『日番谷十番隊隊長殿
     十日間の現世任務を命じる』



「・・・心配だ・・・」


冬獅郎は先程行われた隊首会で渡された命令書を見ながら呟いた
















大人のレンアイ















「何が心配なんです?たいちょ」


上司の呟きを乱菊は聞き逃さなかった
現世への出張など死神にはよくある事
隊長格が行く事は稀だが、そう珍しい事ではない

そして隊長不在でも隊が成り立つように と副隊長が存在するのだ

そんな事は冬獅郎だってちゃんと知っている
しかし・・・


「・・・休憩時間を過ぎても未だにソファで煎餅食べてる副隊長に隊を任せても大丈夫なのか?
と心配してんだよ・・・・
さっさと仕事しねぇか!!!」
「はいぃぃぃ!」


一喝してようやく仕事を始めた副官にため息をはくと
冬獅郎は命令書と一緒に渡された資料に眼を通す

それは、本当に俺が行かなければならないものなのか?と疑いたくなるような簡単な任務
毎日、だが時間はランダムではあるが、同じ場所で強い霊圧が感知される
その調査だった


万が一それが虚であったとしても、上位席官が数名いればなんとかなりそうなのだが
何故冬獅郎にこの命令が来たのかがわからない

そして・・・


「そういえば隊長、出張中は何処に寝泊りするんです?」
「ああ・・・そう長い期間でもないから、野宿でも良いって言ったんだが」
「駄目です!」
「は?」
「そんなの駄目に決まってるじゃないですか!!」
「・・・」


コイツもか・・・と冬獅郎は再びため息をはく

隊首会でも浮竹から同じ質問出た
冬獅郎は『短期間の任務、わざわざ経費を使って宿を確保する必要はない』
と言ったのだが、浮竹や総隊長から強く反対された
理由は 『危ないから』 だそうだ

(だったら俺にこんな命令出さなきゃ良いだろうが
つか、死神の仕事には危険が付き物だろ!)

キレて氷輪丸を始解しそうになったのは言うまでもない・・・
(そしてそれを卯ノ花がやんわりと抑えた)


「・・・総隊長の判断で死神代行の家に厄介になることになった」
「一護の・・・・へぇ・・・」


へぇ・・・と言いながら乱菊はニヤニヤと冬獅郎を見て笑っていた
同じように一護の家に泊まる事に決まった際、京楽が笑っていたのを思い出す


「何が『へぇ』なんだよ?」


京楽には、各隊長の手前大人しくしていたが
乱菊には我慢できず思わず聞いてしまう

すると乱菊は「良かったですねぇ」と笑った


「恋人の家にお泊りですよ、隊長!」
「こっ・・・・・!!!」
「何照れてるんですか、今更」
「だって・・・・こい・・・びと・・・なんて言うから」
「や〜んVv可愛いVvv」


思わずぎゅっと冬獅郎を抱きしめる乱菊
冬獅郎は照れて固まっている為、気にならないようだ


「ヤリすぎて腰が立たなかったら直ぐに向かいますから呼んでくださいね」
「?」
「一護って体力ありそうですもんね」
「??」
「家族と同居でしたよね、声 抑えなきゃ駄目ですよ」
「???松本?」
「はい?」


己の副官が一体何を言っているのか理解できない
冬獅郎は思わず彼女質問した


「何の話なんだ?」













『もしかして隊長・・・・まだ・・・なんですか?
時々泊まりに行ってましたよね?
それでもまだなんですか?』
『だから何が!!?』
『何って・・・ナニ?』
『???』
『はぁ・・・あの子、よく我慢してるわね』
『?????』
『・・・兎に角、一護にこう言って下さい
『俺をオトナにして』って』





オトナ・・・・
俺はずっと大人になりたかった
早く大人になりたかった

でも、どんなに願っても俺はまだコドモで
隊長にはなったけど、見かけがコドモだから
からかわれる事もよくある

すぐにオトナになれる方法がないか、と涅に聞いたことがある
『そんなのあったらとっくに君らで試しているヨ』と鼻であしらわれた
やぱり無理な話なんだ・・・と諦めていた

でも松本のあの言葉・・・一護はオトナになれる方法を知っているんだろうか?







