ああ、やはりこの方は王たる器なんだなぁと思った
華麗なる一族 幕間1
シュナイゼルの反乱後、ラウンズのメンバーも変わってしまった
スザク・ジノ・アーニャ以外がシュナイゼルについてしまったからなのだが、どこか寂しさをジノは覚えていた
ラウンズは個性的な人間の集まりで決して仲が良いとはいえなかったが、やはり同僚だったのだ
喪失感と言うものは存在する
だが、そんな寂しさもじっくり味わえないのが今のブリタニア帝国なのだ
「それで・・・?次はどうしたって?」
笑っている
口元は笑っている
だが、眼が全然笑っていないですよ、ヘイカ・・・
ジノは逃げ出したくなった
ここは皇帝のサンルーム。入れるものはごく一部。その中の一人ラウンズNO.3ジノ・ヴァインベルグは引き攣った笑いを浮かべていた
目の前にはこの国の最高権力者ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア
彼は先日の『枢木スザク誘拐事件』について容疑者から事情聴取を行っている所だった
もちろん容疑者とはジノのことだ
まずはどこでどうやってスザクを連れ出したのか?
次にどこへ連れて行ったのか?
そこで何を話して何をして(ここ重要)どうしてナナリーの元へ行く事になったのか?だ
「スザク君強姦してましたよ」
「なにぃ!!?」
「何言うんですか!?伯爵!!」
同席している(この人も容疑者の一人)ロイドがさらりととんでもない事を口にした
ルルーシュはガタンと席を思い切り蹴飛ばして立ち上がり、ジノはサーっと顔を青くして冷や汗を流す
「本当か!ジノ!!」
「いや・・・その・・・それは成り行きで」
「でも美味しく食べるつもりだったっンガッ!」
これ以上この人に喋れらせてはいけないとジノはロイドの口を塞ぐ
ホッと息をはくが、時既に遅し
ゴゴゴという効果音つきで皇帝がジノの前で腕を組んでいた
「・・・・ヘーカ・・・あの、これは不可抗力ってやつ・・・で」
だから赦してねwと愛想笑いをしても無駄だった
「安心しろ・・・すぐには殺さん・・・・」
笑っている
ジノはルルーシュが冷たい笑みを浮かべているのに気がついた
ああ、この人は間違いなく王たる器なんだなぁ と実感した
独占欲が強くて、欲しいと思ったものは手にいれずにはいられなくて
奪われるのが何よりも嫌いで、手を出されたら必ず報復する
ハハハと笑いながらジノは命の終りを感じた
「ジーノー」
大きな声でスザクがジノを呼んだ
その手にはメガホンが握られている
「・・・ああ・・・」
顔中絆創膏だらけのジノは小さく返事をしただけだった
「どうしてー僕らの席はーー」
「・・・・」
「こんなにー離れてるのーーーー?」
その後、皇帝によってジノとスザクの机は(広い執務室の)端と端に引き離されてしまったという
華麗なる一族 幕間2
私達皇帝補佐官の仕事は大変だ
情報収集や分析、それの対策案などから皇帝陛下のスケジュール調整まで様々だ
現在の皇帝はルルーシュ・ヴィ・ブリタニア様
元ゼロという異色の経歴を持つお方だ
そして私の同僚、枢木スザク溺愛馬鹿でもあられる方
元々好きあっていたというのにこの二人がモヤモヤと本音を語らず悩み続けたせいで周りがえらく迷惑を被った事がある
だが現在二人は想いを通わせ新婚ラブラブ生活をおくっていらっしゃる
現在、陛下もスザクも20歳
お若い盛りのようで、(私は彼らよりも年下なので良く解るが)彼らは毎夜甘い夜をお過ごしのようで
「ふぁ・・・っと、ゴメン」
「・・・いや」
スザクは寝不足のようでさっきからこうして欠伸を繰り返している
「キツイなら昼寝してきてもいいぞ?」
「うん。有難う。我慢できなくなったらね」
ニコリと笑うスザクにドキリと私の心が跳ねた
ああ・・・お前は幾つになっても眩しい笑顔を持ってるんだなぁ・・・
だが私を含め宮殿に仕えるものはこの笑顔に見とれてはいけない
何故ならあの『スザク溺愛馬鹿』の眼がどこで光っているか解らないからだ
それに私は以前スザクを誘拐して襲いかけた事がある(皇帝に言わせれば「襲った。完了形だ」らしい。)あの時の事はスザクも笑って赦してくれた
お陰で今の自分がいるのだから・・・と
とにかく、あの皇帝はその時の事を赦してはくれていない。(当事者同士で話は終わっているのに、嫉妬深い方である)
