この国はおかしい
スザクは云十年暮らしてみて初めて思い知った
華麗なる一族 R2 〜第一回ブリタニア皇帝決定戦〜
ルルーシュとロイドの(スザクにとって)迷惑な研究のお陰でピチピチの十代に若返ってしまったスザク
さぁ!俺と第二の人生を謳歌しようじゃないか!!と言われたからといって素直に「はい」等といえるわけがない
ルルーシュは皇帝で、スザクはナイトオブラウンズなのだ
「隠居なさっていただいて構いませんよ」
これからルルーシュとスザクはどうするのか、その事を長男のアレクシスに相談するとあっさりとルルーシュの退位を認めた
そんなに皇帝になりたかったのか?とその長男に対しスザクは驚く
ルルーシュやその前のシャルルなどは皇帝の椅子を兄弟間で争った経歴がある
その為か、ルルーシュは自分の子供達には同じ思いをさせたくないと『後継者は長男』と決め、幼い頃からそれなりの教育を行なってきた
アレクシス本人も『いずれは皇帝』と思い育ってきた筈だ
しかし、皇帝という地位はいろいろと不自由でもある
殆んどプライベートな時間もないし、常に命を狙われる危険もある
時折アレクシス自身が「このまま皇子でいた方が気楽かもしれない」とこぼしていた事も知っている
「母上、どうかしましたか?」
「いや・・・意外だなぁと思って」
それはルルーシュも同意見のようで、スザクの言葉にうんうんと頷いていた
アレクシスは「嫌がるわけ無いじゃないですか」とスザクにだけ笑いかけた
「折角邪魔な父上が隠居されるんですよ?やっと母上を僕だけのものに出来るというのに拒否なんて愚かな真似はしません」
ギュッとスザクの両手を握り笑うアレクシスは不思議と輝いているように見えた
「え?どういうこと?」とスザクは首を傾げる
ルルーシュはアレクシスの考えている事が理解できているのか、フルフルと震えながら長男を睨んでいる
「・・・アレクシス・・・貴様・・・」
「父上、今すぐ退位を発表してください。そしてさっさと王宮から出てってください。これからこの王宮は僕と母上の愛の巣になるんですから」
「え?ルルーシュ、家出するの?」
「するか!!」
「家出ではありませんよ。独立されるんです。独り立ちです。めでたい事ですね、お祝いしましょう」
「ふざけるな!」
ルルーシュは『がー!!』と吼えた
退位するのは良い
位を譲ってもアレクシスが国を背負えると信じている
だが自分が引退するのならスザクも一緒と考えていたルルーシュに、アレクシスの考えは受け入れる事などできなかった
「何故俺だけが出て行かなければならない!?」
「経験不足な僕を経験豊富な
アレクシスの言葉にスザクも「それもそうかも」と納得する
皇帝が代わるからといって部下全員が変わる必要等ないのだ
寧ろ経験者がいる方が助かる
しかしそれにはルルーシュが納得しない
「馬鹿か!スザクが残るなら俺も残るに決まっているだろう!!」
「ですが、学生になられるんですよね?」
「くっ!」
「母上が父上に付き合う理由はありません。それに母上も僕が皇帝としてやっていけるか御心配でしょう?」
「アレクなら大丈夫だと思うけど・・・正直心配かな」
だって親だもの
スザクは申し訳なさそうにアレクシスに告げる
しかしアレクシスは全く気にしてはおらず、寧ろ「そうでしょう」と嬉しそうにスザクを抱きしめた
「あ!コラ、アレク!」
「母上、少し小さくなりましたねv可愛いv抱きしめやすいVv」
「もぉ!仕方ない子だなぁ」
うふふふ と二人だけの世界が広がる
それに加われないルルーシュの怒りは頂点に達した
「アレクシス!!」
「はい?」
「五月蝿いよ、ルルーシュ」
スザクの言葉に弱音を吐きそうになるルルーシュだったが、グッと足に力を入れて踏ん張る
「皇帝の椅子を賭けて・・・勝負だ!!」
びしぃ!とルルーシュはアレクシスへを指差した
そして指差されたアレクシスはニヤリと笑うと「望む所です」と言い返したのだった
****
「変。絶対に変だよ」
ラウンズ執務室に一番近い東屋でお茶をしていたスザク
そのスザクの言葉に一緒にいたジノとアーニャは「何が?」と訊ねる
「この国の国民だよ。だってさ、自国の皇帝がいきなり「若返りましたv」なんて発表して驚いてないなんて変だろう?」
それはルルーシュが一般家庭の夕食時間に国営のテレビで全国民に向かって発表した事だ
長年の研究が云々と難しく経緯を説明し、「つまりは若返ったという事だ」と簡潔に結果を述べた
その事について、国民から苦情なり反感なりの御意見が多数寄せられると怯えていたスザクだったが、その国民の反応の大多数は「あ、そうなんだ」だった
少数に「陛下だけずるい!」というものがあったが、本当にごく僅かだった
ついでにスザクも若返った事がしかも女性になったという事が伝えられたが、それについても国民は「本物の皇妃様になれて良かったね」という反応だった
この時初めてスザクは思った
この国はおかしい・・・と
「この国はあのルルーシュ皇帝が治めている国よ」
アーニャがあっさりと答える
ジノもニコニコと笑いながらスザクの肩に手を置いた
「スザク、常識を持ってたら疲れるだけだ。民はすでにそんなものは棄てているぞ?」
「キラキラした笑顔で言わないで・・・・と、言うか」
キッとスザクはジノとアーニャをにらみつけた
「なんで君達も若返ってんだよ!!?」