翌日






『お赤飯炊いて待ってますからね』
と乱菊に尸魂界を追い出されたのがお昼前

一護とは日が落ちた頃に浦原商店前で待ち合わせをしている
その時間まで冬獅郎は問題の場所を調査していた


「・・・・」


この辺りには資料にあったような強い霊力を持った霊はいない
となればやはり虚・・・


「さっさと出てきてくれれば、それで仕事は終りなんだけどな」


一護との待ち合わせ時間までそこで気配を消して待ってみたが、それらしい存在は現れなかった


「・・・・はぁ・・・また明日か・・・」


今までの資料からこの目標は夜には現れない事が解っている
きっと今日は待っても無駄だろう

冬獅郎はそう判断してその場を去った






「冬獅郎」
「い・・・黒崎、待たせたか?」


冬獅郎が浦原商店に着くと、先に一護が着いていた
久しぶりに会う一護に駆け寄りたかったが、浦原も一緒に居た為にそれは出来なかった


「大丈夫、待ってな「もう、さっきから黒崎さんが落ち着かない落ち着かない」」


一護の言葉を遮って浦原が話し出す
一護は慌てて手で浦原の口を塞ごうとするが、上手く避けられてしまっていた


「う・・・浦原さん!!」
「冬獅郎が来ないだの、もしかして怪我して動けないんじゃないかだの
誘拐されちまったんじゃないかだの・・・鬱陶しいったら・・・」


顔を真っ赤にして照れている一護
自分を心配して店の前をウロウロしている姿が眼に浮かんで
冬獅郎も一緒に照れて俯いてしまう


「ストップ!冬獅郎が無事に浦原商店に来れたんだからそれで良し!
この話、終り!!」


一護がその場の空気を追い払うかのように大声を上げる
クスクスと浦原は笑っていたが、冬獅郎はまだ顔をあげることが出来なかった

その後『オアツイですねぇ』とひやかされながら二人は黒崎家へと向かった











「親父達、楽しみにしてたぜ
冬獅郎が来るって」
「最近は忙しくて来れてなかったもんな」
「俺は明日も学校で手伝えないけど・・・・」
「一人でも大丈夫だ」


一護の家へと向かいながら話をする
身長差がある為、冬獅郎は見上げて 一護は見下ろしての会話
こんな時、いかに自分は小さいのかと思い知らされて少しだけ不満に思う
けれど一護と一緒に居ると安心する
落ち着く
その声を聞いているだけ心がホカホカしてくるのだ

そして改めて思う
一護が大好きだ と







『一護にこう言って下さい
『俺をオトナにして』って』



夕飯後、一護の部屋に入った時思い出した
乱菊が言ったあの言葉


涅ですら知らない『オトナになる方法』
そうだ、任務も大事だがこれも自分にとっては大事な事
一護が来たら聞き出さなくては
冬獅郎は固く心に誓った


「冬獅郎〜先に風呂入って良いってよ・・・・ってどうした?」


冬獅郎の後を追って部屋に入って来た一護は
話しかけた人物が勢いよく自分を振り返ったのを見て驚いた

もしかして近くに虚でも出たのか?と得意ではないが神経を研ぎ澄まして辺りを探る
しかし何も感じない
ではどうしたのか と一護が口を開く前に、彼が予想もしなかった言葉が冬獅郎から発せられた


「一護っ俺を『オトナ』にしてっ!」











浦原商店からふたりで並んで歩いた
冬獅郎が顔をあげてくれなければ俺はアイツの顔を見ることさえ出来ない
屈めば見れるんだが、そうされる事を冬獅郎が嫌っているから
それはやらない

きっとこうしていても誰も俺と冬獅郎が恋人同士だなんて思わないだろう
普通、男同士じゃ思わないだろうけど
どちらかが女であったとしても、そうは見えないだろうな

それが嫌だとか思ったことはない
俺は冬獅郎が好きで
冬獅郎も俺を好きでいてくれる
それがお互い解っているから・・・

でも、最近気がついたことがある
冬獅郎は年齢は俺よりも上だけど、外見はコドモ
そして・・・心もコドモだって事に

冬獅郎はまだコドモで、こうして共にいるだけで満足している
抱きしめあうだけで幸せそうな顔をする

でも、俺は最近それだけでは満足できない
もっと冬獅郎を感じていたい
冬獅郎は俺のものなんだと、もっと心だけじゃなく体でも
感じたいんだ








「・・・は?何言ってんだ?」


今、目の前にいる恋人は何と言ったのだろうか
一護はまだ理解できていなかった


「だから、俺をオトナにして!
一護なら知ってるって松本が言ったんだ・・・だから・・・」


早くオトナになりたいんだ
同じ隊長格でも自分は体も小さくて卍解も未完成で
幼馴染や松本達十番隊の皆をこの手で守りたいのに
自分はコドモで、まだまだ力が足りない
だから     


「と・・とにかく落ち着け、な?」
「俺はっ!」
「解ったから、ちゃんと話をしてくれ」


一護は冬獅郎を宥めながら詳しく話を聞くことにした





「・・・・・」
「松本が言ったんだ・・・一護にオトナにしてもらえって」


一護は頭を抱えた
冬獅郎のなりたいオトナと乱菊の言ったオトナとでは意味が違う

冬獅郎は成長したいのだ
体も力も他の隊長格に引けをとらないように
しかし、乱菊の言ったオトナとは・・・


(・・・乱菊さん、アンタなんて事言ったんだよ!!)


