バレンタインにはチョコレートフォンデュ
そして星空を








星降るバレンタイン  〜Lelouch〜









即位して間もない若い皇帝は悩んでいた
特に何か問題が起きたわけではない
体調が悪いわけでもない
皇帝が悩んでいたのは『恋』の悩みだった





神聖ブリタニア帝国第99代目皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアにはまだ妻がいなかった
それは彼がまだ18歳という年齢であり、周囲がまだその存在を必要と考えていなかったからだ
それでも一部の人間などはルルーシュに女性を勧めていたが彼はこれまで誰とも会ったことはない
というのもルルーシュ自身が幼い頃に自分の伴侶を既に決めてしまっていたからであり、その人物以外必要としなかったからだ
ならば早くその人物と結婚なり婚約なりしてくれれば良いのに、と日夜皇妃の選定に勤しんでいる者たちが知れば口にしただろう
しかし、皇帝が伴侶にしたいと思っている人物は大きな声でその名を口にするわけにはいかない人物であった

そしてその人物と皇帝とは現在複雑な関係であり、その間には深く大きな溝、もしかすると谷かもしれない空間があったのだ






「・・・・・・・・・・・・」
「その顰めっ面は何とかならないのか?見ていて不愉快だ」


皇帝の私室で部屋の主ルルーシュは眉を思い切り寄せて考え込んでいた
それを同じ部屋でピザを食していたC.C.が不満を口にする
だがルルーシュはそんな彼女の不満を気にすることも無く、大きなため息をついた


「一体何を悩んでいるんだ?」
「解りきった事だ」
「ああ・・・スザクの事か」


ルルーシュを悩ませている存在
それは皇帝の秘書官に任命した枢木スザクの事であった

本来軍人であるスザクにとって秘書官と言う仕事は畑違いも良い所で、そんな仕事に任命したルルーシュに対し、多くの者が異を唱えた
彼は一軍人としては優秀であったかもしれない
しかし文官としての能力は優秀とはいえない
歳若い皇帝を支えるには彼では役不足である
そう諌めた
だがルルーシュはその全てを跳ね除けた
スザクが秘書官に相応しくないのはルルーシュも解っている
だがそれでも彼はスザクを手元に置くことを望んだ
彼自身の望みの為に


「仕事もお前の補佐。自室もお前の隣室。しかもお前の夜伽までさせている。これ以上スザクに何を望む?」
「・・・人間というものは欲深い生き物だ。初めはそれだけで良いと思っていても、徐々に物足りなくなる。俺はもうそれだけでは満足できない」
「スザクの心がほしいと?それが無理である事、その事はお前が一番良く知っているんじゃないのか?」


スザクの心はあの優しかった義妹の物
そしてその義妹をスザクから永遠に奪ったルルーシュには絶対に手に入らない物

ルルーシュはゆっくりと目を閉じて自分か殺してしまった義妹の姿を思い出す
そしてその隣で笑っていたスザクの姿を

自分も、そしてスザクも、お互いにお互いを裏切って傷つけた
そして憎しみあった
ルルーシュは既にスザクを赦している
いや、赦すと言うより憎しみよりも愛情が勝ったというべきか
ルルーシュはスザクを敵として倒すより、愛する者として側に置くことを選んだ
だが、スザクはそうではない
まだルルーシュを怨み、憎んでいる


「・・・解っているさ。憎まれている事も、怨まれている事も・・・・だが、」


どうして望んでしまう
赦してほしい
側にいてほしい
    愛してほしい と


「お前は勝手な奴だな」
「ああ、俺は勝手な奴だ。自分勝手で他人の事なんて考えていない・・・・だから」
「だから?」
「だから・・・・」








****


「今更だが・・・お前という男は面白いな」


C.C.はクスクスと笑いながら目の前の「お前」こと、ルルーシュに話しかけた
ルルーシュはジロリとC.C.を睨みつけた後、大きなお世話だと顔を背けた

二人がいる所は皇宮のキッチン
本来ならばこの国とこの宮殿の主である皇帝があまり入らない場所である


「懐かない朱い鳥を懐かせる為の餌付けか?ご苦労な事だな」
「喧しい」
「ちょうど時期も時期だしな。気持ちを伝えるには手っ取り早いかもしれない」
「・・・C.C.」
「何だ?」


