promise is eternity
証言者その一 セシル・クルーミー
『はい。変だなとは思っていました
食欲は無いし、話しかけても上の空だし、ため息は何度もするし
ね、ロイドさん』
その二 ロイド・アスプルンド
『そうそう。ご飯ちゃんと食べないと駄目だよって言ったのにさ。「大丈夫です。おやつの食べすぎなんです」なんて言って誤魔化すんだよ』
『そうなんですよ。その時はロイドさんと私の二人がかりでなんとか食べさせたんですけど・・・・後でこっそり吐いてました』
『え?そうなの?・・・ちょっと君!あの子に無理させてたんじゃないの?』
『ええ!?そうなんですか?何させてたんですか!?事と次第によってはっっ!!』
『はいはい。落ち着こうね〜・・・って感じなんだけど?』
「・・・全く状況がわからん」
「ですねぇ」
アヴァロンからの通信を受けたルルーシュとジノは「はぁ・・・」とため息をはいた
『だぁかぁらぁ、スザク君が倒れたんだって』
「・・・・それは理解した」
三日前からスザクとキャメロットは任務で王宮を離れていた
そして戻ってくる途中でスザクが倒れたと連絡が入った
知らせてきたのはセシルで、ロイドはスザクに付き添っているという事だった
しかしその報告の途中でロイドが割り込んできた
『皇帝陛下・・・大変だよぉ』
青ざめているロイドに、セシルもルルーシュもジノもスザクの容態を心配した
『・・・スザク君が・・・』
倒れたスザクはすぐに目を覚ました
ぼんやりとしているものの、彼の眼はロイドをしっかりと見つめた
それにホッとしつつ、ロイドはスザクを叱る事にした
調子が悪いなら何故休んでいないのか
どうしてちゃんと食事をしないのか
言いたいことはたくさんあった
しかし、先に発せられたスザクの言葉にロイドは硬直する
『黒の騎士団との戦闘はどうなりましたか?』
ロイドはスザクが何を言っているのか解らなかった
黒の騎士団は二年前に殲滅し、メンバーの殆んどの死亡が確認されている
それなのに「戦闘はどうなりましたか?」
ロイドはスザクが夢を見ていたのだと理解し、まだ目が覚めていないようだねと笑った
するとスザクは明らかに不機嫌そうになり「冗談は言わないでください」と言った
おや?と思いつつスザクと話すこと数分
ロイドは状況を理解した
『今のスザク君は18歳で、ナイトオブセブンとしてエリア11に総督補佐として派遣されてるんだってさ』
「・・・二年前の事じゃないか」
『そうなんだよねぇ。倒れた時に頭でも打ったのかと思って、今、軍医に診せてるんだけど・・・』
モニターの向こうでロイドがセシルから何かの紙を受け取った
そして「あららぁ」と笑いながらルルーシュに告げる
『外傷はなし。そして脳内出血も無し・・・原因不明だねぇ』
はぁ・・・とルルーシュら四人はため息をはいた
消えた記憶は二年間
全て忘れられるよりはマシかもしれないが、ルルーシュにとって18歳のスザクは少々問題だった
同じ18でもルルーシュが即位してからのスザクならまだしも、それ以前となると・・・
「『ゼロ大っっ嫌い時代』ですね、陛下」
「言うな・・・」
ジノの言葉にルルーシュは机に突っ伏した
18歳、しかも黒の騎士団との戦いの事を心配している。つまりスザクがゼロを目の仇にしている時期ということだ
いつ頃くらいまでの記憶があるのかは解らないが彼がゼロ、つまりルルーシュを悪く思っている事だけは間違いない
『もう一度赦してもらう所から再出発だねぇ』
「お気の毒です」
『医療班を待機させますから頑張ってください!』
ロイドらのあまり嬉しくない声援?を聞きながらルルーシュは出発前のスザクを思い出していた
***
「早く終わらせて帰ってこいよ」
「はい」
皇帝の執務室でルルーシュはスザクに笑いかけた
スザクもまたルルーシュに微笑みながら頷いてくれた
スザクはこれからロイドらと任務に出かける
本当ならばアヴァロンが飛び立つ所まで見送りたいのだが、ルルーシュは皇帝、スザクはナイトオブワン。主君と臣下。それは許されなかった
ルルーシュとスザクの結婚式から二年が経った
その結婚が公のものではない事から、(一部の貴族などは気がついているようだが)スザクはルルーシュの伴侶ではなく、『皇帝の愛人』と言われている
ルルーシュは不満だったがスザクは「仕方ないよ」と苦笑しているだけだった
「・・・スザク」
「はい?」
ルルーシュが20歳になった辺りから急に貴族達が「結婚」について話を持ちかけてくる事が多くなった。ルルーシュ本人はスザクと結婚している(つもりであった)ので、結婚等誰がするか!と断り続けていた。勿論、皇帝として血を繋いでいかねばならない事は重々承知している。そしてそれについては考えもある。ただそれが成功するかどうか解らないし、その事を貴族連中に言っても反対され、それ自体潰される恐れがあった。その為、貴族達にはたいした説明もせず、見合いをずっと断り続けてきた
しかしどうもそれがいけなかったようだ
ルルーシュが結婚を拒否する理由の第一位。それが「皇帝の愛人」。つまりスザクの存在だという結論に貴族達は達したらしい
自分達の娘を皇帝の妃にしたい彼らは全ての鬱憤をスザクへとぶつけた
ルルーシュやジノが側に居ない時を見計らい、スザクを呼び出しては嫌味を言うらしい。ここ最近では親だけでなく、断られた娘自身が乗り込んできているという話だ
勿論スザクがそんな事があったなどとルルーシュに愚痴るわけが無く、ロイド等側近達の報告とルルーシュとスザクの本当の関係を知る数少ない貴族からの情報でルルーシュはその事を知ったのだ
「・・・」
「あの?・・・陛下?」
つい先日あった夜会
スザクはルルーシュにそれに参加するように何度も何度も告げた
最後には泣きながらルルーシュに行くように頼み込んだ
どうしてそこまで?と疑問に思いつつ参加してみると、そこは夜会という名の見合い会場だった
嵌められた!とルルーシュと護衛のジノが気がついた時にはまるで獲物を狙う獣のような目をした貴族の娘達に囲まれていたのだ
勿論ルルーシュは帰ってスザクに問いただした。あんなものに参加させてどういうつもりなのか、と
しかしスザクは今にも泣きそうな眼をして頭を左右に振るだけだった
きっと貴族達に五月蝿く言われたんですよ と、翌日ジノがフォローしてきたがルルーシュには正直理解できなかった
自分とスザクは書類上独身と言われようと結婚しているのだ
そして愛し合っている
それのどこがいけない?
