「す・・・好きだ!!」




一瞬、何を言われたのか解らんかった














『恋をしよう』













新しい十番隊長さん(とは言っても就任してから既に半年経っとるけど)
から『話がある』と一番隊にある広〜い庭に呼び出されたんは
一時間前

今まで殆ど話もした事無いからどうするか考えた
やって、歳も違うし
嗜好やって違う
はっきり言って話すネタに困る相手や

どうやって断ろうかと考えてたら
『じゃあ、必ず来てくれよな!』
と走り去ってしまった


ボク、行くって返事してないんやけど?


別に行く必要無いやろ と思てたけど
急に十番隊長さんに興味が湧いた

やから待ち合わせ場所に行く事にした







待ち合わせた時間から遅れる事30分
(『見つけた〜!!逃がしませんよ!!』とイズルに仕事させられてたら
遅うなった)
十番隊長さんは誰が見ても解るくらい
そわそわしとった

何をそんなに?
と思いながら声をかけた




「お・・おお遅かったな」



(なんでどもるん?)
「堪忍な
イズルに捕まってもうて」
「・・・また、サボってたのか?」




おや?良く知ってる

まぁ、ボクのサボり癖は有名やし
十番隊長さんの副官は、幼馴染で同期の乱菊や
知ってて当然か・・・




「息抜きやで
君かてずぅっと集中力保て、言われたら嫌んなるやろ?
続かんやろ?」
「・・・・一つの事に集中すると一日が終わってる時がある・・・」




それで乱菊に怒られる事もあるんやって
天才児はちゃうねぇ

それに・・・可愛い所もあるんやね

乱菊に怒られたと言う時に
ちょっと顔を赤らめて・・・
照れてるんや

子供らしい所、見ぃつけた










「ところで、ボクに何の話があるん?」




それから少し話をした
ネタは乱菊について
ボクも良く知っとるし、この子も自分の副官やし
殆どまともに話したことが無いボクらが出来るネタと言えば
乱菊くらいやった

『どうしてあいつはあんなにサボり魔なんだ?』
『やっぱ、同期って似るものなのか?』


こんな感じであの子が尋ね、ボクが曖昧に答える
そんな程度やったけど・・・



いよいよネタも無くなってきた所で
「何の用で呼び出したのか」と尋ねた

このまま話をしていたい気もするけれど
それはまた、次にしたらええ

これからボクらは長い時間を同じ場所で過ごす
いくらでも話が出来るやろう と思ったからや






「!え・・っとぉ・・・」
「?どうしたん?」




はきはきと喋る十番隊長さんが
急にもごもごとハッキリしなくなった

俯いて、指を絡めたりモジモジしたり
と落ち着きの無い




「あの!・・・・な・・・」
「うん?」
「だから・・・・その・・・」
「何やの?ハッキリし!」




段々とイライラしてくる
急に何や?
まるで人が変わったように・・・




「だ・・だから!」




ぱっと顔をあげた十番隊長さんは真っ赤か
熱でもあるんやろうか?
と心配になる




「君・・・どうかし「す・・・好きだ!!」」




十番隊長さんに手を伸ばしかけたところで固まった



今、この子は何と言ったのだろう?
到底この目の前の子供からボクに言われるはずが無いセリフを
言われたような気がした




「・・・・なんて言うた?」
「だから・・・俺、お前が・・・・好きなんだ」




耳まで真っ赤にし、俯いた子供を見下ろしながら
再度言われた言葉が頭の中を駆け巡った




好き?
誰が?
誰を?

君が?
ボクを?




「・・・ありえへん・・・」




やって、ボクら殆ど初対面みたいなもんやで
まともに話したんも初めてや
今までボクらがしてたんは
すれ違った時に「おはようさん」とか
その程度や

任務かて、三番隊と十番隊はこの子になってから合同で動いた事ないし
隊やって離れてるし
飲み会でもこの子は子供やから参加せんし

一体どうしたらボクに惚れるん!!?

ありえんやろ!?




