新しい風は突然起こった





神聖ブリタニア帝国
世界の三分の一を支配した国の98代目の皇帝が突如崩御した
詳しい死因等は発表されず、99代目の皇帝の名前だけが一週間後に公表された

それは死亡とされていた第十一皇子 ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアだった

彼は皇帝崩御の直後に宮殿に戻り、ブリタニア軍を率いてエリア11で行動していた黒の騎士団を殲滅した
誰一人生かして帰すな
ルルーシュが戦闘中何度も繰り返した言葉だった








「ククク・・・もっと早くこうしていれば良かったかな?」


明日、戴冠する新皇帝 ルルーシュは自室のソファに寝転んで楽しそうに話す
その話し相手は緑の髪の女 C.C.だ


「しかし、まさかここまでするとは思わなかった」
「ああ・・・黒の騎士団か?」


黒の騎士団
かつてルルーシュが作り上げた反ブリタニア勢力
ゼロと言う王に率いられ、何度もブリタニアと互角に戦ってきた

それをルルーシュは皆殺しにした

戦闘中に聞こえてきた悲鳴
ゼロに救いを求める声
ブリタニアを呪う声
ゼロを憎む声

ルルーシュはそれを聞きながら笑っていた


「所詮やつらは駒の一つ。不要だと感じれば切り捨てる。それだけだ」
「上手くやっていたと思っていたがな」
「・・・ブリタニアは大きい。頂点である皇帝からすれば最下層と戦う黒の騎士団等ただのムシケラだ」


だから皇帝になろうと決めた
そしてその為には父である前皇帝を始末せねばならなかった
皇帝の所へ忍び込みギアスをかけた
自殺せよ。新皇帝にはルルーシュを指名せよ と
そして皇帝となるからにはゼロ=ルルーシュと知る者の始末と、各国から反ブリタニアとして期待され始めた黒の騎士団を始末する必要があった


「罪深い男だ」
「それがブリタニアの歴史。ブリタニアの皇帝だ」


ルルーシュは再び笑う
しかしC.C.の次の言葉でその表情は一変した


「その皇帝。ナナリーは認めてくれなかったな」
「・・・ああ」


ルルーシュの顔から笑顔が消える
感情一つ浮かべていない
ルルーシュは眼を閉じた


『お兄様は間違っています』


音声のみでの通信だった

エリア11へ総督として派遣されていた妹
堂々と兄として連絡を取ったが、映像をつけての会話はしてくれなかった


『私が気がついていないと思っていましたか?お兄様の力や黒の騎士団の事』


ナナリーは全て知っていた
ルルーシュがゼロである言う事。ユフィを殺した事。そのせいでスザクと憎しみ会うことになった事。皇帝になる為に父を殺し、黒の騎士団を殲滅した事


『お兄様の玉座は血と骨で出来ているのです。貴方は死の王です』


ナナリーは強い言葉でこう言った。自分の兄は死んだのだ と


『貴方はお兄様ではありません。ですから私は貴方の即位を認めません。私は貴方を認めません』





「王の力はお前を孤独にする・・・お前が守りたかったナナリーはお前から離れた」
「・・・・」
「シャーリーもユーフェミアも。お前が愛する者はお前から離れていく」


ルルーシュはナナリーを本国へ連れ戻した
静養地としても有名な田舎へと送った。彼女は一生そこの宮殿からは出てこないだろう


「・・・そして・・・スザク」
「・・・」
「きっといつかアイツに殺されるぞ?」


スザクとも通信で話した
ナナリーと違って映像での会話
新皇帝として即位する事となった。そう告げると彼は驚きに眼を開き、その後すぐにルルーシュのした事を理解した
皇帝になる為黒の騎士団を切り捨てたルルーシュを、彼は思いつく限りの言葉で非難した
だが彼はナイトオブセブン
皇帝の騎士
新皇帝であるルルーシュの命令には逆らえない
勿論彼は拒否した。誰がお前の命令に等従うか と
だからルルーシュは彼を脅迫した
ならば日本を滅ぼすしかないと、スザクがルルーシュの騎士となるなら『お情け』で日本を生かしてやろうと

数分 スザクは俯いて考えていた
そしてゆっくりと顔を上げた彼はルルーシュを憎しみの篭った眼で睨みつけ、跪いた
それを見てルルーシュは笑った。彼が日本の為に自分に従う事を選んだのだと悟ったからだ


「お前は愚かだな」
「・・・スザクには式根島でのギアスがかかったままだ。それにアイツは俺に従うしかない。日本の為に」
「シャーリーの様に簡単に死なない。そしてナナリーのように離れていかない。そういう事か?」
「ああ、そうだ・・・スザクだけは、俺の側から居なくならない」


ルルーシュの言葉を聞いたC.C.は呆れてため息をはいた


「お前は史上最悪の愚か者だな」














C.C.の去った部屋でルルーシュは一人でソファに寝転んだままだった
先ほどと違うのは彼の手には一枚の写真があった事

ナナリーとルルーシュ。そしてスザクが笑って映っていた
再会の記念に撮った写真だ

この頃のルルーシュはスザクがランスロットのデヴァイサーだと知らなかった
この頃のスザクはルルーシュがゼロだと知らなかった
この頃のナナリーは兄の正体も、兄とスザクの確執も知らなかった

遠い昔のように思える、幸せだった時間


「・・・俺を・・・孤独にする・・・・か」


ルルーシュはぽつりとこぼした




ルルーシュもナナリーもスザクも
きっと望んだものは同じだった筈

三人でこうして笑っていられる場所
こうしてともにいられる時間





望んだものは優しい世界