Q、アレクシス殿下はいつからマザコンになったんでしょう?


答えは?とジノに振られ、スザクは首をかしげた

アレクシスとはルルーシュ皇帝の長男で今年十五歳の皇太子だ
父ルルーシュそっくりの容姿をしており、その頭脳も父譲りであり、これでブリタニアも安泰と臣民の誰もがその将来を期待する存在である
そのアレクシスの大きな特徴の一つ
マザコン
これは一体いつ頃から現れるようになったのか
ずっとその成長を見てきたはずのジノでさえこの疑問には答えられなかった

「・・・・やっぱり六歳の時じゃないかな?僕を母親・・・僕は男なんだけどね(涙)・・・と知ってからだと思うよ」

アレクシスや他の子供達の事を思い、スザクは自分を親だとは隠して彼らに接してきた
だがアレクシスが六歳の時、『母親は誰で何処にいるのか?』とかねてから心の中で抱いてきた疑問を爆発させ、結果としてスザクが親であると発覚させる事となった
スザクの認識としてはこの時からアレクシスがマザコンとなったとしているようだ

ジノもそうだよな、と納得する
だがそんな彼らの意見に反論する者がこの執務室にはもう一人いた

「甘い!」
「ぅわ!・・・ルルーシュ、急に大声出さないでよ」
「お前は甘い!あのアレクシスだぞ?筋金入りのマザコンでスザクマニアのあのアレクシスなんだぞ?」

六歳などと言う年齢なわけないだろう とルルーシュは拳を机に叩きつけた

「・・・なら陛下はいつ頃からだと思われているんですか?」

ジノのセリフにルルーシュは「クッ」と悔しげにもらした






アイノイデンシ






「殿下、陛下が美味しそうなケーキを作ってくださいましたよ」

スザクは膝の上に乗せたアレクシスに笑いかける

その日はアレクシス一歳の誕生日であった
昼間は国を挙げて盛大な誕生日の祝いをしたが、夜は家族で祝いたいとルルーシュは皇宮でスザクとアレクシスの三人で過ごす事にした
まだ一歳のアレクシスには誕生日だと言っても何がなにやら理解できていないだろう
だがそれでもこうして用意をしたのは何よりもスザクのためだった

普段スザクはアレクシスを息子として扱ってはいない
あくまで一臣下として、息子に敬称をつけて呼んでいる
ルルーシュはそれを見ていてとても辛かった
本当の親子であるのに、他人行儀なスザクを見ている事が悲しかったのだ
この皇宮に勤める女官達の全てがアレクシスのもう一人の親が誰であるのか知っている
だからこの皇宮だけなら親子として接しても良いのではないかとルルーシュは何度か言ってみたのだが、スザクは決して頷かなかった

このままで良い筈がない
自分達が家族の愛情に恵まれなかったからこそ、自分達の子供には家族の愛情を思う存分与えたかった

この家族だけの誕生祝の席がスザクの考えを改めてくれるように と祈りながらルルーシュはケーキの蝋燭に火を灯す

「陛下、まだ殿下には吹き消す事が出来ないのではありませんか?」
「・・・ならお前が代理をすれば良い。それと、ここ(皇宮)で陛下と俺を呼ぶな」
「・・・解った、ルルーシュ。では殿下、自分が代行させていただきます」

ぺこりとアレクシスに頭を下げてスザクは息を吸い込む
そしてふーっと吹き消すと「おめでとうございます」と微笑んだ
ルルーシュも「おめでとう」とアレクシスに笑いかける
アレクシスはきょとんとしながらスザクが消した蝋燭を珍しげに見詰めていた


こんなに美味しいのに・・・とスザクはケーキを食べながら残念がった
ルルーシュ特製の誕生日のケーキ
それをまだ赤ん坊のアレクシスは食べる事ができない
代わりに、これまたルルーシュ特性のかぼちゃゼリーをご機嫌で食べていた

「まだ一歳だからな。もっと大きくなればいつだって食べさせられるさ」
「うん」

そうだね とスザクはルルーシュに微笑む
美味しいケーキとアレクシスが無事一歳を迎えられたという事で、スザクの機嫌は凄く良いようだ

これは今夜が楽しみだ
ルルーシュはほくそ笑んだ
機嫌の良いスザクはルルーシュのお願いを聞いてくれる確率が高い
今日はどれにしようと脳内の『スザクへのお願いリスト』のページをルルーシュが捲っているとアレクシスが「あーぅv」と声を出した

「あーv」

二人が気がついてアレクシスを見ると、彼は持っていた子供用スプーンをスザクのケーキに突き刺していた
ここ最近、自分で食べるという行為がお気に入りの第一皇子に、スザクが誕生日プレゼントとして渡したものだった

「あっ・・・殿下、駄目ですよ」

スザクがアレクシスを止めようと手を動かす
しかしそれよりも先にアレクシスは動いた

「きゃあv」
「ほぇ?」

アレクシスはスプーンをスザクに向けると、彼の口に向かってケーキを押し込んだ
どうやら食べさせてやりたかったらしい

むぐむぐと租借し、飲み込んだスザクは嬉しそうに微笑んだ

「ありがとうございます」
「あぅ」

アレクシスはまだ食べる?と聞いているかのように首を傾げる
スザクが笑いながら頷くとアレクシスは再びスプーンをケーキに突き刺した
そしてもう一度スザクの口へ・・・・