ルルーシュは鍋をかき混ぜていた手を止めるとC.C.に向かって頭を左右に振った


「お前はスザクをまだ理解出来ていない」
「・・・と、いうと?」
「あの鈍感大王は今日女からチョコレートを貰ったとしてもそれがバレンタインの、愛の告白だとは気がつかない」
「・・・スザクは日本出身だろう?日本はバレンタインといえばチョコレートだろう?」
「だ・か・ら・、相手はあのスザクだ。たとえ王宮中の女からチョコを貰ったとしても『今日はチョコレートばかりもらう日だなぁ』くらいにしか思わない」


渡すだけ無駄なんだ とルルーシュはため息をついて再び鍋をかき回しはじめた
そんなルルーシュの姿を見詰めながらC.C.は心の中で『だったら何故チョコレートを用意しているんだか・・・』とルルーシュの矛盾に突っ込みを入れていた
ルルーシュはスザクを夕食に誘っていた
そしてそれはルルーシュからスザクへのバレンタインのプレゼントを兼ねていた
メニューは『チョコレートフォンデュ』
何故チョコフォンデュなのかと問うたC.C.へのルルーシュの答えはこうだった

『馬鹿かお前は?スザクは日本人だ。日本には鍋という食文化がある。鍋。それは冬の寒さを和らげてくれる癒しの料理。そして愛を育むお助け料理でもあるのだ』

ハッキリ言ってC.C.はルルーシュの言っている事の意味が半分も理解出来ない

『一つの鍋を二人で食す。となれば、うっかり手が接触して『あらVv』という雰囲気になる。何より一つの鍋を二人で食べるという行為から、お互いに親近感が生まれる。そしてそのまま良い雰囲気のまま食事が終われば・・・・』

そこまで言ってルルーシュはにやりと笑う

『翌日には素っ気なかったあの人が、あら不思議、ニッコリと私に微笑んでいるじゃあ〜りませんか?しかも『君って、家庭的なんだね』と頬を染めているじゃあ〜りませんか?こうして二人は仲睦まじい恋人同士になれましたとさ。めでたしめでたし・・・・と、いう訳だ』
『・・・理解できない』
『つまりはこれで俺とスザクの距離を縮めたいという事だ』


だからそれを餌付けというんだろう?とC.C.は思ったが、それを口にするとまたルルーシュから訳の解らない説明を受ける事になるだろうと気がつき、それを声に出す事を諦めた
こういう場合は適当に頷いて適当に話を聞き流していれば良いのだ
しかし、それにしても・・・と思う


「・・・スザクも気の毒に」


こんな男に惚れられたばかりに
いや、この男と出会ってしまったばかりに、か?

C.C.はまもなく現れるであろうスザクが少し哀れに思えた




****


ルルーシュはスザクに知られない様に心の中でガッツポーズする


(ククク・・・鍋《注:チョコフォンデュ》で俺とスザクの仲は急接近。すっかり警戒を解いているようだ・・・)


そして警戒を解いたスザクを上手く庭へと連れ出した
予想通り外は肌寒く、ルルーシュは用意しておいた毛布をスザクへと渡した

そして二人でそのまま座り込んで昔話を始める
小さい頃の事はともかく、アッシュフォードの話は慎重に話題を探した
二人がアッシュフォードで再会した時、既にルルーシュはゼロであり、スザクはランスロットのデヴァイサーであった為だ
どうもスザクもそんな空気を感じ取ってるようで、ミレイの計画したイベントの話が中心となった

僅かに気まずい雰囲気があるものの、二人の間に流れる雰囲気は決して悪いものではなく、ルルーシュの期待通りの結果へと向かっているように思えた
だがルルーシュも狼である
上手そうな大好物《注:スザク》が警戒を解いて無防備でいれば食べたいと思うもの
しかし、今ここで襲ってしまったら折角の良い雰囲気がぶち壊しだ
だが本能が襲えと告げている

ルルーシュは究極の選択を迫られていた


(美味そう・・・いや駄目だ!!ここでスザクを押し倒してみろ、どれだけ罵倒されるか!どれだけ嫌われるか!・・・・だがしかし・・・)