一護に抱いてもらえ 乱菊は遠まわしにそう言っていたのだ
しかし、まだコドモである冬獅郎にそんな言葉が通じるはずがなく
言葉の通りに素直に『一護に頼めば大人(大きく)にしてもらえる』ととったのだ


「・・・一護?」


話を聞くなり黙り込んでしまった一護を冬獅郎は不安げに見つめる

さて、どうしたものか と一護は思う
自分達は一応恋人同士である
一護も冬獅郎との関係をもっと深いものにしたいと考えていた
冬獅郎の一番近くにいる乱菊からお許しも出ていることだし
その考えを実行しても良いのだが・・・


(・・・まだ、冬獅郎は俺とそうなりたいって気持ちが無いんだよな)


きっと驚くだろう
冬獅郎は乱菊の言った意味を理解していない
どんな行為をするのか全く知らないはずだ



「一護・・・?」
「ん?・・・ああ、乱菊さんの言うオトナは冬獅郎の考えているのとはちょっと違うんだよ」
「違う?」
「ああ」


何も知らないのに無理強いは出来ない
傷つけたくない


「冬獅郎を大きくするんじゃなくて、オトナ同士の恋をしなさいって言ったんだよ」
「オトナ同士の・・・恋?」
「ああ」


一護はゆっくりと冬獅郎を抱きしめた
最初は驚いていた冬獅郎だったが、直ぐに一護の背に腕を回した
そして気持ち良さそうに眼を閉じる


「俺、冬獅郎とこうするの好きなんだ」
「うん、俺も」
「冬獅郎と一緒に居ると心が暖かくなって幸せだなって思う」
「うん」
「・・・でもな」


「俺は、それ以上の関係になりたいと思ってるんだ」
「それ以上?」
「うん・・・」


そこまで言うと
一護は冬獅郎の顎に指をやり、上にむかせる


あ と冬獅郎が思った瞬間、一護は冬獅郎にキスをする

それはいつも二人がしている唇に触れるだけのキス


「・・・ちょっとだけ・・・口、開けて?」
「え・・・?んんっ?」


どういう事?と冬獅郎が尋ねる前に一護は再び口付ける
それはいつもとは違う
強引なキス
ヌルリと舌が入り込んできて、冬獅郎は驚いて一護から離れようとする
しかし、一護がしっかりとその体を抱きしめている為身動きが取れない


「んっ!」


一護が冬獅郎の舌を捕らえようと絡ませてくる
冬獅郎はどうして良いのか解らずに、されるがままになっていた


「・・・はぁ・・・・は・・・」


やっと一護から開放された時には冬獅郎の息はかなりあがっていた
体から力が抜け、一護にもたれかかる


「悪い・・・無理させたな」
「ん・・・はぁ・・・いち・・・ご?」


キスしている間呼吸を止めていたらしい冬獅郎は、酸素が足りなくなってしまったようで
一体何が起こっていたのか未だに理解できていない

一護はクスリと笑うと冬獅郎を抱き上げ、ベッドへと横にさせた


「今の・・・何?」


漸く息の整ったらしい冬獅郎が顔を真っ赤にして尋ねた
一護は優しく銀髪を撫でながら「オトナのキス・・・かな」と答える


「オトナのキス?」
「そう。キスにも色々あるんだよ」


ちゅっと冬獅郎の額に口付けを落とす
次に右頬、左頬
最後に唇へ

先程とは違ういつものキスに安心したのか
冬獅郎は「えへへ」と笑う

つられて一護も笑い
冬獅郎の隣に横になった

冬獅郎は「あれがオトナのキスかぁ」と呟いている
びっくりしたけど嫌ではなかったと言ってくれた


「少しずつで良いから、オトナの恋愛をしていこう・・・な?」


銀の髪に口付けると冬獅郎はくすぐったそうに笑う
そして、きゅっと一護の服を握り締めた


「ねぇ、一護」
「ん?」
「俺、少しはオトナになったかな?」


どうかな?と緊張した面持ちで聞いて来る冬獅郎に
一護は瞬きを数回した後
クスリと笑った


「ほんのすこぉーしだけな」