一護の知ってるオトナになる方法
それはオトナの恋のやり方らしい
それでは俺は大きくなれないらしいけれど、一護はオトナの恋をしたいんだと言った

まだそれがどんな恋なのか、俺にはわからない
でも、一生懸命オトナの恋をしてみる事に決めた

だって、一護と一緒にいたいから















戸惑いと予感















「ほい、これで終了っと」


現世任務中の俺はついでにその辺の霊を魂葬していた
ちゃんとこの地区担当の死神が駐在しているんだが、なんせ俺も暇なもので・・・

現世に来て三日
目標は未だ現れず

俺の任務期間は十日
その間に現れなければ俺は帰還して任務は他の奴等に回される

別にそれでも良いんだが、何となく俺がサボってたと思われるのも嫌なので
出来たら現れてほしいものだ


「冬獅郎」


ぼんやりと空を眺めていると声をかけられた
一護だ


「学校終わったのか?」
「おう、早く帰れたから冬獅郎を手伝おうと思ってよ」


すでに死神化している一護と共にここから少し離れた場所にある
目標が出現するポイントへと移動した

手入れのされていない森の中
昼間でも薄暗くて地元の人間ですら滅多に入って来ないのだと一護から聞いた
確かに、三日間この場所に居るが人の姿を一度も見たことがない


「・・・静かだな〜」


俺達は木の上で辺りを探る
一時間経っても何も現れなかった
その頃になると集中力が切れたのだろう、一護が暇だとぼやき始める

通常、一護が虚を相手にする時は既に現場に相手が出現している
こうして目標が出てくるのを待つという状況は初めてなのだろう
だから余計に飽きるのが早かったようだ


「なぁ、今日はもう出ないんじゃね?」
「・・・どうかな・・・夜は出ないことは解ってるんだけど」
「もう日暮れじゃん」


だからさ、と一護は俺の体を思い切り引き寄せた
いきなりで驚いているとキスをされた
それはこの間教えてもらったオトナのキス

それまでしていたキスと違ってより深いキス


「う・・・んんっ」


口を塞がれている時間も長くて、呼吸が出来なくて苦しい
それを感じ取ったのか、一護がクスリと笑って離れていった


「大丈夫か?」
「はぁ・・・・ぅん・・・・はぁ」


ふらふらと揺れる俺の体を抱っこして、一護は木から飛び降りる
落っこちたら危ないもんな と笑っていた

最近一護とこんな事をしている時間が長くなったな と思う
それは俺が現世に、一護の家にいるからというのが大きいんだとは思うけど

・・・正直、俺は戸惑っている
一護に抱きしめられるのは好き
一護とキスするのは好き
オトナのキスも苦しいけれど一護とのキスだから嫌いじゃない

そう、嫌じゃないんだ
オトナのキスやこうして抱きしめあっている事に戸惑ってなんかない

戸惑っているのは・・・あの時の一護に




昨日の夜の事
俺は一護のベットの隣に布団を敷いて休ませて貰っている
いっぱい一護と話をして、遅くなったからもう寝ようと俺は横になった
一護も明かりを消そうとしていた

その時、一護が寝ている俺に覆いかぶさって抱きしめてきた
ぎゅっと抱きしめられて、その暖かさに落ち着いた

そしてこの時もオトナのキス
やっぱり息があがってしまう
漸く一護が離れていって、俺は肩で息をしていた

その時、一護の手が俺の服の中に入った
なんだろう?とぼんやりする視界の中一護を見た




一瞬だけ一護と眼が合った




・・・・恐怖を感じた
そんな眼で見られた事など一度もなかった

その眼はいつもの優しさが感じられなくて、ぎらぎらしていた

俺が怯えたのを感じ取ったのか
一護はすぐに俺から身を離した


『ごめん・・・ちょっと下で水飲んでくる
お前は寝てろ』


一護はそのまま一時間帰ってこなかった



翌朝の一護はいつも通りだった
そして今目の前にいる一護も優しい眼をしている

じゃあ、あの一護はなんだったんだろう
あんな怖い一護・・・初めてだった


「?どうかしたか?」
「!ぅううん、なんでもない」


深く考えない方が良いかもしれない


「息、落ち着いた?」
「ん、大丈夫」


いつも息が出来なくて苦しいと訴えた俺に、一護は大きな声で笑った


「一護!?」
「悪い・・・でも、もしかしてお前、ずっと息止めてたのか?」
「だって・・・口、塞がれてるし」
「鼻ですれば良いじゃねぇか、それに俺、時々口をずらしてるだろ?」


その時にすれば良いんだよ と囁かれて
もう一度キスをする

何度も角度を変えてのキス
時々、一護からアドバイスのようなものをしてもらってはもう一度
それを繰り返した

すっかり日が落ちて、辺りがますます暗くなった頃
俺の背にまわされていた一護の手がゆっくりと撫でるように動いた時
思わず声をあげていた


「っあっ!}
「・・・どうかした?」
「わ・・わかんない」


なん・・・だろう?
何かが体の中を走ったみたいな
ビックリした

一護は ふぅん と何かを考えてまた俺の背中を撫でた


「ぅあっ!」
「成る程」


何が成る程なんだ?
一護がニヤリと笑って何度か背中を撫でられた
その度に俺は声をあげてしまっていた
恥ずかしくて出したくないから必死で抑えようとするが、俺の意思とは反対に出てしまう

お願い、もうやめて

耐え切れずに一護にそうお願いしたらやっと止めてくれた

そしてどうしてか体に力が入らなくなっていた


「?冬獅郎?」
「いちご・・・力が入らない・・・」


そう訴えると一護は「刺激が強すぎたのかな?」と呟いた
刺激って?

