父と母が会ったのは今の僕とほぼ同じくらいの歳
父はその時から母を伴侶として決めていたらしい
(本当かどうか怪しいが・・・)
そして母も父を一番の友人として大好きになったと話してくれた






「だからといって見合いしろと言うとは思いませんでしたよ」


ははは と父と子は笑いあった







華麗なる一族 6







10歳になったアレクシスにルルーシュは「見合いの話がある」と告げた
こんな時、母親(?)であるスザクがいれば「何言ってるの!」とルルーシュをぶっ飛ばしただろうとアレクシスは思う
しかし生憎スザクは下の子供達をつれてアスプルンド邸に里帰り中なのだ
両親が喧嘩したわけではなく、ロイドやセシルが「遊びに来てねw」と誘ってくれた為だ
本当はアレクシスもついていくつもりだったのだが、ルルーシュに止められた為こうして残る羽目になった


(嫌な予感はしていたが・・・まさかこの話とは・・・)


アレクシスは父の前で不快感を隠そうともせずに「チッ」と舌打ちした
そんな息子にルルーシュは苦笑する


「不満か?」
「当たり前でしょう。御自分は恋愛結婚のくせに息子にはそうさせないのですか?」
「見合い=結婚ではない」
「国民はそうは思わないでしょう」
「だから内密にしている。・・・スザクにだって秘密なんだからな」


もし知れたらスザクはすぐに帰ってくるだろう
彼は、子供達が皇族という理由から多少の不自由は仕方ないと理解している、だが出来るだけ自由な人生を与えたいと前々から思っていてくれているようなのだ
その彼が息子が見合いをすると聞けばルルーシュに抗議する事は明らかだった

そして今回のロイドたちの誘い
それはスザクからこの事について隠す為だったのだ


「知られたら一ヶ月は禁欲生活ですね」
「それは恐ろしい。私はスザク以外は抱かないと決めているからな」


にこりと笑うルルーシュにアレクシスもニコリと笑う
あえて声には出していないが、目と目で会話していた


(母上にチクリますよ?)
(そんな事をしたら全寮制の学校に入れるぞ?)
(それこそ一生の禁欲になりますよ?)
(ハハハ。私の『夜のお願い』をスザクが叶えなかったことは無いぞ)
(・・・・)


「見合いは明後日だ」
「・・・解りました」


勝者 ルルーシュ
敗者であるアレクシスは苦虫を噛み潰したような表情で頷いたのだった











翌日、アレクシスはため息をはきながら庭を歩いていた
自分は皇子。皇位継承第一位
その立場は痛いほど解っている

男である母を愛した父が自然の摂理に逆らって自分達を誕生させたように、皇族である自分も血を繋いでいかねばならない事も理解している
だがせめて十代の間は自由に生きてみたかった
勿論、父の言うなりになって見合い相手とこのまま婚約・結婚等するつもりはないのだが・・・


(せめて父上にとっての母上のように、『この人だ』と思える存在に出会いたかったな。と、いうかどうして母上の伴侶が僕じゃないいんだ・・・)


はぁ・・・と大きなため息をはき、大きな木の下にたどり着いた時だった





「そこー!どいてぇぇ!!」
「はい?」


突然聞こえてきた少女の声
アレクシスが「どこから?」と辺りを見回していると背中に大きな衝撃


「わーーー!ごごごごごごごめん!ごめんなさい!」
「・・・・・・・謝る前に下りろ(怒)」


アレクシスは地面にうつ伏せの状態で倒れていた。その背には必死で謝る少女
つまり押しつぶされている

アレクシスの言葉に少女は「ああっ!」と叫ぶと、背中から下りた


「・・・・」
「ごめんなさい!×20」


ぺこぺこと何度も頭を下げる少女
アレクシスは無言で立ち上がりながら「さて、なんと言ってやろうか」と怒りをためる
昨日ルルーシュに負けているのだ。苛苛は十分すぎるほど溜まっている


「お前!!・・・っ!」
「ごめんなさい!飛び降りる前に一度は確認したんだけど君がいきなり現れたから」


アレクシスは謝る少女をみて固まった


「もう飛んでたから避けられなくて」


緩やかなウェーブのかかった明るい茶色の髪。美しいエメラルドの瞳は大きくて落ちてしまうんじゃないかと思えるほど


「本当にごめんなさい」


空色のワンピースを着た自分と同じ歳くらいの少女


「・・・・?あの・・・君?」
「・・・・・これだ・・・」
「ふにゃ?」


がしっとアレクシスは少女の肩を掴む
少女は首を傾げて目を瞬かせていた


(母上と同類の匂いがする・・・これだ・・・僕や父上やロイド先生が求めているものは・・・・)


今では六人になった兄妹
その全てがルルーシュ似であった事にルルーシュもアレクシスもロイドも不満であった
ここまで子沢山になった原因は彼らの『スザク似の子供(弟妹)がほしい』という希望ゆえである

