華麗なる一族  一






それは皇帝とその最強の騎士が共に23歳の頃


「そろそろ子供を考えている」


午後のティータイム。天気が良いのでテラスで、と二人きりで過ごしていた穏やかな時間
スザクの隣に座るこの国の皇帝がポツリとこぼした
それを聞いたスザクは何もいえなかった
ただ ズキリと胸が痛んだ


「と、言うよりも近日中に生まれるんだが・・・」
「・・・そう・・・」


またズキリと痛んだ
スザクは自然と拳を握り締めた


(いつかこういう日が来ると解っていたのに・・・駄目だな、僕は)


ルルーシュの自分への気持ちを疑ったことはない。彼のスザクを見る眼はいつも愛情にあふれていた
けれど、彼が王である限り血を繋げていくのも役目の一つ
彼を主としている騎士ならば喜ばなければならなかった


「・・・お前に黙ってたのは俺が悪かった。その・・・反対されるんじゃないかと心配で・・・」
「どうして?良い事・・・喜ばしい事じゃないか。僕は反対なんか・・・・」


しないよ と続けようとした所でスザクはルルーシュに抱きしめられてしまった
ルルーシュは「良かった」と嬉しそうにしていた
その腕の中でスザクは悲しげに眉を寄せた














「・・・・楽しそうですね、へ・・・ルルーシュ・・・」
「これが楽しくなくてどうする、ジノww」


はぁ・・・とお忍びで宮殿の外に出た皇帝の護衛をしているジノは苦笑した
彼の主の手には子供の衣類がたくさん握られてる


「それにしてもスザクが付いて来ないとは意外でしたね?」
「ああ。何でもクルーミー女史に用事があるんだとか。まぁ、俺とお前だけで事は足りるからな」


現在二人は赤ちゃん用品店でお買い物の真っ最中だ
勿論この国に彼らを知らないものはいない。そのため、彼らだと解らないように変装もバッチリである

それにしても・・・とジノは目の前の支配者の様子を伺う
彼はルンルン気分で生まれてくるだろう子供の為に様々な者を選んでいた
つーか、皇帝なんだから家臣に指示すればぱぱっと用意するのに、どうして自分の目で見て選ばないと気がすまないのかな・・・とルルーシュに解らないようにため息をはいた

彼が皇帝になってからというもの、どうもため息の回数が増えたような気がしてならない


(早く老けたら嫌だなぁ・・・)


まだお嫁さんも貰っていないのに・・・とジノはまだ若いのにすっかり老け込んでしまった自分の姿を想像し、ほろりと涙をこぼしそうになった
そんなジノの少し向こうで(どうやらいつの間にか移動したらしい)ルルーシュが彼を呼んでいた






その頃、スザクはセシルとロイドの下を訪れていた
ナイトオブワンと言う地位にはいるものの、すっかり本国での内勤が主になってしまったスザクは、かつての様にランスロットを乗り回し彼らと共に行動するという事が少なくなっていた
それでも彼らがキャメロットの一員である事と、スザクがランスロットのデヴァイサーである事は変わらない。その為お互い時々は顔を合わせてはいるがそのときの会話は仕事の事だけ。以前の様に他愛ない会話や悩み事等は相談できなくなっていた


「あれ?もう来たの?」


ちょうどセシルは買出しとやらで出かけていた。いたのはロイド一人。その彼はスザクを見るなり「どうして来たの?」と首を傾げていた。


「え・・・と。相談したい事があって」


もう来たのってなんだろう?と思いつつ、スザクはロイドに訪問の用件を告げる

ロイドたちに相談したからと言って何が解決する訳でもない。けれど「出かけよう」と嬉々としてスザクを誘ったルルーシュに思わず断りを入れていたのだ
「セシルさんの所に用事があるんだ」と


「相談?まぁ、良いけど。あ・・・それよりも聞いてるよね?子供の件」
「・・・っ!」


まさかここでその話が出るとは思っていなかったスザクは息をのんで眼を大きく開いた
ロイドは「聞いてない?」と、眉を寄せていたが、スザクは慌てて聞いていると告げた


「・・・それで・・・その、僕、これからどうしようと思って」
「ああ〜。いきなり知らされたんでしょ?あの皇帝って意地悪だよね」
「今のまま後宮に住むのも正直きつくて、かと言って側を離れるのも嫌で・・・」
「一人じゃ大変だもんね。良く解らないけど大変なんでしょ?」
「考えれば考えるほど自分が嫌になって、いっその事何処か地方の司令官でもしてた方が良いかなとか・・・」
「セシル君の友達もそれが原因で離婚の危機・・・・って、ちょっと何の話?」


なんだか解らないが今の会話はおかしかった。向かい合って話してはいたが、言葉のキャッチボールが出来ていなかったぞ?
ロイドは目を真っ赤にしている元部下で現上司の自分が後見人をしている青年を見た
彼は眉を八の字にしてなんとも頼りない顔をしていた
もうそれだけで彼にはわかってしまった


(あの馬鹿皇帝・・・肝心な事を伝えてないじゃないか!)


