『俺、少しだけ皆と離れる』




それがお前の出した答えなのか




『誰も傷つけたくないんだ・・・だから・・・』




ごめん


お前は俺に頭を下げて、俺から離れていった















明日もし君がこわれても

















避けられている・・・


そう感じたのは今日が初めてではない

俺達が現世に来た時、一護は破面に負けた後で
丁度自信を失っていた時だった
だからか、アイツは俺には殆ど声をかけてこなかった
俺も自分から何か話しかけることもしなかったし、朽木がすぐにアイツを立ち直らせてくれた


普段どおりの一護に戻った


そう安堵した俺だったが
一護はすぐにまた深く何か考え込むようになった




そして殆ど俺に近寄らなくなった













「・・・・冬獅郎・・・?」
「ああ」




このまま黙って一護を待っているだけではいけない
そう考えた俺は黒崎家の玄関で一護を待った

俺が居ることに一瞬驚いた一護だったが
どこかで予想でもしていたのだろうか

あっさりと部屋へあげてくれた






しかし、部屋へ入れてくれたのは良いが
一護は一言も話さない

そして俺にずっと背を向けたまま
学校で出された課題をやっている

俺もこちらから話しかけることはせず
ベットに腰かけ、一護の背方を見つめながら
振り返ってくれるのを待った




どうしてだろう




今までは感じなかった感情が俺の中に広がる


不安    恐怖


俺の目の前にいる 黒崎一護

一護なのに・・・誰か知らない人のように感じる






「・・・いち・・・ご?」






それは一護なのかと問いかけるような声
一護であるはずなのに
言ってすぐに バカな事を
と苦笑した







それは一瞬の油断







「え?」




一護が振り返った。その瞬間世界が反転する
先ほどまで視界にあったのは一護の背中
今見ているものは天井

何が起こったのか解らず、ただ天井を眺めていると耳元で笑い声が聞こえた




「ククッ・・・どうした?えらく反応が鈍いな」
「・・・い・・・・ちご?」




ニヤリと顔を歪ませて笑うその表情。はじめて見た
身体を起こし、俺の両手首を布団に押し付けて上から見下ろす一護に、ゾクリと身体が震える

一護はいつもやわらかくて暖かい笑顔を向けてくれる
その笑顔は俺の心を簡単に暖めてくれる。そして幸せにしてくれる

なのに・・・・




「ぁあ・・・そういやアイツとはまだ寝てないんだったな?」




無理ねぇか、と再び笑う一護。その時になってようやく理解した
今俺の目の前にいる一護は『もう一人の一護』なのだということに




「放せ!!」
「おいおい。そんな怖い表情するんじゃねぇよ、俺だって黒崎一護なんだぜ?」




身体を捩って暴れてみたが、体格で既に負けている俺には『一護』の手を振り解けない
せめてもの抵抗として思い切り睨みつけてやった。すると『一護』は楽しそうに笑う




「いい眼だ。冬獅郎、お前やっぱり良いぜ」
「・・・・貴様、どうやって出てきた?」




一護の中の『一護』の存在。かなり前から気がついていた。
・・・・そしてそれに苦しんでいる事も
だが、一護は『一護』を抑えようと必死になっていたはずだ。もし、『一護』が出てこようとすれば、一護は抵抗したはず
しかしそんな様子は全く無かった。




「ふん。俺がその気になればいつだって出てこれるさ」




今まではそうしなかっただけだと『一護』は笑う
何故今までそうしなかったのか?疑問に思っていると再び『一護』が口を開いた




「どうせなら一護をぶっ壊して『俺』一人が黒崎一護になりたかったんだよ
で、どうすれば奴を壊せるか考えてたんだ」
「一護を・・・壊す・・・?」




『一護』はフっと笑うと、俺の両腕を頭の上でひと括りにし、空いた手で俺の顎を掴んだ




「ああ。で、今から実行するんだ」
「そ  っ!」




それはどういう意味だ?と問おうとした俺の言葉は『一護』によって阻止された
『一護』が俺に口付けしてきたからだ




「んっ!」




抵抗しようにも顎を掴まれている為、抵抗できない
また、言葉を発しようとしていた為、開いていた口内にあっさりと侵入されてしまった

執拗に攻められ、息があがリ始めた頃、顎を掴んでいた手が放れた。
じかし、意識が飛び始めていた俺は、その事を理解はしていたが何も行動する事は出来なかった




「ちゃんと見てろよ?」




『一護』が呟いた。何を見ていろと?俺がぼんやりとした視界の中で考えていると、グッと首が絞まった




  っ!!」
「冬獅郎を『この手』が殺す所を!」




ギリギリと絞められ、俺はその手を剥がそうと力いっぱい抵抗する
しかし、先ほどの口付けで息のあがっていた俺はあっという間に限界を迎えた




「これは俺の手だ。だが、てめぇの手でもある・・・てめぇが冬獅郎を殺すんだよ!」




どんどん暗くなっていく意識の中、『一護』の言葉でやっと理解した

俺を殺す事で『一護』は一護を壊そうとしている
きっと『一護』の向こうで一護はこの状況を見ているに違いない




「・・・っ・・・」
「ほら、もう少しだ・・・もう少しで冬獅郎は死ぬ。俺達が殺す」




死ぬわけにはいかない
一護を壊させるわけには・・・・

最後の力を振り絞り、俺は眼を開けた。
そこには笑う『一護』の姿
でも、こいつも黒崎一護なんだ




「・・・あ?」




俺は必死で右手を伸ばした
そして一護の頬に手をあてる




「しぶといな・・・・え?」




驚く『一護』
何故なら、その眼から涙が流れていたからだ




「何だ?これ・・・っ」




ああ・・・一護が泣いている
泣かないで・・・大丈夫、俺は死なないから
『一護』に殺されてなんかやらないから


俺は『一護』の向こうにいるであろう、一護に笑いかけた













俺の記憶はそこまでで、気が付くと一護が泣きながら俺の名を呼んでいた




「冬獅郎っ!・・・良かった」




ぎゅっと抱きしめられ、自分が生きている事を知った
本当は一護を抱きしめ返したかったが、身体に力が入らず身動き取れなかった




「すぐに乱菊さんが来るから・・・」




笑っているのに辛そうな表情
そんな顔するな
そう言いたいのに声が出ない




一護の言ったとおり、松本はそれからすぐにやってきた
そして、入れ替わるように一護が姿を消す


それから別れの日まで、一護に会うことは無かった












その数日後

一護は俺達から離れると言った


誰も傷つけたくない

冬獅郎を傷つけたくない と今にも泣きそうな表情で




一護・・・
あの時俺は、お前のために死ぬわけにはいかないと思った

けれど同時に嬉しかった

俺が死ねばお前が壊れる


それは俺がお前にとって唯一の存在である事


嬉しかった


そして、意識を失う瞬間
俺はこう思った








一護を、壊してみたい と