人が人を全て理解する事なんて無理な話なのだ
誰でも知ってほしくない秘密や、知られたくない自分がいるもので
それがある限り、人に人は理解出来ない







『人と人とが理解しあう事』








12月20日
十番隊舎中の暦に二重丸の付けられた日
これは一年で最も大事な日



その印を見つめた冬獅郎は、ギュッと唇を噛み締めた

「忌々しい日だ・・・」

この日は自分にとって災いの日でしかない
恐らく今日の執務は殆んど手がつけられないだろう。毎年そうだった

そして12月20日で思い出すのは・・・・

「・・・・」

冬獅郎は溜息を吐くと、自分の席に座った



****











『今日の仕事は今日中に!!
明日の仕事も今日中に!!』


「・・・なんだこりゃ?」

現世任務より帰還した一護は、隊舎門に掲げられた横断幕に、こう呟いた

一護が瀞霊廷を離れていたのは一週間
離れる前はこんなものは掲げられていなかったし、掲げるという話も聞いていない
一体何事?と一護は首を傾げながら隊舎内に足を踏み入れた

「・・・・なんだこりゃ?」

先ほどと同じ言葉を口にする
今度は十番隊内の廊下を走り回る隊員たちを見て、思わず出た言葉だ

今月は今年最後の月。12月。師走と呼ばれるこの月は、年末という事もあって確かに忙しい。提出する書類の期日もいつもより早く締め切られているし、枚数も多い。基本的に期日前提出をモットーにしている十番隊は、それはそれはいつもより大変だろう。だが、ここまで慌しくやらねばならないものだろうか?
一護の把握している限りでは、副隊長松本以外は殆んど書類を溜め込んではいない

「あ・・・おーい、竹添」

誰かにこの事態の説明をしてほしかった一護は、廊下をこちらに向かって走ってくる竹添に声をかけた

「!黒崎三席、お帰りなさい、お疲れ様です」
「おう。ただいま」

手をあげて帰還の挨拶をした一護は、なにがあったのか訊ねた

「皆どうしちまったんだ?こんなに走り回って」
「三席、何を言っているんです?今日は12月20日ですよ?」
「?ああ、そうだな」

一護の帰還予定日だ
必ずこの日に帰ってくるから と銀髪の隊首兼恋人に約束した日だ

「だからですよ!」
「・・・なるほど」

なにが「だから」なのか、詳しく聞きたかったのだが竹添は相当急いでいるようで、「では」と走り去ってしまう
ならば、と彼を諦めて他の者を・・・と思ったが、他の隊員もバタバタと走り回っている
駄目だこりゃ、と一護はとりあえず十番隊隊首執務室へと向かった
そこには冬獅郎がいる
彼ならこの騒ぎの原因を知っているだろう


****

記憶と力を取り戻した一護は十番隊三席に昇進していた
本当は隊長席を用意されていたのだが(三・五・九番隊)、本人が冬獅郎の傍から離れる気がなかった事と、乱菊が果し合いしてでも副隊長の席は譲らないと宣言した事もあり、三席への昇進となった
護廷十三隊は実力主義。乱菊より一護の方が力は上なのだが、一護自身冬獅郎の副官は乱菊が一番相応しいと思っているので、不服はなかった
それに、隊長の代理として隊を纏める役目のある副隊長よりも、三席という地位の方が隊長の傍にいられる確立が高い事も理由の一つであった
恋次に「勿体無い」と言われていたが、一護にも声を大にして言いたい事があった。(と、いうより実際に声を大にして言ったのだが)
『本当なら九十年も前からイチャつけてたんだぞ?俺はずっっっっっっっっと我慢してたんだぞ?やっと冬獅郎をこの手に出来たのに、なんで他の隊にいかなきゃならねぇんだ!!』
そう、やっと冬獅郎をこの腕に抱けたのだ。他の隊の隊長などに就任してしまっては、仕事が終わらなければ冬獅郎に会えないではないか
真面目な彼の事、仕事中にたいした用もないのに執務室を訪ねようものなら、間違いなく氷輪丸で追い返されてしまう。最悪の場合、暫く口を聞いてもらえないかもしれない。そうなると、精神的に大ダメージだ。それだけは避けたい
それに・・・
『三・五・九番隊の奴らも、俺に就任してほしくないだろ』
特に五番隊は・・・
苦笑する一護に恋次は何も言う事が出来なかった
たとえ反逆者であったとしても、演技していただけであったとしても、藍染は五番隊にとって最高の隊長であったであろう。その藍染を殺した一護を、全員が全員快く受け入れることが出来ない筈だ
『俺ならそうなる。藍染を冬獅郎に置き換えたら・・・絶対に受け入れられない』