男同士だからいけないのか?
血を残せないから?
男同士でも血は残せる
もし残せないとしても姉のコーネリアや妹のナナリーがいる
皇位継承権は放棄したが二人ともブリタニア皇家の血を引いているのだ
いずれ生まれるだろう彼女らの子供を養子にし、後を継がせる事だって出来る
跡継ぎ問題等たいした事ではない
なのに何故五月蝿く言うのか
そして何故スザクはそこまで彼らの言いなりになるのか
それについていつか話し合わなくてはならないと思いつつ、ルルーシュはため息をついた
「・・・なんでもない。それより、怪我なんてしないように」
「大丈夫です。ロイドさん達がいますから」
「そうだったな・・・だけど、気をつけてな」
「はい。陛下」
そうしてルルーシュはスザクと別れた
***
あの夜会を勧めてきた日からスザクの元気がない事は気がついていた。あの時はルルーシュも少々腹を立てていた為、気がついていないふりをしていた
スザクが任務から帰ってくる頃には自分も落ち着いており、スザク自身もそうなるだろうと考えていたからだ
だが、再会する前にスザクは18歳に戻ってしまった
ルルーシュを好きだと、愛していると自覚する前のスザクに
「スザク・・・本当にお前は・・・」
ルルーシュは右手で左手を握り締めた
正確には左手薬指
ルルーシュとスザクの結婚指輪を・・・
◇◆◇◆
「二年・・・か・・・」
アヴァロンの自室でスザクはぽつりと呟いた
ロイドとの噛み合わない会話から、自分が二年間の記憶を失った事を知らされたスザクは鏡の中の自分を見つめていた
外見的にはあまり変わらない
少しばかり顔が変わったかもしれないが、殆んど変わっていない
変わっているとすれば自分が今着ているラウンズのマント
その色は白
記憶の中ではヴァルトシュタイン卿が身に纏っていた色。それを自分が着ているという事
ロイドの話ではシュナイゼルらが新皇帝に対し謀反を企てた。そしてその中にヴァルトシュタイン卿がおり、スザクが彼を倒した。そしてその功績から新皇帝にナイトオブワンとして任命されたのだと教えられた
無くした二年の間に黒の騎士団は滅び、あれほど解放したかった日本はその名を権利を取り戻し、自分はナイトオブワンとして皇帝に仕えていた
「・・・ルルーシュや・・・ナナリーはどうなったんだろう・・・」
黒の騎士団が滅んだ・・・そしてゼロも死んだとロイドは言った。ならルルーシュも死んだのだろうか?覚えている記憶の中で彼はまだゼロと確認されたわけではなかった。死んだのはルルーシュ?それともゼロと名乗った別の人間?
確かめる術はいくらでもある。ロイドに聞くのも良い。資料を調べても良い。だが、それが怖かった
(もしかしたらゼロはルルーシュで、僕が彼を殺したのかもしれない)
憎い敵、だが大切な親友
その彼をこの手で殺したかどうか、確かめるのが・・・怖かった
「スザク君、とりあえず首都に向かうけど」
良いよね?とロイドが確認しに来た
それにスザクは迷い無く頷いた。ルルーシュの事は気になるし、この二年で世界がどう変わり、自分がどう生きてきたのかも気になる。しかし今の自分は任務が終了し帰還する所なのだという。ならばまずは皇帝に任務終了の報告をせねばならない。自分の事はそれが終わってからでもいいだろう
その考えをロイドに告げると彼は「相変わらずの真面目君だね」と笑った
その笑顔と言葉にスザクはホッとした。二年経っても自分は変わっていないらしい
「そういえば新皇帝ってどなたが?シュナイゼル殿下ではないとすると・・・オデュッセウス殿下ですか?」
スザクの質問にロイドは頬をぽりぽりと掻いた
そして「会えば解るよ」と答えを曖昧にしてロイドはブリッジへと帰っていった
そんな彼に一瞬疑問に思ったが、謎かけの様に話すのはいつもの事。そう判断し追及しなかった
「あ・・・ジノやアーニャがどうしてるのか聞けば良かった・・・」
黒の騎士団は滅び、シュナイゼルも死んでしまった
覚えていない二年の間にたくさんの人が死んでしまった。ジノもアーニャも強い。大丈夫だとは思うが、心配だった
「きっと・・・戻れば会えるよな、ジノ、アーニャ」
首都に戻ったスザクはロイドと共に皇帝の元へと向かった
皇帝は執務室で仕事をしているのだという。そこへ向かう廊下での途中、ロイドが何度も「冷静に、冷静になるんだよぉ」と言い聞かすように言ってきた。そのことに首を傾げつつ、スザクは頷いた
そしてその理由を直後に知ることとなった
「・・・え・・・?」
「なにが「え・・?」だ。俺は「お帰り」と言ったんだ」
皇帝の執務室にいたのはスザクの良く知る人間だった
黒い髪に紫水晶の瞳
「・・・ルルー・・・シュ?」
それは幼馴染で同級生のルルーシュ・ランペルージ。本当の名をルルーシュ・ヴィ・ブリタニアだった
スザクは驚きに目を開いたまま硬直していた。そんなスザクにルルーシュはクスリと笑うと、ロイドからアヴァロンでの診断結果を受け取る
「原因不明の記憶喪失か・・・18歳と言っているそうだが、18のいつ頃まで覚えてる?」
「え・・・その・・・」
「黒の騎士団が中華連邦の天子を誘拐したからって理由で、彼らと戦う直前らしいよ」
ああ、あの時か。とルルーシュは頷いた。確かに、あの時までしか覚えていないのであるならルルーシュが皇帝だと知って驚く筈だ。ルルーシュはあの二ヵ月後皇帝になったのだから
「ロイドから聞いただろうが今のお前はナイトオブワン。俺に仕える俺の騎士だ。仕事も二年前と違って「・・・して?」」
ルルーシュが簡単に今のスザクについて説明しようとした途中、スザクが声を震わせて話し出した
