきたんだ?
その外見だと現世じゃ買えねぇだろ!?
「・・・座れ・・」
「ぅえ?」
「座れって言ってんだよ!!」
うへ〜
荒れてんなぁ
やっぱりさっきの雪はこいつのせいか?
飲め!と言われて渡されたものの口をつけていない
ってか、冬獅郎飲めたんだなぁ
「何してんだよ?」
「・・・お前こそ何してんの?」
そんなに飲んじゃって
「うるせぇ」
「尸魂界で何かあったか?」
「・・・ねぇよ」
嘘つけ!
何もなくてお前がこんなになるかっての
まるで自棄酒のような・・・
自棄・・・か
「恋次」
「!!!」
「と何かあったのか?」
「ぶぇつにぃ!!なぁんにもねぇ!つーかあんな馬鹿は関係ない!!」
大有りじゃねぇか
あのアホ・・・何やったんだ?
先ほどまでとは違い、ちびちびと酒を飲む冬獅郎
その彼が言うには・・・・
今日はホワイトデー
先月、一応チョコレートを『仕方なく(冬獅郎談)』貰ってやった冬獅郎は
一応、恋次にお返しを持って六番隊へと向かった
ところが、途中の八番隊の廊下で恋次を発見
丁度良い
冬獅郎は恋次に近づいた
しかし彼は一人でいるのではなく、女の人と話をしていた
仕事の話をしているのだろう、なら終わるのを待っていれば良いか
としばらく様子を見ていた
すると何という事か
恋次はどう見てもホワイトデー用だと言わんばかりの包装をされた箱を取り出したではないか!
そして照れながら目の前の女の人に渡す
何度も頭を下げて
しかもいつから気がついていたのか、その女と別れると冬獅郎に視線を合わせ手を振った
ニコニコ笑いながら
「で、腹が立って阿散井を氷付けにしてやった」
つまり今日の吹雪は全て嫉妬した冬獅郎のせいだって事か
だけどそんな事で、と思う
恋次だって男なんだし、六番隊の副隊長なんだし
バレンタインにチョコの一つや二つ貰うだろう
冬獅郎だって十番隊の人たちから貰ってたの、俺は知ってるぞ
「・・・十番隊の奴等のは毎年の事だ。それに受け取らないとうるさい」
「恋次もそうなんじゃねぇの?しつこく付きまとわれて仕方なく・・・」
だから許してやれよ
きっとアイツ今頃冬獅郎を探して探して走り回ってるぞ?
「・・・そうじゃねぇ」
ぼそりと呟いた冬獅郎は俯いて肩を震わせている
「冬獅郎?」
「そんな事で怒ったんじゃねぇんだ・・・」
ぽたり と落ちる涙
冬獅郎が泣いている
「・・・貰ってないって言ったんだ」
「何を?」
顔をあげた冬獅郎の眼には涙がたくさん溜まっている
「誰からもチョコ貰ってないって。いらないって断ったって。なのに・・・・」
「・・・阿散井が・・・俺に嘘をついた・・・」
そこまで言うと、とうとう冬獅郎の眼から涙が次々と流れてしまった
俺はとっさに、と言うかなんとも言えない気持ちになって
冬獅郎を抱き寄せる
小さい体は簡単に収まってしまう
声を殺して泣く子供
震える体をぎゅっと抱きしめる
それで震えが止まれば良いのに、と思いながら
「・・・阿散井の馬鹿・・・」
「そうだな」
「・・・嫌い・・・」
「・・・」
「大嫌い」
「・・・」
だけど本当は大好き なんだろうな
大好きな恋次に嘘をつかれて
怒ったのではなく、悲しかった
悲しくて辛くて・・・
「・・・大嫌いならやめちゃえば?」
「え?」
冬獅郎が驚いて顔をあげる
まだ涙はこぼれているが逆にその事が冬獅郎の翡翠の眼を綺麗に見せる
何でこんな事を言ったのだろう
自然に言葉が出た
「やめて俺にしろ」
恋次なんてやめて俺と付き合えよ
俺は嘘なんてつかねぇし
「・・・」
数秒見つめあう
冬獅郎が何か言葉を発しようとした時、俺たちは恋次の霊圧を感じた
「!阿散井!?」
「え?恋次?こっちに向かってる!?」
俺たちは何を慌てたのか
二人して冬獅郎を隠さないと(隠れないと)と思ってしまった
そして冬獅郎を押入れに押し込む
「一護!!」
「よ・よう!れ恋次!!」
間一髪
押入れを閉めたと同時に恋次が俺の部屋に入ってきた
肩で息をする俺をみて不思議そうな顔をしていたが、冬獅郎の存在には気がついていないようだった
「何してんだ一護?」
「な・何でもねぇよ!お前こそ何のようだ?」
何しに来たか なんて解ってる
「あ・・・のよ・・・日番谷隊長見てないか?」
やっぱり
「・・・冬獅郎か・・・」
冬獅郎は俺の後ろにいる
どんな事情があって恋次が冬獅郎に嘘をついたか知らない
嘘をつかれても恋次の事が大好きな冬獅郎
そんな冬獅郎に想われている恋次
なんか 腹が立った
「・・・さっき泣きながら出てった」
「!!ど・どっち行った!?」
慌てる恋次に俺はさぁ と答える
「てめぇ どういうつもりだ!」
「どういうつもりかはこっちのセリフだ」
俺は全部聞いたんだよ
泣かせておいて今更何を言うつもりなんだ
「・・・冬獅郎を泣かすなら、あいつは俺がもらう」
「!」
「だからもう帰れ。冬獅郎に近づくな」
恋次は一瞬驚いたがすぐに俺を睨みつけてきた
俺もヤツを睨む
「・・・渡さねぇ・・・」
今にも斬魄刀で斬りかかってきそうなくらいの気迫
それに負けてたまるか!
