「ターゲット確認
目標はサンルームにて読書中」
『了解。目標が動いたら教えてね、アーニャ』
「わかった」


ピッと通信を切ったスザクは隣にいる娘に笑いかけた


「行くよ、マリアンヌ」
「はい」


ぎゅっとマリアンヌの手を握りながらスザクは「よし!」と気合を入れる


「ぜーーーったいにデートを成功させるんだからね!」


「見てろ!クソルルーシュ!」


ごうごうと炎を燃やす母をマリアンヌは楽しげに見ていた









華麗なる一族  奥様、キレる









『王子様を見つけました』

最愛の娘のこの爆弾発言に父は発狂した


『ふざけるな!可愛い娘を34も歳の離れた男にやれるか!』
『絶対に認めないからな!』


初デートは邪魔しなかったものの、それ以降のデートは必ずと言っていいほど妨害するルルーシュにスザクがキレた


『君こそ何ふざけた事言ってんだよ!』
『私がいつふざけた事を言った!?』
『今言っただろ?どうして娘の幸せを邪魔するんだよ!?』
『だから34も『初恋なんだよ?初めて誰かを好きになったんだよ?』』


皇女という身分から、子供達が自由な恋愛を出来ないのではと心配していたスザク
アレクシスもなんだかんだと言いながら結局の所、見合い結婚
他の子供達にも恋人の一人すらいない状態(何人もいても困るが・・・)
流石のスザクもジノと結婚すると言い出せば止めるつもりだが、マリアンヌはまだ子供
彼女の幼い恋をルルーシュと一緒になって潰す気にはなれなかった


『お前は黙ってろ!』
『!何だよその言い方!!』
『文句でもあるのか?』
『あるよ!・・・この変態仮面!シスコンでマザコン!ナルシスト!』
『なっ!・・・言ったな!体力馬鹿!短絡思考馬鹿!脳筋!』
『っ!!!クソルル!!!』
『クッ!アホスザク!!』




『『・・・・・・・・・・・・・・・フン!』』




それは一週間目の出来事
ブリタニア皇帝夫妻はこの日、成婚以来初めてではないかと思われる大喧嘩をした





「誰が脳筋だ!短絡思考だ!僕だって考えて行動してんだよ!!」
「お母様、脳筋ってなんですか?」
「・・・・・・・マリアンヌ」


思わず呟いてしまった独り言を聞いたマリアンヌがにこりと笑って質問する
そんな娘にスザクもにっこりと笑って彼女の両肩を掴んだ


「今の言葉は忘れなさい」
「え?でも「マリアンヌv僕が笑ってる間に忘れないとどうなるのかな〜?」・・・・・ハイ」


ブルブルと震えながらマリアンヌは頷いた
どうやらお母様は怒ると怖いらしい





****

「・・・・娘を脅すな・・・」


はぁ・・・とルルーシュはため息をはくと、本を閉じてPCの電源を入れる

アーニャは物陰に隠れてそれをジッと見つめていた


「・・・・そんな所にいないでこっちに来い。・・・・茶くらいなら出してやる」
「・・・・・・・・・気がついてた?」


アーニャは立ち上がるとルルーシュの正面へと移動し、腰を下ろした
ルルーシュはフッと笑うと「最初から」と告げた


****



「やあ、母上、マリアンヌ。今日も晴天!記念写真日和だ!」
「・・・・・アレクシス・・・・」
「まぁ、お兄様。いつの間にお戻りに?」


皇帝一家の暮らす後宮から政務を行う宮殿までの道は見張りがいる
その為KMF修練場の横を通って脱出するルートを進んでいたスザクたちの前に長男のアレクシスが立ちはだかった
今年22歳の彼は婚約者だったロシリエルと去年結婚し、今は少し離れた別の屋敷に家族と住んでいる
政治に関わらないマリアンヌにはなかなか会えなくなった兄
それが久しぶりに目の前に
思わずマリアンヌは『抱っこ』と手を伸ばした


「こら、駄目だって」
「マリアンヌ。ほらおいで〜たくさん抱っこしてやるぞVv」


駆け寄って行きそうなマリアンヌを押さえながらスザクは長男を睨みつける


「お前・・・ルルーシュの手先か?」
「・・・可愛い妹が34も歳の離れたおっさんとデートする・・・黙認など出来ませんよ」
「・・・・・・本当にムカつくくらいそっくりだな!」
「でも好きでしょう?この顔と声が」
「・・・・・(言い返せない)」
「いい加減父上と離縁なさっては?僕が母上を溺愛してさしあげますよv」
「・・・マザコン(?)でシスコン・・・本当に・・・ムカつくくらい(以下略)」