結果から言うならルルーシュはスザクを襲った
そして思い切りスザクを堪能したのだ

現場はもちろん外
これまで二人が関係を持つ場所はルルーシュの寝室と決まっていた
外でするのは二人とも初めてだった

『っ!ルルーシュ!?まさかここでっ!?』
『ああ』

ああじゃないだろう!と圧し掛かるルルーシュを力の限り押し返そうと必死になるスザクであったが、ルルーシュが耳に軽く噛み付いて囁くと力が抜けた

『そんな事言って・・・嫌ならもっと抵抗してみたらどうだ?』
『っ・・・やっ!耳元で・・・・っ』
『お前はここで囁かれると感じるんだよな?』

びくびくっとスザクの身体がルルーシュの声に反応する
こうしてスザクの力が抜けた瞬間を見逃さず、ルルーシュはスザクの着ている服をゆっくりと脱がしていく
上服を剥がされ肌が外気に触れる
スザクは寒さに身を縮ませようとしたが、ルルーシュが身体を使って圧し掛かりそれを阻止した

『っ!』
『こらこら、まだ全部脱がせてないだろう?』

恨みがましい表情で自分を見上げてくるスザクを一笑し、ルルーシュはスザクの下肢へと手を伸ばした



(まるでケモノだな)

スザクを堪能しながらルルーシュは思った
野外でただひたすらにスザクを犯す自分の今の姿を、まるでケモノのようだと感じたのだ

『っあ!・・・ルルー・・・シュ』

ルルーシュに翻弄されながらスザクはその名を呼んだ

『・・・なんだ?』
『誰かが・・・・来たら・・・』
『・・・・問題ない』

スザクは誰かがここへやってくるのではないかと恐れているようだった
衣服を脱がず前をくつろげているだけのルルーシュと違ってスザクは全裸なのだ、巡回している警備兵にでも発見されれば二人で何をしていたか等一目瞭然というものだろう
だがルルーシュはフッと笑って動きを再開した
それでもスザクはルルーシュに止めてほしいと訴えたが、ルルーシュは聞き入れることはしなかった。何故ならスザクの心配が無用のものであったからである

(警備兵にはこの付近だけ巡回を外させた。女官達も下がらせた。スザク、この俺に抜かりがあると思うな)

ルルーシュは万が一自分がスザクを襲ってしまった場合に備え、一応の根回しをしていたのだった
しかしそれを知らないスザクはいつ誰に見つかるかと心穏やかではいられないようだった
だがそれがスザクを興奮させているようで、いつもよりスザクは乱れた

(・・・まずいな、癖になりそうだ・・・)

外、というこれまでに無かった状況での行為
それだけでスザクがここまで艶っぽくなるのならたまには良いかもしれない
ルルーシュはニヤリと笑った








「・・・ルルーシュ」


ルルーシュのベットでルルーシュの腕の中で目を閉じていたスザクがゆっくりと目を開けて話しかけてきた
ルルーシュは少しだけ腕の力を緩めるとスザクと目を合わせる


「・・・君は運命を呪った事ってない?」
「運命?」


スザクは小さく頷いた


「・・・呪ったら何か変わるか?
日本はブリタニアに侵略されなかったか?ゼロは生まれなかったか?お前は・・・今こんな目にあっていなかったか?」
「・・・」


スザクはキュッと唇を噛み締めた
ルルーシュはフンと鼻で笑って続ける


「誰かの言葉ではないが、そもそも俺の人生を運命なんかに左右されてたまるか
これは俺の人生だ
ゼロになる事も皇帝になる事も、この俺自身が自ら選んだ事だ。それを運命などと言う言葉一つで片付けられたくない」


それに とルルーシュは再びスザクを組み敷いた


「お前はこの状況を『これが僕の運命だ』等と言って不本意ながら受け入れているつもりだろう。俺に脅迫されて仕方なく、とでもいうところか?
だが俺に言わせればスザク、お前も自分の人生をちゃんと選んだ末、今ここにいる」
「・・・・僕は・・・」
「逃げれば良かったんだ。俺が皇帝になってお前を手元に置く前に。だが、お前はそれをしなかった」
「それは・・・君が・・・」
「脅迫した。だがお前が自分の自由を本心から望んでいたのなら日本人など見捨てて逃げれば良かったんだ。でも、お前はそうしなかった」


