Nightmare 前編
冬獅郎が現世にやってきて今日で八日目
明後日には尸魂界に帰らねばならない
最初は早く任務を片付けて隊に戻るんだ と意気込んでいた冬獅郎だが
やはり一護との生活は楽しいようで
「あと少しで帰らなきゃならねんだ・・・」とカレンダーを見ながら肩を落としたのは昨日の夜の出来事
隊長という役職上、滅多な事では現世に長期滞在など出来ないからである
「おや?いらっしゃい」
「おう邪魔するぜ」
そしてもう一つ残念な事がある
それは、ココ浦原商店で毎日ご馳走になっていたおやつが食べれなくなる事だ
どうやら浦原喜助の手作りであるらしいケーキの数々はどれもこれも絶品で
瀞霊廷にある有名菓子店など足元にも及ばない程だ
昨日はミルフィーユだった
そして今日は・・・
「シンプルですが、シフォンケーキですよ」
ふわふわしていてしっとりのプレーンシフォンケーキ
一緒に添えられた生クリームも甘すぎず丁度良い
「おいしVv」
「日番谷隊長はケーキ大好きですねぇ」
「いや、こっちに来て浦原の作った物を食べてからだ」
「おや?そうなんですか?」
「ああ、俺は洋菓子よりも和菓子派だった」
松本に「爺臭いですねぇ・・・若いくせに」
と嫌味を言われる事もしばしば・・・
どれか自分でも出来そうなお菓子の作り方でも教わって帰ろうかな
松本も喜ぶだろうし
冬獅郎は尸魂界で真面目に仕事をしているだろう(希望)部下を思った
「洋菓子が好きになってもらえて嬉しいですねぇ
実は、夜一さんも和菓子派だったんですよv」
「四楓院も?」
「ええvあの人に洋菓子を好きになってもらいたくて必死でレシピを考案したんです」
「で、成功したのか」
「はいVv」
今頃
どこかで昼寝している黒猫が
恐らく、くしゃみでもしている事だろう
それを想像し、冬獅郎は浦原とクスクスと笑いあった
そんな楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう
気がつけば時計は三時を指していた
「あ、一護が帰ってくる時間」
「あらら・・・もうそんな時間ですか?」
今日の昼食は一護の学校で摂った
詳しい事情は知らなくても、冬獅郎が一護にとって大切な人物であると肌で感じたのであろう
友人達は快く冬獅郎を昼食の輪の中に入れてくれた
別れ際、一護から「早く帰るからちゃんと家に居てくれよ」と言われていたのに
このままでは約束を破ってしまう
しかも一護の霊圧は自宅近くにある
「しまった!」
「後、数分って所ですかねぇ」
冬獅郎は浦原におやつの礼をいうと急いで黒崎家へと走った
「くっそ〜!こういう時義骸は面倒なんだよなぁ」
死神の状態だったら瞬歩を使ってあっという間なのに
とブツブツ文句を言っていた
一護の霊圧はもう自宅にある
怒りはしないだろうが、約束を破ってしまったのが心苦しい
「っ!これは!?」
冬獅郎は大きな霊圧を感じた
それは良く知っている霊圧
どうして現世にいるのか
一人でいるのか
何が目的なのか
聞きたいことがたくさんある
そして
何が何でも倒さねばならない相手
「市丸っ!」
次の瞬間、冬獅郎は義骸から飛び出していた
「・・・・ここは・・・」
市丸の霊圧を感じた場所に来てみれば
そこは冬獅郎の調査していた場所
まさか、この件に市丸が係わっていたのだろうか?
辺りを警戒してみると
何かおかしい感じがする
何か・・・・そう、近くに強い結界の様なものがあるのだろうか
壁になるものを感じた
市丸の霊圧は最初の一瞬だけで
今は何も感じない
(罠・・・だろうな、これは)
冬獅郎の後をついてくるように来ていた一護と合流すべきだったかもしれない
と今更ながら後悔した
♪♪♪
冬獅郎の伝令神機が着信を知らせる
それに出てみると相手は松本
『隊長!』
「松本か」
『流魂街で虚が大量に出現ました』
「!」
『申し訳ありませんが直ぐにこちらに戻って「アカンよ」』
「だって今からボクと遊ぶんやもん」
独特の訛りのある話し方
この声
(市丸!)
冬獅郎が身構えるよりも早く市丸の腕の中に捕らえられた
すっと
手に持っていた伝令新機が奪われる
それを地面に落とし、踏んで壊された
不思議な話
冬獅郎はそれをぼんやりと見ているだけだった
(え?何が・・・?)
何が起こっているのか
冬獅郎が理解するよりも早く
鳩尾に衝撃が走った
「!っか・・・はっ!」
市丸の腕の中に倒れこむ小さな身体
くたりとした力の抜けたそれを
市丸が支えた
「ボクと楽しい時間を過ごそうな」
クスクスと市丸は笑みを浮かべた
続