「・・どう・・・して、君が皇帝に・・・?」
スザクは混乱していた
ありえない人物が皇帝として目の前にいたのだから
彼は・・・ルルーシュは確かにブリタニア皇家の血を引いている。しかし彼は皇位継承権を無くした皇子の筈。死んだとされた皇子の筈。その彼がどうして皇帝を継いでいるのか
「・・・前皇帝シャルル・ジ・ブリタニアが遺言の中で俺を次の皇帝として指名した。現在はこのルルーシュ・ヴィ・ブリタニアがこの国の皇帝だ」
「そんな馬鹿な!」
「事実だ。なんならその遺言を見せてやろうか?」
笑うルルーシュからスザクは視線をロイドへと動かした。彼は「間違っていないよ」と頷いた。その目は真剣で嘘は言っていない
しかしスザクには信じられる事ではない。何故ならルルーシュは父であるシャルルと、その彼が支配するブリタニアを憎んでいた。滅ぼしたいと壊したいと思うほど
そう・・・彼は・・・反逆者『ゼロ』
その時スザクはある可能性に気がついた。あってはならない、していて欲しくない可能性に
「まさか・・・ギアスで操ったのか・・・?」
「・・・・」
ルルーシュは答えなかった。黙ったままスザクを見つめている。その目にも顔にも笑みはない
「自分の父親を・・・・殺し・・・」
「そうだ」
スザクが言い終わる前にルルーシュがあっさりと言い切った
その答えにスザクは息を呑んだ
『父親殺し』
たとえ憎いゼロであっても、彼に自分と同じ罪を犯してほしくは無かった
「それが・・・どういう事か解ってるのか!?」
「ギアスで奴を操って遺言を書かせ、自殺させた。確かに俺が殺した。だが、力ある者が皇帝。それがブリタニアという国だ」
何か文句でも?とルルーシュは不敵に笑う
それを見たスザクはグッと拳を握り正面のルルーシュを睨みつけた
「認めない・・・」
「・・・」
「僕は絶対にお前を皇帝とは認めない!」
スザクはそう言い捨てると執務室を出て行った。出て行く直前、扉の前で振り返り皇帝に一礼する所が『スザク君らしいなぁ』、とロイドは苦笑する
そして机に突っ伏しているルルーシュへと声をかけた
「よく途中でヘタレないで頑張ったねぇ」
「僅か二年振りとはいえ・・・本気で睨まれると・・・凹むぞ・・・スザクぅぅぅ・・・」
良く出来ましたvとルルーシュの頭を撫でながら、ロイドは聞きたいと思っていた事を口にした
「今回のスザク君の件。本当に君の仕掛けじゃないの?」
元ゼロであるルルーシュ。ギアスという未知の力を持った彼なら、スザクを原因不明の記憶喪失くらいには出来るのではないか、ロイドはそう思っていた
それに彼は時折スザクを含めた側近で遊ぶ事がある。ほんの可愛い悪戯から周囲を巻き込んだ傍迷惑なものまで、その規模は幅広い
今回も彼が自分達を振り回す為に仕掛けた悪戯という可能性を考えていたのだ
最も、ロイドもその遊びに一枚噛んでいる事も良くあることなのだが・・・
「知らん、俺じゃない。そもそも俺がスザクの記憶をどうこう出来るなら、とっくの昔にやっている」
軍人である事や、父親を殺してしまった事。ユーフェミアの事。ルルーシュがゼロである事
スザクが苦しみ傷つく記憶。スザクと自分が敵対してしまった理由など、消してしまいたい記憶なら山ほどあった
「今のアイツを見ただろう?俺が嫌いで憎くてしょうがないらしい。誰が好き好んで伴侶に嫌われたいと思う?俺はMじゃない」
「だよねぇ。Mはスザク君だもんねぇ」
「最近じゃ貴族に言葉攻めされてるし」
そのロイドの言葉にルルーシュは眉を顰めた
ルルーシュの脳裏に沈んだ表情のスザクが浮かぶ
「・・・」
「それにしても、スザク君何処へ行ったのかな?」
スザクは腹を立てて出て行ってしまった
しかし彼が本来仕事をする部屋はここだ。そして住居はルルーシュの部屋の隣だ。だが今の彼はそれを知らない
「おそらくラウンズの執務室かセブン時代の自分の部屋だな」
「ああ・・・でもセブン時代の部屋って、何も無いんじゃなかった?」
スザクを側に置きたかったルルーシュは強引にスザクを引越しさせた。その時、セブンとして使っていた部屋の荷物は全て運び出しており、何も無い空き室になっている
「ロックの番号も変えてあるから入る事は出来ない。まぁ、ジノに向こうで待機させているから説明してくれるだろうが・・・」
「すっごい嫌そうな顔して荷物取りに来るだろうね、彼」
目に浮かぶよ、とロイドは笑った
◆◇◆◇
スザクは自分の部屋の前で扉を睨みつけていた
ラウンズ専用区での自分の部屋の前にやって来たのだが、扉が開かない。番号を入力するが『エラー』と表示され、開ける事できない
「チッ!」と舌打ちし、スザクは扉を蹴ろうとしたところで自分を制止した
もし壊れたり傷が入ったら自分で弁償せねばならないからだ
しかし苛苛は修まらない
よりによって皇帝がルルーシュで、しかもギアスを使って父親の命を奪ってまでその地位についていた
シュナイゼルも彼が殺した。そして自ら作り上げた黒の騎士団も滅ぼした
何故ロイドは彼を皇帝と呼び仕える事が出来るのだろう
自分なら出来ない
(いや・・・僕は仕えていた。ナイトオブワンとして・・ルルーシュに・・・)
今の自分では考えられない。無くした二年分の時間の中で、一体自分は何を思い、なにを感じ、彼を主としたのだろうか
聞けるものなら聞いてみたい。・・・しかしそれは叶わない事なのだが・・・
「何やってんだ?」
自分の考えの中に入り込んでしまっていたスザクは、かけられた声にハッとする
顔を上げてみると、そこには金髪碧眼の同僚の姿
「ジノ・・・?」
「何で疑問系なんだ?・・・まぁ良いけど。それより部屋に入れなくて困ってるんだろう?」