(でも・・・いまだに爺さんと四十六室は隊長就任を要請して来るんだよな〜)

任務直前に握りつぶした書類を思い出して、一護は溜息をはいた

(あんなの送り付けられたら冬獅郎が気にするだろ!)

自分の傍に縛り付けている。冬獅郎はそう思い込んでいる
かつて一護を人の道に戻してやることが一番良い事だと思っていたように
自分がいるから昇進を受け入れないのだと考えている

どうも冬獅郎は悲観的でいけない
一護はそんな恋人が心配でならなかった


「・・・っと」

考え事をしている間に執務室へ着いてしまった
扉に手をかけながら、一護は頬を緩めた
なんせ会うのは一週間ぶり
にやけるなという方が無理な話だ

「失礼しますっ黒崎三席ただいま帰りました」

入室の許可を貰う前に、開ける
何度も注意されているのだが、ついつい開けてしまう。きっと一秒でも早く冬獅郎に会いたいからだ

「・・・なんだこりゃ?」

本日三度目のセリフ

執務室にいるのは冬獅郎と乱菊
二人はいつもと同じ様にそれぞれの机で書類を捌いている

「おかえりなさい、一護」
「た、ただいま乱菊さん」

執務室に入る一護を金髪の美女が出迎える
ただし・・・・執務室を埋め尽くす箱の向こうから

「乱菊さん、これどうしたんだ?」

積み上げられた箱を避け、乱菊の元へと近寄る

「貢物よ。貢物」
「貢物?」

なんだそりゃ?と一護が首を傾げていると、「黒崎」と名を呼ぶ声が聞こえた。冬獅郎だ

「冬獅郎、ただいま」
「お帰り・・・・それと・・・」
「はいはい。日番谷隊長、黒崎一護無事戻りました」
「・・・はい は一度だけだ」

積み上げられた箱の山は、冬獅郎の机の付近にまで置かれており、いつもなら数秒で駆けつけられる恋人の下まで数倍も時間がかかった
それでもたった数秒くらいだろうと笑われるかもしれないが、一護にとってはその数秒がじれったい

「ってか、これ何なんだ?」
「・・・欲しいならいくらでもやるぞ」

俺はいらん と溜息をはいて、冬獅郎は書類に視線を戻した
やる と言われてもこれが一体何の為の貢物なのか解らない一護は、それじゃあ と貰うわけにはいかない
どうも冬獅郎はこれについて話すつもりはないらしい
困った一護は乱菊に助けを求めた

「これはね、瀞霊廷中の隊長のファンからの贈り物よ」
「冬獅郎のファン?」

一護は顔を顰める
恋人の冬獅郎は老若男女問わず人気のある人物で、一護という恋人が出来てもその人気は衰える事を知らない
寧ろ『十番隊の高嶺の花が人に堕ちた』と騒がれ、さらには何とか一護から奪おうと以前より人気が出てきていた
だがそれでもここまで集中して贈り物が送られて来ることはなかった。まさか自分が離れている間に妙な噂でも流れたのだろうか?