スザクの側にいるジノとアーニャもスザクと同じ歳ほどに若返っていた
「だってさ、もともとあれは私とマリアンヌの為の物だし?」
「ジノとスザクが若いなら私も一緒にと思った。迷惑?」
「迷惑じゃないけど・・・そりゃジノ達の為だってルルーシュも言っていたけど・・・」
歳の離れたジノとマリアンヌの為に・・・ルルーシュはこの薬を作った目的の一つはそれだと教えてくれた
「なら良いでしょ?それに、私もジノと同じだから」
「ほぇ?」
「スザクは知らなくて良い事。それよりもジノ、嬉しい?」
「当たり前だろ!これで並んで歩いてもロリコン呼ばわりされなくて済む」
言われてたんだ・・・とスザクはジノの苦労に心を痛めた
「良かったね、ジノ」
自分は不本意だが友人のジノと娘のマリアンヌが幸せになれることは嬉しい事だとスザクは微笑んだ
ジノも「ありがとう」と心からの感謝を口にした
****
「さて、説明的なラウンズ三人の話はここまでにして、我々の話をするかアレクシス」
「そうですね、父上」
皇帝執務室で顔を合わせる父子はクククと笑っていた
「それにしてもお前も愚かだな。この俺と張り合おうなど」
「そのままお返ししますよv言っておきますが僕は負けるつもりはありませんから」
ルルーシュの言った勝負
それについて話し合っているのだ
この勝負に勝ったほうが皇帝の座に就く
「では・・・その勝負の方法とは・・・・」
「・・・方法とは・・・?」
「スザクさん達だけだなんてズルイですよv」
「す・・・すみません」
ブリタニア皇帝が若返ったという情報は一瞬で世界へと伝えられた
そしてそれはある意味神聖ブリタニア帝国最強の人物にも伝わっていた
スザクはルルーシュに頼まれその人物を尋ねていた
その人物の名前はナナリー・ヴィ・ブリタニア
皇帝ルルーシュの実妹であった
「それにしても、スザクさん」
「ははははい!」
「お可愛らしくなりましたねv」
「・・・ありがとうございます・・・」
本編と違い、このお話では開眼されてませんよね?どうして僕の姿がわかるんですか?とスザクは問いただしたいのをグッと押さえ、頭を下げた
昔はとても可愛らしいお姫様であった彼女は、いつの間にかスザクはおろか、皇帝のルルーシュでさえ顎で使うツワモノとなっていた
(君が皇帝になったら良かったんじゃない?)
この言葉にスザクはハッと思い出す
今王宮ではルルーシュとアレクシスが皇帝の座をかけて勝負している筈なのである
ナナリーには悪いが急いで王宮に帰らねばならなくなった
決してナナリーから逃げたいからではない
「ウフフ。スザクさん、御安心くださいな」
「ほぇ?」
「今からブリタニア王宮よりなにやら発表があるそうですよv」
ぽちっとテレビの電源を入れたナナリーはニコニコと笑いながらそちらへと車椅子を向けた
テレビにはブリタニアの国旗が映っていた
『全国のブリタニア国民の皆さんこんにちはvナイトオブワン、ジノ・ヴァインベルグでっすv』
『同じくツー、アーニャ・アールストレイムです』
じゃじゃーん という効果音と共にスザクの良く知る人間が出てくる
『国民の皆さんに重要なお知らせで〜す』
『この度、神聖ブリタニア帝国皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア陛下と、第一皇子アレクシス・ヴィ・ブリタニア殿下が皇帝の座をかけて戦う事となりました』
『題して、「第一回ブリタニア皇帝決定戦”ブリタニアの明日はどっちだ”」』
『勝負の方法は国民の皆さんの投票で決定します
ルルーシュ陛下に次の皇帝になってほしい方は、###-###-###1。アレクシス殿下になってほしい方は###-###-###2へダイヤルしてください』
『その際に国民一人ひとりに配られているIDの番号が必要になるぞ。電話をかけるときはIDを忘れずにな』
『番号は良くお確かめになっておかけください・・・スザク』
「はいっ!」
呆然としてテレビを見ていたスザクは突然自分の名を呼ばれた為、驚いて思わず返事をする
まるでアーニャはスザクの声が聞こえているかのようなタイミングで次の言葉を発した
『スザクは必ず投票する事。陛下と殿下からの伝言』
『スザクが二人のうちどちらに入れたかでどちらがより一層愛されているかが決定するんだってさ』
どっちに入れても大変だなぁ、可哀想に・・・
と言ってはいるものの、ジノの表情は面白がっている
『因みに期限は今日の深夜0時』
『それ以降の投票は無効となりますので、お早めに投票をお願いいたします』
『みんなの一票がブリタニアの明日を決めるんだ。よぉぉぉぉっく考えて投票してくれよな』
『では、ナイトオブツー、アーニャ・アールストレイムと』
『同じくワン、ジノ・ヴァインベルグでしたv』
じゃーんという音と共に放送は終了した
「・・・」
「さて、どちらに投票しましょうか?アレクシス殿下も良いのですが、やはりお兄様の方が操りやす・・・いえいえ、やはりお兄様ですわね」
なんだか聞いてはいけない言葉を聞いたような気がするが、スザクはそれどころではなかった
(どっち?どっちに入れればいいの?ルルーシュに入れたらアレクシスが拗ねるし、アレクシスに入れたらルルーシュが拗ねるし・・・ああ・・・胃が痛い!ってそうじゃなくて!!)
