―起きて!

―起きてください!



(誰かの声が聞こえる)

一護はゆっくりと目を開けた







『初めて』をともに









「隊長!起きて!」
「・・・日番谷?」

目を開けるとニコニコと笑顔の冬獅郎が自分の肩を揺すっていた
一護はゆっくりと起き上がると銀色の小さな頭を撫でる

「おはようございます、隊長」
「ああ・・・おはよう・・つーか」

まだ起きるには早かったんじゃないのか?
一護は辺りを見回してそう思った

部屋の中はまだ暗い。まだ夜が明けていないことを表していた
冬獅郎にそれを告げると、目の前の副官は「はい」と元気良く頷く

(はいって・・・)

冬獅郎の返事に一護は頭痛を覚える。たとえ一護にとって守るべき大切な存在である冬獅郎といえど、やって許せる事と許せない事がある

「お前、何でこんな時間に「早く!早く外に!」

文句の一つでも言わないとやってられん と一護はお説教を決めたのだが、冬獅郎はぐいぐいと一護の腕をひっぱりどこかへと連れ出そうとする
一護は大きな溜息をはくと、冬獅郎に腕を引かれるままついて行った








廊下に出ると刺す様な冷たさが一護を襲う
思わず身を縮め腕を擦るが、冬獅郎は全く気にならないらしく、「こっち」と一護をさらに誘導する
どうやら庭に出たいようだ

「ほら」

庭に出た冬獅郎は空を指差す
言われるまま空を見上げた一護が見たものは


「・・・雪か・・・」
「はい」

ふわり ふわり とまるで白い大きな花びらのように雪が舞い落ちる
一護は寒さを忘れて暫しその光景に見入っていた

「今年初めての雪です」
「そうだな」
「きっと夜が明けてしまうまえに止んでしまうから」

どうしても隊長に知らせたかったのだと冬獅郎は微笑んだ
氷雪系の斬魄刀を持つ冬獅郎は、雪が降る事といつくらいに止むかという事が解るのだろう
だからこんな時間だというのに一護を起こしたのだ

「副隊長になって初めての雪だったから・・・どうしても一緒に見たくて・・・・御迷惑・・・でしたよね?」

さっきまであんなに上機嫌で、しかも熟睡している一護を叩き起こすほど興奮していたのに、いきなりしゅん と落ち込む
既にやっておいて「御迷惑でしたよね」も何もない
一護はおかしくなってクックッと笑った

「隊長?」
「迷惑じゃない」
「え?」
「嬉しいよ。お前の『初めて』の瞬間に共にいられて」

ありがとう と一護は冬獅郎の頭を撫でる
冬獅郎は頬を赤く染めて微笑んだ




嬉しいよ

君とこうして初めて雪を見る事が出来て

君とこうして再び雪を見る事が出来て





一護は少しだけ自分より体温の高い小さな手を握ると、再び空へと目を向けたのだった






どうかこれからも君とこうしていられるように と祈りながら