「違うわよ」

そんな一護の心の内を読み取ったのか、乱菊が苦笑しながら否定する

「これは隊長への誕生日プレゼントよ」
「・・・・・・・・・へ?」

一瞬、一護には乱菊の言葉が理解できなかった

「今・・・なんて・・・」
「今日は隊長の誕生日じゃない」

何言ってるの?と乱菊は笑う
だが一護には笑えなかった

(誕生日?・・・俺・・・知らなかった・・・)

記憶を取り戻してから、一護はずっと冬獅郎の傍にいた。傍にいられなかった90年を埋めるように、隣にあり続けた
だがこれまで一度も二人の間で誕生日の話が出た事がない

(そうだ・・・俺は冬獅郎の事何も知らない)

そして、やっと気がついた。十番隊の皆が何故あんなに走り回っているのか
それは今日誕生日の隊主の為に皆で協力して仕事を片付けているのだろう
もしかすると終業時間後に何かパーティーでもあるのかもしれない

(何も・・・俺は何も聞いてない)

「・・・一護?」
「っ」

様子がおかしくなった一護の肩に乱菊が手を置こうと伸ばす
だが

「一護!?」

手が肩に触れる直前、一護が姿を消す
慌てて出て行ったからだろう。どさどさ と積み上げられた誕生日プレゼントが床に落ちた

「・・・なんなの?」

困惑する乱菊の後ろで、冬獅郎が大きく目を開いて驚いていた



****


逃げて逃げて
一体何から逃げているのだろう
一護にもよく解らないが、とにかく逃げた
そして−

「・・・何やってんだ、俺」

たどり着いた場所は懐かしい双極の丘
90年前のルキア処刑事件から一度も使われていない場所
一護はそこで膝を抱えてぼんやりと瀞霊廷を見下ろしていた

「変に思ったよな・・・」

冬獅郎の霊圧に揺れは無かった。だが、何も言わずに飛び出した自分に何も思わないわけがない

「あ〜・・・どうしよ」

何で逃げちゃったかなぁ・・・
一護は溜息をはいた

「・・・・」

仕方がないのだ
自分が冬獅郎と出会った時、自分たちはそれほど親しくはなく、目前に決戦が迫っていた
仕方がないのだ
自分たちが想いを確かめ合った後、一護は記憶を無くし離れ離れになってしまったのだ
仕方がないのだ
自分たちが再会した後は、冬獅郎の体調が悪く、そんな事を話し合う時間など無かったのだ

「・・・俺達、お互いの事何も知らなかったんだな・・・」

こんなので恋人といえるのだろうか
一護はもう一度溜息を吐いた・・・・ところに

「この馬鹿者が!!」

後頭部に、慣れた蹴りの感覚

「ル・・・ルキア!?」

それは一護に死神の力を与えた死神
一護の世界を変えた人物
一護と冬獅郎が出会う切欠をくれた少女、朽木ルキアだった




「全く、貴様ときたら執務室のプレゼントを滅茶苦茶にしたそうではないか?」

十番隊に書類を持って行ったところ、プレゼントに埋もれる乱菊とそれを助ける冬獅郎というものに遭遇したのだという
実際の所、一護は数個プレゼントを落としただけで、乱菊が埋もれたのは彼女の自業自得。止せばいいのに、プレゼントの山に手を伸ばし、雪崩を引き起こしてしまったというのが真実だ
しかしルキアと一護はその事実を知らない
乱菊の話を聞いたルキアは怒り、一護は更に落ち込んだ

「・・・・それで?何が原因なのだ?」
「え?」
「貴様はたった今戻ってきたばかりなのだろう?」

一週間も瀞霊廷を離れていた一護が、冬獅郎と満足に話もしないうちに飛び出していくなどありえない
長い間我慢していた反動とでもいうのか、一護は冬獅郎を溺愛していた

「日番谷隊長も気にされていたぞ」
「・・・そうか・・・」

一護はそう呟くと、再び黙り込んだ
ルキアは一護の横に腰を下ろし同じ様に景色を眺めだした


「・・・俺は・・・・冬獅郎の事何も知らないんだよ・・」

ぽつり と一護がもらす

「いつが誕生日だとか、何が好きだとか・・・知らないんだよ」

恋人であれば一番最初に、もしくは付き合い出す前に確認するであろう事を一護たちは教えあったことが無い
いや、教えあわなくとも調べることは出来た筈だ
一護が冬獅郎の事を知りたいと思っているのなら
冬獅郎が一護の事を知りたいと思っているのなら・・・

