あなたの『一番ほしいもの』
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7/15 D
冬獅郎の手が俺の後ろに回ってぎゅっと服をつかんだ
やれやれ
これで俺の誕生日祝ってもらえるな
一安心
「解った。『俺』をお前にやる」
おう。俺にお前をくれ
って!ちょっと待て!
今のプロポーズみたいに聞こえたんですけど?
もしくは「食べて」良いってこと?
冬獅郎を見ると、満面の笑み
やっと俺にプレゼントを渡せて、ものすごく嬉しいって表情だ。その顔、嬉しいけれど今はやめろ!
理性が飛んじゃうぞ!襲っちまうぞ
**********
危なかった
もう少しで襲い掛かる所だった
プロポーズまがいのセリフを言われ、極上の笑みを浮かべた恋人を目の前に、自分を見失わなかった俺を褒めてやりたいよ
「なぁ、一護。この箱何なんだ?」
冬獅郎の言う箱とは乱菊さんがくれた白い小さな箱
『これでお祝いしてもらって。良い事があるわよ』
そう言えばこんな事を言ってたな
良い事って何だろう?
「一護?」
「ん?あぁ、乱菊さんが出かける時にくれたんだ」
とりあえず開けてみるか
「「ケーキ?」」
中身はケーキ。しかも既にカットされた三角の、それが一個
そして、ご丁寧にローソクも同梱されていた
っつーか、乗りきらねぇし、乗ったとしても崩れるから!
苺のケーキってのは『一護』と『苺』の洒落なのか?
「なぁなぁ一護。ローソク乗せて消そうぜ」
楽しそうだな、オイ
やっとプレゼントが渡せて肩の荷がおりたのか、ニコニコしてやがる
まさか同じ日に二度もやることになるとは思わなかったけど、コイツがこんな顔するなら良いか
「とは言っても、全部乗せられねぇから・・・」
あ、そうだ
「?一本だけなのか?」
一本だけケーキの上に乗せて火をつける
「一護の「1」ってことで」
後、俺とお前が付き合って初めての誕生日だから・・・
ってイタいぞ俺!
俺が自分の考えに砂を吐きそうになっている横で、冬獅郎は「成るほど、一護の1か」と感心していた
「んじゃ。黒崎一護、消しマース」
フッとたった一本のローソクの火を吹き消した
すると、俺の真正面に座っていた冬獅郎が身を乗り出し、左頬にキスをした
「とととと冬獅郎〜?」
俺は今ものすごーく顔が赤い!
「いいい今、何やったのか解ってんのか?」
「何って、誕生日のローソク消したらキスする決まりだろ?」
だからやったらしい
って!なんだその決まりって!
プレゼントの決まり、キスの決まり、一体誰がコイツにこんな事を?
いや、これはこれで嬉しいんだけど・・・
「あ、コレか?」
乱菊さんの良い事って
そうなんだろうな〜、でも欲を言えば口にしてくれたほうが・・・
「ん?待てよ」
乱菊さんがこの決まりを知ってるって事は、少なくとも乱菊さんにはやったことがある、もしくは誰かにやったことを知っている
つまり、冬獅郎は誰の誕生日でもやっている=俺限定ではない
「い、一護?どうしたんだ?」
顔を真っ赤にしたと思ったら独り言言ったりしてる俺はさぞかし不審者だったろう。冬獅郎が心配げに声をかけてきた
「いや、なんでもねぇよ」
俺は冬獅郎を自分の隣に座らせた
せっかくの年に一度の俺の誕生日
だったら俺限定の決まり事を作ってもいいよな
「あのな、冬獅郎。恋人の時はここじゃなくてコッチにするんだ」
これは恋人同士の決まりなんだ
ほら、これは決まりなんだ、ルールなんだぞ
やってくれるよな?
冬獅郎?
終