思わずスザクの隣に座り「よしよーし、辛かったねぇ」とふわふわの茶色い髪を撫でながらティッシュで眼に溜まった涙を吸い取った
スザクはロイドが優しく頭を撫でたからか、徐々に表情を歪ませ、ロイドに抱きついて大きな声で泣きはじめた


「っ・・・・ロイドさ・・・・・ひっく・・」
「うんうん。ひっどい男だよねぇ」


あんな男はやめて実家に帰ってきなさい。と本気なんだか冗談なんだか解らない言葉をかけながらロイドはスザクを抱きしめた











宮殿へ帰ったルルーシュとジノの元に、まるで何処かで見ていたかのようなタイミングでロイドから連絡があった


『スザク君は実家で預かってまーすw』
「へ?伯爵、どういう意味ですか?」
『訳はそこの馬鹿に聞きなよ。全く、舞い上がってたか緊張してて言い忘れたんだろうけど、ウチの子泣かされちゃ帰せないよ』
「馬・・・・?スザク、泣いてるんですか?」


聞けば解るよ と言い残し、ロイドからの電話は一方的に切れてしまった
ジノが内容をルルーシュに伝えると、彼は「はいぃぃ?」と思い切り首を傾げた




「スザク泣かせたんですか?」
「啼かせてるのはベットの上でだけだ!」
「誰がそんな夜の話を聞いてるんですか?」
「俺がそれ以外でスザクを泣かせた事なんて(最近は)無いからだ!!」


ぎゃーぎゃーと言い争いながらルルーシュとジノはロイドの下へと向かっていた
スザクを泣かせた!泣かせてない!とずっと言い合っている


「ですが伯爵は『ウチの子泣かされちゃ帰せない』って言ってたんですよ?」
「それが解らん。そもそも今のスザクが泣くとしたら俺の下か子供の件で嬉し泣きだろう?」
「だから誰がそんなバカップルの濡れ場の話・・・・って、陛下?」
「なんだ?」
「スザクになんて言葉で子供の話を伝えたんですか?」


ん?とルルーシュとジノは顔を向かい合わせた





「・・・それじゃ伝わってませんよ・・・」


ジノの言葉に反論しそうになったルルーシュだが、実際肝心な事を伝えていない事に気がつき口を塞ぐ


「相手はあの(・・)スザクなんですから」
「ああ、あの鈍感天然のな」
「はっきりと言わないと。きっと誤解してますよ?」


うう・・・とルルーシュはふらりとしながらアスプルンド邸の呼び鈴を鳴らした





「あらら?いらっしゃいませ皇帝陛下w」


対応に出たのは満面の笑みのセシルだった
だがルルーシュにもジノにも見えていた。彼女の背後にどろどろした黒いモノが渦を巻いていたのを


「「ご・・・ごめんなさい!!」」


私は悪くないのに〜と内心思いながら何故かジノもルルーシュと一緒になって土下座した










「本当はもう一日待ちたかったんだけどねぇ・・・可愛いスザク君の為だ、仕方ない」


『可愛いスザク君の為』を強調し、ロイドは腕の中のものをルルーシュに手渡した
ルルーシュは大事そうに受け取ると、それを見つめて微笑んだ


「スザクは?」
「この屋敷での彼の部屋。今日は泊まって帰ったら?」
「そうだな。その方がスザクも・・・お前も良いか?」


ルルーシュが問いかけると、それはもぞりと身体を動かした




「スザク、入るぞ?」
「・・・・」


ルルーシュとジノが来ている事は知らされていた。一度は逃亡を謀ったスザクだったが、呆気なくジノに捕獲されてしまった

ジノに『放して』と頼んだが、彼は優しく微笑むとスザクをこの部屋に閉じ込めてしまった
次はきっとルルーシュが来るに違いない
スザクはソファで膝を抱えて怯えていたのだ


「・・・スザク?」


部屋に入ったルルーシュはソファで小さくなっているスザクを見つけた。顔は抱きかかえた膝に押し付けられており、こちらを見ようとしない
ロイドの言ったとおり本当に悲しませてしまったようだ
ルルーシュは一瞬怯みそうになったが腕に抱いた存在が彼を前へと進ませた


「スザク」
「・・・」
「スザク、見てくれ」


ルルーシュはスザクの隣に座りながら優しく声をかけた
スザクはのろのろと顔を上げる。そしてルルーシュの抱いているものに気がつくと大きく眼を開いた


「・・・るる・・・」
「ああ。今生まれた。俺の子供だ」


ルルーシュの抱いていた者は黒髪の小さな赤ん坊だった
その子供を見てスザクは「ひっく」と涙を流し始める


「スザク?」
「も・・・生まれ・・・・?僕、いきなりで・・頭・・・変にな・・・・」


ルルーシュは慌ててその涙を拭う


「落ち着けスザク」
「落ち着け・・・ない・・・・・・・あ・・・?」


グスグスと泣くスザクに触発されたのか、それまで大人しくしていた子供が大泣きを始めてしまった
オロオロとするルルーシュ。スザクはその声の大きさにビックリしたのか、彼の方は泣きやんでしまったようだ


