新皇帝の即位式

皇族貴族、今日の日に招かれた他国の要人、そしてメディア
大勢の人間がそれを見守っている

スザクはラウンズとして他の仲間と共に会場の警護にあたっていた















『私が次の皇帝だ。ナイトオブセブン』


突然の皇帝の崩御
その後の混乱と本国からの援軍
そして援軍を率いてやってきたという皇族との通信

その相手である皇子を見た時、スザクは全てを理解した


『スリーとシックスにはこちらに来るように指示した。セブン、君は政庁でナナリー総督を警護していてほしい』


黒い髪にアメジストの瞳
なにより見慣れたこの顔


『作戦終了後にもう一度話そう』


ルルーシュだった






彼はゼロだった。そして今もゼロのはずだった
だが彼は黒の騎士団を滅ぼした
戦闘後の報告に眼を通したが、酷いものだった
生存者ゼロ
あたり一面に焼け焦げた人の脂のにおいがしていたという


黒の騎士団殲滅後、スザクはルルーシュと通信でだが会話をした
その際、スザクはルルーシュに告げた。君を主として使えることは出来ない と
彼は恐らくギアスを使った。そして皇帝を死なせ、自分を次期皇帝に指名させたに違いないと予想していた
そして皇帝となるからには邪魔な存在である黒の騎士団を潰したのだ
自ら作った軍であるはずなのに。仲間であった筈なのに
目的の為ならばどれだけの命が消えてもかまわないと考える男
そんな男にどうして仕える事ができるだろう。スザクはその場で退任を申し出た
しかしルルーシュの答えは「認められない」だった

彼はスザクを脅迫した
ラウンズを、皇帝の騎士を退任するのならば、スザクの故郷日本を攻撃すると
黒の騎士団は日本の独立を目的としていた。ならばゼロは日本人に違いない
もう二度とゼロと黒の騎士団を生み出さない為に日本を徹底的に痛めつける必要がある と
勿論スザクは反対した。日本人に罪はない。全ての元凶はゼロだ と


『それは日本人の言い分。ブリタニアは報復したいと考えてるぞ?』
「・・・」
『だがそれを止める方法は一つだけある。解っているんだろう?俺は皇帝になるんだ』


どうすれば良いか、言ってみろスザク
ルルーシュの声にスザクはグッと唇をかみ締めた



数分後、スザクはルルーシュに跪いた

「・・・・私、枢木スザクは貴方の騎士です・・・・皇帝陛下・・・」


忠誠を誓いつつもスザクは憎しみを込めて画面の向こうの彼をにらみつけた
どうやらそれは向こうに伝わったらしく、彼は満足そうに笑ったのだった











それから今日までいろいろあった
ナナリーの総督解任。そして病気療養のためとしての地方の宮殿への事実上の幽閉
共に行きたかったが、ルルーシュとの取引の事もあり、それは叶わなかった
エリア11には新しく総督が選ばれ、やはり日本人はイレヴンとして冷たい扱いを受けている
そしてスザクも本国へと呼び戻された。これからは本国での勤務になるのだと聞いた



戴冠式当日
会場の警護をしつつ遠く離れた所にいるルルーシュを見つめる
ちょうど王冠を被った所だった。スザクはそれを複雑な思いで見つめていた









式終了後、皇族や貴族で政治や軍事に関わる者、ナイトオブラウンズ、軍高官を集めたルルーシュは新たな人事を発表した


「・・・それと私の主席補佐官だが・・」


次々と発表された人事。その最後にルルーシュは自分の右腕とも言える補佐官の名を口にした


「ナイトオブセブン 枢木スザクを指名する」


首席秘書官は常に皇帝と共にある役職だ。軍務はもちろん、政務にも関わってくる
それをブリタニア人ではないスザクに就かせる等、生粋のブリタニア人からすれば認められることではなかった

ザワザワと騒ぎ出す会場。皆がスザクを注目する
そして注目されたスザクも驚きに眼を開いてルルーシュを見つめていた


「陛下、よろしいでしょうか?」


その声に会場はしん・・と静まり返った
手を挙げているのはルルーシュの兄シュナイゼル
ルルーシュによって宰相と言う地位は奪われたが、国政においてルルーシュの次に発言権がある人物だ