「あ・・・」
「あーあ・・」

しかし今度は上手くいかず、スザクの口元にクリームがついてしまった


スザクはそれをふき取ろうとナプキンを手にする
だがそれはアレクシスによって阻止される



ぺろん



「・・・・」
「・・・・」
「きゃv」

スザクは顔を赤くしながら口を手で覆い、ルルーシュは大きく口を開いて硬直した
アレクシスは何処と無く照れているかのように見え、にっこにこと笑っていた

「いいいいいい今、ぼぼぼ僕っ」
「忘れろ!今のは事故だ!アクシデントだ!!」

なんとアレクシスがスザクの口元のクリームを舐め取ってしまったのだ
しかしルルーシュに言わせれば舐めたのではない
狙いは確実に唇だった・・・らしい

スザクは「将来のお嫁さんに悪い事しちゃったかなぁ」とアレクシスの頭を撫でていた
アレクシスはぎゅーっとスザクに抱きついてキャッキャッと笑っていた

それだけならば仲の良い親子の姿


しかしルルーシュは見てしまったのだ


ぎゅーっとスザクに抱きつくアレクシス
そのアレクシスがチラリとルルーシュへ視線を向けたことを

そして、一歳の赤ん坊にあるまじき、『ニヤリ』という勝ち誇った顔を





****


「あの瞬間、私はあのクソ息子を敵とみなした!」
「・・・一歳の実の息子に嫉妬?」
「情けないですよ、陛下」

喧しい!!とルルーシュはぷりぷりと怒りながらスザクを抱きしめた

「ちょっ・・・ルルーシュ!・・・んぁ!」
「スザクは私のだぞ?どれだけ時間と手間をかけてこんなにエロイ体にしたと思ってるんだ?」
「やっ・・・るるっ・・・・こんな・・・」
「そのスザクを、息子とはいえ自分以外の人間に触れさせるなんて耐えられるか!!」
「解りました。解りましたからそれ以上はやめてください!」

ジノ涙ながらに懇願した
目の前でルルーシュに良い様にされていくスザクの姿が心臓に悪い

「あぁ!・・・ルルー・・・シュ・・・」

とろん とした目でスザクがルルーシュを見つめる
ルルーシュも「フッ」と笑ってスザクと視線を合わせた

「・・・・・」

ジノはなんとなくこの部屋に居辛くなりそっと執務室を後にする
きっとこの後この部屋は最低三十分立ち入り禁止となるだろう
今日の執務はこれで終わりだなぁ、とジノは清々しいほど澄み切った青空を見上げるのだった








私って損な役回りだよな・・・と通路を歩いていたジノは目の前を一人の少年が歩いているのを発見する

「殿下!」
「・・・ああ、ジノか」

振り向いたのは先ほどまで話題に上っていた第一皇子アレクシス
彼はジノに「一人か?」と訊ねる
ジノが頷くとアレクシスは酷く残念そうな顔をした

「はぁ・・・母上ともう三時間と28分お会いしていない・・・」
「それが今年15歳の男子のセリフですか?」
「僕の一日は母上70、睡眠15、食事10、公務5%で構成されている」
「公務5%ってそんなところまでクソ皇帝に似てどうするんですかっ!」
「冗談だ」

アレクシスはルルーシュそっくりに口の端を上げて笑うと、そんなことよりも と続けた

「母上は?」

先ほどからスザクの事ばかり口にするなぁ・・・とジノはため息をはいた
やはりこの皇子は筋金入りのマザコン
ルルーシュの語った一歳の誕生日のアレクシスの表情もまんざら嘘ではないのかもしれない

そこでジノはアレクシスに疑問を投げかけてみた





Q、アレクシス殿下はいつからマザコンになったんでしょう?



「・・・・いつから?」
「ええ。スザクは六歳の時にスザクを親と知った時ではないかと言っていました
陛下は一歳の時には既にそうだった、と」

ふむ、とアレクシスは顎に手を置いて考える
そして背の高いジノを下からニヤリと笑いながら見上げた

「母上も父上も甘い」
「と、言うと?」
「何歳だとかいつだとか、そういう事じゃないんだよ」

クスクスとアレクシスは笑うとギュッと自分の体を抱きしめた

「僕は、いや、『僕ら』は生まれる前から母上の事を愛しているんだ」

何故?
いつ?
どういう所が?
そんな事じゃない
自分を構成する全てが『枢木スザクを愛している』と言うのだ
自分達はその声に従って、その声に言われるままスザクを愛している

「ま、そんな声に言われるまでも無く僕は母上を愛してるけどね」

フッと笑ったアレクシスをジノは無言で見詰める

「これは父上の執念だな・・・」

スザクを想うルルーシュの心が遺伝子を引き継いだ子供達にも受け継がれている

「・・・いや、ある意味僕らにはギアスがかかっているのかもしれない」

スザクを愛してやってくれ
スザクを大切に想ってくれ

そんなルルーシュからのギアスが


「・・・そう思わないか?ジノ」


首を傾げて問うアレクシスにジノは「・・・え・・・・えぇ・・・」と頷く事しかできなかった






A.生まれる前から、きっとまだ自分という個が出来る前から、彼はスザクを愛している