アメノオト
窓の外はあいにくの雨
黒くて厚い雨雲の広がる空
雨は嫌いだ
母親を亡くしたあの日の記憶が甦る
だから雨の日は出来るだけ外を見ないようにした
雨を意識しないようにしていた
「・・・・」
試験を翌日に控えた一護だったが、ふと今この部屋にいるもう一人の人物
日番谷冬獅郎に眼をやった
急に非番になった
とふらりとやってきたのは一時間ほど前
本当なら、色んな話をしたり出かけたりと滅多に会えない恋人と有意義な時間を過ごしたい所
だが、明日は試験
一護は泣く泣くテスト勉強をやっていた
もっとも「おれに構う暇があるなら問題の一問でも解いたらどうだ?」と冷たくあしらわれて泣いていたのもあるのだが・・・
少々いじけながら勉強していた一護だったが、冬獅郎があまりにも静か過ぎるので気になった
普段の彼なら、一護の部屋にある本や雑誌などを読んでいる事が多い
その時でも十分静かにしているのだが、それでもページをめくる音、体勢を変える音など何かしら冬獅郎の存在を教えてくれる音があった
けれど今日はそれすら聞こえてこない
まさか振り返ったらいませんでした
なんて事ないように
と祈りつつ振り返る
「・・・・」
居てほしい彼はちゃんと部屋の中にいた
一護のベッドに座り、窓枠に肘をついて外を見ている
何を見ているんだろう?
一護も窓の外へと視線をやった
窓の外はあいにくの雨
黒くて厚い雨雲の広がる空
それしかないのに
何をじっと見ているんだろう
少しばかり興味がわいて、一護は冬獅郎の側へと近づいた
席を立った時に音がしただろうし、側に来たのも気配でわかっているはず
だが冬獅郎は何の反応も示さない
「・・・冬獅郎?」
冬獅郎を覗き込んでみると、彼は眼を閉じていた
もしかして座ったまま眠ってしまったのだろうか?
首を傾げているとゆっくりと冬獅郎の眼が開いた
そして一護と視線をあわせる
「・・・起こしちまった?」
ごめんと謝る一護に冬獅郎は「寝てなかったよ」と微笑む
「雨の音を聞いてたんだ」
「雨の音?」
雨の降る音
降ってきた雨が屋根や窓
草や木
色んなものにあたって出す小さな音
「今日は一護、勉強してただろ
特にする事も無かったし、暇だったから聞いてた」
雨の音は好きなのだと冬獅郎は、もう一度微笑み外へと視線を移した
一護も冬獅郎に笑いかけた後、外に眼をやる
雨は嫌いだ
雨を見るたび、雨の音を聞くたび辛い記憶が甦る
だけど、自分も昔は雨の音が好きだった事を思い出した
雨が降ると晴れた日とは違った世界が広がる
晴れの日に聞く音が無くなって雨の日だけの音が聞こえる
一護はそっと冬獅郎を背中から抱きしめて眼を閉じてみた
聞こえる雨の音
屋根や窓に当たる音
草や木や
色んなものに当たって出す小さな音
どうしてだろう
どこか優しくて落ち着く
「うん・・・音が聞こえる」
「優しい音・・・だろ?」
窓の外はあいにくの雨
黒くて厚い雨雲の広がる空
雨は嫌いだ
母親を亡くしたあの日の記憶が甦る
だから雨の日は出来るだけ外を見ないようにした
雨を意識しないようにしていた
一人で聞く雨の音は辛くて悲しい
だけど今二人で聞く雨の音は優しくて落ち着く
それは君と二人で居るからだと思う
嫌いだった雨
それが少しだけ好きになった
ただ、君が一緒にいてくれただけで変わった
君がいてくれるだけで俺は変わる事が出来る
これからもずっと側に居てほしい
そう思いながら一護は、雨の音に耳を傾けている冬獅郎の小さな体をもう一度抱きしめるのだった
.
.