ニコリと笑うジノの笑顔は、少し大人になったような笑顔だった。記憶の中にある彼はいつも明るい笑顔をしていた。こちらがつられて笑ってしまうほど人を惹きつけるような、そんな笑顔。しかし目の前の彼は、やはり惹きつけられるような笑顔ではあるものの、明るいだけじゃない、どこか優しさも含んだ、包み込んでくれるような雰囲気を持っている
だから「ジノ?」と確認するように名を呼んだのだ
「今のお前の部屋はここじゃないからな。入っても何も無いぞ」
「え?引越ししてたのか?」
「ああ。陛下が即位されてから、な」
「陛下」
ジノの口から出た言葉。それを指す人物を思い出し、スザクの表情が歪む
正面のジノはそれに気がついたのだろう。苦笑するとスザクの頭を撫でた
「二年前に記憶が戻ってしまったんだって?面白いな、スザクは」
「・・・僕は面白くない・・・なぁ・・ジノ・・・」
「ん?」
「ジノは・・・その・・・ルルーシュ・・陛下を、認めてるのか?」
スザクの質問にジノは一瞬真顔になった後、ニッコリと笑った
そしてスザクをジノの部屋へと案内する
落ち着いて話そうということらしい
ジノの部屋のソファに座り、スザクは不安げな表情でジノを見つめていた
そんなスザクの髪を撫で、落ち着くように促した
そしてジノはルルーシュについて話し出す
「私は最初彼を認められなかった。シャルル陛下の死があまりに不自然だったのと、第十一皇子なんてそれまで存在すら知らなかったからな」
「彼は死んだ事になっていたから・・・」
「らしいな。とにかく、私は彼が皇帝というのは気に入らなかったし、納得が出来なかった」
だがジノはルルーシュを主とした。その理由の一つ。植民地解放、それに伴いナンバーズや名誉ブリタニア人制度の廃止
それはシャルルの行いを否定する行為ではあったが、ジノはそれを認めた。ブリタニアの植民地にされた国と人間がどれだけ苦しんでいるか、それをスザクを通して知ったからだ
そしてもう一つ。スザクの事
彼は本当にスザクを愛していた。シュナイゼルの叛乱が起こるまではギスギスしていたが、それ以降は想いを通じ合わせ、結婚までした
ジノもスザクを大切に思っていた。本当は自分が彼を幸せにしたかったのだが、自分では駄目だと気がついた。なら・・・とスザクをルルーシュに任せた。そしてその選択は間違っていないと今でも信じている
「ルルーシュ皇帝によってブリタニアは変わった。未だにレジスタンスはいるが、二年前に比べて軍を動かす事も減少した。戦死者も未亡人や孤児も少なくなったと国民からの評価も良い。・・・あの方は良き皇帝だよ・・・過去がどうであれ、ね」
「知って・・・・?ルルーシュがゼロだと・・・」
「ああ。ロイド伯爵もアーニャも知ってる・・・辛かっただろう?」
幼馴染が最大の敵で。親友が主を殺した仇で
頑張ったな、とジノはスザクを抱きしめた
スザクはジノの背中に手を回し、ゆっくりと目を閉じた
◆◇◆◇
お前の部屋は陛下の隣だ
ジノの口から出た言葉にスザクは絶句した
よりによって何故自分の部屋がルルーシュの隣なのだ
二年後の自分は何を考えているんだと本気で聞きたくて仕方がない
だが現在の自分が二年後の自分に問いただす事などやはり出来るわけがなく、スザクは思い切り顔を顰めながらジノに言われた自室へと向かう
しかし、初めて入る区域の為自室が何処か解らない。うろうろしていると一人の女官に出会った。彼女は「お帰りなさいませ」とスザクに頭を下げた。それを見たスザクは、本当に自分がここに住んでいるのだと思い知らされた
(二年後の僕は馬鹿か!?)
ナイトオブワンとはいえ皇帝と同じ建物、しかも隣の部屋に住むなんて非常識極まりない!
ルルーシュと自分のどちらが言い出したのか知らないが馬鹿としか言いようがない
スザクは二年後の自分の愚かさに落ち込みつつ、心配そうに覗き込む女官に自分の部屋の場所を尋ねた
そして、ここだと言われた部屋へと入る。入ってスザクは驚いた
確かに見覚えのある家具が置いてある。クローゼットの中にも自分の物が入っている。しかし本当に自分はここで生活していたのだろうか
どうしてそう思うのか。それはあまりにこの部屋が綺麗過ぎるのだ
まるでモデルルームのような部屋
自分は遠征に出ていたというから、数日間は確かにここに人はいなかった。もしかするとその間に掃除でもされたのかもしれない
それとも、今の自分には記憶がないからそう思うだけなのか
はぁ・・・とため息をはきながらスザクはベットに横になった
ジノから自分の部屋の話を聞いた後、スザクは驚きジノにラウンズの自分の部屋を与えてくれと頼んだ
しかしそれを拒否され、仕方なくここで生活しなければならなくなった
ジノの話ではスザクの部屋とルルーシュの寝室は繋がっているのだという
ナイトオブワンという地位から自分は彼の護衛をしていたのだろうかと予想した。それなら隣の部屋だというのも納得が出来る
そしてその繋がっているといわれる扉にチラリと視線を向けると、スザクはチッと舌打ちして目を閉じた
****
『・・・・後悔しているのか?』
スザクには聞き覚えのない声
それに自分が答える
『していない。あの時の僕の選択は・・・心は間違っていない。・・・・けど』
『けど?』
『苦しい』
『・・・』
『僕は醜い人間だ。頭では理解している筈なのに心が悲鳴をあげている。そしていつかきっと・・・』
****
「・・・いつか・・・きっと?」
スザクは目を開きながら呟いていた
どうやら自分は眠っていたらしい
ゆっくりと身体を起こすとぼぅっとしながら先ほどまで見ていた夢を思い出していた