だが末弟フェリックスが生まれたときに気がついたのだ
『弟妹ではいずれ何処かの馬の骨に奪われてしまうではないか』と

アレクシスはマザコン
そして彼の理想の相手は『枢木スザク』


「えっとぉ・・・君、元気そうだねw」


にこっと笑う少女
いきなり肩をつかまれて「これだ」と言ったきり、じーーーっと自分の顔を凝視した少年に「元気」一つで片付けてしまう辺りが、まさに『母上と同類』

同類の匂いとはどんなものか気になる所だが、それはスザク馬鹿であるルルーシュとロイド、そしてアレクシスだけが判別できるものなのだ(ジノ談)


「ああ。大丈夫だ」


キラリと輝く最高の笑顔を少女にむける
この笑顔に宮殿の殆んどの人間はオチる
落とせないのはアレクシスと同類のルルーシュや変人のロイド。そして   



「ホント?よかったぁ」


  スザクくらいである


(全く効いてないな・・・これは間違いない)


キラキラとした笑顔の仮面の裏でアレクシスはニヤリと笑った
これは最高の相手を見つけた
髪の色も目の色も理想どおり
ウェーブのかかった髪もいつか見たスザクの女装時のそれに似ていて十分ストライクだ


「ところで何をしていたんだ?落ちてくるなんて」
「え!?・・・そ・・・それは・・・」


このまま逃がしてはならない
せめて名前と住所くらいは聞き出さないと
アレクシスはこのまま少女と会話し、繋がりを持とうと動いた


「それは?」
「ええ・・・・っとぉ・・・」


言い難そうな少女はちらりと木の上の方を見る
アレクシスも一緒になって見上げるが何かあるようには思えなかった


「木?」
「鳥の巣があったんだ。それでね、雛がいるみたいだから」
「・・・まさか登っていたのか?」


うん と頷いた少女にアレクシスは呆気に取られた
母もそんな子供だったらしいが生憎母は立派な少年だった
だが彼女は女の子。しかもワンピース


(想像以上の御転婆だな。しかも飛び降りるなんて・・・)


アレクシスは「そうか」と微笑みながら背中に汗を流した





「僕、ロシリエルっていうの」
「俺は・・・・アレクだ」


一人称が『僕』
それもまたアレクシスの心を喜ばせる
本当は本名を名乗りたかったが皇子だと知られると離れていってしまうかもしれない
その為、愛称でもある『アレク』を名乗った


「ロシエリルはどうして宮殿に?」
「お父様についてきたんだよ。」
「お父様?」
「うん。本当は今日はお父様お仕事お休みで、動物園につれてってくれるって言ってたの。だけど上司って人に呼び出されたんだって」


すぐに終わる筈だから と彼女の父は彼女を宮殿につれてきたのだと言う


(父・・・その名前さえ解れば・・・)


彼女とその両親に交際を申し込むのに・・・

アレクシスがその父の名を聞こうとした時、遠くから二人の名を呼ぶ声が聞こえた


「アレク!ロシリエル!」
「エリオット?」
「お兄様w」


それはアレクシスの親友(予定)のエリオット
アレクシスはエリオットがロシリエルの名を呼んだ事にも驚いたが、その彼女の口にしたエリオットを表すだろう言葉にも驚いた


「・・・お兄様?」
「うん。僕のお兄様。アレク、お兄様のお友達?」


ああ・・・と返事しながらアレクシスとロシリエルはエリオットと合流する
エリオットはロシリエルを探し回っていたようで、息があがっていた


「ロシリエル・・・お前な・・・父さんに大人しくしてろって言われただろう?」
「だって広いお庭だったんだよ?」
「だからって・・・まぁいいや」


エリオットは妹の手を掴むとアレクシスを振り返った


「じゃあ、俺達行くから」
「あ・・ああ、解った」


ロシリエルはアレクシスに手を振りながら兄と共に何処かへと去っていった


「・・・ロシリエル・・・か・・・・」


それを見送った後、アレクシスはふふっと笑いながら宮殿の中へと入っていった









「どうやら見合いは成功のようだな」


その様子を監視カメラで見ていたルルーシュはニヤリと笑った
後ろにはジノが控えていて苦笑している

アレクシスの見合いは明日ではなく今日
相手は勿論ロシリエル


「本当の事を知ったら、あの馬鹿息子はどんな顔をするだろうか」


クククと笑いながらルルーシュはジノを振り返った


「感謝されるのでは?」
「素直にするかな?あのアレクシスが」


ルルーシュは笑いながら用意しておいたロシリエルの写真を手に取った
これはアレクシスに渡す為の物で、今夜渡すつもりだ

ルルーシュが彼女の事を知ったのはエリオットがアレクシスの友人として宮殿に連れてこられたのと同じ日だった
やはり親子というべきなのか、ルルーシュもロシリエルと最愛の妻が同類だと一瞬で見抜いた
そしてすぐに思いついたのだ

長男の伴侶に彼女が相応しいと

自分に良く似た息子は伴侶の好みも似ていた
きっとロシリエルなら気に入るだろうと思ったのだ


「読みどおりだ」
「その笑顔。怖いですから国民の前ではしないでくださいよ」




フハハハハハ!と高笑いしているルルーシュに、無駄だと思いつつジノは忠告したのだった







数日後、父から全てを聞いたアレクシスがウィンザー邸を訪問した
茶色の髪にエメラルドの瞳の少女に求婚する為である



アレクシス一目惚れ