「あの人は俺のモンだ!離れたいって言われても離すものか!!」
「!!」
その言葉に反応したのは冬獅郎で
隠れるために消していた霊圧を出してしまった
・・・当然、恋次にばれてしまう
「隊長!?」
一気に恋次の周囲の空気が変わる
仕方ない、か
俺は体をずらし襖を開けた
そこにはまた泣いている冬獅郎が
だけど今度は辛いから、悲しいから泣いているのではない
「離さない」って言われて嬉しいんだよな?
「隊長、尸魂界に帰りましょう」
「っ!」
優しく語り掛ける恋次に冬獅郎は首を横に振って帰らないという意思を示す
恋次は「誤解です」と冬獅郎の手をそっと握った
「あの女の人は俺にチョコをくれたんじゃないんですよ」
「「・・・は?」」
何だって?
「朽木隊長が貰ったんです」
「「え?」」
「・・・つまり、冬獅郎の早とちり・・・ってことか?」
「・・・一言で言うなら・・・な」
つまりこういう事だった
毎年護廷の隊長格はチョコを大量にもらう
義理のもの、本気のもの、お返しを期待しているものなど様々だ
当然、恋次にもたくさん持って来られた
だが貰う気は全くなかったので、すべて丁重にお断りした
これは本当の事
だから冬獅郎に嘘はついていない
で、冬獅郎が目撃した人物は一ヶ月前に白哉にチョコを渡した人物の一人
白哉はかなりたくさん貰ったようで
また彼の性格からして彼から持っていくような真似はせず、取りに来てもらっているらしい
しかし、一部の者は白哉の所にまで取りに来る勇気が無いらしい
そんな人たちの所に副官である恋次が配って歩いていたのだった
「去年も同じ事をしてたんで、てっきり日番谷隊長は知ってるものだと思ってました」
「・・・知らなかった・・・」
去年は恋次とそんな関係ではなかった
去年までの今日は自分もお返しを配るのに忙しくて
だから仕方ないんだ
だったら何であの時に言わなかったんだ
とは冬獅郎の言い分
何で言わなかったんだってお前が言い訳する時間を与えなかったんじゃないのか?
「まぁ、お互い悪かったって事で」
恋次・・・それで良いのか?
「とにかく尸魂界に帰りましょう?皆心配してますよ」
立ち上がった恋次は冬獅郎にむかって手を差し出す
今度は冬獅郎もそれに頷き、手を取った
「冬獅郎」
恋次に手を引かれる冬獅郎を俺は引きとめる
冬獅郎は振り返ってくれたが、その向こうで恋次が俺を睨んでいた
「俺のものにする」って言っちまったから睨まれても仕方ないが・・・
きっと苦笑いしていたであろう俺の表情と、繋がれた手の感触で恋次の様子に気がついたのであろう冬獅郎が
恋次に先に行っているように促す
「でも隊長」
「すぐに追いかける、先に行ってろ」
でも と恋次は渋っていたが冬獅郎に強く言われ渋々先に行く
そして冬獅郎は改めて俺のほうへと向いてくれた
「黒崎・・・俺は・・・」
「・・・わかってるよ」
お前は恋次が好きなんだよな
もし、今回の事で本当に恋次がお前に嘘をついていたとしても、謝られればきっとお前は許しただろう
悲しいのを堪えて
辛いのを忘れたフリをして
そのくらい恋次が好きなんだよな
わかってる
「だけど、次またあいつのせいでお前が泣いたら・・・」
「・・・」
「あいつには返さない」
それがお前の気持ちを無視してしまう事になっても
「・・・今日は・・恋次の所に帰してやるよ」
ほら、もう帰れ
俺が帰してやろうと思えている間に
俺がお前を捕まえる前に
ごめん ありがとう
冬獅郎はそう言い残し俺の部屋から姿を消した
「・・・はぁ・・・」
俺はベッドに横になる
なんであんな事言ってしまったのか・・・と笑ってしまった
そんなつもりはなかった
そんな想いを冬獅郎にもっていたなんて解らなかった
言って気がつくなんて
「俺・・・本気で冬獅郎の事・・・」