知らない女性と会話する自分。相手の顔は見えなかった。そこが何処なのかも解らなかった
真っ白な世界で自分と知らない女性とが会話していた
『後悔しているのか?』
女性はそう尋ねていた。そして自分は『していない』と答えた
何を後悔していないのだろう
そして『いつかきっと』の続きはなんだったのだろう
きっとあの時の自分は無くした二年間の記憶を持っている自分だ
あれは無くなった記憶。その一部
「・・・・駄目だ・・・思い出せない・・・」
必死で会話の続きを思い出そうとするのだが、どうしても出てこない
真っ白でぷつんと糸が切れたように何も無い
気のせいかと思っていたが、頭痛もしてきた
「・・・っ・・・」
自覚すると痛みが増した。それに顔を顰めていると声がかかった
「頭痛でもするのか?」
「っ!?」
その声は良く知っていて、出来る事なら聞きたくない声
「・・・ル・・・陛下・・・」
「今は公務の時間じゃない。呼び捨てで良い」
いつからいたのか、彼はスザクとルルーシュの部屋を繋ぐ扉に寄りかかって室内にいた
そしてルルーシュは驚くスザクの元へと近づくと肩を押してスザクを横にさせ、自分はベットの端に腰掛けた
「どのくらい痛む?医師でも呼ぶか?」
「いや・・・あの・・・」
スザクは焦った。ルルーシュの存在に気がつかなかった事もそうだが・・・
「・・・熱はないようだ・・・そう言えば、いきなり倒れたと言ってたな」
ルルーシュはスザクの額に手を当てて熱があるかないか確信した後、スザクの髪に指を絡めながらブツブツと呟いていた
スザクは驚きのあまり声が出せない
何故彼はこんなに自分に普通に接しているのか。自分もそうだがルルーシュも自分を怨んでいる筈だ。彼を父である前皇帝の前に差し出し、記憶を改竄させる事となってしまった。そして何よりも大切にしていた妹と引き離す結果となった。なのに・・・何故彼はこんなにも自分に優しい?
「他にどこか違和感は?」
「ない・・・よ・・」
「そうか」
スザクの答えにルルーシュの表情が緩む
(・・・安心したのか?何故?・・・それに・・・)
ルルーシュに触れられて、ルルーシュと同じ空間にいて、不思議とスザクは嫌だとは思わなかった
執務室では彼が皇帝と知った驚きと、彼が父親を死なせたという事実にショックを受けていた為思わず飛び出してしまったが、今考えるとあれほど抱いていた彼に対する憎しみが無くなっている
「・・・」
「どうする?このまま眠るか?それとも、何か食べるか?」
何も食べていないだろう?とルルーシュはスザクの頬を撫でた
そしてスザクは気がつく。頬を撫でるルルーシュの指に冷たい感触があることに
「・・・?」
スザクは自然とそちらへと目を向けた
ルルーシュの左手、その指に銀色の指輪を見つけた
「・・・・」
「結婚・・・してるのか?」
スザクの視線と言葉から何を見てそう言ったのか気がついたルルーシュは左手をスザクへ見せた
「ああ」
「いつ?」
「シュナイゼルの叛乱を鎮圧してから」
「・・・相手は?僕の知っている人?」
ルルーシュの表情が一瞬だけ悲しげに変わる。スザクがそれについて尋ねる前にルルーシュから「知らない」という答えを貰った
「そうか」
「今のお前は知らない。けど普段は良く知ってる」
「なにそれ?・・・ああ・・そういう事」
今の、二年分の記憶を無くした自分は知らないが、なくす前の自分は知っていると言う事
きっと彼が皇帝になった時に連れて来たのだろう
「綺麗な人?」
「まぁな。だが、どちらかといえば可愛い方かな」
「・・・好きなんだ」
「ああ・・・愛している」
ズキリ
スザクは胸が痛むのを感じた
しかしそれが何なのか解らない
「愛してる・・・愛してるんだ」
「・・・ル・・・」
「どんなに遠く離れていても君を愛してる
姿が変わっても、どんなに時が経っても、たとえ俺の事を忘れても、俺は君を愛している
愛し続ける・・・君は俺の唯一の人」
ルルーシュはスザクを見つめたまま言葉を続ける
その目はとても優しくて、しかし強い意思を感じた
それだけにルルーシュの言葉が本当に心からのものと知る事が出来た
「これと・・・」
ルルーシュはゆっくりと指輪を外しスザクに見せた
「同じ指輪を渡した時にそう約束した」
スザクは指輪の内側に刻まれた文字に気がついた
『promise is eternity』
約束は永遠
ルルーシュへと視線を向けると彼は優しく微笑んでいた
「永遠に・・・君を愛しているよ」
◇◆◇◆
あれからどうなったのか、はっきりと覚えていない
あれ以上ルルーシュを見ていたくなくて、目を閉じた
すると彼は自分を抱きしめた
それからいつの間にか眠ってしまったようだ
****
夢を見た
自分はどうやら王宮の中庭にいるようだった
視線の先には皇帝の服を着たルルーシュ
その隣には一人の女性
顔は解らない
だが心が痛い
泣きたくなるのを必死で我慢して
二人の所へ行こうとする足を必死で抑えて、会話する二人を見つめていた
(どうしてこんなに苦しいんだ?)
あの人は僕のもの
(憎い・・・この気持ちは誰に向けられている?)
これ以上あの人に近づかないで。でないと僕は・・・君を・・・殺してしまうよ?
****
「・・・あの人って誰?」
スザクは自分の声で眼を覚ました
ぼんやりとしつつ先程まで見ていた夢を思い出す
誰かと一緒にいたルルーシュ
それを見つめる自分
もしかしたらあの彼女がルルーシュの妻なのかもしれない
僕は・・・君を・・・殺してしまうよ?
夢の中で聞こえた自分の声
思い出してごくりと唾を飲んだ
あの言葉は誰に向けられたものだったのだろう?