****

「誰が離婚するか!」


思わずルルーシュは突っ込む
それを見ていたアーニャは首を傾げた


「質問」
「質問は挙手してからだ」
「・・・・」


アーニャは暫く考えた後、言われたとおり手をあげた


「皇帝。質問」
「なんだ?」
「このスザク達の会話。どうやって拾ってるの?」
「お前はスザク派だからな。教えられん」
「・・・挙手した」
「答えるとは言っていない」


****


「何処の世界に妹の幸せを邪魔する兄がいる!!?」


一方、スザクはアレクシスと対峙したままだった
ニマニマ笑っている顔はルルーシュと本当にそっくりで、昔彼と敵対していた時を思い出してしまいスザクの表情がキツイものになる

それに気がついているのかいないのか、アレクシスは余裕の表情で頷いた


「ええ。いますよ・・・「ここに!×6」」
「・・・・・・へ?」


アレクシスを含めた数人の返事
スザクにはその声全てに心当たりがあった


「・・・・・・・ちょっと・・・・まさか・・・」
「あっ!お兄様達お姉さま達Vv」


スザクとマリアンヌは自分の後ろを振り返った


「うふふ」←ユーフェミア
「お母様、マリアンヌ」←ユージニア
「僕たち兄妹全員で」←ディミトリアス
「ジノとのデートは」←クリスティアナ
「邪魔しますから」←フェリックス
「と、言うことです」←アレクシス


「わーvお帰りなさいVv」


喜ぶマリアンヌの隣でスザクは脱力していた
まさか子供全員がルルーシュ派だったとは・・・


(育て方を間違ったかも・・・)












「こらー!ナイトメアを出す馬鹿がいるかーー!!」


スザクはマリアンヌを抱き上げてアレクシスたちから逃げていた
兄妹全員がデートの邪魔をすると表明した今、頼りになるのは自分自身
そしてスザクは自他共に認める体力馬鹿
走れば逃げれる
そう思った

だがそこはルルーシュの子供達
母親に足で叶わない事は百も承知

ならばと出してきたのがナイトメアだった


『仕方ないですよ。母上に僕らが敵うわけないですし』
「だからって・・・『蜃気楼』出す事ないじゃないか!」
『ハハハ。気分が出ていいだろうとあの人も言ってましたよ』


某チューリップ仮面の愛機を出してきたアレクシスの言葉に、スザクは「あんのクソゼロ!余計な真似を!!」と毒をはいた
その後ろには新型のナイトメアが二機
次男と長女だ


『母上。怪我しないうちにお部屋に戻りましょう?』
『そうです。私もマリアンヌと久しぶりに遊びたいですし』
「だったら追いかけるな!KMFから降りろぉぉぉ!!」


この馬鹿ーー!!と叫びながらスザクは逃げる
その横に一台の車がやってくる


「あ。お姉さま」
「マリアンヌvお菓子ですわ」
「ほら、オモチャもたくさんありましてよ」
「・・・双子・・・・」
「僕もいますよ〜」
「・・・・フェリックス」


次から次へと子供たちは自分の妨害をする
いい加減スザクのイライラは頂点に達しようとしていた







「・・・・・マリアンヌ」
「はい」


KMF修練場に追い詰められたスザクはマリアンヌを下ろした
他の兄弟たちに見つからない位置にマリアンヌを隠すとやや低い声で言い聞かせた


「あいつらの相手は僕がする。お前はその間にジノのところに走るんだ」
「・・・・はい!」


マリアンヌも表情を引き締めて頷いた
スザクも頷くと大きく息を吸い込んだ


「・・・どうせいるんでしょ・・・・・ロイドさーーーーん!!セシルさーーーーん!!
「はいはーいv期待を裏切らないスザク君は大好きだよ〜」


ひょこりとロイドとセシルが顔を出した









『出たな』
『ランスロット・・・一度戦ってみたかったんです』


武人として軍に所属しているディミトリアスとクリスティアナは待ってましたと前面へ出た
父と同じく身体より頭なアレクシスは逆に一歩下がった
絶対守護領域を持つ蜃気楼に彼が乗っているのも同じ理由からだ


