「スザク」
「・・・はい」
皇帝が呼べば返事をして近寄る
その皇帝は手元にある書類をスザクに渡すと「ここが間違っている」と指摘した
「はぁぁぁ・・・」
スザクの執務室は皇帝の執務室と同室にある
それまでの補佐官は別室で仕事を行っていたらしいが、スザクが不慣れだった為かルルーシュが同室を希望した
元々皇子として教育を受けていたルルーシュと違い、スザクは小さい頃から元気いっぱいに育った
それは父の政治家と言う地位が世襲制ではなかった為だろうが、少しくらいは教えてくれてても良かったんじゃないかと死んだ父に恨み言をこぼした
「大きなため息だなぁ、スザク」
ルルーシュたちの執務室の隣にはジノの執務室がある。本来スザクはこちらにいるべきなのだが・・・
「また・・・失敗した」
「・・あ〜・・」
ジノは「そうか・・・」と苦笑していた
四男とはいえ彼はヴァインベルグ家の者。それなりの帝王学の教育は受けている
スザクよりよっぽど皇帝の役に立っている
「んで?どこが間違えたんだ?」
「・・・ここと・・・・ここと・・・・ここ」
「ほうほう」
ジノはスザクに解りやすく説明してくれた
スザクの仕事は皇帝の補佐
その一つ一つがこの国の明日に繋がっており、失敗は赦されない
決して望んでこの場所にいるわけではないが任されたからには精一杯やりたい
そして一日でも早くジノやルルーシュに負担をかけないようにしたいのだ
「ほら、陛下に提出して来い」
「うん。ありがとう」
手直しした書類を手にスザクは席を立った
この部屋にはスザクの机も用意されている
こうしてジノに教えを乞うときに必要だからだ
「あ・・・そういえば」
「?何?」
ジノは思い出したようにスザクを呼び止める
スザクが振り返るとジノは「聞き忘れてたんだけど」と苦笑した
「お前、今何処に住んでるんだ?」
「・・・・」
「ラウンズ用の部屋に行ったら引っ越したって言われて・・・」
「あ・・・うん・・・そうなんだ」
スザクがルルーシュによって初めて抱かれた翌日。ジノは急遽ラウンズとして遠征に出ていた。インド辺りで大規模なテロ活動が起こった為だ。そして帰ってきたのは昨日。きっとまだ聞いていないのだろう
「んで?何処だ?」
「えっと・・・その・・・」
今日からここを使え とルルーシュの寝室の隣の部屋を与えられた
しかも扉一つでその二つの部屋は繋がっている
ここは皇帝の後宮
つまり本来は皇帝の妃達が住まう場所
自分が住むわけにはいかないと反発したのだが
『お前は俺の補佐官だろ?それにお前は余程俺と身体の相性も良いようだし』とはやり無理矢理住まわされる事となった
なんせ、眼が覚めた夕方には荷物が運び込まれており、すぐに住める様に整えられていたのだ
「スザク?」
「うん・・・その・・・陛下の寝室の・・・隣・・」
「・・・・・・・・・・・はい?」
ああ、流石のジノも驚いているんだな とスザクはぼんやりと思った
一方のジノはぽかんと大きく口を開けていた
「隣って・・・マジ?」
「うん。本当」
はぁ・・・と今度はジノが大きなため息をはいた
「スザク・・・」
「うん」
「それはまずいと思うぞ?」
「・・・・」
皇帝の寝室の隣だなんて、あらぬ噂を立ててくれと言っているようなものではないか
ただでさえスザクは貴族に疎まれているというのに
ジノは一言ルルーシュに言っておくべきだと考えた
「スザク」
「何?」
「お前、ワンに引っ越した事伝えてないだろう?」
あ・・・とスザクは気がつく
引越しといってもルルーシュに全て勝手にやられていた事だが、そういえばジノにもアーニャにもナイトオブワン・ビスマルク・ヴァルトシュタインにも伝えていなかった
「怒ってるかもよ?」
「・・・」
「思い出しているうちに行った方が良くないか?」
そうかも・・・とスザクは全力でビスマルクの下へ走っていった
「失礼します」
ルルーシュは入室してきたジノに一度だけ眼を向けると自身の仕事に眼を戻した
ジノはまっすぐルルーシュの下へ行き、スザクが提出するはずだった書類を渡した
「・・・枢木はどうした?」
「ラウンズの仕事でワンの下へ行きました」
そうか・・・とルルーシュは小さく呟くとジノを見つめた
「で?何か言いたい事でもあるのか?」
「はい。スザクのことです」
もしかしたらルルーシュはジノがこう言ってくる事を予想していたのかもしれない
言ってみろ と不適に微笑んだ
「彼を御自分の寝室の隣に住まわせたとか」
「ああ」
「彼が補佐官に任命された時に流れた噂。ご存知でしょう?」
「枢木が地位を俺に強請った・・というやつか?」
クククっとルルーシュは笑った
ジノは笑い事ではないと眉を顰めた
あの噂のお陰でスザクが随分苦労した。スザクに実力があればすぐにその噂は消えたのだろうが、生憎彼は素人だった
その為に『やはり』と囁かれ、貴族達から散々嫌味を言われたのだ
しかし貴族達も飽きてきたのかここ最近では下火になってきていたのだ
「そのうえ俺の隣の部屋。俺の情人と言われかねない、か?」
「お解かりでしたら何故?」
ルルーシュはニヤリと笑うと「お前には関係ない」と告げた
「・・・」
「そもそもお前は兄上のスパイだろう?」
ぎくりとジノが身体を揺らした。ルルーシュは満足そうに笑う
「俺が前皇帝を殺した証拠を探している・・・か?だったらいらん事に気にしないで任務を遂行すればいい」
「・・・大した自信ですね」
その自信は見つからないと確信しているからか、それともそもそも殺していないのか
ルルーシュの表情からは読み取れない
「・・・ではそうさせていただきます」
「ああ・・・・そうだ、ヴァインベルグ卿」
退出しようとするジノをルルーシュは呼び止めた
「何です?」
「もう一つ言っておく事がある」
ジノは首を傾げてルルーシュを見つめた
「アレは俺の物だ」
お前には渡さない
ルルーシュは笑みを消した眼でジノを睨みつけた
「・・・・」
「行っていいぞ」
ジノがルルーシュの執務室から出てきたのと同時にスザクが帰ってきた
そしてそのままルルーシュの元へと向かう
ジノはその後姿を見つめながら複雑な思いを抱いていた
(あの男はスザクの事を・・・・だがあの二人は憎みあっていた。少なくともスザクは彼を憎んでいる)
しかし先ほどのルルーシュの眼
あれは本気だった
本気でスザクを渡さないと言っている眼だった
もしルルーシュがスザクを愛しているのだとしたら、それはなんと悲しい事なのだろう
スザクはルルーシュを憎んでいる
きっと彼を愛することはないだろう
なのにルルーシュはスザクを側に置いた
憎まれてもいい
ただ彼に居て欲しいだけなのだ
誰よりも近くに
ルルーシュの一番近くに