ルルーシュが無言で頷くと、シュナイゼルはスザクをチラリと見た


「枢木卿は軍人としては文句のつけようがないと私も思います。ですが、主席補佐官は皇帝を助け、時には皇帝に助言も与えねばならない重要な地位・・・・彼が相応しいとは思えません」


シュナイゼルはスザクを見つめた。その眼は「すまない」と謝っているようで、スザクは頷いて答えた。シュナイゼルの意見は間違っていない
だがルルーシュはクスリと笑う


「兄上、私は意見を求めてはいない」
「・・・」
「ただ私は決定した人事を発表しただけ。変えるつもりはない」


ルルーシュの声は大きくはなかった。だがあたりはしんっと静まり返っており、この部屋の誰一人として彼の声が聞こえなかった者はいなかっただろう


「・・・陛下・・・」
「この話はここまで。他の人事については書面にて発表する・・・以上だ」


そう言うと、ルルーシュは奥へと向かう
ざわつく人々
スザクはジノやアーニャに話しかけられる前にルルーシュの後を追った






「陛下!」


ルルーシュは広い廊下を一人で歩いていた
それを追いかけ肩を掴んで呼び止める


「・・・なんだ?」


ルルーシュは少しイラついたように振り返った


「どうしてあんな事を?」
「あんな事?・・ああ・・補佐官の件か」


言ったとおりだが?とルルーシュは首を傾げた。そして先ほども言ったとおり、変えるつもりはないと笑う
スザクはふざけるなと声を荒げた。しかしルルーシュはふざけていないとスザクの頬を優しく撫でる


「この俺を殺したいほど憎いか?」


ビクリとスザクは体を震わせた
そうルルーシュは、ゼロは憎い敵。ユフィを殺しユフィに罪を犯させただろうユフィの仇
そして目的の為に多くの命を消してきた悪魔

スザクは無言でルルーシュをにらみつけた


「だからだよ」
「・・・言っている意味が解らない・・・」
「憎い男に無理矢理忠誠を誓わされている。お前にとって屈辱だろう?・・・俺はその姿を一番近くで見ていたい」


クスクスと笑うルルーシュの手をスザクは振り払った


「お前が俺を憎むように、俺もお前が憎い。退役させなかったのもナナリーの元に送らなかったのもお前を幸せにさせない為だ」
「・・・」
「お前は死ぬまで俺の僕。お前は一生俺の隣にいるんだ」
「っ・・・地獄に落ちろ!」


スザクは心の底からこの男が憎いと思った
殺してやる
どろどろとしたモノがスザクを支配する

ルルーシュはクスリと笑うとスザクを置いて再び歩き出した
スザクはその後姿を殺気をこめてにらみつけた














「そうか・・・お前も初めて聞いたのか」
「・・・うん・・・」


ルルーシュと別れた直後、ジノに捕まったスザクはラウンズ専用のサンルームで話し合っていた
そこにはロイドとセシルも待っており、スザクを心配していた


「スザク君はパイロットとしては一流だけど、指揮官としてはまだまだだもんねぇ」


それをいきなり皇帝補佐官だなんて とロイドも非常に驚いていた
セシルもジノも同様に驚いたと言う

スザクも自分の未熟さを認めて頷いた。ラウンズになって兵を指揮した戦闘もたくさん経験した。だが未だに敵に裏をかかれる事があり、まだ甘いとジノたちによく言われていたのだ
そしてもちろん政治等解らない。総督補佐として先日まで働いていたが、やはり多くの専門家や周囲の人間に教わりながらだ。補佐官は情報を収集し分析し、皇帝に政策さえ助言せねばならない。ルルーシュがスザクにそういう事を期待していないと解ってはいてもこの地位はあまりに不釣合いだ