ルルーシュ?それとも・・・
スザクはため息をはくと頭を左右に振った
深く考えない方が良い
・・・そんな気がした
「?」
スザクはベットの隣にあるテーブルに一枚のメモが置かれているのを発見した
そしてそれを手に取る
『病院で精密検査を受けて来い』
それはルルーシュの字で、読んだ後部屋を出てみるとロイドとセシルが待っていた
彼らに引き摺られるように病院に連れて行かれ、ここはホテルか?と言いたくなるような豪華な部屋に放り込まれた
そして「これに着替えてねv」とセシルに渡された検査着を着ている時に気がついた
(・・・ない・・・)
鏡に映った自分を見つめながらスザクはそう思った
『何が無い』のか、それは解らない
とにかく『無い』のだ
頭ではなく心が言ってる
『無くなった!大切な物なのに』
『探さないと!早く探さないと!』
その心の声にスザクは徐々に焦りだす
検査なんて受けている場合じゃなかった
「?スザク君?」
突然バスルームから飛び出してきたスザクにセシルは驚く(セシルがいたのでバスルームで着替えていた)
セシルの声に気がついていないスザクはそのまま病室から出ようとした所をロイドに止められる
「だぁめだよぉ。今日の君のお仕事は検査を受ける事なんだからさ」
「っロイドさん・・・」
「・・・あれ?どうしたの?」
ロイドはまっすぐに自分を見つめるスザクの眼が赤いことに気がついた
「・・・もしかして、泣いてるの?」
「えぇ!?大丈夫よ、スザク君。検査って言っても痛くないし、怖くないから」
ロイドの言葉に驚いたセシルがスザクを抱きしめた
しかしスザクは頭を左右に振って「違うんです」と震えながら訴えた
「ロイドさん・・・無いんです・・・」
「・・・何がないのかな?」
「解りません・・・とにかく何かが無いんです。僕・・・探しに行かないと・・・っつ!」
「!スザク君!?」
セシルの腕を振りほどいたスザクは突然頭を押さえて蹲った
それを見たロイドはセシルに誰かを呼ぶように指示する
残ったロイドはスザクを抱きしめながら名を呼んだ
「スザク君!」
「・・・ごめ・・・・ルルー・・・・」
つぅっと頬を一筋の涙がスザクの頬を伝った
そしてそのまま彼は意識を失う
「・・・・」
それを見ていたロイドは深い深いため息をはいた
****
「・・・倒れた?またか」
結局まともな検査は出来ず、スザクはそのまま入院となった
付き添いはセシルに任せてロイドはルルーシュに報告する為に戻ってきていた
スザクが倒れたと聞き、ルルーシュは「またか」と呆れていたが、その表情には焦りが表れていた
「スザク君は気絶しちゃったけど、調べられる範囲では調べてもらったよ」
「で?」
「異常なし」
「・・・」
体の何処にも異常は見つからなかった
何故記憶が無くなったのか、何故頻繁に倒れるのか、原因不明という答えは変わらなかった
「それよりもさ、君なにかやったろ?」
ロイドはそれを聞くために一人で戻ってきた
「知らんと言ったと思うが?」
「うん。あの子の記憶に関してはね。・・・そうじゃなくて、あの子から何か盗っただろう?」
「・・・・」
『無い』と不安げな表情でロイドに訴えたスザク
なにが無いのかスザクにもわからないという
『ごめん・・・ルルーシュ』
スザクは彼に謝っていた
「何を盗ったの?」
「・・・それは今関係ないだろう?」
「あるよ。あの子は『無くなった』って言った途端倒れたんだよ」
ロイドの言葉にルルーシュは息を呑んだ
そして小さく「そうか・・・」と呟いた
****
『・・・探さないといけない・・・・早く・・・だって「アレ」は・・・僕と との・・・大切な・・・』
「スーザク」
「っ!」
ビクリ と肩を震わせてスザクは目を開いた
「・・・・ジノ?」
「魘されてたぞ・・・凄い汗だな」
ジノはスザクの汗をタオルで拭いながら優しく微笑みかけた
スザクは数回深呼吸をした後、辺りを見回す
(ああ・・そうか、僕は検査で病院に・・・)
そして徐々に眠る前の記憶が戻ってくる
「っ!」
スザクは慌てて起き上がった。それに驚いたジノがもう一度横になるようにスザクを諭す
しかしスザクは頭を左右に振って拒否した
探さなくてはいけない
それだけが頭の中を占めていた
「放せジノ!」
「ちょ・・落ち着けって!お前倒れたんだぞ?」
「そんな事どうでもいい!探さないと・・・僕は『アレ』を探さなきゃいけないんだ!」
「イタタタタ。おい!引っ掻くなってば」
スザクは自分を捕らえるジノから逃れようと暴れる
お互いラウンズ。しかもスザクは体術もジノよりも強い
このままではお互い怪我をしてしまう
そう判断したジノは待機していた医師を呼んだ
「放せ!僕は行かなきゃいけないんだ!!」
「私が押さえている間に・・・急げ!」
ジノは医師に鎮静剤の投与を頼んだ
「放せ!!嫌だ!」
「スザク、大丈夫だ」
「っ!・・僕は・・・探しに・・・」
「そのまま眠るんだ・・・目が覚めたらいつものお前に戻っているから・・・」
ギュッとジノはスザクを抱きしめる
スザクは手を何も無い空に伸ばし、再び意識を失った
「・・・解った。ああ、つれて帰って来い・・・大丈夫だ」
ルルーシュは電話を切った後、ため息をはいた
そして控えていたロイドに少し前にした『頼み事』について再度指示をすると部屋を後にした
(探さないといけないんだ)
(何を?)
(大切な物。約束の証)
(それは何?)
