予想していた
スザクもシュナイゼルも教えてはくれなかったが何処かで知っていた、気がついていたように思う
ルルーシュ=ゼロだと
「スザクを何処へやった!?」
スザクを送り出し、翌朝、宮殿へと戻ったジノをルルーシュは銃を突きつけて問いただした
予想の範囲の反応で、ジノは思わず笑いそうになる
「何処へやったと聞いているんだ!」
冷静なジノに対し、ルルーシュは完全に怒りで我を見失っている
成程、シュナイゼルの言ったとおり、スザクを彼から引き離せば勝手に自滅するだろう
このままにしていても良かった。だが、スザクと約束したのだ。帰ってくるまで彼の面倒は見る と
「落ち着いてください」
「っ!」
額に銃口を突きつけられながらもジノはルルーシュに対し冷静に応対した
「スザクは戻ってきます」
「今すぐだ!すぐにスザクを「彼はナナリー殿下の下へ行きました」 っ!」
ナナリー
その言葉を聞いたルルーシュから力が抜けた
その場に崩れ落ちそうになるのを抱きとめる
「陛下・・・」
「ナナリー・・・スザク・・・」
ジノはルルーシュをソファに座らせると彼を見つめた
「教えてください。貴方はゼロだったのでしょう?」
「・・・・・」
「だから、ナナリー殿下もスザクも、貴方を赦す事が出来なかったんですね」
ルルーシュは苦しそうに眉を寄せ、眼を閉じた
大切なものは少ししかなかった
大好きな母と大好きな妹
その母を亡くし、日本へ来た
そこで出来た新たな大切なもの
乱暴者だが優しさを持った日本の子供
再会した時、妹と彼の幸せに為に行動しようと考えた
そして動いた結果
彼の光になるはずだった人を死なせ、多くの人の命が消える事となった
一度は消された記憶
だが自分は思い出してしまった
彼への憎しみと共に
「俺は黒の騎士団に限界を感じた。だから皇帝になって世界を変えようと思った」
「けど全て知っていたスザクは貴方を認められなかった」
「ナナリーにも知られていて、妹は俺から離れる事を望んだ」
しかし、大切なものの一つ、スザクを手放すことはどうしても出来なかった
憎まれていてもいい。殺されてもいい。離れないでいてほしかった
「・・・貴方は、スザクを今でも憎んでいるのですか?」
「・・・憎しみは続かない、ジノ。永遠に人を憎み続けることなど出来ないんだ」
側にいれば尚更。憎しみよりも愛しさのほうが勝ってしまった
いや、最初から憎んでいなかったのかもしれない
「スザクが帰ってきたらアイツに話してください。ユーフェミア殿下の死の真相を。アイツはあの事以外は恐らく貴方を「大変です!」」
赦している
ジノのその言葉は突然はいってきた近衛の声でかき消されてしまった
「良いんでしょうか、勝手に私用で使って」
「良いんじゃないかしら。だって、キャメロット専用だし」
ウフフとセシルが笑う。スザクは「はぁ・・・」と小さくこぼした
ジノにナナリーの住む場所を教えてもらい、部屋を出るとセシルが待っていた
外へ出るとアヴァロンの姿
ジノを振り返ると彼はニッコリと笑っていた
ありがとう と手を振ってアヴァロンへ乗り込んだスザクはナナリーの所へと急いでいた
途中で「これって公務じゃなくて私用だけど良いのかな?」とスザクが疑問に思って先程のセリフである
「ま・・・今は首都近辺から離れておくべきだからね」
「・・・え?」
ロイドが小さく呟く
スザクがどういう意味か訊ねようとすると、目的地到着のアナウンスが響いた
出迎えてくれたのはアーニャだった
それにスザクが驚くと、「ジノから一週間前に言われたの」と教えてくれた
そこでおかしい事に気がつく
アヴァロンといいアーニャといい、用意が良すぎるのではないだろうか
「ロイドさん?」
問いただそうと名を呼ぶが、彼は微笑むだけで頭を左右に振る
「とにかく今はナナリー皇女に会いなさい。そして、答えを見つけておいで」
すべてはそれからだよ とロイドもセシルもアーニャもスザクをナナリーの元へと送り出した
「お久しぶりです、スザクさん」
バラの咲き乱れる庭にいた少女はスザクの気配に気がつくと上手く車椅子を操り、振り向いた
少女はふわりと温かい笑顔をスザクに与えた