「俺達・・・こんなんでやっていけるのかな・・・」

はぁ・・・と一護が大きな溜息をはいた
すると、隣に座っていたルキアが立ち上がった

ああ・・・きっと呆れたんだな、と一護は自嘲する

「・・・・この、ヘタレめ!!」

どんよりと雨雲を背負った一護を、ルキアは思い切り蹴り飛ばした
一護はまるで漫画のキャラクターのように、ゴロンゴロンと数メートル転がる
それを追ってルキアが駆け寄り、更に蹴り飛ばす

「いっ・・・・・・・てぇな!何すんだ!?」

流石に何度も黙ってやられるほど一護も馬鹿ではない
再度振り上げられた足を避け、ルキアを睨みつける

「貴様の目を覚まさせてやっているのだ!」
「ぁあ!?」
「思い出せ!九十年前の貴様はそんな男ではなかったぞ!」
「・・・」

真っ直ぐ自分を見つめるルキアの目。それに何故か耐えられなくて目を反らした

「何故反らす?」
「・・・何故って・・・」
「かつて私はお前に救われた。この瀞霊廷も、世界も、そして日番谷隊長も」

ただの高校生であった黒崎一護という少年に自分たちは何度も救われてきた

「それはお前の力が優れているからではない。お前の力が誰よりも強いからではない」

力だけでいうのなら、反逆者藍染や、京楽たちの方が上であった

「私達を救ったお前の力とは、どんなことがあっても諦めない、折れない心だ」
「・・・心・・・」
「その心に、強い意志に私たちは救われた。そして日番谷隊長もそんなお前を好いたのだ」

どん とルキアは一護の胸を叩いた

「日番谷隊長の事を何も知らない?当然だ。貴様はずっと人間をやっていたのだからな」
「あ、ああ」
「だが、今まで傍に居れなかった分、これから隊長のお傍にあるのだろう?」
「っ、ああ!」

記憶が無くても求め続けた想い人
これまで離れていた時間分、いやそれよりもっと長い時を、冬獅郎と共に

「俺は冬獅郎の手を離したりしねぇ!」
「ならこんな事で弱音をはいてどうするのだ?」
「・・・ルキア」

不敵に笑うルキアに、一護は苦笑した






****


ルキアと話をした後、一護は急いで執務室へ戻った
するとそこには乱菊の姿しかなく、冬獅郎は自室へと下がったのだという

一護が予想した就業時間後のパーティーというものは存在しておらず、皆が走り回っていたのは、仕事を早く終わらせて冬獅郎に一護との時間を持ってもらう事だったらしい
一週間も離れ離れで、きっと寂しかっただろう冬獅郎の為に、隊員たちが用意した誕生日プレゼントだったようだ


『アンタの様子がおかしいって、気にしてたわよ』
ルキアに言われた事と同じ事を言われた
『・・・隊長を泣かせたら許さないんだから』
それは、冬獅郎の部屋に一護が住んで良いか十番隊でアンケートを取った時に、殆んどの隊員が書いていた言葉と同じ台詞
『九十年前にある死神代行が教えてくれたのよ。たとえ力では敵わなくとも、どんなことがあっても諦めないという心の力。それは時に、力では敵わない相手を越える事だってあるって事を』
力での勝負であれば、乱菊たちは一護には敵わない。それでももし一護が愛する隊首を泣かせたのなら・・・
『隊長に代わって私たちがアンタをお仕置きしてやるわ』
たとえ敵わなくとも、心の力で必ず一護をぶっ飛ばしてみせる
覚えておきなさい と口の端を上げて笑う乱菊に、一護は「怖いッスよ」と苦笑したのだった




「・・・・冬獅郎・・・入るぞ?」

乱菊に脅された後、一護は自分達の部屋へと戻ってきた
冬獅郎は寝室に使っている部屋にいるようで、一護はごくりと唾を飲み込んで声をかけた
しかし部屋の中からは返事は無い
だが、感じる霊圧は一護を拒否していなかった
もう一度「入るぞ」と声をかけて襖を開いた