「おいこら。泣くな」
「赤ちゃんなんだから通じるわけ無いだろ?それよりもこの子の母親は?お腹でも空いたのかな?」


ひょいっとルルーシュから子供を奪い取ったスザクは子供を揺らしてあやす
奪われた方のルルーシュは一瞬驚いて行動が止まったが、すぐにクククと笑った


「笑ってないで、誰か「母親はお前だ」・・・・・は?」


首をかしげるスザクにルルーシュは意地悪く笑う。そして「ああ、母親は正しくないか」と告げた


「・・・ルルーシュ?」
「この子は俺とお前の子供だ。調べてもいいぞ?」


スザクはニヤリと笑うルルーシュと腕の中の子供とを交互に数度見る
そして、ひょこりとドアから顔を出して事の成り行きを見ていたのであろう、ジノ・ロイド・セシルを見つめた
すると彼らは同じ様に『ニヤリ』と笑って同時に頷いたのだった


「ふぇえええええ!?」









「つまりは全て馬鹿陛下の説明不足って事だよ」
「それよりも片親であるスザク君が生まれる直前まで子供の存在を知らなかったっていう事が問題の様な気がするけど」


はぁ・・・とスザクはロイドとセシルと共に事の説明を聞いた

ルルーシュがスザクとの子供が欲しいと言い出したのは二人が本当に想いを通わせて暫くしてからの事だった
男同士で子供
初めロイドは鼻で笑ったものだ。何を馬鹿な事を・・・と
だがスザクとルルーシュの仲を見ているうちに、スザクがいつか出来るであろう皇妃とその子供に怯えていた事を知ってしまった
長い付き合いのスザク。ずっと世話してきたのだ。ロイドにとってスザクは大切な人間の一人。幸せにしてやりたかった


「調べてみると男同士の子供って生まれてるんだよ。その辺の奴らにできてこの僕に出来ない筈がないってねw」
「でも代理母なんてスザク君も嫌でしょう。この人ったら人工子宮とか造っちゃって」
「・・・それで・・・あの子が」


スザクはチラリと振りかえり自分とは離れた場所に居る子供を見る
子供はルルーシュに抱かれジノに突かれていた

目線を目の前に二人に戻すと、ロイドもセシルもニッコリと笑っていた


「どうする?」
「え?」
「あの馬鹿と帰る?それともあの子とここに残る?」


僕らは残って欲しいけど とロイドは呟く
スザクはふわりと微笑んだ









「君がちゃんと説明しないからだよ」
「考えたら解るだろう?俺はお前以外いらないといつも言ってるんだ」
「どうやったら僕と君の子供だなんて予想できるんだよ?男同士なんだよ?」
「俺は奇跡を起こす男だ」
「・・・それ、きっと使い方間違ってるよ・・・」


今日くらい泊まっていきなよ〜と涙目で訴えるロイドらを振り切って、スザクとルルーシュは宮殿へと帰ってきた。ルルーシュは泊まっても良いと言ったのだが、アスプルンド邸よりも宮殿のほうがスザクが落ち着けるためだ

子供は今夜だけスザク付きの女官に預かってもらっている


「それと!もう一つ言い忘れている事があるよ」


びしっと指を一本ルルーシュの前に突き出したスザクが頬を膨らませている
ルルーシュは他にもあったか?と考えるが思いつかない
そんなルルーシュにスザクはため息をはくと「仕方ないなぁ」と苦笑した


「な・ま・え だよ。あの子の名前。決まってるってロイドさんから聞いたんだけど?」
「ああ」


それか・・・とルルーシュは頷いた

最初は得体の知れない物体だった我が子
そのうち人間らしくなり「男の子だねぇ」とロイドに教えてもらってから一生懸命に考えたのだ
本当はスザクと相談したかったのだが、その頃はスザクに反対されたらどうしようと思っていた頃なので言えなかった

ちらりとスザクを見れば、彼はワクワクしながらルルーシュの言葉を待っているようだった

ルルーシュはクスリと笑うとスザクの耳元でその名前を囁いた






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ルルーシュらが帰った後のアスプルンド邸




「・・・にしても、どうしてああまで皇帝に似ちゃったのかな」
「髪の色も眼の色も陛下と同じですもんね」


そうなんだよ・・・とロイドはがっくりと肩を落とした
そんなロイドの肩をジノが優しく叩く

黒色が優先遺伝なのかもしれない。だがほんの少しでいい。スザクに似ている所くらいあっても良かったのではないだろうか


「皇帝の赤ちゃんの頃の写真見たけどそのまんまなんだよ・・・きっと性格だってそっくりになるに違いない」
「・・・」


それは考えたくないな とジノは顔を青くする


「決めたよ」
「何をですか?」


ロイドはグッと拳を握った


「スザク君の可愛らしさを120%受け継いだ子供をぜーったいに作ってみせる!!」


そんな・・・ナイトメアじゃないんですから『作る』だなんて・・・というジノの突っ込みは見事にスルーされた





このロイドの決意にルルーシュも賛同
結果として皇帝夫妻(?)は男女合わせて七人の子供をもつ事になる