「待って!お願い!!」
解放されたカレンは立ち去ろうとした『ゼロ』を呼び止めた
ブリタニア軍はジェレミアの指示って撤退していく。それをコーネリア達や興奮した市民が追い払っている混乱の中で彼女は彼を見つけた
「お願い!スザク!」
「・・・」
何度読んでも止まらなかったゼロの足が『スザク』という名前に動きを止めた
「・・・どうして?・・・なんで何も言ってくれなかったの?」
言ってほしかった
二人がやろうとしていた事を打ち明けていてくれたら自分はあんな事をしなかったのに
ルルーシュが死ななくて良い方法を探せたかもしれないのに
「どうしてこんな結末しか選べなかったのよ!?」
カレンはゼロに抱きついた
しかしゼロは何も言わず無言のまま背を向けているだけだった
静止した時の中で
世界は新たに生まれかわった
「悪の皇帝ルルーシュは死んだ。ゼロは彼を殺した英雄として全世界の人間から慕われる・・・物語なら最高だろうけど、現実としてはいただけない終わり方だよねぇ」
「目的の為とはいえ、『枢木スザク』を・・・自分達すら殺してしまうなんて・・・」
ブリタニアの小さなカフェで雑誌に目を通していたロイドは忌々しげに雑誌を放り投げた
そこには死んだルルーシュを批判する文字が躍り、ゼロを称える言葉で埋め尽くされていた
セシルは『ゼロ』として世界を回っている彼の事を思い、ため息をはいた
「で、君はこれからお気楽生活?」
彼らのテーブルにはもう一人席についていた
金色の髪にサングラスをかけた少年は、一口紅茶を飲むとニコリと笑った
「そうしたかったんですけどね・・・アイツが『一人だけ楽できると思うな!』とえらく御立腹で」
「だろうねぇ」
クスクスとセシルは笑った
その時のやり取りが目に浮かんだようだ
「どういう事なんだ?」
「・・・どういうこともなにも」
こういう事だ。とC.C.は指差した
彼女が指差した先には「やぁ、ゼロ」とにこやかに笑う『悪の皇帝ルルーシュ』
先程全世界の人間の前で自分が殺した筈の人間だった
「・・・」
「なんだ?お前は本当にコイツが死を選んだと思っていたのか?」
「馬鹿だな、俺がお前を残して死ぬと思うのか?」
思うのかって・・・そういう計画だっただろう・・・とスザクは頬を引き攣らせた
『俺が死んだら世界は混乱するだろう。お前はゼロとして世界をまとめなけばならない。だがその前にここに行ってほしい。何があるか?行けば解る』
計画の最終段階。『ゼロ』が『皇帝ルルーシュ』を殺すその日。実行前に『スザク』として『ルルーシュ』に最後の挨拶に行った
その時に言われた言葉に従い、やって来てみるとC.C.と彼が待っていた
「シャルルの死後、私はコードを二つ持っていたんだ」
「コード・・・V.Vが持っていたコード?」
「そうだ。本当ならさっさとルルーシュにでも押し付けたかったんだが」
「不死になれるがギアスの力を失う。計画上、まだ俺にはギアスが必要だった。だから今日の処刑の直前に渡してもらったんだ」
つまりスザクがルルーシュを刺し殺した時には彼は不死だったということ
ならば・・・
「僕やナナリーの涙はなんだったんだ・・・」
ガクリとスザクはその場に崩れ落ちた
ルルーシュが命を懸けるというから自分も枢木スザクを殺した
自分を殺しゼロとしてルルーシュを殺した
罪の全てを背負って死を選んだルルーシュを・・・
大切な友を・・・いや、最愛の人を・・・
「なのに・・・」
「しかし不死とはいえ痛いのは痛いんだな。死ぬかと思った」
「残念ながら死なない。ルルーシュ、まだ剣で刺された方がマシだ。地雷などで手足が吹っ飛んでみろ、暫くのたうち回る羽目になる」