『さて・・・・どうなるかな・・・』


クスリとアレクシスは笑う
ルルーシュとアレクシスの予想では、今のスザクは・・・・


『・・・・このクソガキ共・・・・』
『は・・・母上?』
『なんだか様子が・・・』


『その根性、()が叩き直してやる!!』



どっかーーーーーーーーん!!!
という轟音がブリタニアの首都に響いた





****


「相変わらずの体力馬鹿め・・・」


クスクスとルルーシュは笑っていた
それを見ていたアーニャは再び挙手をする


「・・なんだ?」
「キレたスザク。止めなくていいの?」


先程の轟音と共にガラガラと何かが崩れる音がした
スザクが暴れた事により、建物が崩れているのだと予想できた
しかしルルーシュは首を左右に振る


「どうして?」
「あの修練場は老朽化の為取り壊し予定だ。さら地にしてくれた方が予算削減で助かる」
「スザクも知ってる?」
「知ってるが、忘れている可能性は大だな。それと私とスザクは喧嘩中。出て行けば逆効果だよ」


ふぅん・・・と納得しながらアーニャはあることに気がつく

スザクの計画した脱出経路に現れた子供達
そして暴れている場所が取り壊し予定地


「・・・もしかして計画通り?」


ルルーシュはニヤリと笑うと「さてね」と答えた


****


『ちょちょちょ・・・これってまさか!』
『兄上・・・』


じりっとディミトリアスとクリスティアナは後退する
ランスロットは轟々と炎を背負っているように見える


『これが噂の『俺スザク』かVv』
『兄上!喜ばないでください!』


蜃気楼のシールドを全方位に張り、アレクシスはウキウキしていた
マザコンであり兄弟達の仲で一番長くスザクと顔を合わせている彼でさえ、『俺スザク』は初めて見るのだ


『これが喜ばないでどうする?僕の本日最大目標は『俺スザク』と記念写真なんだ!フハハハハハ!!』


見た目はいつもの母上です!!
という他の兄弟達の突っ込みはランスロットの攻撃にかき消された


「・・・その笑い声・・・蜃気楼・・・・・死ね!馬鹿ゼローーーー!!



どっかーーーーーーーん!!!

本日二度目の轟音が響いた




****


「・・・元気だな・・・たまには騎士業をさせたほうがいいかな?」


アーニャはルルーシュに貰った紅茶とクッキーを頬張っていた
ルルーシュは先程からPCの画面を見てはクスリと笑ってる


「何を見てるの?」
「ああ・・・マリアンヌだ」
「皇女殿下?」
「そうだ。スザクに逃げろと言われたのに、道に迷ったらしい」


スッと向けられた画面を見ると、小さな点が動いていた


「こちらに向かっている」
「皇帝がいるのに?」
「・・・忘れてるんだろう」


逃げろといわれてもマリアンヌは殆んどこの後宮から出た事がない
迷った彼女は「見覚えのある場所まで戻ってみよう」とここまで戻ってきたのようだ


「・・・それはそうといい加減スザクを止めないと他へ被害が出るな」


ピッとボタンを押すと画面が切り替わる
ランスロットが蜃気楼をボコボコにしているところだった
(他の二機は殲滅済み。双子と三男は逃走済み)

