中華連邦は広い
そして色んな人種が入り乱れているから隠れやすい
それに国境近くは時折戦闘が行なわれていて物騒だが、少し内に入れば穏やかだ
ブリタニアだ黒の騎士団だ、天子がどうしたエリア11がどうなった等という世界の情報一つ入ってこない
そこでいつまでも暮らせれるとは思ってはいなかった
いつか、そう遠くない未来、誰かが気がついてここへ来るだろうと思っていた
「おめでとう、君が一番乗りだよ」
小さな村
住人は二百人を少し超えたくらい
だが農作物も良く育ち、自給自足で暮らしていけるほど収穫できる
難点はのどか過ぎて本来の自分の趣味・生きがいともいえる仕事が出来ない事くらい
そんな小さな村にある小さな家
この家を深夜突然訪ねてきた人物にロイドは笑いかけた
ここでいつまでも暮らせれるとは思ってはいなかった
いつか誰かが気がつきここへ来るだろうと思っていた
「・・・」
「何も言わなくていいよ。迎えに来たんだろう?」
何を、誰をという言葉を使わない
使わなくとも彼が何しにここへ来たのか解っている
「君で良かったよ。もしあの人なら一年前と同じ結果になるからね」
「・・・させない」
「うん。だから良かったって言ってるんだ」
ロイドは彼について来る様に告げると、隣の部屋へと入った
二つ並んだベット
その片方に小さな膨らみが出来ていた
「っ」
彼は思わずそちらへと駆け寄った
シーツから出ている茶色い髪を確認すると、そのままシーツごと抱き上げる
ロイドはしょうがないなぁと苦笑すると彼の側に寄った
「今、十歳くらいだよ」
「ああ」
「この子が望むように生きさせてあげて」
「勿論だ」
一年前、世界から一人の少年がいなくなった
誰よりも優しい少年だった
他人が傷つく事を恐れながら他人を傷つけられる軍人という立場に、それも大勢の命を奪えるKMFを駆っていた少年
その彼が一年前に死んだ
彼の仕えていた国の宰相の命令に従い、戦死したのだ
彼は強い、本当に強い騎士だった
その宰相は彼の強さに眼をつけ、ありとあらゆる作戦に彼を参加させ、彼が死ぬ事となった作戦で自軍が劣勢だと悟ると彼を含めた部下の全てを切り捨てる作戦を執った
結果、彼は死んだ
ロイドはそんな彼の元上司で部下で後見人だった
彼が死んだ直後ロイドは自分の全てを棄ててこの村へとやって来た
そして彼が死んで半年経った頃、一人の子供と暮らし始めた
その子供の名は『枢木スザク』
死んだ彼と同じ名前だった
「彼が息を引き取ったのは収容されてから。だから間に合ったんだよ」
死んだと診断された彼の遺体を見た時、ロイドは悲しんだりしなかった
ただ、「どこにお墓を作ってあげたら喜ぶだろう」と葬儀の事を考えていた
常に隣にいる副官もあまりにショックで倒れて別室で休んでいる
彼の処置をした医師や看護師も別の患者の所へ行ってしまった
そこにはロイドしかいなかった
ロイドが彼に触れると、彼の体はまだ温かかった
つい先程まで心臓は動き、彼は生きていたのだから当たり前といえば当たり前だ
ロイドはふと思った
もしかしたら別の形で生きさせることが出来るのではないか と
思ったら我慢できなかった
誰もいない、見ていない事を幸いに、彼の遺体を運び出したのだ
「成功するとは思わなかった。もっとも、僕が考えていたのは別の方法だったんだけどね」
最初、ロイドは彼のクローンを創ろうと考えていた
しかしロイドの専門は生体研究ではない。しかし資料ならある。昔付き合いのあった友人から研究データーを預かっていたのだ
それを引き出しながら準備をしていると思わぬ事が起こった
「あの子も大概しぶといよね。息を吹き返すんだもの」
死んでいた彼が息を吹き返した
それに喜んだロイドだったが、同時に彼を哀れに思った
生き返っても彼に待っているのは戦場だけ、きっとそれは死ぬまで変わらない
「だから僕は彼を死んだままにした。そして見つかる前にブリタニアから出た。クローン研究ともう一つ友人が研究していたデーターを持ってね」
それを欲したのはその友人だったのか、それとも他の誰かだったのか、今となっては解らない
だがその研究をロイドは完成させた
そしてそれを生き返った彼に行なった
「永遠の命だか若返りだか知らないけど、人間を分解して再構成するなんて、馬鹿げた研究だよね」
「しかし、それで」
「そう・・・あの子はこの子になった」
折角生き返ったのだから今度は違う人生を
ロイドは彼を十歳の子供の姿にさせた
「記憶は無いよ。一度心臓が止まった為の記憶障害なのか、分解した為に記憶がリセットされたのか、それは僕にも解らない。確かなのはこの子は何も知らないということだけ」
「・・・」
「けどこの子はあの子だから、運動神経も良いし、今のところ元気いっぱいだよ。勉強も一通りは教えてある。ちょっと頭を使う事が苦手なのは相変わらずかな」
それと・・・とロイドは言いにくそうに言葉を続けた
「余計な事だっただろうけど、KMFの操縦についても」
「!教えたのか!?」
「当たり前じゃない。僕の本業は知ってるだろう?」
「・・・」
「ずっと考えている機体があるんだ。この子に駆ってもらいたいんだよ」
一緒に行かないのか?という質問にロイドは頭を左右に振ってニコリと笑った
そして「いろいろと片付けないといけないものがある」と一緒に行く事をロイドは拒んだ
スザクを抱きかかえたまま部下の待つ艦へと乗り込む。『枢木スザク』を知る者は目の前の子供を見て非常に驚いていたが、そのあどけない寝顔を見て次々と表情が緩んでいく
彼は腕の中のスザクを見る。これだけ周囲で人が動いていても眼を覚まさない。もしかするとロイドが誰かが訪れる事を予想し、薬でも飲ませていたのかもしれない
彼はスザクを強く抱きしめると艦の中へと消えていった
『stay with me』