後日談 2




『貴方の為に』









「・・・本当に大丈夫なんだろうな?」
「疑ってんのか?」

ひでぇ
一護は唇を突き出して冬獅郎の髪を引っ張る
冬獅郎は「止めろ!」と頭を振って髪から一護を放そうとするが、髪はしっかりと摑まれたままだった

「コラ、そんなに暴れたら」
「っ」

ふら・・・と冬獅郎の体が倒れ掛かる。一護はそれを支えて、寝かせた

「ほら、まだ本調子じゃないんだから無茶すんな」
「・・・・・・」
「拗ねるんじゃねぇよ」

つん と冬獅郎の額を突き一護は苦笑した










一時は死の寸前まで弱った冬獅郎だったが、少しずつ回復し、自室での療養が許可された
本人は歩いて帰りたいと訴えたのだが、これまで殆んど動いていなかった冬獅郎が自室まで歩いて帰れる筈がない
そこで一護が冬獅郎を抱いて帰ってやると言い出した
勿論、そんな恥ずかしい真似が出来るかと、冬獅郎は反対した
だが自分では歩いて帰れない。かといって、車椅子にも乗りたくない
悩んだ冬獅郎は、一護に瞬歩で自室まで連れて行ってもらう事を選んだ
一護の本音としては、冬獅郎は自分の物だと見せつけながらゆっくりと歩いて帰りたかったのだが、そうすると冬獅郎が怒る。卯ノ花より、あまり無理をさせないようにと厳重に注意されている為、ゆっくり歩いて帰る事を諦めた

「しかし・・・」

一護は冬獅郎の長い髪を指に絡めながら感心する

「なっがいなぁ」
「・・・」
「何十年伸ばしてんだ、これ」

一護の記憶の中にある冬獅郎といえば、銀の髪を(少しでも背を高く見せたいのか)立てた子供だった
なのに今の冬獅郎は、長い髪を後ろで一つに結い上げていた
さらさらと流れる髪は指通りも良く、艶やかだ
ただでさえ美しい顔立ちは、この長い髪のせいで更に冬獅郎を中性的に見せている
早く子供の姿から抜け出したいと思っていた彼が、何故こんなに髪を伸ばしているのか、一護は疑問に思う

「なぁ?なんでだ?」
「・・・てめぇがそれを聞くのか・・・」
「あん?」
「お前が言ったんだろ!『伸ばせば良いのに』って」

一護の腹部に冬獅郎の拳が入る
ぐぇ・・とうめき声をあげながら、一護は冬獅郎のベッドに突っ伏した




****





「伸ばせば良いのに」
「・・・・?」

それは先遣隊として冬獅郎が空座町へやってきた時のこと

井上の家に居候している冬獅郎だが、流石に風呂を使うのは戸惑った
それは女性一人暮らしの家の風呂を使うことを、ではなく、松本のいる場所で一番無防備な姿にならなくてはならない事が、であった
いつ決戦が起こるか解らないこの時期に、あの副官は何をお気楽に考えているのか、隙あらば冬獅郎の私生活の写真を撮りたがっていた
どうやら瀞霊廷通信の付録にするつもりらしい
これが護廷内であるなら、冬獅郎の自室に風呂が付いている為安心して風呂に浸かることが出来る
しかしあそこは井上の家
万が一松本が乱入、もしくは隠し撮りなどした場合、怒り狂った冬獅郎が井上の家を壊さずに松本を取り押さえれるかと問われれば、その保障は出来ないと答えるしかない
自分で言うのもなんだが、冬獅郎は冷静に見えて熱くなりやすいのだ

隊長たるもの、そうであってはいけないと、冬獅郎は事態が起こる前に先手を打った
最初から松本が乱入できない所で風呂に入れば良いのだ

井上の家は、彼女が独りで暮らしているから無茶をするのだ
ならば家族のいる人間の家で入れば良い

そこで黒崎家の風呂を借りに来たのだ



風呂を借りたいと真剣な表情で訪ねてきた冬獅郎に一護は面食らっていた
そこで諸事情を話し、理解してくれた一護が冬獅郎に風呂を貸してくれたのだ

「だったらお前もここに住めば?」と一護は冬獅郎を歓迎してくれたが、その気はなかった
この家にはルキアが世話になっている。これ以上死神が黒崎家に厄介になるわけにはいかない
それに

(お前に近づきすぎて、離れたくないと考えるだろうから・・・)

好きな男と共にいたいと思うのは自然な事
だが自分たちは住む世界が違う
戦いが終われば離れなければならない

離れたくない
一緒にいたい
戦いなんて終わらなければいいのに

そう考え始めている自分に嫌気が差す
冬獅郎が十番隊隊長である為にも、なるべく一護に関わる事は避けなければならなかった





風呂から上がった冬獅郎を見て、一護がその腕を掴んだ
何故なら冬獅郎が髪を洗ってそのままの状態で帰ろうとしたからだ
どうやら彼にはドライヤーで髪を乾かすという習慣がないらしい
真夏ならともかく、これからの季節は風邪を引く と嫌がる冬獅郎を自分の部屋に引き入れて髪を乾かしていた
その最中、一護が「伸ばせば良いのに」と呟いた

「・・・何を伸ばすって?」
「あ、ああ・・・髪だよ。髪」

髪?と冬獅郎が一護を振り返る
一護はニッと笑って、乾ききっていない銀色の髪を引っ張った

「これだけ綺麗な銀髪なんだぜ?勿体無い」
「・・・流魂街では怖がられていたけどな」
「お前目つき悪いもんな」
「・・・お互い様だろ」

違いない と笑う一護に溜息をはき、冬獅郎は正面を向く
一護も髪を乾かす事を再開する

「でも・・・俺はお前の髪好きだぜ」
「っ」
「キラキラしてて、いつも立ててたから気がつかなかったけど、さらさらしてて、綺麗だ」

「綺麗だ」と言われて顔を真っ赤にしていた冬獅郎は気がつかなかったが、一護が冬獅郎の髪に口付ける

「伸ばせばきっと似合うぜ?」
「・・・う・・・五月蝿い!」
「照れるな」
「照れてねぇ!」

クスクスと笑う一護に、強がって見せた冬獅郎だったが、「綺麗だ」という一護の言葉はずっと心に残っていた


****





「あ、そうか」
「・・・・そうだ」

冬獅郎はシーツを頭まで被り「忘れんな馬鹿」と呟いた

「俺の願いを聞いてくれたのか?」
「・・・・」
「お前ってホント可愛いなぁ」
「・・・・」
「冬獅郎」
「・・・・」
「おーーーい」
「・・・」
「・・・好きだぞ」

一護は照れて出てこれない恋人をシーツごと抱きしめた
すると、ゆっくりと冬獅郎が顔を出す
その顔は真っ赤に染まっていた

「本当に大好きだ」
「・・・恥ずかしい奴」

ぽつり と冬獅郎がこぼした
一護はにっこりと笑って、自分の為に伸ばされた銀の髪に口付けたのだった






これもまた入れ忘れた(入れられなかった)話
冬獅郎が髪を伸ばしたのは一護の言葉がきっかけというエピソードですが、本編ではこの事を二人が話すのは不自然(一護はこの事を忘れている)なのでカットしました

(つか、シロちゃんの髪が長いのは、私の趣味以外なにものでもない)