その日、一護は寒さで眼を覚ました                     


「・・・寒っ」


布団の中で身を縮ませた一護はふと隣にいるはずの彼女の気配がない事に気がついた


「ユキ?」






epilogue『銀の雪』






彼女が寝ていたであろう場所を触ってみると温もりが感じられない
つまり、彼女が起きて時間が経っているという事


「・・・もしかして・・・」


一護はズルズルと掛け布団に包まりながら窓へ
そしてゆっくりと開く


「やっぱり」


外は一面の銀世界
氷雪系斬魄刀の持ち主である彼女はきっと誰よりも早くこの事を察知し(前日から知っていたかもしれないが)朝早くから出かけたのだろう


「ったく・・・毎年の事だけど・・・」


一護は勢い良く窓を閉めると、出かける準備を始めた

彼女=白雪を迎えに行く為だ
白雪はその能力故か、寒さに強い
一護が寒くて布団から出たくないと感じても、平然と厚着もせずに出かけてしまう
きっと今日も軽装で外にいるに違いない
いくら寒さに強いとは言っても長時間外にいて平気な訳がない
実際、数年前はそのせいで風邪をひいた事がある

それ以降、一護は薄着で出かけたであろう白雪を追いかけ、上着を渡す事にしている








毎年彼女は十番隊隊舎で雪だるまを作る

それは、かつて好きだった人が瀞霊廷にいた頃からやっている事ではあったが、彼がいなくなってからも彼女はそれを続けた
思い出に浸っているのかもしれない
毎年やってきた事だから自然と行動してしまうのかもしれない
本当の所は一護には解らない
もしかすると白雪にも解らないのかもしれない

でも、一護はそれを問いただした事はない
気にならないのか?と問われれば気になると答えるだろう
しかし仕方ないじゃないかとも答える

そう「気にしてもしょうがない」のだから

自分にとって死んだ母親が彼女とはまた違う意味で特別な存在であるのと同じように、彼女にとって彼は自分とは違う意味で特別なんだろうと理解しているからだ
嫉妬などした事がないと言えば嘘になるが、彼女は自分の傍にいる
それだけで満足だった




「・・・あ、いたいた」


十番隊舎が見え始めた所で感じた白雪の霊圧
何故か不安定に揺れているのが気にかかるが、早く彼女を暖めてやろうと一護は足を速めた


「・・・ユキ?」


遠く彼女の姿を確認した一護は驚きに眼を開く

彼女は雪の上に座り込み俯いているからだ
何かあったのだろうか?
一護は慌てて走った




「ユキ!」


座り込む白雪を抱きしめる
泣いているとその時解った
何があった?と聞いても白雪は何も答えない
ただ涙を流すばかり
こんな誰もいない場所で一体・・・と一護が辺りを見回すと雪の上に一本の刀を見つけた


(あれ・・・どこかで・・・)


見覚えのある刀と、一護のものでも白雪のものでもない誰かの足跡も見つけた
その人物は一護とは反対方向から白雪の元へやって来たようで、最終的に刀が落ちている所で終わっている
その人物がここから去った後は残されていない


(そうだ・・・あれは)


「神鑓?」


一護がそう呟くと同時に、白雪の体がビクリと跳ねた
その反応にやっぱりそうなのかと一護は腕に力を込めた


「アイツ・・・来たのか・・・?」


独り言のように呟いたが、コクリと白雪が頷くのを見て「そうか」と空を見上げた


今更とも思うし、やっと来たのかと思った
市丸が死んでからの白雪は少しだけそれまでの彼女とは違った
深い悲しみを心の内に秘めて生きてきた
それは一護でさえも簡単に癒せないものだった
泣けばある意味ふっきれたのだろうが、彼女は一度たりとも市丸の事で泣いた事はない
今日の今日までは・・・・


「・・・ちまるっ・・・いなくなっ・・・」


泣き続ける白雪を抱きしめ、何度も背をさすった
流す涙の数だけ心が軽くなるように祈りながら







『泣かないで』


「!?」


一護は誰かの声を聞いたような気がした
キョロキョロと見回すが、自分達以外誰もいない
不思議に思っていると、一度止んでいた雪が再び降り始める

一護はそれを見上げながらふとある事に気がついた




「・・・ユキ・・・見てみろよ・・・」


一護は白雪に空を見るように促した
ゆるゆると顔をあげる白雪

一護はそっと手を伸ばし、降ってくる雪を受け止める
それはすぐに融けてしまうがそれまでの僅かな間、雪として一護の手のひらの上に存在した


「!」
「見たか?」


一護と白雪は揃って空を見上げる



「この雪・・・銀色だ・・・」
「・・・市丸?」



はっきりと銀色をしている訳ではないが、他の雪とは明らかに違う色をしている
それはとても不思議な雪で、降っている間は銀色なのだが地面に落ちるとその色は失われ、他の雪と同化してしまう

一護は微笑みながら白雪を覗き込んだ


「ユキ・・・アイツはずっとお前の傍にいるよ」
「・・・一護・・・」


眼に溜まった涙を指で拭いながら、一護は優しく語り掛ける


「そして、俺もずっと傍にいるから
ユキが泣いたりしないように、寂しがらないように」
「・・・」
「俺『達』は、ずっとユキと一緒にいるよ
・・・永遠に」
「・・一護っ・・・」


抱きついてきた白雪を抱きしめながら、一護はもう一度空を見上げた


(そうだよな・・・市丸・・・)













その不思議な銀の雪は白雪が泣き止むまで降り続け


毎年今日と同じ日に


彼女の為だけにあるかのように


彼女のいる十番隊舎のみに降るようになった









イチヒツに持っていこうとしたはずなのに、終わってみるとギンヒツの匂いが・・・
これで24時間の恋人は本当の最終話となります
長い間有難うございました