スザクが女体化してます
お嫌いな方は回れ右
『その花、その意味』
神聖ブリタニア帝国
世界の三分の一を支配する超国家
そのトップに立つのは20歳の若い皇帝
名前をルルーシュ・ヴィ・ブリタニアといった
ルルーシュ皇帝は周囲の国を占領下にしながら圧政は行なわない事で有名な皇帝だった
ただその国の支配権を要求し、税率を決め、皇帝に変わって国を統治する人間を配置して自国へと帰っていってしまう
そんな人だった
だが、そんなルルーシュは日本という国にだけはもう一つこれまでになかったモノを要求した
それは日本の宰相の娘
まだ10歳という幼い少女をブリタニアに差し出せと言ったのだ
支配者に差し出される
それがどういう意味であるのか、彼女の父や周囲にいる者は理解していた
その為何度も何度も話し合いを行なった
だがルルーシュは彼らの意見を全て無視し、茶色い巻き毛の少女を自国へと連れ帰った
少女はまだ10歳
いきなり親元から引き離され、知らない人間に囲まれた恐怖からか、彼女は毎日毎日泣き暮らした
最初は出来るだけ優しく接していたルルーシュだったが、次第に腹を立てるようになった
そして少女を連れ帰って二ヶ月目
「いい加減泣き止め!」
ドレスも宝石も与えたのになぜ泣くんだ?とルルーシュは少女を殴ってしまったのだ
それ以来ルルーシュと少女は殆んど顔を合わせることがなくなった
****
六年後・・・
「本当にお兄様にも困ったものですわ」
「全くだよねぇ」
「一目惚れしたと言って誘拐するみたいに連れ去る行動力があるくせに、一言『ごめんなさい』って言葉が言えないヘタレ皇帝ですから」
「しかも六年だよぉ?六年も何も言わず、離宮に閉じ込めちゃってんだよぉ」
可哀想だよねぇ
王宮の庭でお茶を楽しみながら会話しているのは皇帝の妹ナナリー。そして兵器開発部門のチーフ・ロイド、皇帝直属の騎士ジノの三人
彼らは皇帝ルルーシュと日本の少女について話をしていた
少女の名前は枢木スザクという
茶色い巻き毛に翡翠色の瞳のそれは可愛らしい女の子だった
六年たった今ではそこに美しさも加わりつつあり、いずれ大人の女性になった時にはとんでもない美女になるだろうと予想されていた
しかしそんな彼女はこの六年殆んど人前に出てこない
ずっと離宮の自分の部屋に閉じこもっているのだ
「彼女、笑わないんだってね」
「・・・はい・・・」
ロイドの言葉にナナリーは悲しげな表情をする
「お医者様は心の病だろうと・・・」
「自分のせいだと自覚してるから皇帝ちゃんも刺激しないように会いに行かないんだろうけどねぇ」
ルルーシュに殴られたからか、それとも無理矢理ブリタニアに連れて来られたからか、この六年スザクは一度も笑った事がない
それどころかあまり会話をすることがない
身の回りの世話をしている侍女でさえ彼女の声を一日中聞かない事があるほどだ
「それでもいつかはお兄様は向き合わなければならないと思うんです。逃げていてはスザクさんはいつまで経っても話してくれませんし笑ってもくださいませんよ」
「ごめんなさいって言って、君が好きなんだって告白すれば良いじゃない。断られるのが怖い・・なんて乙女みたいな事言わないでよ?気持ち悪い」
「・・・だ、そうですよ。陛下」
「・・・五月蝿い・・・」
ジノは自分達が囲んでいるテーブルから少し離れた所に寝転んでいる主君に話しかけた
ルルーシュはチッと舌打ちしたあと、むくりと上半身を起こした
「・・・・少し散歩してくる」
「護衛は?」
「王宮内だ。不要だよ」
ルルーシュはゆっくりと立ち上がると一人で何処かへと歩いていく
それを苦笑しながら三人は見送ると、顔を見合わせて笑った
ルルーシュには六年前から行なっているある事があった
