「はぁぁぁぁぁ・・・」
「・・・・」
「あぅぅぅぅぅ・・・」
「・・・・」
「はぁ・・・・あぁ、もぉ・・・」
「・・・・・・・・・・・・鬱陶しいわ!!」


だん!とルルーシュは自分の机を叩いた
側にあるソファではジノがため息を何度もはきながら酷く落ち込んでいた


「だぁってぇ、へいかぁぁぁ」
「お前はそれでもブリタニアの最強の騎士か?私の一番の剣か?」


「情けない」
ルルーシュは席から立ち上がるとジノが座っている正面の席に座った


「それで?原因は?」
「・・・・それがですね・・・スザクとマリアンヌ様が」







Christmas fantasy










****


「サンタクロースは実在しない・・・お前、子供のマリアンヌによくそんな事を言えたな?」
「違います!スザクと言い合っているところに殿下がいらっしゃったんです!!」






それはジノがスザクに「殿下方のプレゼントは用意した?」という話を振った所から始まったのだという


「一応ね」
「私も用意したから、24日に持っていくよ」
「ありがとう、ジノ」


初めは他愛ない会話だった
そしてそこからサンタクロースの話に発展するまでにそう時間は掛からなかった


「そういえば、スザクは何歳までサンタを信じてた?」
「・・・・・・は?」
「私は七歳くらいまでかな?誰でも一度はサンタに会ってみたいって思うじゃないか」


七歳児のジノ・ヴァインベルグはサンタクロースに会おうと一晩中おきて待っていた
そしてジノが寝ていると思い忍び込んできた父親を目撃してしまったのだった


「流石にショックだったな、アレは・・・・・・・スザク?」
「・・・・ジノ・・・・君は・・・・」


この直後、マリアンヌが泣きながら「ジノ様の馬鹿ぁぁぁ!!」と乱入し、「マリアンヌを泣かせたな!」とスザクによってジノは皇帝一家の住む宮殿から追い出されてしまったのだった





「・・・馬鹿だな、お前」
「陛下ぁ」


何とかしてくださいよぉとすがり付いてくるジノの手を「鬱陶しい」と叩き落としながらルルーシュはため息をはいた


「今夜の夕食に招待してやるから、自分で何とかしろよ」
「ふぁぁい」










一日の執務を終え、ルルーシュは家族の待つ宮殿を目指して歩いていた
その途中で庭に目を向ける
12月に入ってすぐに、スザクと子供達が庭師や女官達と一緒になってクリスマスの飾りつけをしていたのを思い出した


「・・・サンタクロース、か」


自分が信じていたのはジノよりももっと小さな頃までだった
もしかしたら物心ついた頃からすでに信じていなかったのかもしれない


「だが、あいつは信じていたんだったな」


ルルーシュはスザクと出会って初めての12月のある日の出来事を思い出した



◇◆◇◆



「嘘だ!」
「嘘じゃない!」
「嘘に決まっている!スザク、嘘をナナリーに教えないでくれ!」


枢木神社の土蔵に少年二人の声が響く
それはルルーシュとスザクのものだった


「嘘じゃない!本当に居るんだ」
「居ない!」
「ルルーシュの方こそ嘘をついてる」


二人の喧嘩の原因はもうじき訪れるクリスマス
クリスマスと言えば・・・


「嘘は君の方だ!サンタクロースなんて居る筈がない」


サンタクロースが存在するかしないか だった




もうじきクリスマス
母が生きている頃は三人で料理やケーキを食べ、母からプレゼントを貰ったものだが、現在その母はいない
そして自分達は人質として日本で暮らしている
ナナリーに何かプレゼントを用意したい。それをスザクに話すと彼は「俺達が用意しなくてもサンタクロースがちゃんとくれるさ」と言った事が始まりだった


「サンタなんてそんな非現実的なもの・・・信じているなんて子供だな、君は」
「あぁ?お前こそサンタを見た事ないなんて余程心が腐ってるんだな」
「なんだって!?」
「なんだよ!?」


ちょうどナナリーは枢木の女中に付き添われて病院へ行っている
ナナリーは三日前から体調を崩していた。それをスザクが家の者に訴えたのだ
ルルーシュは適当な薬を与えられるだけだと思っていたのだが、予想外に親切にされた
流石に死なれては困ると言った所か

