後日談 1





『残酷な願い』






『浮竹、頼みがある』


体調を崩した冬獅郎に、四番隊へ行こう と説得しに言った時

『黒崎は必ず卍解を手する。だから―』

冬獅郎が護廷に入った時から見守ってきた自分に、彼は残酷な願いを託した








冬獅郎が九十年間抱えていた秘密が明るみになった日
一護と冬獅郎が、本当の意味で再会した日
その日の夜、浮竹は親友である京楽を呼び出した


「で、話って何?」

話がある と呼び出しておきながらなかなか内容を話そうとしない浮竹に、痺れを切らした京楽が問いかけた
浮竹は杯の中の酒を飲み干すと、溜息をついた

「・・・冬獅郎に・・・ある頼まれごとをされていたんだ」
「日番谷君に?」

ああ・・・と浮竹は頷き、空の杯に酒を注いだ

「黒崎君は必ず卍解を手にする。だから・・・」

『だから、アイツを隊長に推薦してやってくれないか?』

「・・・」

京楽は無言で浮竹を見つめた後、そうかと頷いた


隊長に就任する為の条件の一つに『卍解習得』という項目がある
現在の隊長の中で更木だけが習得していないが、他の隊長は全員習得済みだ
一護が卍解を得たのなら、当然就任が認められる可能性が出てくる

冬獅郎が浮竹に頼んだ時点では、一護は始解が出来たばかりの頃だった
本当は卍解も習得済みなのだが、本人も周囲もそれを忘れていた為、誰もが無理だろうと思っていた
真実を知っている冬獅郎以外・・・

「俺が、『他隊の隊長である俺よりも、冬獅郎がしてやった方が彼も喜ぶんじゃないか』って言うと」

冬獅郎は頭を左右に振って泣きそうな表情で微笑んだ
『その時、俺はもういない』と言って

「冬獅郎は、本当に死ぬつもりだった」
「・・・みたいだね」
「秘密を抱えて、誰にも何も言わないで、いなくなるつもりだったんだ」

それが自分の罪なのだと
死は自分の望みの代償なのだと思い込んで、いなくなるつもりでいたのだ

「冬獅郎は、黒崎君の就任先をどこにしろと言ったと思う?」
「・・・・」

享楽にはそれがどこなのか解った
だがあえてそれを口にはせず、浮竹の言葉を待った

「十番隊だよ・・・自分の跡を継いでほしいって」

これまで長い年月をかけて、それこそ冬獅郎が人生をかけて育て上げた十番隊を一護に譲ると言ったのだ
十番隊は冬獅郎が鍛えたからか、護廷で一番殉職率が低く、また仕事の速い隊であった
隊長として経験不足な一護でも、十分隊首を務め上げれるだろう
だが・・・

「残酷な話だねぇ」
「ああ」
「日番谷君のいない日番谷君の十番隊を継がせてもらって、どこの誰が喜ぶと思ってんだか・・・」

特に一護は冬獅郎を想っていたのだ
冬獅郎を失って一番傷つくのは一護であるというのに、その彼に自分の跡を継げなど、あまりに酷な話だ

「俺は、黒崎君が封印を解いた後の、意識を取り戻した冬獅郎の表情を見て気がついた」

『この手は離さないから』と冬獅郎に泣きながら笑いかけていた一護
そしてそれに答えるように頷いた冬獅郎は、嬉しそうに笑っていた

「いつから・・・あんな冬獅郎を見ていなかったんだろうって」

元々それほど笑う子供ではなかった
いつも眉間にシワを寄せて、不機嫌そうな表情をする子供だった
けれど、親しい者といる時には表情を和らげ、笑う子供でもあった
なのに、藍染との戦いの後、彼は殆んど笑わなくなった
代わりに寂しそうな、悲しそうな表情をすることが多くなった

「今なら解る。冬獅郎はずっと苦しんでいたんだ」

自らが望んだこととはいえ、誰もあの戦いの真実を知らない
そしてそれを誰かに打ち明ける事も出来ない
どれだけ孤独であっただろう
自分たちは傍にいたが、誰も彼の苦しみを理解する事が出来なかった

「辛かっただろうに・・・」
「でも、その苦しみも彼は解っていた筈だよ」
「それでも、俺は助けてやりたかった。解ってやりたかったよ」
「・・・浮竹」

慰めるように京楽が浮竹の肩に手を置いた

「でも彼はもう大丈夫さ」
「・・・ああ」
「日番谷君には黒崎君がいるからね」

浮竹は微笑みながら頷く

黒崎一護
あの元死神代行の少年は、迷う事無く氷輪丸を冬獅郎へと突き刺した
彼が瀞霊廷に戻ってくる前に、浦原の使いとして夜一が全てを伝えにやってきた
封印を解く方法もその時に浮竹たちは聞いていたのだが、どうしてもその決断が出来なかった
冬獅郎は酷く衰弱しており、封印を解いたとしても助からないのではないかという予測が立てられていたからだ
だが、彼は迷わなかった。いや、迷っていたのかもしれない。しかし、冬獅郎を救う為にはこれしかないのだと、強い意志をもって封印を解いた
その強い意志、心に冬獅郎は惹かれたのだと思う

「これからは彼が日番谷君の傍にいる。彼を理解していく」

だからもう安心だよ
京楽の言葉に浮竹は頷いた




杯に写る自分の姿
浮竹はフッと笑うと、それを一気に飲み干した

もう大丈夫
もう寂しい顔をした冬獅郎を見ることはなくなる
もう孤独な時を過ごさせる事もなくなる

「きっと冬獅郎は幸せになれる」

彼が護廷に入った時から見守ってきた
これからも自分は彼を見守っていくだろう

死神をしている限り、生きている限り悲しい事も辛い事もたくさん経験するだろう
それでもきっと大丈夫

泣いて前へ進めなくなっても彼は必ず立ち上がる事が出来る
笑うことが出来る

何故なら彼はもう孤独ではないのだから

彼の傍には迷いのない強い心を持った大切な人がいるのだから





この内容を入れ忘れたので後日談としてお送りいたします・・・

『後編』で、浮竹に冬獅郎が頼んだこと、その内容です
一護が卍解を手に入れると自分が死ぬと知っていた冬獅郎は、罪滅ぼしのつもりで十番隊隊長の座を一護に譲ろうと考えていた・・・という話を本編で入れることが出来ませんでした
危篤状態になった冬獅郎の前で浮竹が一護に話して、そして一護が怒って→夜一登場→開封方法伝授→ラスト・・・・のつもりだったのですが、いっちーが病室前で怒鳴ってしまったので無理でした・・・
浮竹は冬獅郎のお父さんポジション