「貴女はどうして生まれてきたのかと疑問に思ったことはありませんか?」


その日、アーニャは目の前の少年と初めて会ったような錯覚をおこした

生まれたときから知っている筈なのに

知らない人に見えた





生まれた意味






ブリタニア帝国皇帝ルルーシュの六人目の子供
第三王子フェリックス 12歳

髪と瞳の色は父であるルルーシュの色
けれどその顔は末娘ほどではないものの、確かにスザクに似てる


「・・・・どうして生まれてきたか?」
「ええ・・・僕は昔から不思議でしたよ。両親が男なのにどうして僕は生まれたんだろうって」


その少年は下から二番目だからなのか、上に五人もいたからなのか、アーニャの中ではそれほど目立った子供ではなかった
長男のように父親そっくりな言動が目立つ子供でもなかったし、末の娘のように全てが愛らしい子供でもない
ただスザクに似た顔を持つ皇子
それだけだった

思い返してみるとこの皇子とこうして二人だけで話したのは初めてかもしれない


「普通は男と女がいて生まれるものなんですよ?」
「ロイド伯爵が貴方達を・・・」
「ええ・・・僕らは『創られた』んですよね」


クスリと笑うフェリックスの表情を、目を、アーニャは何処かで見たことがあるような気がした

笑っているけど笑って等いない
心の奥底に悲しみと怒りを秘めた そんな目

それは


(スザクがゼロに向けていた目と似ている)


主であるユフィを殺され、憎しみと怒りをゼロに抱いていたスザク
でも彼はスザクの親友だった

ゼロに対する怒りと、ルルーシュに対する悲しみ
見ているこちらが苦しくなるくらいの・・・・


「・・・・気に入らないの?」
「気に入りませんね・・・人の手で創られた命だなんて」
「けど、皇帝もスザクも貴方達を・・・」
「大切に、愛してくれてますよ。けど、誰が創ってまでこの世に生み出してくれなんて頼みました?」


両親が男であると言うこと
それを他の兄弟が受け入れている事が信じられなかった
自分も幼いころは受け入れていた。しかし、成長するにつれ、不思議に思うようになった

そして妹が生まれた
まだ五歳だったが自分達が人の手で創られて生まれてきたのだとやっと理解した

どうして生まれてきたのか
この時から強く思うようになった


「血を残したかった。残す義務があった。けど、なら一人で良いじゃありませんか」
「・・・スザクに似た子供が欲しかったって聞いた」
「まるでオモチャですね・・・・僕らはナイトメアと同じなんですよ・・・ただ、思ったとおりに出来なかったからといって廃棄するわけにもいかない。だから仕方なく生まれてきた」
「・・・・恨んでいるの?両親や伯爵・・・・理想どおりだといわれる・・・妹の事」
「いいえ・・・ただ・・・僕が生まれてきた事に意味はあるのか・・・と思っただけです」


アーニャは悲しげに眉を寄せた


「・・・ロイド先生は両親やこの国の事を考えて僕らを創ったんじゃありません。ただ、女性の腹を使わなくても命が生まれるのか試したかっただけ。枢木スザクに似た子供を『マリアンヌ』を創りたかっただけ・・・僕らは彼の実験の産物。つまりランスロットや他のナイトメアと同じなんですよ」
「・・・でも、貴方は伯爵に」
「ええ、弟子入りしました。KMFを創りたいと言って」


矛盾している
アーニャは眉を顰めた


「自分が創られたのは嫌。なのに創る方は良い。・・・変」
「ええ・・・けどそれも親譲りですから」
「・・・スザク?」
「はい」


日本人でありながら名誉ブリタニア人になった少年
人を殺す事を嫌いながら一番殺す立場であろう軍に入った


「あの人も矛盾の塊ですよね。やる事が何もかも・・・父の騎士となった時も」
「・・・皇帝が日本を・・・」
「ええ。滅ぼすといって脅迫したらしいですが、どうして言われるまま従ったんでしょう?」
「・・・スザクは皇帝の事を・・・」
「好きだったから?愛していたから?ならどうしてゼロと戦ったんです?知っていたじゃないですか、ゼロ=ルルーシュだって」
「・・・・」


アーニャは口を閉ざした
フェリックスのいったスザクの矛盾
その全てを理解しているのはスザク自身
どうしてかと問われても答えられる筈がなかった


「・・・すいません・・・貴女に聞いても仕方のない事でした」
「いいの・・・」
「本当は母に聞けば良いのでしょうけど・・・幸せそうなあの人を見ると、聞けないんです・・・追い詰めたら、あの人が壊れてしまいそうで・・・」
「スザク・・・好き?」
「ええ。大好きです。愛していますよ」


やっとフェリックスがにこりと笑った
アーニャも一緒になって微笑んだ


「きっと・・・それが生まれてきた意味」
「え?」
「スザクを愛してあげる為に生まれた。これ以上スザクを不幸にしない為に」


確かにルルーシュは血を残す義務があったのかもしれない
ロイドもただ命を創ってみたかっただけなのかもしれない

けれど、彼らが子供達を作った理由は一つじゃない


「たくさんの理由の一つにあった筈、『スザクを幸せにする』というのが」
「・・・」
「だから貴方達は皆、スザクが大好き」
「・・・」
「生まれてきた意味はちゃんとある」


アーニャはフェリックスを抱きしめた


「貴方は仕方なく生まれたんじゃない・・・望まれて生まれたの」
「・・・・・ありがとう・・・」


フェリックスもアーニャを抱きしめた
















「誰かに言ってもらいたかったんです。『生まれた意味はある』と」
「そう、役に立って良かった」


先日のお礼です
そういって現れたフェリックスはアーニャのモルドレッドを整備していた

そんな彼を少し離れた所で見つめながら、疑問に思っていた事を口にする


「どうして私に聞いたの?」


スザクには無理でも、ルルーシュやロイド、もしかしたらジノでも良かったのではないだろうか
きっと彼らの方が上手くフェリックスに言葉を与えられただろうに・・・

フェリックスはニコリと笑い「アーニャでなくては駄目だった」と答えた


「私?」
「アーニャは小さい頃の記憶が欠けてるって聞いたんです」
「・・・うん」
「子供の自分の記憶なんて当てにならないと言っていたって・・・」
「・・・・うん」


だから
と頷いた

だから と言われてもアーニャには理解できない

フェリックスはアーニャの側までやってくると彼女の隣に座った


「当てにならない、信じていないと言いながら、その記憶を探しているでしょう?」
「・・・・」
「確かに、記憶が無いのって気持ち悪いんでしょうけど、信じていないのなら必要ないんじゃないですか?」


「必要が無いのに探している・・・アーニャも矛盾してますよね」
「・・・だから私だったの?」
「ええ。・・・まぁ、父もロイド先生も矛盾の塊で、あの二人でもいいんですけど、僕はアーニャが良かったんです」
「どうして?」
「理由が必要ですか?」
「・・・一応・・・」


フェリックスはクスリと笑うとアーニャの頬に軽く触れるキスをした


「・・・・・・・・」
「好きだからですよ」
「・・・・・」
「・・・僕を好きになってください」
「・・・・命令?」
「いいえ、お願いです」


ニッコリと笑うフェリックスに、何故かアーニャもつられてほほえんだ











歳の差カップル その2
どうしてアーニャだったのか・・・それは私がアーニャを出したかったから・・・
それだけ・・・です・・・はい・・・