「・・・冬獅郎」

冬獅郎は縁側に座って外を眺めていた
何も言わない冬獅郎の背中が、何故か酷く悲しげで思わず抱きしめた

「・・・・お前は言ったな」
「え?」

抱きしめたものの、まず何を言えばいいのか悩んでいる一護が口を開く前に、冬獅郎が一護に話しかけてきた

「俺を笑わせたい、幸せにしたいって」
「ああ」

寂しげな、悲しげな冬獅郎を、笑わせたい、幸せにしたい
記憶の無い一護が、冬獅郎に二度目の恋に落ちた時に思ったこと

「お前はずっと俺の傍にいてくれた。こうして抱きしめてくれる。それだけで俺は救われてる」
「・・・」
「でも、最近思うんだ。それは本当にお前のためになるのかって」
「!」

一護は冬獅郎を抱きしめる手に力を込めた
かつて『それが一護のため』と、一護の死神の力と記憶を封印した経歴を持つ冬獅郎。まさかまた同じ様な事を考えているのではないのかと不安になる

「俺の傍にお前を縛り付ける事が、本当にいい事なのか・・・」
「いい事に決まってんだろ!!」

一護は冬獅郎を自分に振り向かせ、正面から抱きついた

「俺の幸せはお前だ。お前と共にずっとある事が俺の望みなんだ」
「・・・・・ああ・・・」

冬獅郎の腕がゆっくりと一護の背に回る

「解らないなら、覚えられないなら何度でも言うぞ。俺はお前と一緒にいたい。お前の手を離さない。誰にも渡さない」

うん・・・と冬獅郎が頷く
一護はゆっくりと冬獅郎の身体を横たえ、小さく一護の名を呟いた唇へ口付けた







「飛び出していく瞬間のお前の顔が、今にも泣きそうな顔で。そんな表情をさせてしまった俺は、お前に相応しくないんじゃないかって思った」

一護の腕に頭を乗せた冬獅郎がポツリと呟いた
自分は一護に相応しくないと考え、そしてそこから自分の傍に一護を縛り付ける事がいい事なのだろうかという疑問が生まれた

「・・あ〜・・・あの時の、か」
「それで?」
「あん?」
「何が原因なんだ?」

冬獅郎の言葉に一護は黙り込む
今更だが理由としてはたいした事がない
ただ単に冬獅郎の誕生日を自分だけが知らなかった事がショックだっただけ

「・・・黒崎?」
「あ〜・・・えっとな・・・それは・・・」
「・・・・・」
「んな泣きそうな顔すんじゃねぇって」

なかなか理由を言わない一護に対し、不安げな表情をする冬獅郎を抱きしめて、一護は理由を口にした

冬獅郎の誕生日を知らなかった事にショックを受けた事
考えてみると、自分の誕生日を冬獅郎に言ったおぼえがない事
お互いに何が好きか何が嫌いか、これまでどんな暮らしをしてきたかなど、何も知らないことを

「・・・」

冬獅郎はクク・・・と笑う

「何笑ってんだよ?」
「いや・・・そんな理由で?と思って」
「重要な事だろ?」

恋人の事は何でも知りたい。誰よりも知りたい、自分を知ってほしい

「他の誰かがお前の事を知ってるってのが、気にいらねぇんだ」
「馬鹿」

ぽこ・・・と冬獅郎は一護の頭を殴る
だがそれは殆んど力が籠められていなかった

「お前より松本たちの方が俺を知ってる・・・当たり前だろう?」
「・・・・」
「松本が俺の傍に何年いると思ってる?お前は何ヶ月だ?」
「・・・そうだけど、さ」

乱菊達より一護が冬獅郎の傍にいた年月が短い事の原因の一つに冬獅郎がやってしまった出来事がある
その部分については一護に申し訳ないと思いつつ、冬獅郎は続けた

「それに、俺の事を松本たちが全て知っているとは限らないだろ」
「・・・え?」
「人が人の事を全部理解できると、俺は思ってない」

理解できるのなら、もっと早い段階であの男を止められた筈だ


『騙していたつもりなんて無いさ
だた、君達が理解していなかっただけだ・・・』




冬獅郎は頭を振ってあの男と男の言葉を振り払う
その仕草を不思議に思った一護が冬獅郎の様子を伺う。それに微笑んで、続けた

「知ってほしいと望まない限り、永遠に他人に自分の事は理解出来ない」
「・・・」
「俺は・・・お前に俺の事を知って欲しいと思う」
「冬獅郎・・・」
「お前に俺の事を知ってほしい。理解してほしい。そして俺はお前の事を知りたい、理解したい」