「・・・地雷地帯には入らないようにするよ」
「服も複数持っていたほうがいいぞ。身体より服の方が死亡率が高い」
「だろうな。現にこれはもう使い物にならない・・・穴は開いてるわ、血まみれだわ・・・」
「・・・なのに・・・なんでこんなにお気楽にしてるんだお前は!!」
スザクはルルーシュを押し倒すと馬乗りになって首を絞める
「ス・・・スザク・・・本気で・・・首が・・・」
「死ね!死んで僕と全世界の人間に侘びをいれろぉぉぉ!!」
「・・・黙っていたのは悪かった。だがお前が知ってるのと知らないのとではあの場での緊迫感が違うだろう?」
「僕は本気で泣いたんだぞ?ナナリーもあんなに泣き叫んで!」
「だから悪かったと言ってるだろう」
スザクに散々ボコられたルルーシュは正座してスザクの正面に座っていた
その隣にはC.C.が同じ様に正座している
スザクは二人の前で腕を組んで立ち、二人を見下ろしていた
「・・・ルルーシュ、コードを受けついだって事がどういうことか解ってるのか?」
「ああ」
「本当に?」
「解ってるさ。俺はギアスを授けれる存在になった・・・安心しろ。誰にも授けないさ」
ルルーシュの言葉にスザクは大きくため息をはいた
そして「そうじゃない」と告げた
「違うだろ?君は残される人になったって事だ」
「・・・」
「永遠に・・・誰とも一緒にいられない」
「・・・スザク・・・」
「君は・・・独りになるんだ・・・」
私がいるぞ。とC.C.が言い出せない空気が漂う
すっかりルルーシュとスザクの二人だけの世界になってしまっていた
「良いんだ・・・俺はそれだけの罰に相応しい罪を犯してきた」
「ルルーシュ!」
「スザク!」
「・・・すまんが配達を頼む・・何?それどころではない?貴様の事情等知ったことか!さっさと持ってこい!」
ひしっと抱き合う二人を他所に、馬鹿らしくなったC.C.はピザの宅配を頼んでいた
「さて、ピザも食べ終わった事だし・・・行くか、ルルーシュ・・・いや、V.V」
「そうだな・・・・スザク、お前に全て押し付ける事になってしまったが・・・・きっとお前なら上手くやっていける。世界を、皆を頼んだぞ」
立ち上がった二人を見てスザクは息を呑んだ
ルルーシュは世界中の人間の目の前で死んだ。今のルルーシュはルルーシュではないと言っても過言ではない
しかしこのまま日本に、人の多い所にいることは危険だ
それは解っている
「ま・・待って!」
「スザク、俺の事は忘れろ」
「っ」
「俺とお前は違う世界に生きているんだ」
限りある生を生きるスザクと終わりの無い生を生きるルルーシュとなってしまった
自分達はもう共にはいられない
「じゃあな」
ルルーシュはスザクに背を向けた
少しずつ遠ざかる彼を、スザクは思わず引き止めてしまった
「・・・スザク?」
「行かないで・・・」
「だが・・・」
「僕一人に『ゼロ』を背負わせるの?君は死んで全てから解き放たれた・・・けど、そんなのズルイじゃないか」
一人だけ・・・なんて
「ルルーシュ・・・いや、V.V。お願いがあるんだ」
「お願い?」
「僕に・・・」
「・・・はぁ・・・あの子は・・・しょうがない子だねぇ」
「それで貴方は・・・」
目の前の少年『V.V』は頷いた
「アイツのお願いを叶えてやりました。そう遠くない未来には・・・きっと・・・」
「良かったんですか?彼まで・・・」
「頑固者ですからね。一旦決めたら変えませんよ」
「知ってるよぉ・・・んで、どんな力が?」
ロイドの質問にV.Vは苦笑した
「実にアイツらしいものになりましたよ」
****
「おかえり」
「ただいまV.V」
ブリタニアにある小さなアパート
