どうしてちゃんと捜さなかったのだろう
あの時に少しでも居場所を確認しておけばこんな事にならなかっただろうに・・・

しかし今更後悔してもどうにもならない
時既に遅し










「・・・黒崎くん?鞄開けたまま固まってどうしたの?」


俺が鞄を開けた状態で硬直しているのに気がついた井上が声をかけてくる
そこで漸く我に返った俺は、慌てて鞄を閉じた
危ない危ない
今この中を見られるわけにはいなかい

何でもない
気にすんな

と笑いかければ井上は「そう?」とどこか納得していない様子だったが
教師が教室に入ってきた為にそれ以上は追求しなかった




授業が進められる中
俺はこれからどうするかと悩んでいた






悩みの種
それは我が家の居候 日番谷冬獅郎






通常であれば家にいるはずであろう冬獅郎が
何故か俺の鞄の中で寝ている・・・






思い返せば朝食を食べている時に「あれ?」と思ったんだ

冬獅郎は意外と孤独を好まない
だから必ず家族が集まる所にやって来る

いつもなら俺が朝食を食べている時は、その辺をフヨフヨ飛んでいるのだが
今朝はそれがなかった

親父もその時にいなかったので、親父の所だろう と考えていたのだ






まさか俺の鞄の中にいるとは考えもしなかった・・・






連れてきてしまったのは仕方がないとして

いずれ冬獅郎は眼を覚ますだろう
そうなれば鞄から出てくるのは眼に見えている
何とか押さえ込んだとしても、大声で騒ぐのも解りきっている

こうなれば、次の休み時間まで眼が覚めない事を祈り
授業が終わったらコイツを起こすしかない






しかし


「・・・ふわぁぁぁぁ・・・・」


物事というのは悪い方へと進むもので


「何だ?随分と狭いな・・・ここ」


体は小さいくせに声は大きい

当然、クラスの皆はどこから声がするのかとキョロキョロしている

俺は冷や汗をだらだらと流しながら「頼むから出て来るな」と祈っていた




「よいしょ・・・と。!よぉ、一護」


俺の祈りは届かず
冬獅郎は見事に鞄から顔を覗かせた
しかも俺の名を呼んで・・・


「?お前何やってんの?」


ふわり と空に浮かんだ冬獅郎はすぐに俺の頭の上に着地した
クラス中の視線が俺達に集まる
これから一体どうすれば?






「・・・・・き・・・」


き?
俺の席の後ろの女子の声が聞こえ・・・


「「「「きゃーーーーww可愛いぃぃwwww」」」」


クラスの殆どの女子の叫び声が教室に響いた


コレには冬獅郎も俺もビックリして固まってしまった・・・・




















適応力の高い人間ばかりで助かった・・・のか?


喋って動いて空も飛ぶ人形・・・いやいや天使
の冬獅郎をアッサリとクラスの連中は受け入れてくれた

若干のパニックにはなったものの
(女子と一部の男子が冬獅郎を抱っこしたいと騒いだたため)
今では皆落ち着いて冬獅郎と話をしている




「じゃあ、誰か仲間の天使さんが来てくれるまで黒崎くんの家にいるんだ?」
「ああ」
「良い所あるじゃん、一護」


好きに言っててくれ・・・


まぁ、冬獅郎を宇宙人だのお化けだのと言って連れて行かれなくて良かった
一安心


だが、安心した所で疑問が浮かぶ

なぜ冬獅郎が俺の鞄に?
朝、俺を起こしたのは冬獅郎
その時には鞄には入っていなかった
そして俺は今朝は学校に付くまで一度も鞄を開けていない

間違って鞄に入る事はないと考えて良い




「そうだ!聞きたいことがあるんだ」
「聞きたいこと?」


そう言えば昨日の夜、何か言ってたなコイツ


『昼間一人で家の中にいるのは飽きた!』


『一護、俺の着替えどうすんだ?』




まさか・・・・




「裁縫の得意なヤツいるか?」
「裁縫?」
「そう。俺の服を作って欲しいんだけど?」


・・・・コレが目的か!!


つまり、俺の鞄に誤って入り込んでしまったではなく
目的をもって入ってました
ってそういう事か!


「石田くんかな?」
「石田?」
「うん。あの席の」
「あいつか・・・」


ニヤリ
と笑った所を見ると間違いではない
ワザとだ

コイツ、学校でお針子を見つけに来やがったな


ひらりと石田の所まで飛んだ冬獅郎
石田はビックリしていたが、何やら数分話をするとコクリと頷いた

ああ・・・OKしたのか・・・
すまないな、石田














「こうこうって良いヤツが多いんだな〜」


ニコニコとご機嫌な冬獅郎
俺は今日一日ヒヤヒヤしていたっつーの

途中で冬獅郎が何人かの教師に呼ばれた時には連れて逃げようかと本気で考えた
なのに、当の本人である冬獅郎は、またあっさりとついて行くし

この時何故呼ばれたかというと
「これからも学校に遊びに来て良いよ」
という許可を貰ったのだという

例え学校が許しても俺が許さん

コイツはもう連れていかねぇ




「なぁ、明日も一緒にコウコウ行こうな?」




ニッコリと笑った冬獅郎の顔が
本当に嬉しそうで
楽しそうで・・・・




ついつい
頷いてしまう俺って・・・・・








バカ・・・