それは彼の自室のすぐ側の薔薇の世話
彼は手入れをした後、その中で一番美しく咲いた花を持ってある場所へと向かう
「・・・これをスザクに」
「かしこまりました」
そこはスザクの住んでいる離宮で、彼女付きの侍女であるセシルにその薔薇を手渡すとルルーシュは執務室に戻っていく
それを六年続けている
宝石でもドレスでも小さな少女の涙は止められなかった
自分が殴ってしまった後、泣き止んだものの笑わなくなった少女をなんとか元気付けたいと死んだ母親が大切にしていた薔薇を贈った
名乗れば受け取ってもらえないと思い、名前を伏せてセシルに渡してもらったのだ
すると彼女はたった一輪の薔薇を大切に活けてそれが枯れてしまうまで毎日眺めていたというのだ
それを聞いたルルーシュはセシルに協力を求め、花が枯れそうになったら教えてもらい、スザクに新しい花を贈るようにしているのだ
「・・・そろそろお名前を名乗る気にはなれませんか?」
スザクも誰が薔薇を贈ってくれるのか、非常に気にしていた
セシルに小さな声で「どなたが?」と数回に一度は聞いてくる
だがルルーシュは頭を左右に振った
「私だと知ればあの子は花を受け取ってくれないだろう。こんな一輪の花であの子の心が安らいでいるというのなら、それを奪いたくない」
「・・・ですが・・・」
「私は嫌われている。誰だって嫌いな人間からの贈り物なんて欲しくないだろう?」
ルルーシュはそう言うと執務室へと歩き出した
歩きながら苦笑する
スザクの為だなんて旨い事言っているが、本当は自分の為だ
嫌いだと彼女の口から聞きたくなくて、自分を見て恐れて泣く姿を見たくなくてこの六年一度も会いに行った事がない
しかし、ナナリーの言ったとおりいつまでもこのままではいけない
いつかは向き合って彼女と話をしなければならないのだ
その布石といえば言いのだろうか、花を贈って少しでも良いから自分を受け入れて欲しい
好意をもって欲しい
そう思って花を贈る
「・・・酷い男だな、私は・・・」
日本に・・・生まれ故郷に帰してやる事こそ一番彼女の為になるというのに
それが出来ない
彼女を、枢木スザクを愛しているから
また届きましたよとセシルがスザクに知らせると、それまで椅子に座って外を眺めていた彼女はパッと振り向いた
セシルは微笑みながら手にしている薔薇を手渡した
薔薇はルルーシュの気遣いで棘はすべて取り除かれている
スザクは少し微笑みながらそれを受け取った
「花瓶を用意しますね」
セシルの言葉にスザクはコクリと頷いた
「ええ、今日もこっそりと置いて行かれた様で」
誰がこの花を持って来てくれたのか
それを聞いたスザクにセシルは苦笑しながら答えた
自分が持ってきた事は伝えないでほしいという皇帝の意思を尊重し、何も言った事はないがこのままでは二人の間に出来た溝は永遠に埋まらない
妹のナナリーやジノやロイドも何度か言っているようだがルルーシュは一度もスザクに会おうとはしなかった
(これは私達が何とかしないといけないかもしれないわ)
このまま放っておけば何年、いや何十年経ってもこの二人は会おうとしないのだろうから
****
セシルの言葉にスザクは驚いて目を見開いた
「本当です。あの薔薇が咲いている場所を見つけたんですよ」
セシルはスザクに届けられるあの薔薇がこの王宮に咲いているのだと教えてくれた
一緒にそこへいきましょうとセシルがスザクの手を引く
スザクは戸惑った表情を浮かべつつこくりと頷いた
「ほら、ここですよ」
セシルに連れて行かれた場所には確かにあの花が咲いていた
スザクは花に近寄りそっと触れた
定期的に届けられる花はここの花だったのだろう
(でも一体誰が?)