ナナリーのいないこの時間を利用してスザクに相談したのが間違いだったとルルーシュは後悔する


「・・・そこまで言うのなら証拠を見せてもらおうじゃないか」
「望む所だ!!」


ぐっと握り拳を作り立ち上がったスザクにルルーシュは「ふん」と鼻で笑った










サンタクロースなんて存在しない
それが世界の常識だ
クリスマスにプレゼントが届くなんて玩具会社の作り上げた幻
朝、起きて枕元にプレゼントがあったとしても、それは親が夜中に置いていったもの
サンタクロースからじゃない

きっとスザクは親からプレゼントをもらっていたんだろう
幸せな奴だ

ルルーシュは目の前を歩くスザクの背中を睨んだ


(・・・と、言うか・・・)


「サンタクロースはこの時期にはやって来ないと思うんだが?」


まだ十二月の初め
クリスマスまで何日あると思っているのか
それなのにスザクはあの言い争いから一週間後の今日、突然「会いに行くぞ」と夜中にルルーシュを連れ出した


「馬っ鹿だな。世界中に子供が何人いるって思ってんだ?サンタは一人で世界を回ってるんだぞ?それに、事前調査が必要なんだって昔言ってたからな」
「・・・事前調査・・・」


勝手にしてくれ、とルルーシュは大きな大きなため息をはく
そんなルルーシュを振り返ることなくスザクは枢木神社の裏山を登って行く
そして見晴らしの良い場所までたどり着くと、「まだ来てないみたいだ」と言い、二人でそこで待つ事となった




「三十分経ったぞ?」
「気の短い奴だな。もう少し待てよ」


スザクはニコニコしながら空を見上げていた
何がそこまで楽しいんだか、とルルーシュはおかしくもないのにつられて微笑んだ


「・・・君は不思議な奴だ」
「?なんだよ?」
「僕はこれまで母さんとナナリー以外は敵だと思ってきた。他人は信じられない。信じてはならないって」


一人でも継承権上位の皇族を追い落とそうとする異母兄弟たち
優しい言葉一つかけてくれない父親
母が死んだ事であっさりと自分達を見捨てた貴族達
味方はいない
いるのはたった一人の妹
ナナリーを守る為に自分は誰にも弱さを見せるわけにはいかない
そして誰も自分の側に置いてはならない

何故なら、裏切られた時が一番辛いから


「なのに、君は僕の隣にいる」


誰も必要ない。ナナリーは自分が護るんだと誓っていたルルーシュに、スザクは遠慮なく近づいてきた
手を差し伸べてくれた


「君と、スザクと出会えて良かった」
「・・・・・な・・・・何言ってんだよ!」


恥ずかしい奴だな
スザクは顔を真っ赤にして顔を背けた
ルルーシュはにこりと笑うとスザクの手を握る


「・・・ルルーシュ・・・」
「本当にそう思ってるんだ」


振り向いたスザクにルルーシュはゆっくりと顔を近づけた


(良し!いける!!)


頑張ってお兄様!
居る筈のないナナリーの声が聞こえた気がした
スザクへの恋心を自覚しているルルーシュだったが、いまだにキスは愚か、告白すら出来ていない

友人という位置からレベルアップしたいルルーシュは、この良い雰囲気を利用して一気にスザクとの仲を深めるべく大胆な行動をとった

つまり、このままスザクの唇を頂いてしまおうと言う事だ





「そこまでじゃ」


しかしそれは第三者によって阻止された





「っ誰だ!?」
「あ!!」


警戒するルルーシュと何故か喜ぶスザク
ルルーシュがスザクを庇おうと前へ出る前にスザクは素早く動いた


「久しぶり!」
「相変わらず元気そうじゃの、枢木スザク」


白い髭の老人にスザクは嬉しそうに抱きついた
そして老人も優しく笑いながらスザクを抱きしめる
それを見たルルーシュはショックを受けた


(ぼ・・・僕でさえあんな風に抱きつかれた事がないのに!!
・・・う・・・浮気か?愛人なのか?)