「投票で皇帝を決めるって?・・・どこの民主国家だ!!」
ブリタニアは主権が世襲によって受け継がれていくの君主制だ。それを国民による直接選挙で皇帝を決めるなどと、ブリタニアそのものを否定する行為ではないだろうか?
スザクは「馬鹿だ馬鹿だと思っていたけれど」とがくりと肩を落とした
「こ・・・こんな事になるのなら王宮を留守にするんじゃなかった」
もし王宮にいれば止められたかもしれないのに
スザクは激しく落ち込んでいた
だがしかしそれは徐々に怒りに変わっていく
(・・・・あの馬鹿共・・・)
ごごごごっという効果音にナナリーはそぉっと側を離れ、部屋のドアを開ける
「一発ぶん殴らないと気がすまない!!」
ナナリーへの挨拶も忘れ、スザクは猛ダッシュでアヴァロンへと向かっていく
やはり先に開けておいて良かった。とナナリーは微笑んだ
もし開けていなければドアを破壊されていたかもしれない
それほどの勢いでスザクは飛び出して行ったのだ
「相変わらずですわねvスザクさんv」
****
スザクが王宮に帰り着いたのは夜がすっかり明けた翌朝
馬鹿二人とそれを止めなかった馬鹿側近どもをぶん殴る為に拳を握ったスザクだったが、王宮の惨状にそれを収めた
「・・・なにこれ・・・?」
王宮のあちこちで人が倒れている
死んでいるのではなく眠っているようだった
それを横目で見つつ、スザクは皇帝の執務室を目指した
「お帰り、スザク」
「ルルーシュ・・・」
執務室にも人が倒れていた
アレクシス、ロイド、ジノ、アーニャ、セシル。そして六人の子供達
「これ・・・どうしたの?」
「投票する事を決めてから実行するまでの時間があまりに短くてな。全員体力の限界で倒れた」
「君は元気そうだね」
「こいつらを働かせている間に昼寝してたからな」
「・・・悪魔だね、相変わらず」
ひょいひょいとアレクらを避けてスザクはルルーシュの元へと向かった
ルルーシュは微笑みながらスザクを膝の上に乗せる
「結局どっちが勝ったの?」
「勿論俺だ」
ルルーシュは有効投票総数の約七割を獲得し、皇帝留任となった
「しかしアレクシスも意外と人気があったんだな。俺としては八割はいけると思っていたんだが・・・」
「アレクも最近は君の代行する事が多くなっていたからじゃない?」
かもな。とルルーシュは笑った
本当の所ルルーシュは皇帝の椅子をアレクシスに譲っても良いと思っていた
自分は18歳の時から皇帝の座に就いている。18という年齢は、些か早すぎだとは自分でも思う
だがそれは自分で望んだ事。しかしその事を差し引いて考えても今年27歳のアレクシスは十分に皇帝となっても良い歳なのではないかとルルーシュは思っていた
自分に良く似た長男は、憎らしいくらい自分に似て有能なのだから
「俺は見てみたかったんだよ。国民の意思をな」
「ルルーシュを選ぶか、それともアレクシスを選ぶか?」
「ああ。それとお前がどちらを選ぶか、がな」
ルルーシュはスザクに口付ける
スザクは微笑みながらそれを受け止めると、クスクスと笑った
「で?どっちにいれた?」
「・・・解ってるんでしょ?」
「ああ・・・知ってるよ」
今度はスザクからルルーシュへと口付ける
二人はクスクスと笑いながらお互いへのキスを繰り返した
(イチャつくなら何処か他所でやってほしいなぁ・・・)
と皇帝夫妻のアツアツぶりにあてられて起き上がれないアレクシスを始めとする面々は心の中で思うのだった
ジノとアニャが若返りました、と言っておきたかったお話