「誰だ?」
「っ?」
誰が自分にこの花を贈ってくれているのだろうとスザクが考え込んでいると背後から声がかかった
驚いて振り向くとそこには黒髪のこの国の皇帝
「スッスザク?」
「・・・」
ルルーシュもスザクがいる事に驚いているようだった
二人が会った回数は少ないがお互いに印象的な瞳の色は忘れたことはない
その紫水晶の瞳と翡翠の瞳が見詰め合う
「・・・」
暫く見詰め合っていたが、ルルーシュが何か言う前にスザクが目を逸らした
その事にショックを受けたルルーシュだったがここで逃げてはいけないと逃げそうになる足を叱咤した
「あ・・・その・・・珍しいな、スザクが外に出ているなんて・・・
「・・・」
出来るだけ優しく語りかけたのだがスザクは何も答えてくれない
そんな彼女の態度にルルーシュは「やっぱり嫌われているのか」と凹んだ
「あぁもう!苛々する!」
「セシル君落ち着いて」
「どうしてお兄様はこんなにも情けないのでしょう」
「ナナリー様・・・」
二人の様子を物陰からロイドらが見守っていた
ルルーシュは何とか話そうとしているのだが、スザクが答えてくれないからか次第に声が小さくなっていっている
それに苛々しているらしい女性陣二人を男性陣が抑えていた
ルルーシュにはこれが仕組まれた遭遇であることは理解できていた
そうでなければスザクがここに来る筈がないし、自分もこの時間にこの場所にナナリーによって呼び出されたのだ
彼らはルルーシュに言っているのだ
六年前の事を謝れと、そして想いを伝えろと
(・・・よし!)
意を決したルルーシュは数回深呼吸するとスザクの名を呼んだ
彼女は目を自分に向けてくることはなかったが、怯まず再度名を呼んだ
「スザク、君に聞いてもらいたい事が」
「お花を」
「え?」
ルルーシュの言葉をスザクが遮った
それに驚きつつ、彼女の言葉を待った
「お花を・・・くださったのは・・・陛下・・・・ですか・・・?」
スザクはおどおどしながらルルーシュを見つめた
ルルーシュは勢い良く頷く
「ありがとうございます」
それを見たスザクはフワリと微笑む
「・・・・・っ・・・」
スザクの微笑みにルルーシュは顔を真っ赤にして硬直する
「・・・?陛下?」
「・・・・」
この六年、ずっと見たかったスザクの笑顔
聞きたかった声
そして彼女は返事をしなくなったルルーシュを不思議に思い首を傾げている
その全てが・・・・
(か・・・かわいいぃぃぃぃぃぃ)
この後、スザク可愛さに抱きしめようとするのだが、まだルルーシュへの恐怖心を拭い去れていないスザクによって一本背負いで投げられてしまうのだった
「あんな事するからですよ、全く」
ルルーシュの怪我の手当てをしながらジノがため息をこぼした
消毒液に顔を歪めながらルルーシュは彼に頼むのだった
「ジノ、私に受身の取り方を教えてくれ」
「・・・・懲りてませんね貴方は・・・はぁ・・・」
****
「薔薇を六年贈り続けるなんて、ロマンチストだよねぇ」
ロイドの言葉にジノとセシルは頷いた
ナナリーだけはクスクスと笑っている
四人のいる部屋のテラスにはルルーシュとスザクがいて、少しだけ空間が開いているものの、ルルーシュの表情は優しくスザクも微笑んでいる事から上手くやっているようである
「あの薔薇は私達の両親の思い出の花なんですよ」
「前皇帝陛下と皇妃様の?」
「はい」とナナリーは頷いた
前皇帝がルルーシュらの母親に結婚してほしいと贈った花なのだという
三人は前皇帝を思い出し、プッと笑った
「あの人そんな事したのぉ?」
「意外・・・ですね」
「なんて顔に似合わないことしてんですか、あの方は」
四人はクスクスと笑いあった
『両手いっぱいに抱えて家に来たのよ』
薔薇の手入れをしながら母はナナリーに語ってくれた
『結婚してほしいって。君が大好きなんだって言ってね』
『どうしてこのお花だったんでしょう?』
真っ赤で綺麗な花だと思う
だが薔薇には棘があるし、ナナリーならばピンクの薔薇の方がうれしい
その事を母に告げると彼女はニッコリと笑った
『花には意味があるの』
『意味?』
『そう。赤い薔薇は特に・・・』
「いつか、スザクさんが赤い薔薇の意味を知ってくださると良いですね、お兄様」
ナナリーはテラスにいる二人を見つめるとにっこりと微笑んだ