スザクは思わず近くに駆け寄り、その手を握り締めた
「・・っナナリー」
ナナリーは穏やかな日々を過ごしているようだった
ルルーシュが彼女を酷い目にあわせるような真似はしないと解ってはいても心配だったのだ
それを告げると彼女は悲しそうに笑った
「兄とは話はしていません。ですがここの使用人達に毎日連絡を取ってくるようです」
「そうなんだ」
「ええ。ですから私の事は何も心配は要りませんよ」
ニッコリと笑う少女にスザクも安堵の笑みを浮かべた
落ち着いた時間
まるで何も知らなかった頃のようだ
スザクは自然と頬を緩ませていた
だが、ふと思い出す自分は彼女に訊ねに来たのだ
「ナナリー」
「はい?」
「僕とルルーシュは・・・赦されても良いのだろうか?」
「は、このタイミングで仕掛けてくるとは」
「私がスザクを攫ったのを確認したんでしょうね。今の貴方なら簡単に倒せると思われたのでは?」
ルルーシュたちの下へもたらされた情報は国を二分するものだった
シュナイゼルがブリタニア軍の半数を率いて皇帝に宣戦布告をしたのだ
「・・・お前はシュナイゼル派ではなかったのか?」
「スザクに約束したもので、帰ってくるまで陛下の面倒は私が見る、と」
ニヤリとルルーシュが笑い、ジノも同様に笑った
「ロイドも知っていたのか?」
「恐らく。あの人も殿下との付き合いが長かったでしょうし」
「・・・・なるほど」
ロイドからルルーシュ専用のナイトメアが届けられたのは昨日の深夜の事
しかも極秘にだ
そしてそのまま彼はアヴァロンでどこかへと去ってしまった
その直後にスザクがジノに、つまりはシュナイゼルに攫われたと知ったルルーシュは、ロイドも一枚噛んでいると判断していたのだが、今現在アヴァロンが確認されていないところを見ると、どうやら彼はシュナイゼルに味方するつもりは無いようだ
「ではお前はスザクの分まで働いてもらうぞ。私の為に」
「Yes, Your Majesty」
「赦す・・・ですか?」
ナナリーは微笑を消してスザクへと顔を向けた
「僕もルルーシュも罪人だ。僕はずっと彼を憎んでいた。でも・・・もう、彼を憎めないんだ」
「・・・」
「でも、僕は赦せないんだ。ユフィを殺した彼が。・・・だけど、それが・・・辛い」
ナナリーはスザクの手を握る
「本当はそうではないんでしょう?」
「・・・え?」
「スザクさんが赦せないのはお兄様ではなくてスザクさんご自身でしょう?」
スザクはナナリーを驚愕の眼で見つめる
ナナリーはニコリと笑うと続けた
「お兄様を赦しそうになってしまった、いえ、赦してしまったご自身をスザクさんは赦せないのです」
「僕が・・・ルルーシュを赦してしま・・・た?」
はい と頷くナナリーから視線を地面へと落とす
ユフィの仇。ゼロ
彼女の汚名をはらさずゼロであったルルーシュに仕えた。たとえ脅迫されていたのだとしても、それを忘れて彼の為に働いた時もあった
それは彼がブリタニアを、世界を良き方向へと導いていたから
ブリタニアの支配は変わらずとも世界は安定し、大きな戦闘も殆んどなくなっている
故郷では日本人の待遇も向上しているという
きっとこれがユフィの目指した、ナナリーが引き継いだ世界
それを実現しようとしてくれている彼を・・・
「・・・僕は、赦してしまっている?」
ナナリーは何も言わず、ただスザクの手を握る力を強めた
「・・・僕は・・・どうすれば・・・いいんだろう・・・?」
「・・・・もう、赦してあげてください」
スザクは顔を上げてナナリーを見つめた
彼女は微笑む
「貴方を貴方ご自身で」
ナナリーのいた庭から室内に入るとロイドやセシルが待っていた
彼らはスザクに気がつくと優しく微笑んでくれた
スザクは一言「帰ります」と告げた
するとロイドの顔から笑みが消える
セシルも何処かへ駆けて行った
「ロイドさん?」
どうしたのかとスザクが問いかけようとするとロイドの方が先に口を開いた
「スザク君、選ぶ時が来たんだよ」
ロイドの口から聞かされた情報
スザクは驚きに眼を開き、何も言う事が出来なかった
『殺したいほど憎い人、その人の元へ行くか行かないか。さぁ、どうするの?』