「本当に・・・何を考えているのか・・・」
「本当にね」


スザクの言葉に同調する声があった。振り返るとそこにはシュナイゼルが立っていた




「再度陛下に考え直すように進言してきたんだが・・・」
「拒否されちゃった?」


ロイドの言葉にシュナイゼルは苦笑しながら頷いた


「枢木卿には申し訳ないが、君が補佐官の地位に就いている事を貴族たちは良く思っていない」


スザクは頷く。それは自分自身で良く解っている。ナイトオブセブンという地位でさえかなりの反発があった。今でもその地位を疑問視する声もある。それもこれもスザクが日本人だから。日本人が騎士としては最高位であるラウンズにいることが納得できないのだ。そして次は皇帝の首席補佐官。軍事だけでなく国政にまでスザクが関わる事。貴族だけでなく、ブリタニア人の誰もが納得できないだろう


「このままでは陛下の治世も危うい。・・・そう言ってみたんだがね」


ふぅ とため息をはくシュナイゼルを見たスザクは、同様にため息をはいた


「これ以上ブリタニアが荒れる事は私も望まない。だから力の限り陛下を補佐しようと思う」


シュナイゼルはスザクを見つめる


「だから君もルルーシュを・・・陛下を支えて欲しい」
「・・・・シュナイゼル殿下・・・」
「頼む」


下げられたシュナイゼルの頭。それをスザクは何も言う事が出来ず見つめた












スザクが去ったサンルームで、シュナイゼルとロイド、そしてジノがまだ残っていた


「あの顔は嘘ついてる顔じゃないよ。本気でこの人事に動揺していた」


ずっと面倒を見てきた僕が言うんだから当たってるよ とロイドは自信満々で微笑んだ
ジノも同意見のようで、頷いていた


「それにはっきりとは聞こえませんでしたが、陛下とスザクの仲は良い様に思えませんでした。どちらかというとスザクは陛下を嫌って・・・憎んでいるようにも思えます」


ルルーシュとスザクの会話を隠れてジノは聞いていた。はっきりと聞こえなかったというのは嘘で全て聞いていたが、スザクの「地獄に落ちろ」というセリフが皇帝不敬罪にあたるので隠す事にしたのだ


「・・・だろうね。あの二人の間には大きな壁がある。簡単には超えられない、壊せない壁が」


壁・・・ジノはその言葉に首を傾げた。ルルーシュが幼い頃スザクと出会っていた事は知っている。戦争後にアッシュフォードで再会した事も。自分も何度か二人が話している所を見たことがある。確かにどこかぎこちなかったが、それほど大きな壁があるようには思えなかった


「君は知る必要はないよ・・・ヴァインベルグ卿」
「・・・」
「と、言う事はやはりルルーシュの独断か」


シュナイゼルは考え込む。ジノはそれをじっと見つめた

ジノもシュナイゼルも今回のルルーシュの即位に疑問を持っていた
なによりあのシャルルという男が自殺するように思えなかったからだ

何か裏がある
自分達の知らない所で何かが動き何かが起こった

そしてそれを知るのはルルーシュだけ


「枢木君を補佐官に任命したから、彼も何か関わっていると思ったんだがね」


実はスザクの人事についてシュナイゼルは事前に情報を掴んでいた
日本人であるスザクはブリタニアを憎んでいるに違いない。そしてルルーシュはスザクの幼馴染。ルルーシュもまた皇帝に恨みを持っていた
どんな方法を使ったか解らないが二人が手を組んで前皇帝を死なせルルーシュを皇帝に指名する遺言書を書かせたのではないかと予想したのだ

シュナイゼルはルルーシュがゼロだと確信していた。そしてスザクはゼロを憎んでいた
手を組む等有りえないと思ってはいても疑ってしまった


「もしそうだとしても、あの子は陰謀なんて得意じゃないよ。何かで脅されてって考えたほうがしっくり来る」
「何か・・・もしかして『日本』ですか?」
「だろうね。あの子を脅す材料なんてそう多くないからね」


シュナイゼルはため息をはくとジノの名を呼んだ


「はい」
「君に頼みがある」


ジノはシュナイゼルの頼みを聞くとしっかりと頷いた