「ひっつがっやはぁぁん」

がらっと断りも無く執務室の襖が開けられる
現れたのは三番隊隊長

「・・・・」

眉間に皺を寄せて怒りを隠そうともしないのは十番隊隊長

「あら、もうそんな時間なのね」

いそいそとお茶の準備を始める十番隊副隊長

十番隊で見られる毎日の光景

彼は毎日やってくる
言われたとおり彼の本当の笑顔で















飛び級で霊術院を卒業し護廷に入隊して三ヶ月
一番隊の六席として忙しい毎日を送っていた
今、自分の手には各隊に配る書類の束
これを配り終えたら帰宅しても良いよ
と、言われていた俺は早歩きで廊下を歩いていた




「なぁ、日番谷クン」

話があるんや
訛りのある狐に三番隊と四番隊の中間地点で呼び止められた








今朝、初めて会った三番隊隊長
急いでいて前を良く見ていなかった俺と
ちゃんと眼が覚めていなかった彼とがぶつかった

「げ!」

直接会って話したことは無いが、一応各隊の隊長の顔は知っていた
だから俺は彼が市丸隊長だとは知っていた
だが、彼は俺の事を知らなかったようで、「どこの子供?職場に子供連れてきたらあかんやろ」
とブツブツ言っていた

「子供」という言葉と「子供が死神としているはずがない」と言われた気がしてむかついた
そしてはっきりと「一番隊所属 日番谷冬獅郎です」と名乗った

「日番谷冬獅郎」は知っていたらしく
「君が噂の?」と驚いていた

どうせ天才児とか神童とか大げさで大嫌いな噂だろう
さらにムカついた

きっと俺は彼を睨みつけていたに違いない
なのに怒るわけでもなく表情は笑顔

「ごめんな」

口調も怒ってはいない
だけどあの笑顔は心から笑っていないのが読み取れた
ただ「笑った表情」を顔に張り付かせているだけ
別に俺に対して怒っているとかではないだろう
これが市丸ギンという人の普段の表情なのだろうと思う

はっきり言って、あの笑顔の仮面は好きじゃない
二度と会いたくなかった相手







その人物に呼び止められるとは・・・

しかし相手は隊長
無視するわけにもいかず、ため息をはきながら振り返った

「何ですか?市丸隊長」

はっきりと「俺は忙しいんだ。さっさと用件を言え」とは言えないがわざとらしく手に持っている書類を抱えなおす
一応解ってもらえたようで「ごめんなぁ、呼び止めてしもて」と謝ってくれた

しかし、彼は何を照れているのかもじもじとしているだけで何も話そうとしない
いや、何やら「あの・・・そのな・・・なんて言うたらええんやろ・・・・やからな」等と意味不明だ

早く話せ!
俺はサボリで女たらしで有名なアンタと違って忙しいんだよ!!

と、キレそうになるのを(相手は隊長相手は隊長)と呪文のように繰り返し
なんとか自分を抑えていた

「あぁ〜もぉ!!」

突然、市丸隊長がイライラしたように声をあげる
それに驚いた俺はポカンと口を開けていた

「こうなったらはっきり言うわ・・・
ボク、君に一目惚れしました。付き合うてください」

何を言ってるんだ?
最初、彼が何を言ったのか理解できなかった

今、なんて言ったんです?
と聞き返すと、もう一度「好きだ」と言った

「どうやろか?」

俺の返事を待っている

この場合、どう返事すれば良いのだろう
はっきり言って「脳ミソ腐ってんじゃねぇのか?」と言いたいところだが
相手は隊長
上官に対してそれは言えるはずもない
「ありがとうございます」?
何に対して礼を言ってんだ俺は
男が男に告白されて嬉しいわけないだろう
「他に好きなヤツがいるんで」
それが他の奴等(幼馴染とかその同期とか必要以上に構ってくるどこかの隊長とか)
の耳に入ったら「どこのどいつだ?」としつこく聞いてくるだろう
それは避けたい