う〜ん と一護は少し考えた後
おんぶして帰ってやると提案してきた

おんぶだなんて、そんな恥ずかしい真似出切るか!
と反対したが、自力では立つ事すら出来なくなっていた為
大人しく従う事にした










「ほら、来いよ」


一護が背を向けて座る
それに手を伸ばしかけた時、辺りに虚の気配が!


「っ!こんな時に!」


チッ!と舌打ちし氷輪丸を抜く
しかし、さっきよりはマシになったが
やはり身体に力が入らない

このままでは良い餌だ


「冬獅郎、さっさと掴まれ」
「え?でも」
「早く!」


一護に怒鳴られた俺は
驚きつつ一護の首に手を回し、その背に乗る


「来た!」


一護がそう叫んだ瞬間
虚が襲い掛かって来た

それを一護は飛んでかわす


「しっかり掴まってろよ」
「へ?ぅわっ!」


俺を背負ったまま、一護は虚に攻撃を始めた
・・・自分で動いてるなら平気だが、他人に背負われてとなると
普段と違ってハラハラする

一護の強さは認めているけれど
なんと言うか、時々危なっかしいと言うか


「お、危ねぇ」


ひょい と虚の長く鋭い爪と避ける
しかし、それがギリギリのタイミングで
もう少し早く避けれるだろう!と言わずにはいられない


「危ないだろ!」
「だから危ねぇっつって避けただろ?」
「ギリギリすぎるんだよ!」
「へーへー」
「真面目に闘え!」


・・・まるで、一護は遊んでいるように見える
確かに俺や一護なら簡単に倒せれるレベルだけど
油断してはいけないのに

いつか・・・取り返しのつかないことになるんじゃないだろうか
と不安に思った










「っしゃ!終了!」


あの後も一護はなかなか虚に止めを刺さず
俺が怒るのを楽しんでいたようだった

やっと虚を倒したのは、奴が現れてから30分経った頃だった


「・・・何怒ってんですか?冬獅郎さん」
「・・・・聞きたいのか?」


声を低くして答えると
一護は「ゴメン」と謝ってきた

俺がどうして怒っているのか、自覚はあるようだ
むっとしている俺を下ろすと
一護は頬にキスをしてきた

一護のキスは優しくて
怒りがどこかに行ってしまうほど心地よい

このまま誤魔化す気だな

卑怯だ!
と思いながらも一護を許す俺だった








俺は一護に再び背負われ、浦原商店に向かっている
そこに俺の義骸と義魂丸がいるからだ


一護のキスで怒りは治まったが
不安は消えていなかった

そうだ、浦原にも一言言ってもらおう
今日の虚はレベルは高くなかったし、特殊能力も無かったから良かったものの
いつもあんな戦いをしていたのでは、きっといつか大怪我をする

それどころか・・・死んでしまうかもしれない・・・


ぶるり と恐怖で身を震わせた
そんな事になったら俺は正気でいられるだろうか?


そんな事を考えていると浦原商店に到着した

するとすぐに浦原から瀞霊廷から通信が入っていると告げられる










「・・・松本?」
『お久しぶりです、たいちょVv』


通信の相手は松本だった
つぅか
浦原、いつの間に瀞霊廷と通信できる設備を?
それにお前追放されてなかったっけ?
いつから瀞霊廷と仲良く?なったんだ?

確かに、俺も世話になってるけどよ・・・


『どうしたんです?たいちょ』
「いや、別に」


気を取り直して、俺は松本に用件を問う

すると松本は意外なことを口にした


『隊長、さっき倒した虚ですけど』
「・・・倒したのは黒崎だ」
『あら?そうなんですか?』
「・・・・」


くそっ!身体が動いてれば俺がやったのに


『まぁどっちでも良いですが・・・』
「それがどうかしたのか?」
『どうも、そいつが目標だったみたいなんですよね〜』
「なんだと?」


確かに、あの虚は俺や一護、隊長格ならば簡単に倒せるレベルだった
あえて言うなら席官でなくても倒せた
でも、資料に載っていたのは・・・


「目標は上位席官レベルじゃなかったか?」
『そうなんですけど、計測されてたデータと今日の奴のデータを比較すると
霊波の波長が一致しちゃったんですよね』


記載ミスですかねぇ
と暢気に松本は笑った


つまり俺は
平隊員でも倒せたであろう虚相手に三日もかけた挙句
自分ではなく、一護に倒してもらった と
そういうことなのか?
・・・隊長格はなにかと忙しいのに
副官はサボリ癖があって目を離せないのに


「(怒)」
『・・・えっとぉ、総隊長が
『日番谷隊長には申し訳ないことをした
任務は終了したが、最終日まで現世で休暇をとってもらって良いぞ
いや、とって来ると良い』
だそうです』


何を言ってるんだあのじぃさん!
休暇?
冗談じゃない!
これ以上十番隊を離れていられるか!!


「いや、俺は今すぐ瀞霊廷に『あ、穿界門開きませんから』」
「・・・何?」
『隊長はすぐ帰るって言うだろうから、『穿界門閉めちゃえ』って閉めました』


オイオイ・・・
そりゃやって良い事じゃないだろう


『ってな訳で、もうちょっと一護との同棲生活楽しんでくださいねVv』


ブツン
と一方的に通信を切られる


「おい!松本!!
ふざけんなてめぇ!!」


もう一度繋げようとするが、繋がらない
通信まで不通にしやがったのか?








かくして、俺の現世任務は強制的に続けられたのである





























「ふぅん・・・」


ここは先程まで一護と冬獅郎が居た場所
一護が虚を退治した場所

そこに降り立つ
長身の男




「十番隊長さんと旅禍のあの子・・・」








「そんな仲、やったんや」






ニヤリ
そう笑った男は次の瞬間、そこから姿を消した