三月
そろそろ暖かくなり、春ももうすぐというこの頃
お菓子業界の策略でバレンタインと対になっているイベントがある
それは『ホワイトデー』
その習慣は現世のみならず、尸魂界にも広がっており
先月、男性にチョコレートを送った女性がウキウキしだす日
そんな日の、ある夫婦のお話
『最高の贈り物』
少しずつあったかくなってきたなぁ
一護はぼんやりと窓辺から外を眺めながら思う
今日は神経質な副官・吉良が何故かいない
サボリか?
と思いながらも、最近は暇だからまぁ良いか
と放っておいた
と、いうか
今日は三番隊だけではなく、護廷全体がそわそわしているというか、落ち着きが無い
先ほど席官室を覗いた時も、部屋に残っていた隊員が少なかったように思う
まぁ、そんな事もあるだろう
と何の疑問も思わずに執務室に帰ってきた
「戻りました、隊長」
そろそろ三時、という時刻
やっと吉良が帰ってきた
ソファで寝転んでいた一護は慌てて起き上がる
「おおおおお帰り、吉良」
サボってたわけじゃないぞ!と処理してあった書類を指差す
性格が生真面目だからか、前任の隊長が護廷で一・二を争うサボリ魔だったからなのか、一護がこうしてソファで寝転んでいたりすると無言で圧力をかけてくる
「お疲れ様です。では提出しておきますね」
おや?
一護は呆気にとられた
いつもの吉良ならば
「ご苦労様です。では、こちらの書類もお願いします」
と、にっこり笑いながら三メートルはあろうかというタワーを四つは持ってくるというのに・・・
調子でも悪いのか?
吉良にぶっ倒れられたら、三番隊の七割は機能しなくなる
もしかしたら青ざめていたのだろうか?
吉良の方が一護を心配した
「・・・ご気分でも悪いのですか?」
「へ?・・・いや、大丈夫だ」
「そうですか?・・・・もしお暇なのでしたら十番隊へ休憩に行かれてもよろしいですよ?」
ますますおかしい!
吉良がこんな事を言うわけがない
「御自宅でいくらでも会えるのですから、行く必要があるとは思えません」
と、どんなに仕事が無くても十番隊へ行かせてくれないのに
「で、優しすぎて逆に怖いから・・・・」
「ウチに逃げてきたの?」
うんうん、と隣に座る愛妻に頷く
吉良から思わぬ外出の許可を貰った一護は、すぐに白雪の十番隊へとやってきていた
十番隊の執務室にいたのは白雪一人
副官の乱菊は今日もサボリのようだ
どうやら十番隊も暇なようで、白雪もあえて乱菊を追いかけて捕まえようとは思っていないようである
「優しいのは良いんだけど、理由が解らないのは・・・怖い」
「う〜ん・・そうだなぁ、今日が十四日だからじゃない?」
?十四日ならどうして優しいのだ?
首をかしげて本気でわからない様子の一護に、白雪はクスクスと笑う
「今日は『ホワイトデー』でしょ?」
「へ?」
一護はカレンダーを頭の中で広げる
「・・・・あああああ!」
そうだった!
今日は3月14日
ホワイトデー
「・・・・ほ・・・・ほわいとでー・・・」
「うん、そう。きっと雛森にプレゼントでも渡したんじゃないかな?」
先月も機嫌が良かったでしょ?
白雪に先月の事を訊ねられ、そういえば・・・と一ヶ月前の事を思い出した
2月14日・バレンタインデー
その日も吉良はご機嫌だった
あの時も、十番隊へ行ってもよろしいですよ。と言われたのを思い出す
そうか・・・ホワイトデーか・・・
吉良の優しい理由が解ってホッとする
が、しかし・・・・
そうか・・・ホワイトデーか・・・・(汗)
一護は今度は焦りだした
なんと今日の事をすっかり忘れていたのである
「?一護、どうしたの?」
「えっと・・・・なんでもないよ」
何も用意していない
ヤバイ
マズイ
だらだらと冷や汗が背中を流れる
白雪はあまりそういう事に執着しないのだが、彼女の姉を公言する乱菊がこだわるタイプなのだ
明日には必ず白雪に何を貰ったのか聞く
間違いなく聞く
そして、何も渡してない事が判明すると、間違いなく三番隊に乗り込んでくる
そうなると、折角機嫌の良い吉良に怒られる
ダブルでお説教コース間違いなし
「・・・一護?」
白雪が隣で何か言っているが、一護の耳には入っていない
ぐるぐると明日の自分を想像し、焦っていた
「いーちーご!!」
「ぅわ!」
返事をしない一護に焦れたらしい白雪が、一護の耳を引っ張り耳元で大声を出した
それで漸く気がついた一護は白雪へと向き直る
「・・・ユキ・・・」
「もしかして、何も用意してないの?」
「うっ!」
ズバリ言い当てられて、一護は言葉に詰まる
そして、うつむきながら小さく頷いた
「ゴ・・・ゴメン」
謝る一護に白雪はクスクスと笑う
「どうして謝るの?」
「だって、今の今までホワイトデーの事忘れてた。ユキはバレンタインにちゃんとプレゼントしてくれたのに・・・」
しゅんとする一護の頬に白雪は口付ける
「へ?」
「大丈夫。一護はちゃんとプレゼントくれたから」
何を?
本当に解らなくて首を傾げると白雪は一護の手をとった
「あのね・・・・ずっと気がつかなかったの。調子悪いなとは思ってたんだけど」
「あ。そういやだるいとか言ってたな。卯ノ花さんに診てもらったのか?」
少し前から白雪の体調が良くなかった
心配だったが本人が大丈夫だと言い張った事と、仕事中は乱菊と必ず一緒に居る事
卯ノ花に診てもらう事
それを約束させて仕事に行かせていた
「うん。で、解ったの」
「・・・何が?」
白雪は一護の手を自身のお腹に持っていく
彼女が何をしているのか判らず、一護はまた首をかしげた
「・・・・赤ちゃん。・・・できたの」
「・・・・・・はい?」
白雪の言葉からしっかり三十秒後
やっと一護は言葉を発する事ができた
白雪はくすくすと笑っている
「いま・・・なんつった?」
これ以上ないというくらい大きく眼を開けた一護
そんな一護に白雪は再度告げる
「あのね 」
少しずつあったかくなってきた三月
今日はその三月のイベント・ホワイトデー
男性が女性にバレンタインのお礼をする日
しかし、黒崎家では
白雪だけでなく一護にも最高の贈り物が手に入ったようです