状況は最悪


『これは拙いかもしれないな』


ルルーシュがそう言えば無線からククっという声がもれる


『だったら大人しく後ろで指揮を執ってくれてれば良かったんですよ』


最前線に出てくるなんて。とジノは非難を含めた声で答えた


『一番前にいた方が指示し易い。それに、出し惜しみもしていられないだろう?』
『ま、この状況ではね』


ジノはレーダーに映る敵味方の識別信号を見た
明らかにこちらの方が分が悪い

兵力としてはほぼ半分
だがその質が違う
正規軍であるこちらの兵は殆んどが本国内勤務だったのに対し、シュナイゼル軍は国外勤務、つまり実践で戦っていた実力ある兵士達だった
あちらは統制もとれて組織的に戦っているのに対し、こちらも健闘しているが少しでも味方が攻撃されると浮き足立っている
それを激を飛ばしなんとかコントロールしているが、ジノ一人では限界がある
そこで出ざるを得ない状況になりルルーシュが前線へと出てきてしまった
機体が新型だったのとゼロを思い起こさせる黒だった為か、敵はルルーシュが出てきた事を察したらしい
先程から彼だけを狙ってきている


『こんな事になるのなら』
『?何か言いましたか?』




こんな事になるのなら、一言伝えておきたかった




ルルーシュはゆっくりと眼を閉じた
思い出したのは茶色の髪と翡翠の瞳




「俺はお前を・・・・」




ルルーシュが眼を開けると数機のナイトメアが銃を向けていることに気がついた
ジノはそれ以外の敵に集中しているようで気がついていない
ルルーシュはフッと笑うとその敵を見つめた

力で無理矢理手に入れた玉座だ
同じ様に力で奪われても文句は言わない

だが  


「最後に会いたかったな」


スザク


その名を呼ぼうとした時だった











『ルルーシュ!!』


見えたのは白い風
ルルーシュを狙っていたナイトメアを、周りを囲んでいる敵を次々と倒していく


『ルルーシュ無事か!?生きてたら返事しろ!!』
『スザク!来てくれたのか?』


ジノには聞いてないよ!とジノとスザクのやり取りが無線で聞こえてきた
ルルーシュは目の前の白い機体、ランスロットを信じられないといった眼で見つめていた

ジノの話ではスザクはナナリーの所へ言ったと聞いていた
ルルーシュの予想ではスザクは間に合わない筈だった
それどころか彼にはこのまま逃げてほしいと思っていた
このままナナリーと共に争いから遠い所で幸せになってほしいと


『ルルーシュ!聞こえないのか!?』
「・・・スザク?」
『!ルルーシュ、無事か!?』
「お前・・・どうやって・・・?」


やっと答えてくれたルルーシュにスザクがホッと息をはいたのが無線越しでも解った
スザクはルルーシュの機体の手を引くと移動し始める
それをジノが援護する


『とりあえずルルーシュはアヴァロンへ。ジノは?』
『まだ大丈夫だ』


スザクの言葉でアヴァロンの存在に気がついた
なるほど、とルルーシュは笑った
あのロイドのお陰なのだ








「はーい。いらっしゃーい」


アヴァロンのブリッジにあがるとロイドが笑顔で出迎えた
ルルーシュがため息をはきながら席に座るとニコニコしながら近づいてきた


「アヴァロン、改造しといて正解だったでしょ?」
「・・・ああ、助かった」


ランスロット専用母艦であるこの艦を『改造しよう』とこの男がルルーシュに言ってきたのは一ヶ月前
攻撃と防御の強化も当然だが、なによりロイドが強く主張したのは移動速度の向上
正直、移動速度を上げる必要があるのか疑問に思ったがどうやらこうなる事を見越していたのだろう


「もぉ最高速度で飛んできたんだよ」


数度のテストでも出なかった速度だった為、壊れてしまうのではないかと心配だったとロイドはこぼした


「スザク君が「もっととばせ!急げ!」って怖い顔して怒鳴るんですよ」
「・・・スザク・・・」


ルルーシュは目の前の戦場へと眼を向けた
どうやらアヴァロンで一緒に来ていたらしいモルドレッドが戦闘に参加している
ランスロットの参戦で敵軍は浮き足立っているようだ
『ブリタニアの白き死神』
かつて世界に広まったその名とその白い機体
その力に恐れをなしたといったところか