(僕と を繋ぐ絆)
「っ」
スザクは目を開いた
そして自分を優しく見つめる紫の瞳と目が合った
「・・・ルルーシュ・・・」
「気分はどうだ?」
ルルーシュの向こうに見える天井
それは知らない天井だった
今の自分の部屋だといわれた皇帝の部屋の隣の天井ではない。見たこと無いものだ
そのスザクの表情から考えを悟ったのか、ルルーシュはクスリと笑うと「ここは離宮だ」と教えてくれた
病院で興奮し暴れたスザクは鎮静剤を打たれて眠りに入った
そのスザクをジノに命じ、ここへつれて帰らせたのだという
勿論、医師は反対したが、皇帝に逆らえる筈が無く渋々退院を許可した
「僕・・・探さないといけないものがあるんだ」
「ああ・・・知ってる」
「大切なんだ」
「そうだな」
「でも・・・それが何なのか解らないんだ」
「・・・」
「だけど大切なんだ・・・大切な・・・」
ぽろり・・・とスザクの目から涙が零れる
それを指で拭いながらルルーシュはスザクの左手を取った
「・・・お前が探していたのは・・・これだ」
「・・・え・・・?」
ルルーシュはゆっくりとスザクの薬指に指輪を嵌める
それを見つめながらスザクは自分の心が落ち着くのが解った
これが探していた物
その事が解った
「これ・・・」
「ああ」
スザクの指に嵌められた指輪
それはルルーシュが身につけているものと全く同じ物
「・・・何故・・・」
「俺がお前に贈った物だ」
『愛してるよ』
目の前のルルーシュからではないルルーシュの声が聞こえた
『この指輪と共にお前に約束するよ』
ぐらりと世界が揺れた
◇◆◇◆
受け取ってほしいと渡されたのは銀色の指輪
ケースの中に同じデザインの指輪が二つ収まっていた
「ルルーシュ・・・」
「お前は要らないと言ったけれど俺がどうしてもお前に贈りたいんだ」
だから受け取ってほしい
ルルーシュの言葉にスザクはクスリと笑い頷いた
すると彼は満足そうに微笑むとスザクの足元に跪いた
「ル・・・ルルーシュ!?」
たとえプライベートな時間であろうとも皇帝が騎士に跪く
あってはならない事態にスザクは焦った
しかしルルーシュは「いいから」と立ちあがろうとはしなかった
「でもっ」
「黙って」
ルルーシュはスザクを静かにさせるとスザクの左手を手に取った
そして薬指に指輪をゆっくりと嵌めた
「・・・」
「この指輪と共にお前に約束するよ。
どんなに遠く離れていても君を愛してる
姿が変わっても、どんなに時が経っても、たとえ俺の事を忘れても、俺は君を愛している
愛し続ける
君は俺の唯一の人」
スザクは大きく目を開いた
ルルーシュは微笑むとスザクの指に指輪ごと口付けた
「愛しているよ、スザク」
これは永遠の約束
指輪に刻まれた誓いの言葉
嬉しかった
本当に嬉しかった
きっとあの頃は浮かれていたんだろう
何も解っていなかった
自分を唯一だと彼が誓ってはならない事が
愚かな僕がそれをやっと悟ったのは貴族達がルルーシュに初めて皇妃を娶るように言ってきた時
そう・・・彼には『皇妃』が必要なのだ
僕ではなく・・・
彼の血を残せる『皇妃』が・・・
****
「どうやって陛下に取り入ったのか、その方法を御教示していただけませんか?」
お茶会と称し呼び出された貴族の屋敷でスザクは硬い表情のまま直立していた
ルルーシュとジノ、そしてロイドらが側にいないときに限ってこのお茶会は催されている
正確にはお茶会という名のスザク虐め
ルルーシュに見合いを、もしくは結婚を申し込んだにも拘らず断られた貴族の憂さ晴らしだ
彼ら(そして彼女ら)は、ルルーシュが自分達の話を断るのはスザクのせいだと思っているようで、どうやらスザクのほうからルルーシュと離れて欲しいようだった
ルルーシュに言わせれば「スザクがいるのに他に妻はいらん」と言う事らしいのだが、ルルーシュはそれで良くても、国は、スザクは良くない
皇帝が世襲制である以上、後継者は必要。そしてそのために必要なのは子を産める女。男である自分ではない
スザクはルルーシュが好きだ。愛している
しかし気持ちだけではどうにもならない事がどうしてもあるもので、その一つがスザクの性別なのだ
「ですから・・・枢木卿、お話を聞いておられますの?」
眉一つ動かさないスザクに苛立ちを覚えたのか、貴族の娘は声を張り上げる
スザクは気がつかれないようにため息をはくと「聞いております」と頷いた
彼女は明日の夜会にルルーシュを参加させるようにスザクに念を押した。どうやら身分の高い女性達を集め、所謂見合いの席を予定しているらしいのだ
「貴方は陛下の身をお守りするのが役目。夜のお相手は私達身分ある女が致します。宜しいですね?」
「・・・・はい・・・」
そう答えるしかなかった
無理矢理参加させた夜会の本当の主旨を知ったルルーシュは随分と怒って帰ってきた
そして激しく問い詰められた
それにも何も答えることが出来ず、結局喧嘩する事となってしまった
一応二人に会話はある
しかしギスギスしたやり取り。間にジノが入ってなんとかしようとしてくれているのだが、無駄に終わっていた
そんな時、スザクに三日間の任務が入る
別にスザクでなくても良かったのだが、お互いの頭を冷やす意味もあったのだろう。ルルーシュはあえてスザクにそれを命じた
その任務に出発する前日だ
彼女から声をかけられたのは
「元気が無いな」
「C.C.、帰ってたのか」
翠の髪の少女。皇帝即位時にスザクよりも先に「皇帝の愛人」と呼ばれた存在だ
もっとも二人はそんな関係ではない
ルルーシュにとって唯一関係のある人間はスザクだけなのだ
そんな彼女もルルーシュとスザクが結婚式を挙げた直後から、時折何処かへと姿を消すようになった
ルルーシュ曰く「国家予算を使って好き勝手遊びまわっているお気楽ニート」らしいが、本人が言うには「ルルーシュの治世を助ける為に民衆の不平不満を聞いて歩いている」のだそうだ
「ああ、また出掛けるがな・・・それよりも、どうした?」
「・・・うん・・・」
見た目は自分の方が年上になってしまった。しかし実年齢では遥かに年上。彼女はこうしてスザクの悩みを聞いてくれ、答えをくれる事があった
「・・・後悔しているのか?」
スザクの話を聞いた後、C.C.はこう訊ねてきた
その彼女にスザクは頭を左右に振って否定する
「していない。あの時の僕の選択は・・・心は間違っていない。・・・・けど」
「けど?」
「苦しい」
「・・・」
「僕は醜い人間だ。頭では理解している筈なのに心が悲鳴をあげている。そしていつかきっと・・・」
ルルーシュを愛している。それは間違いない。あの時も、今の変わらない。それは自信をもっていえる
しかし貴族に娘を紹介されるルルーシュを見て、その娘に腕を組まれるルルーシュを見て、スザクはいつも思っていた
『彼は僕の物!誰にも渡さない!汚い手で触らないで!』
しかしそれを声に出して言うわけにもいかず、また皇家を続けていく為には子供は・・・それを産む女は必要で、これは仕方がない事なんだと必死で自分に言い聞かせていた
だが、そろそろそれも限界にきており、いつかきっと大きな声で言ってしまうかもしれないと怯えていた
「・・・」
「あの時、自覚しなければ良かった・・・と思う時がある」
ルルーシュへの気持ちに気がつかなければ今これほど苦しまなかっただろうに
そんなスザクの言葉を受けて、C.C.はある提案をした
「私に時は戻せない。だが、記憶を巻き戻すことは出来る」
「え?」
「自覚する前、ルルーシュが皇帝になる前まで記憶を戻してやる。そこでもう一度考えろ、自分の気持ちを」
****
「・・・おい・・・また倒れたじゃないか・・・」
ルルーシュは腕の中で意識を失ったスザクを見つめながら第三者に声をかけた
「記憶が一気に戻って脳がパニックを起こしたんだろう」
「そんな危険な事をスザクにするな」
話しかけた相手はC.C.
