華麗なる一族 二







皇帝に第一皇子が生まれて一週間
皇子誕生は国内外に発表され、世界はその誕生を祝った
ただ、母親が誰であるのかだけが公表されず、様々な憶測を呼んでいたが・・・




「・・・ああ・・・・もう駄目だ・・・俺はもう死ぬ・・・」


民衆や世界各国のメディアが「母親は出産時に死亡」とか、「発表出来ないほど身分の低い女性の子供」やら、「養子」やらと勝手に様々な可能性を考え報道していようがお構いなしなブリタニア皇帝ルルーシュが、これまでに見たことの無いほどにやる気を失っていた

机にだらりとうつ伏せ、先程から「もう嫌だ」「我慢できない」「死ぬ」「スザク〜」等とうわ言を言っている
それを聞いていたジノは痛む頭を抑えた

この皇帝のやる気の無さは皇子誕生の翌日からだ
ルルーシュ曰く『スザクがやらせてくれない』のだそうだ

これまでほぼ毎日そういう事を致していた二人
ルルーシュが望めばスザクが断る事等今まで無かった(ルルーシュが嫌だと言わせないというのもある)
それがずっとスザクが断っているというのだ

スザクが抱かせてくれないのなら他の誰か、と言う方法もあるが、生憎この皇帝はスザクを溺愛していた。彼以外の選択肢は存在していないという。それにうっかり他の者に手を出した日には間違いなく離婚(?)される。それは何よりも避けたい


「ジノ・・・俺が死んだらナナリーとスザクとアレクシスは頼んだ・・・」
「何言ってるんですか!そんな理由で死ねるなら兵士は何百回と死んでますよ!?」
「あ〜・・・スザク〜・・・」
「・・・聞いてないな・・・このクソ皇帝め・・・」


鬱陶しい とジノはルルーシュを放っといて執務室を出た









こんなときは眼の保養に限る

ジノは慣れた足取りで皇帝のプライベートエリアに入る
そこにはルルーシュとスザク。そして今世間を賑わしている皇子が住んでいる


「いらっしゃいませヴァインベルグ卿」
「やあ、スザクはいるかな?」


途中で女官の一人に出会う。彼女はスザク付きの女性だ


「はい。ちょうどアールストレイム卿もいらっしゃってますよ」
「アーニャも?」


ジノはぱぁっと顔を綻ばせ、教えてもらった部屋へと向かった




そこは皇子アレクシスの部屋として用意された部屋
夜寝るときはスザクの部屋で寝ているようだが、日中はこの部屋に居る事が多いらしい


「スザク。ジノだけど、入っていいだろうか?」
「・・・ああ、ジノ。どうぞ」


ドア越しに呼びかけるとスザクがジノを出迎えてくれた
開いた隙間からアーニャの姿も見える
ジノはニッコリと笑って部屋へと入った


どうやら皇子は眠っているようだった。ベビーベットから小さな黒い頭が見える
起こさないように小さな声で話す


「殿下はお休み中か・・・」
「さっき寝た。小さいのに大きな声。びっくりした」


アーニャは恐る恐るといった感じでアレクシスの髪を撫でている
最年少のラウンズとして生きてきた彼女。赤ん坊等触った事がなかったのだろう


「爪も小さい。けどちゃんと爪してる」
「へぇ、立派なもんだなぁ」
「はは、当たり前だよ、二人とも」


ほら、とアーニャが子供の指をジノに見せる。するとジノは本当に感動したようだ
その光景を見てスザクが微笑んでいた




「そういえば、ジノどうしたの?」


スザクたちは隣室へ移動していた
アレクシスは女官に預けている


「あ・・・それが・・・だな」


ジノはちらりとアーニャを伺う
まだ幼いアーニャの目の前でこんな話をしても良いのだろうか
本人は良いと言いそうだが、スザクが五月蝿そうだ


「ジノ?」
「陛下が言ってた」


言いにくそうにしているジノの代わりにアーニャが口を開く
スザクとジノの視線が彼女に集中する中、アーニャの言葉は続いた


「スザクが抱かせてくれないって」


ジノは「なんて事を!」とアーニャの口を手で塞ぎ、スザクはぽかんと口を開いた後、さわやかに笑った


「あの・・・スザクさん?」
「・・・スザク・・ちょっと怖い・・」


二人は僅かに後ずさる
スザクはニコニコ笑ったまま二人に話しかけた


「僕、ちょっと陛下の所に行って来るね」
「「・・・・ハイ」」


もう二人はそう返事するしかなかった













その後、戻ってきたスザクは何処か疲れており、翌日のルルーシュは見事に復活していた

ジノが留守番を頼んでいた文官から話を聞いた所によると、ものすごい勢いでスザクが執務室に入ったと思ったらなにやら言い争う声が聞こえた。それは30分ほど続き、静かになったと思ったら、ひょこりと執務室からルルーシュが顔だけ出し、「一時間ほど席を外せ」と言ってきたらしい

何があったか等、ジノには痛いほど解った


(昨日の現場は執務室(ここ)ですか・・・)


自分も使うのだからこういう所ではして欲しくないなぁ・・・と涙を流しながら思うのだった











****


「それで、ルルーシュったら毎日でないと我慢できないとか言うんですよ!」
「今の殿下は二〜三時間おきに起きるからスザク君が大変だって知ってるのにねぇ」


ルルーシュがご機嫌で仕事に励んでいる頃、スザクはセシルとロイドを呼び出していた
昨日の執務室だけではなく、夜もしっかりといただかれてしまったスザクが助けを求めたのだ


「ま、そこがシャルル皇帝の血というかなんというか」


ロイドはぽつりと呟きながらアレクシスにミルクを飲ませていた
セシルとスザクは彼の言葉に気がつかなかったようである


「寝不足なのに・・・ルルーシュの馬鹿」
「今日は私達に任せて、スザク君はゆっくり寝るといいわ」
「そうだよ〜w僕らにまーかせてw」






スザクがルルーシュの誘いを断った訳

『育児で寝不足なのに君の相手なんかしたら、僕、死んじゃうかもしれないでしょ!』




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「ジノw妻は体力馬鹿が一番だ」
「そのうちスザクかキャメロットの誰かに殺されますよ?」










第一皇子のお名前はアレクシスでした
前回入れ忘れました。そして途中まで忘れてました

余談で・・・このやり取り「スザクが抱かせてくれない」は子供が生まれる度に起こります
そしてその度に周囲が迷惑する・・・