「あの・・・日番谷クン?」
「え?あぁ・・・・えっと・・・」

いろいろ考えたが良い言葉が出てこない

しかし、変に気があるフリをするのは良くないだろう
はっきりと断った方が断った方がお互いの為だ

「申し訳ありませんが今は誰とも付き合う気は無いので」
「あ・・・そうなんか・・ごめんなぁ」
「いえ、こちらこそ申し訳ありません」

納得してくれたようだ
ほっと息をはくと挨拶をして離れようとした

「でも、君を好きでいてええ?」

離れようとした俺にかけられた言葉

「・・・・」

もう一度俺が振り向くと市丸隊長はあの仮面をやはりつけていた

「好きでいてもかまわんかな?」

首をかしげて俺の言葉を待っている
他人の気持ちを俺がどうこう言う事ではないと思う
俺を好きだと言うなら好きでいてくれても良い
けれど答える気にはならないけれど・・・

「それは構いませんが・・・」

誰の想いも受け止める気にはならない


「でも、今度から俺と会った時は」

なのに


「あなたの本当の笑顔を見せてください」















「しかし本当に時間ぴったりに来ますねぇ、市丸隊長」

あの日から毎日、市丸は三時ピッタリに日番谷の元へ来ていた
流石に任務中や会議中は来ないが、通常の仕事(隊内にての事務仕事)の場合は必ず訪れている

それは日番谷が隊長に就任してからも変わっていない
今では
市丸が十番隊に来る

三時

休憩の時間
(邪魔されて日番谷の仕事が進まない為)
となっている
なぜ三時なのだ?と以前聞いたときに

「ボクが君に初めて告白した時間や」

と笑って答えていた

そのときの笑顔は仮面ではなく、本物の市丸の顔

「毎日の繰り返しが大事やと思うんよ。それで日番谷はんにボクの気持ちを信じてもらうんや」
「・・・馬鹿だろお前」
「日番谷はん、ひっどぉい!」

泣き真似をする市丸と「かわいそうにぃ」と市丸を慰める乱菊を残し、日番谷は机に向かう
これも毎日の事

時々、なぜあの時あんな事を言ったのだろうと後悔する
ただ、彼の本当の笑顔を見たかったのが理由なのだが、言うと付け上がるので言ってはいない


「あ!そうや!肝心な事を忘れとったわ」

さっきまで泣いていたのではなかったか?
と聞きたくなるほどの笑顔で市丸が日番谷の後を追う

日番谷の真正面に立った市丸はその日一番の笑顔を日番谷に向ける

「君が好きや。大好きや」
「////」

望んだ市丸の笑顔は日番谷の心を簡単に動かした
既に乱菊にはばれてしまっている
市丸が気がついているのかどうか解らないが、毎日告白を繰り返してくれている

「愛しとるよ」
「///」
「やぁん、もぉこの部屋あっついんですけどぉ?」
「そらボクの心が燃えとるからやで」

やぁねぇ
と乱菊がニタニタと笑っている
市丸もニコニコと日番谷に笑いかける

「・・・・いい加減にしろよてめぇら!!」
「きゃーVv」
「あははVvほなまた後でなぁVv」





最後は市丸と乱菊が日番谷に怒られ休憩は終了する

これが十番隊でみられる毎日の光景




























「いつからギンの事好きになったんです?」

隊長として十番隊に来た時点で日番谷が市丸を好きなのは解っていた
しかし、毎日毎日告白されていては逆に鬱陶しくなって嫌ってしまうのではないだろうか?
最初は断ったと言っていたが・・・

「馬鹿言ってないで仕事しろ、でなきゃ残業だ」
「え〜教えてくださいよ〜って残業って酷いですぅ」








「あなたの本当の笑顔を見せてください」

見てみたかった
この男の本当の笑顔

なぜそう思ったのかは隊長になった今でも不明だがこの時はそう思ったのだから仕方がない

「え?ほん・・・とうの?」
「はい。うわべだけの笑顔ってのは俺、嫌いですから」

ばれてたのか
と言った表情の市丸はバツが悪そうに頭をかいた

「かなわんなぁ・・・」

そして「ははは」と笑ったのだ

「!」

それはぎこちなかったが、日番谷が望んだ本当の笑顔だった







まさかその時にあっさりと市丸の事を好きになっただなんで言える筈がない

たったそれだけの事で、だなんて



(単純すぎだろう・・・)


悔しいから
いつか市丸の想いを受け入れる日が来ても
どうして いつ なんて教えてやらない