私は危険人物第二号らしく、陛下から常に見張られている状況だ(第一号はアスプルンド伯爵。理由はスザクが無条件で懐いているからだそうだ)
だが、今日はどこぞの貴族のなんとかいう令嬢の誕生パーティと言う名のお見合いに出かけれれている。滅多にない心休まる日。私は思い切りスザクの側で仕事励んでいるというわけだ
「それにしてもあの方もよく見合いに出かけたな」
陛下はスザク以外は必要としていない
勿論支配者である以上後継者は必要だ。いずれ妃を迎える日が来る。それはスザクも覚悟しているようだった
「断ってばかりじゃ貴族達との間に溝が出来るからね。なるべく早く帰ってくるとは言ってたけど」
「・・・妬いたりしないのか?」
「・・・・少し。でも・・・仕方ないよ」
「スザク」
仕方ないと辛そうに笑うスザクの肩を抱き寄せ「愚痴ならいつでも聞いてやる」と囁いた
「ありがとう」と微笑む、やはりスザクの笑顔は良いなぁ・・・と思っていると
「ピピー!(笛の音)そこまでだ!」
「ジノ、スザクに近すぎ。減点イチ」
「・・・・」
「アーニャ、C.C.?」
何しているの?とスザクは疑問符をたくさん並べていた
私はそぉっとスザクから距離をとる
アーニャとC.C.は皇帝に買収されているらしく、スザクの近寄る不逞の輩を取り締まっている
マイナスポイントが10貯まると減給
20貯まると皇帝から直々にお叱りを受ける事ができる
そして50だと辺境へ左遷だ
さすがに20以上貯めたツワモノは一般人?では存在しないが、例の伯爵が40近く貯めているらしい
「ジノ、あと3ポイントで呼び出し」
「グランドスペシャル(ピザ)でいくつか消してやってもいい」
「・・・今日の夕飯としてお届けいたします」
「だから何の話?」
解っていないスザクに「今度教えてやるよ」と告げ、仕事に戻る
スザクも仕方ないなぁとため息をはくと仕事に集中した
そうした状態が続いて二時間
私たちは慌てて入ってきた部下の報告を聞いて、大きなため息を吐き出すのだった
「で、ジョシュア君は今年七歳ね」
「そう」
私とスザクは七歳の男の子と話していた
こういった子供が最近多くやってくる
別に託児所も迷子預かり所もやっていない
彼らは「皇帝の隠し子」としてやってくるのだ
因みに彼は金髪の七歳児
皇帝は二十歳だ
しかもその頃彼はエリア11にいたんだが・・・どうやって君の父親になれるんだか・・・
「お母さんが言ったんだね?」
「うん。おとうさんはこうていだって」
ふーんと言いながらスザクはパソコンに子供の言った事を記録していく
真面目だなーと思いながらジノは一緒にやってきた部下に子供を預けた
現皇帝のではなく、前皇帝の・・・という事もある。念のためにDNA検査をするのだ
子供がいなくなった途端、スザクは体の力を抜いた
「・・・子供かぁ・・・」
「どうした?あの子は間違いなくシロだ。陛下の子供なんかじゃ・・・」
解ってるよ・・・とスザクは思いつめたように天井を見つめていた
「ルルーシュの子供でない事は解ってる。けど嘘でもルルーシュの子供だというあの子が・・・・」
殺したいほど憎かった
スザクは低く冷たい声ではっきりとそういった
「僕には彼の子供は産めない。けど王家のためには子供は必要。つまり彼の妻が必要ってこと・・・僕は、彼の隣に僕以外の人がいて、耐えられる自信がない」
その人もその子供も、もしかしたら自分自身も、殺してしまうかもしれない
スザクは自嘲気味に笑う
私はそんなスザクにかけてやる言葉が見つからず、どうしようかと思案していた
すると
「お前は相変わらずの馬鹿だな」
それは聞きなれた皇帝の声
私とスザクは声の下方向へと立ち上がる
そこには腕を組んで皇帝がニヤリと笑っており、チラリと私に視線を向けた
『出て行け』
そう言っているように見えた。そしてそれは間違っていない
私は一礼し、その部屋を後にする
「ルルーシュ・・・」
「何度言えば解る?俺に必要なのは、お前だけだって事を・・・」
扉が閉まる前に聞こえてきたそのセリフ
ああ・・・これから甘い時間ですか・・・
今日は私一人で職務に励む事になりそうだ
私達皇帝補佐官の仕事は大変だ
皇帝とその想い人の為に必死でフォローするのだから・・・