(ああ・・・疲れた・・・)


執務室の自分の椅子に腰掛けてスザクはため息をはく
スザクはここ毎日自分の体が疲労で悲鳴をあげている事に気がついていた
だが就いている役職上、勝手に休むやけにもいかず、せめて次の休みまでは!と自身に喝をいれてこうして仕事をしている


「枢木」
「・・・ハイ」


同じくこの部屋で仕事をしているこの国の皇帝に呼ばれ、スザクは僅かな沈黙の後ゆっくりと席を立った


「この案件だが・・・」


淡々と事務的に用件を述べていく主の声に耳を傾けながら、スザクは「どうしてこの男はこんなに元気なんだ?」と不思議に思わずにはいられなかった
スザクの疲労。それはすべてこの皇帝のせいなのに・・・







それは十日前からの事
それまではスザクの休みの前日しか行われていなかった行為が毎夜になってしまった事
毎日毎日気絶するまで追い上げられて追い詰められて毎晩ルルーシュに泣きついて「助けて」と縋っている
幼い頃から自分よりも体力のない彼が、どうしてこんなに毎夜の行為を続けられるのかスザクには不思議でならなかったが、目の前の男は本当に元気そうであった

こんなに元気ならさっさと皇妃の一人でも迎えてくれたらいいのに・・・とスザクは皇帝の隣で隠すことなくため息をはく


「・・・疲れているようだな」


僅かに笑っているルルーシュの声。スザクの疲労の原因を知っているからだろう


「・・・ええ、お陰様で」


誰のせいだと・・・言葉の裏にそう含ませるとルルーシュはフッと笑っただけだった











「あああっ!・・・・・る・・・る・・・・」


今夜もスザクはルルーシュの腕の中で意識を失う
するりと自分の首から滑り落ちるスザクの腕を掴んでルルーシュは微笑んだ


「・・・おやすみ・・・スザク」


汗で張り付いた前髪をかき上げて、ルルーシュはスザクの額に口付けをおとす
スザクは一瞬擽ったそうにした後、微笑んだ

それを見たルルーシュはそっとスザクの頬を撫でると浴室へと向かった




無理をさせているのは知っている
本来そのようには出来ていない体を無理矢理開かせて、ルルーシュを受け入れさせている
スザクにはかなりの負担を強いている事も解っている
だが先日のシュナイゼルの訪問から、どうしてもルルーシュには不安感が付きまとっていた
少しでも手を離せば、僅かでも気を抜けばスザクがあの男に奪われてしまう
そんな不安が・・・

スザクはルルーシュに残されたたった一つの存在
決していなくなる事のない、唯一の人
奪われるわけにはいかない


「・・・シュナイゼル・・・貴様には・・・」


ルルーシュはシャワーを浴びながら脳裏に浮かんだシュナイゼルをにらみつけた








あふっ と少し向こうの同僚が大きな欠伸をした
抑えきれなかったのだろう、すぐに口を押さえて俯いていた


「・・・枢木卿、お疲れかな?」
「!いっいいえ!申し訳ありません!」


多くな声で深々とシュナイゼルに頭を下げるスザク
ここは会議室で、現在皇帝やシュナイゼルといった国の中枢の者たちとの会議の真っ最中なのだ
ひそひそとスザクを非難する声があがる。完全な自分自身の失態の為、スザクはさらにしゅんと落ち込んでいた

それを見ていられなかった


「・・・ふあぁぁぁ・・・っと、シュナイゼル殿下、まだお話中でしたか・・・?」
「・・・ヴァインベルグ卿・・・君もかね?」


少しワザとらしかっただろうか?そう思いつつ、ジノは「寝たのは明け方だったもので」と舌をだして謝罪した
シュナイゼルもジノの気持ちを汲んだのか、クスリと笑っただけでそれ以上は何も言わなかった


「では、続きを・・・」


シュナイゼルが再び話し始めた
全員が彼の言葉に耳を傾けたようだ

やれやれと思いつつ、視線をスザクに向けると、彼はニッコリと笑って僅かに頭を下げた
ありがとう と言う意味のようだった







「ジノ、さっきはありがとう」


助かった と会議終了後、スザクは一番にジノへと駆け寄ってきた
その彼に笑いかけながら、ジノは彼の顔色が悪い事に気がつく


「・・・疲れてるんだろう?」
「そ・・・そんなことないよ」


嘘だ
ジノは眉を顰めた
ここ最近スザクの調子が悪い
どこか悪いというのではなく、疲れが溜まっているのだろう
首席秘書官という重責のプレッシャーもあるのだろうが、それだけではない事をジノは知っていた
皇帝との毎夜の行為。それがスザクを疲弊させているのだ
その変化に一番最初に気がついたのは、悔しい事にロイドだった
彼はスザクの後見人、キャメロットの主任研究員という立場と、最近ではルルーシュに専用ナイトメアの開発を頼まれているらしい彼は頻繁に宮殿にやってくる
その彼がぽつりとこぼしたのだ
『疲れてるなぁ』と
その時はどこをどう見てもジノにはスザクが疲れているようには見えなかった。だがロイドは自身ありげに言ったのだ
『君よりはあの子を長く見てきたからねぇ』

その言葉は正しく、スザクはその三日後にはジノの眼で見ても解るほど疲れていた
訳を聞いても本人は「疲れていない」と否定するばかり。せめてと休みをやってもかえって疲れが増しているようだった
ロイドに指摘されてからもう二週間が経った
これ以上は見てはいられない


「スザク」
「な・・・なに?」


びくりと肩を震わせるスザク
ジノはため息をはくと、スザクの肩をつかんだ


「私に嘘はつかないでくれ」
「・・・ジノ」
「頼む」


ジノはスザクを見つめる
スザクは暫く考えた後、コクリと頷いたのだった








「お前は陛下の事をどう思っているんだ?」


スザクの口から聞いた毎夜のルルーシュの呼び出し
拒否する事もできるだろうに、スザクはそれをしない。言い渋る彼から気長に聞き出すとやはり出てきた彼の故郷『日本』
これは取引なのだとスザクは悲しそうに微笑んだ

ジノはルルーシュの気持ちに気がついている
だから聞いてみたかった


「・・・え・・・・?」


スザクは一瞬何を言われたのか解らないといった表情でジノを見つめ返した
ジノは何も言わずスザクを見る


「僕は・・・・」
「・・・幼馴染だったんだろ?」


コクリとスザクは頷く


「お前がラウンズ入りする前は仲が良かったって聞いた」


コクリとまた頷いた


「けど、私が学園に行った時、お前たちは余所余所しかった」


スザクがギュッと拳を握って頷いた


「お前は・・・陛下が嫌いか?」
「・・・・嫌いだ」
「・・・・本当に?」
「・・・」


スザクは答えなかった。黙ってジノを見つめて、今にも泣きそうだった