スザクぅ・・・とルルーシュはじんわりと目に涙を溜めてスザクの名を口にした
ここに他の誰かが居たならば、
スザクとルルーシュはただの友人同士で、恋人でもなんでもないだろう と突っ込んだ事だろう

しかしながらここには三人しか居らず、またその内の二人はルルーシュを完全に無視して楽しげに会話をしている


「なんとなく今日来るって感じたんだ。当たって良かった」
「おや?ワシに会いたかったのか?」
「ああ。だってルルーシュが・・ってそうだ!ルルーシュ」


やっとスザクは今日ここへ来た目的を思い出した
そして一緒にここへ来たルルーシュを振り返る


「・・・・る・・・ルルーシュ?」
「・・・・・・ぁ?」
「・・・何してんだ?」


ルルーシュは蹲り指で地面に「の」の字を書き続けている
初めて見る親友のそんな姿にスザクは一歩引いた


「ははは。スザク、その子はルルーシュと言うのかね?」


老人は笑いながらルルーシュへと近づく
ルルーシュは驚いて逃げようとするが、あっさりと捕まってしまい抱き上げられた


「ぅわああああ!降ろせ!」
「はははは。元気な子供じゃのぅ」
「はーなーせぇぇ!」
「あははは!ルルーシュ、おかしいぞ」
「笑うな!助けろスザク!」
「嫌だね」
「スザク!」


ジタバタと暴れるルルーシュの姿を見て、老人とスザクは大きな声で笑った



****




老人と出会って十分後
ルルーシュはスザクの口から彼の正体を教えてもらった


「はぁ!?サンタクロース!!?」


スザクはこの老人がサンタクロースだと言った
ルルーシュは驚きに目を大きく開き、老人を見つめる

クリスマスシーズンになれば嫌というほど目にする白い長い髭の老人
体つきも大柄で、まさに絵に描いたようなサンタクロース・・・だが・・・


「サンタクロースが黒いスーツを着ているなんて僕は今まで聞いた事もないぞ!!」


サンタクロースと言えば赤い服だろうが!!とルルーシュはスザクの頭をぽこんと殴る
しかしスザクはそれが効いていない様で、ニコニコと笑っている
スザクがサンタクロースだとルルーシュに紹介した老人は、真っ黒なスーツを着ており、何処かの国の上流階級の人間を思わせる雰囲気を醸し出していた


「馬っ鹿だなぁ、クリスマス前なんだから当たり前じゃん、なぁ?」
「そうじゃ。クリスマスでもないのにあんな格好できる訳ないじゃろう」

「お前ら・・・」


思い切り馬鹿にされているように鼻で笑う二人にルルーシュはワナワナと震えた
そして悟る
この二人相手に真面目に話をしても無駄だ
スザクは俺様でこちらの話を聞いている様で聞いていない。寧ろ最初から聞くつもりもない
そしてこの老人も似たような空気を感じる


「・・・仮に五百歩譲ってサンタクロースだとしよう」
「五百歩も譲らなきゃ信じられないのか、ルルーシュ」
「黙れ。とにかくこの老人をサンタだというのならその証拠を見せろ」


証拠・・・と言われスザクと老人は顔を見合わせた


「例えば?」
「トナカイとソリは?」
「トナカイらをシーズン前に扱き使うと時間外手当を請求されるんじゃ。じゃからソリも乗ってきとらん」
「・・・・給料制なのか・・・?」


そうなんじゃ と老人は頷く


(・・・怪しい・・・)


スザクは老人に懐いているがルルーシュはどうしてもこの老人を信じられなかった
スザクは体力馬鹿で運動神経も人外かと疑うほどだが、ポヤポヤしたところがある


(騙されているんじゃないか?)


普段の素行だけ見るとそうとは思えないが、スザクはこの国の総理大臣の一人息子なのだ
そのスザクを手懐け利用しようとしているのではないか
ルルーシュは思わずスザクの手を握り、自分の後ろへと引き寄せた
突然の事だった為かスザクは簡単にルルーシュに引っ張られる


「ぅわ!」


ルルーシュは背後でスザクがよろめいた気配を感じたが視線を目の前の老人から離すことはしなかった
老人は相変わらずニコニコと笑っている


(スザクはぽやぽやしているから気がつかないんだ)


この僕がこの馬鹿を護らないと
ルルーシュは妙な使命感に燃えていた


「なにすんだよ、ルルーシュ」


しかしその護る対象であるスザクはルルーシュの気持ちなど全く気がついていないようで不満の声をあげていた
ルルーシュはキッと老人を睨む
老人はニコニコと微笑んでルルーシュと視線を合わせるように身を屈めた


