「君のような出自の者が 」
ああ、また始まった
スザクは本日何度目かのため息をはいた
勿論、周囲の者には気がつかれないように だ
ルルーシュの口から出たありえない人事のお陰で、スザクはこうして関係各所へと挨拶回りをするはめになった
今までは軍内だけで良かったがこれからは政治の世界とも関わらなくてはならない
つまり貴族や財界の者を相手にやっていかねばならないのだ
そして彼らはスザクを疎ましく思っているようだった
無理もない・・・
スザクは彼らの気持ちを一応は理解している
ラウンズになった時も散々言われたのだ
『ナンバーズ如きが』と
貴族でもなければブリタニア人でもないスザクが自国の最高権力者である皇帝の一番近くにいることが赦せないのだろう
だったらルルーシュに進言してくれれば良いものを、彼らはスザクにこうして嫌味を言うだけなのだ
やはり命令違反になろうが、断固拒否しておけば良かった
スザクは今更ながらに後悔していた
「まぁまぁ、これから仲良くやっていかねばならないのに、そんな風に棘を含ませるものではないですよ」
一体何分ほどで開放してもらえるだろうと肩を落としていたスザクの後ろからかかる声
「ヴァインベルグ卿」
「・・・ジノ・・・」
「我々は皇帝陛下を支える為に存在している。ナンバーズもブリタニア人もないと関係ないと思いますよ」
ニッコリと笑うジノにスザクはホッと安堵の息をはいた
「ありがとうジノ」
「いや。あのままだと最低でも三十分は開放してもらえなさそうだったしな」
並んで歩くジノに礼を言いながらスザクはにっこりと笑った
同じラウンズのジノが自分の副官になったと聞かされたのは今朝の事だった
それを告げてきたのはシュナイゼルだったが、ルルーシュの承認もあるのだという
ラウンズとしてはジノの方が上。正直戸惑ったが他の誰とも解らない者よりもジノの方が良いと頷いた
「あんな奴らの相手は私に任せて、スザクは政治を勉強したほうが良い」
「ぅ・・だよね」
はぁぁ・・・とスザクは大きなため息をはいた
元日本の首相の息子とはいえスザクは政治家としては素人だったのだ
気が重いよ と肩を落として歩くスザクの後姿を見つめながら、ジノはシュナイゼルの言葉を思い出す
『君に頼みがある』
『頼み・・・ですか?』
『枢木君の副官に君をつける。そこでルルーシュが前皇帝を殺したという証拠を見つけて欲しい』
『・・・・っ』
シュナイゼルに命じられたのはスパイ活動
スザクの副官としてルルーシュに近づきなんらかの情報を得る事
『・・・もし・・・ルルーシュ様が前皇帝を殺害していたら・・・どうされるんです?』
ジノは自分の声が震えているのに気がついた
『どうもしない。とりあえずは・・・ね』
『あれでしょ?ルルーシュ殿下が失敗したらそれをネタに皇帝の椅子を奪っちゃうつもりでしょ?』
ロイドがやりそうだよね と笑う
シュナイゼルもクスクスと笑っていた
『・・・スザク・・・は?』
ジノとしても突然現れたルルーシュよりもシュナイゼルの方が皇帝として相応しいと感じている
だからルルーシュを皇帝の座から引き摺り下ろすのには反対しない
しかしそれではスザクはどうなるのだろう
首席補佐官と言う地位はルルーシュの独断だ
しかし影ではスザクが旧知の仲を良い事にルルーシュに強請ったといわれているのだ
『あ。彼は大事なパーツなんだから一緒に殺さないでよ?』
『彼が関わっていないのだったらね』
『あの子はそんな事しないって』
ギュッとジノは拳を握った
スザクが無関係だと必ず証明する
彼はそんなことが出来る人間ではないのだから
「ジノ?どうかした?」
立ち止まったままのジノを振り返ったスザクは首を傾げていた
それを見てジノは微笑む
スザクはあのルルーシュを憎んでいる
絶対に前皇帝の死に関わって等いない
(それを必ず証明してみせる・・・・そして・・・スザクは私が・・・)
「ジノ?」
「・・・何でもない。それじゃあ、次のお偉いさんの所に行きますか」
ぽん とスザクの肩を叩くと彼は嫌そうな顔をして項垂れた
クククと笑いながらジノはスザクの手を引いた
(スザクは私が貰う。あの皇帝には渡さない)