スザクの記憶喪失が彼女の仕業ではないかと見抜いたルルーシュがC.C.を捕獲
スザクとのやり取りを聞き出し、彼女に記憶を戻すように告げたのだった
「スザクがお前を好きだともう一度自覚したら戻すつもりだった」
「その前にコイツが壊れるかもしれんだろう!何度倒れたと思っている」
ルルーシュの言葉にC.C.はムッとする
スザクが倒れた原因。確かにそれはC.C.にある
無理矢理記憶を封印したが、そのせいで思い出そうとすると激しい頭痛に襲われ、そのまま倒れてしまう結果となってしまった
原因はC.C.だ
しかし
「その内の一回はお前の責任だろう?お前がスザクの指輪を盗まなければ倒れなかっただろうに」
「五月蝿い」
ルルーシュがスザクから指輪を取ったのはスザクがC.C.との会話を夢で見ていた時
理由は指輪を見てスザクが混乱するのを避ける為
しかしそのせいで指輪の紛失に気がついたスザクが興奮し倒れてしまった
「お前だって同じ穴の狢だ」
「五月蝿いと言ってるだろ!」
C.C.の言葉にルルーシュは牙を剥いて怒る
どうやら責任は感じているようだ
クククとC.C.が笑っている。それが気に入らないのか、ルルーシュは明らかに不機嫌になった
「C.C.、お前は」
「ぅ・・・・・ん・・?」
出て行け、とC.C.に言いかけた時、スザクの目がゆっくりと開かれた
ルルーシュはスザクへと微笑みかけた
「・・・ルルーシュ・・・」
「思いだしたか?」
「うん・・・ごめんね」
心配かけて
こんな事をして
スザクの謝罪をルルーシュは苦笑しながら聞いた
「君が・・・好きだよ。本当に・・・心から・・・でも・・」
「俺もだよ、スザク。もう、何も言うな・・・何も考えなくていい」
ルルーシュはスザクに口付けた
◆◇◆◇
「やっぱり熱が上がってるな」
誰のせいだと・・・とスザクは恨みを込めてルルーシュを睨みつけた
しかし熱のせいで眼差しに力はなく、潤んでいる為か輪をかけて威力は無かった
記憶を取り戻したスザクだったが、実はその時から発熱していた
ルルーシュも気がついていたのだが「どうしても我慢できない」とスザクの拒否の言葉を無視し、スザクを組み敷いてしまった
そして翌朝、目覚めてみるとこの有様だったのだ
「・・・君な・・て・・・らいだ・・」
「ははっ、声まで掠れてるぞ」
だから誰のせいだと・・・
スザクはもう一度ルルーシュを睨む
睨まれたルルーシュは全く堪えていないようで、クスクスと笑っている
ムッとしたスザクはだるい身体を必死で動かしてルルーシュを叩いた
それでもルルーシュはクスクスと笑っており、もう知らないとスザクは顔を逸らす
「こら、拗ねるな」
「・・・」
「スーザーク。おーい、こっち向け」
「・・・」
「・・・俺が悪かった。責任もって看病するから」
ルルーシュはスザクの頬に何度もキスをする
最初は膨れていた頬も、キスされる度に元に戻り、今では微笑みに変わっている
「も・・・めて・・よ・」
「スザクが俺を見るまでは止めないよ」
「ちょ・・・ルル・・・」
「俺を見ろ、スザク」
「・・・」
スザクはルルーシュへと顔を向けた
ルルーシュは優しく微笑んでおり、やっと自分を見てくれたスザクに口付けた
「・・・ルル・・・」
「愛しているよ・・・お前だけを」
「・・・うん・・」
微笑むスザクを見ながらルルーシュは心の中でため息をはく
「うん」と頷いてはいるものの、基本的なスザクの考えは変わっていない
これからもスザクはルルーシュに妃を娶るように言うだろうし、勧めておきながら嫉妬するのだろう
嫉妬されるのは嬉しいが、勧められるのは遠慮したい
(頑固者だからな、この馬鹿は)
ルルーシュはスザクの左手の指輪に口付ける
「何度でも言うぞ。俺はお前を愛している。お前以外必要ない」
「・・・うん」
「俺を信じろ」
「・・・うん」
ルルーシュは今度は隠さずため息をはいた
「・・・お前な・・・」
ルルーシュの約束
それをスザクが本当の意味で受け入れたのは三年後
『アレクシス』という名のルルーシュそっくりの子供をその手に抱いた時だった
promise is eternity
約束は永遠
終
指輪ネタその2
長い・・・もっと簡潔にまとめられないものか・・・
手直しする度にどこか纏まりに欠けはじめてしまった・・・
おかしい・・・もっと甘い空気で終わる筈が・・・
C.C.に変な能力を持たせてしまいました。模造です