そこにV.Vと『ゼロ』は一緒に住んでいる
とはいえ、彼はあの仮面をつけてここに帰ってきているのではない
V.Vと同じく髪の色を変えて素顔を晒して帰ってきているのだ
「今日はロイドさん達と会ってたんだろ?」
「ああ。二人とも元気そうで良かったよ」
V.Vは銀髪に翡翠色の目の少年を抱きしめた
少年『ゼロ』この部屋では『スザク』は嬉しそうに目を細めた
「それにしてもさ・・・」
「なんだ?」
「髪の色を変えただけなのに誰も気がつかないものなんだね」
V.Vは黒髪から金髪に
スザクは茶色から銀色に変えただけ
なのに二人は誰からも嘗ての自分達だと気づかれない
彼らは公には死んでいるから
特に『ルルーシュ』などは全世界の人間の前で死んだのだから
最も、彼らを良く知るものが見れば一目瞭然なのだろうが、今のところ誰にも見つかってはいない
「俺達・・・いや、あの二人は既に過去の人間なのさ」
「そっか」
「寂しいか?」
「ううん・・・別に」
だって君がいるもの
スザクは微笑をV.Vに向けた
「・・・スザク・・」
V.Vはスザクへと顔を近づけた
このまま唇を奪い一気に寝室へ・・・という彼の野望は打ち砕かれた
「にゃおんv」
「あvえむちゃんv」
「・・・・」
突然現れた一匹の茶色い猫
額にMと読める模様があることから『えむちゃん』
命名はスザク
スザクはえむちゃんに頬ずりしながらニコニコ笑っている
V.Vはそれを面白くないというように不機嫌そうに見ていた
昔は猫に噛まれていたスザク
しかし現在では一匹を除いて噛まれる事は無くなった
「本当にお前らしいギアスだよ」
「お願いがあるんだ・・・僕に・・・僕にギアスの力を授けてくれ」
「っ・・・・お前・・・」
スザクはギアスを身につけたいと言い出した
世界を滅茶苦茶にしたこの力を・・・
「ギアスを身につけて君のようにコードを受け継げる人間になる。そしてC.C.からコードをもらう」
「馬鹿!そんな事をしたらお前が!」
「僕が嫌だ!」
「っ」
「君を独りにしたくない・・・僕が・・・僕は・・・君と一緒にいたいんだ」
スザクはルルーシュと一緒に生きたいと望んだ
しかしそれにはギアスを身につけなければならない
自分と同じ道を選んで欲しくなくて、ルルーシュはそれを拒んだ
「なら私が与えてやろう」
「「C.C.!」」
「私のコードを受け継ぎ、私を解放してくれるんだろう?」
「僕の目的を果たせば必然的にそうなるね」
「・・・いいだろう」
そしてスザクはギアスの力を身につけた
その力は『猫に懐かれる事』
V.Vは呆れたが、長年猫に噛み付かれてきたスザクにとってそれはとても素晴らしい力だった
しかし・・・
「えむちゃんv可愛いねぇ」
「おい・・・スザク、いい加減にしておかないと・・・」
トコトコとV.Vの足元を一匹の猫が通り過ぎていった
V.Vはため息をはくと救急箱を用意する事にした
「えむちゃん、おやつ食べる?」
「・・・・」
「いったー!」
「・・・はぁ・・・」
唯一となってしまったスザクに噛み付く猫
その名を「アーサー」
彼だけはスザクに噛み付く
スザクがそう望み、アーサーもそう望んだようだ
「うう・・・あーさぁぁぁ」
「いつまでも情けない顔をしているからだ・・・ほら、来い」
V.Vはスザクをその腕に取り戻すとアーサーに噛み付かれた場所を消毒する
世界は新たに生まれかわった
その世界で新たに生まれかわった二人は永遠に共に過ごす事となる
不死という静止した時の中で
本編に逆らってみました
ルルーシュが生きている設定
スザクがコードを受け継いだら『C.C.』と名乗るのでしょうか?