流石のルルーシュも「死ぬかもしれん」と冷や汗を流した

どうするかと考えているとある人物がサンルームへと入ってきた



「大丈夫。ランスロットならもうじき止まりますよ」
「・・・ジノ、来たの?」


金の髪に蒼の瞳の騎士 ジノが現れた
彼は皇帝に頭を下げると主とアーニャに微笑んだ


「伯爵の話ではエナジーフィラーを通常の半分にしてあるそうです。時間的にあと数分で止まりますよ」
「そうか。なら私はそろそろ行くとするかな」


スッと立ち上がった主をジノは見送る
扉を開けて出て行く直前、ルルーシュはジノを振り返った


「・・・解っているだろうが・・・」
「夕食の時間までにはお送りいたします」
「・・・・フン・・・」


ルルーシュはそれ以上は何も言わず、部屋を出て行った










「・・・お父様・・・いない!良かったぁ」


そぉっと部屋に入ってきたマリアンヌはルルーシュの姿がない事にホッと息をはいた
ぺたんとその場に座り込み、腕に抱いていたぜろに話しかけた


「ぜろ、どっちに出たら良いと思いますか?右でしょうか?左でしょうか?」


ジノはちょうどマリアンヌからは死角の位置に座っていた
だから彼女は完全に一人だと思ってぜろに話しかけていたのだろう


「このままではジノ様との約束に遅れてしまいます。・・・・困りましたね」


しゅんとした小さな背中を向ける少女にジノはゆっくりと近づいた


「・・・もう・・・怒って帰ったかもしれないです・・・・」
「そんな事ないですよ」
「っ!?」


後ろから聞こえた声にマリアンヌは驚いて飛び上がった
それを見てジノはクスクスと笑う


「ジ・・ジノ様?」
「こうなるだろうと思いまして、こちらからお迎えにあがりました」


さぁ、行きましょう とジノはマリアンヌの手をとった
マリアンヌは何度かジノと、ジノと繋がった自分の手を交互に見た
そしてにっこりと微笑むと「はい」と元気良く返事をした




「父君の作戦にはスザクは敵いませんよ」
「そうですか・・・・あ、そうだジノ様」
「はい?」


マリアンヌはジノと手を繋いだまま自分の部屋へと向かおうとした


「私、今日はぜろにお留守番を頼んだんです。だからお部屋に置いてこないと」


ぜろ
ルルーシュがマリアンヌの為に自ら作った黒猫のぬいぐるみ
マリアンヌの友人

ジノはぜろをじっと見つめた


「ジノ様?」
「・・・・ぜろも連れて行きましょう」
「え?」
「でないと、明日の執務の時間が事情聴取になってしまうんですよ」
「ふにゃ?」
「いえ・・・こちらの話です」


首を傾げるマリアンヌにジノはふわりと微笑んだ
マリアンヌはぽーっとその笑顔に見惚れ、その話の内容を忘れてしまった


「では行きましょう」
「///はいVv」




****


はぁ・・・とルルーシュはため息を吐いた
目の前には瓦礫と化した修練場
そして動かない四体のナイトメア


「この!この!君のせいで僕がどれだけ苦労したと・・・」
「母上っ僕は父上ではありませんよぉぉ(涙)」


スザクはアレクシスに跨って息子をぽかぽかと殴っていた
どうやらルルーシュの代わりに八つ当たりされているようだが、一応は手加減して殴っているようだった
状況から察するに、エネルギーが切れたランスロットから出たスザクが無理矢理蜃気楼のコックピットをこじ開けてアレクシスを引き釣り出したのだろう


「馬鹿ルル!君なんて大嫌いだ!離婚してやるぅぅ」
「・・・それは困るな」


スザクの問題発言にルルーシュは思わず声を出していた
ソレを聞いたスザクとアレクシスが彼のほうへと顔を向ける


「・・・父上!遅い!」
「そのようだな」


ルルーシュはスザクに近寄り、彼の手を引き立たせた
スザクはぽかんと口を開いたまま、されるがままに動く

ルルーシュは苦笑するとスザクの頬に軽く触れるだけのキスをする


「っ////」
「そろそろ機嫌をなおせ、もういいだろう?」


ルルーシュがギュッとスザクを抱きしめる。するとスザクもルルーシュの背中に手を回して答えた


「離婚なんて口にするな」
「///うんっ」
「マリアンヌはジノと出かけたよ」
「////うん、ありがとvV」
「私達も二人きりで出かけるか?」
「ルル///」
「スザク」




「僕らは何の為に出て来たんでしょうね?」
「バカップルを見せ付けられただけですわ」
「両親が仲良いのは良い事ですけど・・・」
「これでは私たちはただの道化ではありませんか!」
「しょうがないですよ、父上は策略に長けた方ですから」


兄妹六人は両親の側でため息をはいた
結局自分たちはルルーシュに利用されただけなのだ
苦労する事無くスザクと仲直りする為に・・・


「・・・・『俺スザク』と記念写真が撮れなかった・・・」
「「「「「まだ言ってるんですか!?」」」」」


たった一人、利用される事を承知していたアレクシスがガクリと肩をおとした
そんな長兄に兄妹は思わず突っ込んだのだった




終わってしまえ


意外とジノは本気かもしれない・・・