冬獅郎は僅かに身体を起こして、一護の髪に指を絡めた
お前は?と首を傾げて問うと、一護は大きく頷いた

「俺も知ってほしい。俺の事、全部。そんで、お前の事は全部知りたい」

一護は冬獅郎の頭に手を回し、自分に引き寄せた。そしてそのまま口付けを交わす

「・・・ああ、教えてくれ」
「誰よりもお前を理解している男になるよ、冬獅郎」

期待している
クスリと笑った冬獅郎は、今度は自分から一護に口付けたのだった






人が人を全て理解する事なんて無理な話なのだ
誰でも知ってほしくない秘密や、知られたくない自分がいるもので
それがある限り、人に人は理解出来ない

だが、知ってほしいと望んでいるのなら、知ってほしいと思っているのなら
人に人は理解出来るはずだ




「あああ!!」

突然叫んだ一護に冬獅郎は首を傾げてどうしたのかと問う
一護は大事な事を忘れていたと頭を抱えた

「黒崎?」
「誕生日!!」
「は?」
「誕生日プレゼント、買うの忘れてた!」

時間は夜中
もう何処も店など開いていない

どうしよう と慌てる一護に、冬獅郎はクスクスと笑い出す

「笑うなよ!」
「本当に馬鹿だな、お前は」
「なんだと?」

物なんていらない
冬獅郎は一護の着物の袖を引く

「お前がいればそれでいい」
「・・・・冬獅郎・・・」
「でも、何かくれるというのなら、お前を俺にくれ」

一護は目を大きく開いて驚く
冬獅郎がこんな事を言うのはもしかして初めてではないだろうか

「俺の傍にいて、俺を抱きしめてくれ」
「そんなんで良いのか?」
「ああ」
「でもさ、それってどちらかと言えば俺の望みなんだけど?」

傍にいて抱きしめて、誰にも渡さない

「物覚えが悪いな」
「ヲイ!」
「俺を理解するんだろ?」

コクリと一護が頷けば、冬獅郎は「だから」と一護の手を握る

「なら気づけよ。お前が俺を好きでいてくれるように、俺もお前が好きなんだって事を」
「それは知って「お前が俺の傍にいたい様に、俺もお前の傍にいたいんだって事を」
「!!」
「お前がいれば何もいらない。お前を俺にくれよ」

クスクスと笑う冬獅郎を見つめながら、一護はハッと気がついた
『俺を理解するんだろ?』
先ほど冬獅郎はこう言った
『知ってほしいと望まない限り、永遠に他人に自分の事は理解出来ない』
冬獅郎は今、一護に自分の事を知ってほしいと自分の気持ちを言っている

「黒崎?」

どうなんだ?と不敵に笑う冬獅郎を一護は抱きしめた

「ああ・・・俺をお前にやる。だから、俺にもお前をくれ」

クスクスと笑う声が聞こえた

「ああ、やるよ」


人に人は理解できる
それを互いが望んでいる限り、必ず


(『無理だ』とお前は笑うかもしれない。でも俺は教えてもらったんだ)

一護の腕の中で冬獅郎は目を閉じた
浮かぶのは自分達を偽り続けた男

(どんなことがあっても諦めない、格好悪い悪足掻き、それが起こした奇跡を)

必ず人は人を理解できる
一護は冬獅郎を、冬獅郎は一護を理解できる

(俺達は俺達の全てを理解できる、必ず)




不可能も可能にできる、心の力
その奇跡があれば
必ず




って!なんじゃこりゃああああ!!?
誕生日・・・誕生日記念なのに・・・イチヒツなのに、何故か藍←日みたいなお話で終わってしもうた・・・
ヒツの誕生日といえば、昔の屋根の上での(藍染らとの)花火鑑賞だよね・・・って思った所からこんな話に・・・
いつもながらの中途半端っぷり。流石私だorz

甘くないなぁ・・・・ごめんね一護&冬獅郎、こんなお話で