スザクは大きく目を開いてルルーシュを見詰めた
ルルーシュはクククッと笑いスザクの頬に軽く口付けた


「俺の言う事を聞いて俺の側にいる事を、お前はあの時選んだ。あの瞬間お前は自分の人生を、いくつかあった可能性の全てを切り捨てて今のこの人生を選んだ
これは運命なんかじゃない
お前が選んだ、お前の人生だ」
「・・・ルルー「俺達の生も死も運命が決めるものじゃない。すべては自分という人間個人の器量の範囲内だ」


ルルーシュの言葉にスザクは口を開きかけたがそれを口付けによって封じられた
そしてそれ以降はルルーシュによって思考を乱され、結局そのまま意識を失う結果となってしまった








****


「で?」
「・・・なにが『で?』だ?」


2月15日
一人朝食をとっていたルルーシュの元へC.C.が顔を出した


「お前の『鍋を食べて二人の距離を縮めよう作戦』は成功したのか?と聞きに来た」
「・・・・・・」
「失敗か・・・」


そんな所だろうと思った
C.C.はクスクスと笑いながら近くのソファに座る
ルルーシュはふんっと面白くなさそうに顔を背けると食事を続けた




「ああ、おはようスザク」
「・・・・・おはよう、C.C.」


ルルーシュが食後の珈琲を飲んでいるとダイニングにスザクが姿を現した
一番最初にC.C.と会話し、次にルルーシュの座るデーブルへと歩いてきた

表情に出さずルルーシュは混乱していた
昨日は折角良い雰囲気に持っていったというのに、欲望に負けて結局スザクを襲ってしまった
しかも外で・・・
きっと怒っているだろう
口もきいてもらえないだろう
これまでの出来事で散々嫌われているというのに、これ以上嫌われてどうするのか・・・
ルルーシュの気持ちはどんどん沈んでいった


「・・・・・お、おはよう、スザク」


しかしそれをやはり表情に出さないでルルーシュはスザクを迎えた
だが冷ややかな目をしているだろうスザクを直視できず、視線は僅かにそらして、だが


「・・・・・・・・おはよ・・・・・」


僅かに間があったもののちゃんとスザクの返答があったことにルルーシュは喜んだ
本気でスザクが怒っていたとしたら返事などしてくれる筈がないだろうから

良かった、それほど怒っていなかったんだな
ルルーシュの気分が少し浮上する
チラリとルルーシュは正面に座るスザクの様子を窺った

ほんのり頬を紅く染めている
これは・・・とルルーシュはハッとする


「ス・・・スザク・・・」
「もう・・・外は・・・・止めてよね・・・」
「あ・・・ああ」


外でしたことは恥ずかしがっていたが、それでもスザクはそれまでの二人の時間は気に入ってくれたようだ
ルルーシュが「もう外ではしない。約束する」と告げると、スザクはニッコリと微笑んだ
それが随分久しぶりに見た自分だけに向けてくれるスザクの笑顔であった為、ルルーシュも自然と顔を綻ばせた









この年以降、ルルーシュは毎年スザクにチョコフォンデュを贈った
何故チョコフォンデュなんだろう?とスザクは首を傾げていたが、バレンタインだとはなかなか気がつかなかった
スザクが直接ルルーシュに何故なのかと訊ねてきたのは二人の間に長男が生まれて初めてのバレンタイン

バレンタインだからチョコレートだと告げた時、スザクは顔を真っ赤にして思い切り照れていた
それを思い出すと今でもルルーシュは吹き出してしまう

何はともあれ、ルルーシュは今でもスザクにチョコフォンデュを贈る
それは二人の絆を再び繋げてくれた奇跡の食べものだから
二人の思い出の料理だから










「陛下、今年も『また』チョコレートフォンデュですか?」


ジノの言葉にルルーシュは数秒間考える
そして笑いながら答えた


「当たり前だ」







バレンタインにはチョコレートフォンデュ
そしてその後は星空を













ギャグなんだかシリアスなんだか・・・
ルルーシュがギャグとシリアスで忙しそうですね