「良かったですねぇ」


にやにやとロイドがルルーシュに笑う
何がだ?と訊ねるとロイドは一瞬キョトンとした後吹き出した


「いろいろと・・ですよ」








その後戦闘は数時間で終了する

首謀者のシュナイゼルの生死は不明。乗っていたとされる戦艦は墜落したが直前で逃げたという情報もあがっていた
反乱軍に回っていた軍勢もことごとく降伏し、半年後には再び穏やかな日常が戻った


「枢木スザク、お前をナイトオブワンに任命する」
「はい」


情勢が落ち着いた頃、ルルーシュはスザクをナイトオブワンに昇格させた
皇帝の危機に駆けつけ、また、前ナイトオブワン ビスマルク・ヴァルトシュタインを倒した功績から任命したのだ




誰もいない二人きりの玉座の間
任命式にはジノやロイドといった他の重臣もいたのだが、今はルルーシュが彼らを追い払った
スザクも決してそれを驚いてはいなかった
きっとどちらも解っていたのだろう
向き合うときが来たのだ と


「・・・皇帝陛下・・いや、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアに聞きたいことがある」
「・・・・ああ」


スザクはゆっくりとルルーシュへと近づく
その手には剣。ルルーシュが作らせて先程スザクに贈った物だ

スザクはそれを引き抜くとルルーシュの首筋へと当てた


「・・・・」
「ユーフェミア殿下は何故死ななければならなかった?
何故彼女を殺した?
何故彼女はあんな事をした?
何故・・・君は・・・」


スザクは今にも泣きそうな眼でルルーシュを見ていた
ルルーシュは一旦微笑むと表情を引き締め「俺の罪だ」と語った


ユーフェミアとの会話
暴走したギアス
ルルーシュはあの時あった事をスザクに話した


「彼女を止めるためには日本人を全滅させるか彼女を殺すしかなかった。俺に前者を選ぶことは出来なかった」
「・・・だから、ユフィを殺した・・・・」
「そうだ」


スザクは静かに目を閉じ俯いた


「俺は止まるわけにはいかなかった。目的を達する為、利用できるものは最大限に利用した。・・・それが・・・どんな事でも」
「君は、全てを・・・たくさんの命を、自分の為に犠牲にしてきた」
「ああ、否定しない」


グッとスザクの握る剣に力が篭る
ルルーシュはフッと笑った


「俺を殺したいんだろう?」
「・・・・っ・・・」
「殺せばいい。お前になら、殺されてもいい」


カタカタと剣先が震える
それと同時にスザクの小さな声が聞こえた


「・・・て・・・?」
「なんだ?」
「どうして・・・笑ってるんだ?・・・そんな、優しい顔をしてるんだ・・?」


顔をあげたスザクの頬を涙が伝う
そして、がしゃんという音をたてて剣が床に落ちた


「ゼロのように冷酷な顔をしてくれれば良いのに、もっと人殺しのような顔をしてくれていたら・・・僕は・・・」


ルルーシュは立ち上がるとスザクの頬を撫でる
すると更に強く涙が流れ始めた


「僕は、君を殺す事なんて出来ない。もう・・・出来なくなっていたんだ」



何故なら



「・・・僕はいつの間にか・・ううん、きっとずっと前から・・・君を愛していたから」




大切な人を奪われた痛みと苦しみを、憎しみを忘れてしまうほど
全てを赦してしまうほど
たった一人の君を




「っ・・・僕は・・・」
「スザクっ」


ルルーシュはスザクを抱きしめた。一瞬驚いたスザクだったが、恐る恐るルルーシュの背に手を回した


「・・・ルル・・・ーシュ」
「スザク、俺は・・・俺も、お前が・・・」







その後のブリタニアはこれまでと違い一切他国へ侵略をする事はなかった
そして長い時間をかけ、植民エリアを独立させた
自国の罪を認め、謝罪をした皇帝を世界は名君と呼び称えた

その側には常に翡翠の瞳の騎士が彼を見守っていたという















『スザク、俺もお前がずっと好きだった・・・愛していたんだ』
『ルルーシュ・・・』
『どうしても手に入れたかったんだ。俺とナナリーとお前が幸せに暮らせる世界を』


   優しい世界を』