「な・・・なんだ?」
「君は枢木スザクが好きなんじゃのぅ?」
「っ///」
「俺もルルーシュが好きだぞ!」
「ううううう五月蝿い!」
「なんだよ?嫌われてんの?俺」


しゅん・・・と肩を落としたスザクにルルーシュは思わず叫んだ


「違う!大好きだ!!・・・・あ///」


しまった と顔を真っ赤にするルルーシュ
それを見て老人はクスクスと笑い、スザクも嬉しそうにルルーシュに抱きついた


「ルルーシュぅぅぅv」
「ぅわ!近い!近いよスザク!」
「仲が良いのぉ」


抱きついてくるスザクとそれを引き離そうとするルルーシュ
そのやり取りを見ていた老人は二人の頭を撫でる


「なぁ、ルルーシュにはプレゼントあげてんの?」
「いや、まだじゃよ」
「プレゼント?」


なんだそれは?
ルルーシュがスザクに問う
するとスザクは「サンタからのプレゼントだ」と答えた


「玩具でも現金でも何でも良いぞ。最近の子供は可愛げが無くての、昔の子供は人形一つで大喜びしたもんじゃが・・・」
「・・・はぁ・・・」
「何でも良いんだって。ルルーシュ、何が欲しいんだ?」
「そうなんだ・・・・けど・・・」


ニコニコと笑うスザクと老人を交互に見つめ、ルルーシュは困ったように眉を寄せた


「・・・別に僕は欲しい物なんて・・・(それに欲しいものは『物』じゃない)」


玩具が欲しいのではない
お金が欲しいのでもない

欲しいもの


(それは・・・)


ルルーシュはゆっくりと目を閉じた
思い浮かべるのはたった一人の妹
目も見えず歩けないナナリー

そのナナリーの幸せ


(・・・そして)


目を開ける
側にはニコニコと微笑んでいるスザク

日本に来て初めて出来た友達
そして初恋の相手

彼とナナリーと自分
三人でずっと一緒にいられたら


「・・・僕は・・・」


ルルーシュはジッと老人を見上げる


(いつまでもこの生活が続くとは僕だって考えていない)


ルルーシュの祖国であるブリタニアとスザクの住むこの日本の関係は時間が経てば経つほど悪化している
いつ開戦するかわからない

もし戦争になれば自分達の繋がりは途切れてしまうだろう
それどころか、ルルーシュたちは殺されてしまうかもしれない


(・・・僕がほしいもの。それは・・・)







◆◇◆◇


あの時ルルーシュは老人に欲しいものをお願いしなかった
欲しいものは自分の手で手に入れるものだと思っていたからだ

だが数年経って、ルルーシュはあの自称サンタクロースという老人にプレゼントを願った
それを願ったのはスザクと再会する前の年のクリスマス
(と、いっても彼は昔と同じ様にクリスマスシーズン前にルルーシュの元に現れたのだが)


「そろそろプレゼントを願ってみんか?」


昔と少しも変わらない老人
本当にサンタクロースなのかもしれないと初めて思った


「いくつかある望み。その一つだけでも叶えさせてはもらえんかのぅ?」




ナナリーの幸せ
父への復讐
母の死の真相




「・・・そうか・・・だったら・・・・」




****


「・・・」


ルルーシュはふらりと庭に足を踏み入れた
そこにはトナカイの引くソリに乗ったサンタクロースが飾られていた

あの時、ルルーシュは願った


『会わせてほしい。それだけで良い。後は自分で手に入れる』


そう告げた時、老人はニッコリと微笑んだ





『俺とスザクをもう一度会わせてくれ』






それがあの時願ったプレゼント


「・・・・」


クスリと微笑みながらルルーシュはサンタの飾りを指で突いた


「アンタは本物だったのかもしれないな、爺さん」


何故なら


「ルルーシュ?何してるの?」


ルルーシュが振り返るとスザクがにこりと微笑みながら近づいてきていた
そのスザクの手を握り引き寄せ、軽く抱きしめる


「・・・別に。ただいま、スザク」
「・・・おかえり、ルルーシュ」


願ったのは再会
そしてそれは数ヵ月後叶った



(ジノ、残念だがサンタクロースは実在するようだ)


願いは叶い
そして手に入れた











もうじきサンタクロースが誰かの願いを叶えにやってくる
それは貴女の願いかもしれない・・・