「・・・・そっか・・・」
「・・・へ?」




ボクが混乱から戻れたんは呟くように小さな声が聞こえたから




「悪い!もう忘れてくれ」
「え?」
「ただ・・・言いたかっただけだから」




にっこりと笑った十番隊長さんは妙にすっきりとした表情だった
気持ちを伝えてすっきりしたかっただけやったんやて




「この話はこれで終り、な?」


「あ・・・あぁ・・君がええなら」




ボクが頷くと十番隊長さんは
子供の・・・男の子とは思えんくらい
綺麗に笑った



























「全く!いつもいつも!!」
「あ〜ん・・堪忍してぇ」




ズルズルと廊下をイズルに引きづられて三番隊へと連れ帰られるボク
その姿を周りの死神達はクスクスを笑っている

いつもの光景


十番隊長さんからの告白を聞いてから一週間
初日は『どうして?どこで好きになったん?』
ともんもんと考えていたが
一週間も経つと綺麗に忘れれるもんや


ボクはまた同じ毎日を過ごしとった









「あれ?藍染隊長と一緒に居るのは・・・」
「んー?愛しの雛森ちゃんでもおった?」
「!!なななな何言ってんですか!!」




イズルが雛森ちゃんを好きなんは、結構皆知っとるっちゅーのに
いつまで経っても可愛い反応するわ

でもあの子、藍染はん命やからねぇ
叶わぬ恋や
イズル、いつでも胸貸したるからな




「・・・そうじゃありません
雛森くんではないんですよ」
「?珍しいなぁ」




ボクとイズルはひょこっと顔だけ出して
藍染はんを盗み見た










「はい、日番谷君
欲しがってた本」
「あ・・・有難う藍染
本当に見つけてくれたのか?」




藍染はんと一緒にいたのは十番隊長さんやった
なんやら解らんぶ厚い本をもらってる所やった


嬉しそうに本を数ページめくる十番隊長さんを
藍染はんも嬉しそうに微笑んで見ている

そして再度十番隊長さんは礼を言った




「どうしても欲しかったんだろう?」
「ああ・・・でももう何処にも無いって言われてたから
諦めてたんだ・・」




大事そうに本を抱えた十番隊長さんは
心底嬉しそうで
見ているとこっちも嬉しくなってくる




「何か・・・お礼しなくちゃ」
「良いよ、別に」
「でも・・・」




礼はいらないと言う藍染はんに困り顔の十番隊長さん
困ってる姿・・・カワエエな・・・って何を考えてるんボク!
あの子は男の子!
ボクも男の子!




「・・・そうだね・・・じゃあ・・・」




ん?
藍染はんが十番隊長さんの顎にてをかけて
上を向かせた
そしてって!
ちょい!オッサン!!




「!!」
「・・・・ごちそうさま」




顔を真っ赤ににて十番隊長さんは固まっとった
無理ないわ

あのオッサン
十番隊長さんにちゅーしよった
それが深いキスやったんかどうかまでは
藍染はんの頭が邪魔で確認できんかったけど
間違いなくちゅーしたで

「ごちそうさま」ってキザやな




「日番谷君?大丈夫かい?」
「あああああ、ああ!も勿論!」




ぎぐしゃく と手と足を同時にだして歩く十番隊長さんの
隣で藍染はんは微笑んでいる

なんやあそこだけ空気違う気がするな














「・・・・噂は本当だったんですね」




二人が居なくなった後、イズルが口を開いた




「噂?」
「藍染隊長が日番谷隊長に交際を申し込んだって噂ですよ」




は?
交際?
誰と?
誰が?




「・・・あの子、子供やで?」
「ええ、でも瀞霊廷内の高級料亭で申込んだって話ですよ」




藍染はんと十番隊長さんが二人っきりでやってきて
晩御飯を食べてたんやて
そんで、藍染はんが告白したんやって

その時ちょうど満席やって、周りに大勢の人がおって
その話は一気に広まったらしい


それが十日前の話
ボクに告白してくる・・・三日前の話・・・





それ以降
藍染はんと十番隊長さんが仲睦まじく歩いとる姿が
いろんな場所で目撃されだした・・・















十番隊長さんに告白されてから一ヶ月経った





「こんばんわ」
「・・・・市丸・・・」





ボクは初めて十番隊隊長室訪ねた

乱菊がおらんのは調査済みや


今日はこの子に話があって来た
誰にも邪魔されとうなかった




「珍しいな、お前がウチにくるなんて」
「話があってな」




十番隊長さんが出してくれたお茶を一口啜ってじっと眼を合わせた
向こうもじっとボクを見ていた




「話?」
「せや、単刀直入に言うで
藍染はんとの事や」




ピクリ と手が動いた
そしてゆっくりと眼を逸らされた




「君、あの人の気持ち、利用してるんとちゃう?」
「・・・・」







君はボクが好きやと言うた
けどボクにはその気持ちが理解できんで
結果として君はボクに振られた

君としては辛いやろ
悲しいやろ

一人では耐えれんかった君は
藍染はんの気持ちを利用した

藍染はんは君が好きや

君を受け止めてくれるやろ
辛くてしょうがない君は、藍染はんに答えたんや




「好きでもないくせに」
「!!」




ぎゅっと手を握った十番隊長さんは真っ青になっとった
ボクの予想は間違ってなかった
この子は苦しみから逃げる為に藍染はんと・・・

可哀相な気がするけど、本気で好きでもないのに付き合うたらあかん


君も藍染はんも傷つくだけや
お願いやから、気がついて




「今からでもええ・・・藍染はんに断りに行き?」
「・・・・」
「十番隊長さん」




俯いた十番隊長さんに声をかけた
出来るだけ優しくや

肩に手を置こうとした時、パッと顔があがった




「っでだ!?」
「ん?」
「何でそんな事言うんだよ!?」




眼にいっぱい涙を溜めた十番隊長さんは本気で怒っているようやった
どうしてだろう
抱きしめたい と思った




「十「そうだよ!藍染に逃げたんだよ!」」
「・・・」




とうとうあふれ出した涙をぐいぐいと拭いながら
十番隊長さんは吐き出すように叫んだ











「お前の言うとおり
苦しくて、悲しくて・・・・悪いかよ!?
俺はあっさり忘れれるほど大人じゃないんだよ!!」
「・・・・」
「帰れよ!
お前の顔なんて見たくねぇんだよ!」




ぶつけられているのは『怒り』と『悲しみ』
勝手にボクを好きになったんは君やろ
勝手に藍染はんに逃げたんは君やろ

悪いんは君で
ボクやない

ボクは君に怒ってもええはずやのに




「っ!」
「・・・泣かんといて・・・」




震える小さな身体を・・・抱きしめとった




「っ・・・・ぅわああ・・」
「苦しませてごめんなぁ」




ボクの腕の中で十番隊長さんは大声をあげて泣き始めた

ボクはそのまま、彼が落ち着くまで抱きしめていた














「昨夜は日番谷君と何をしていたんだい?」




隊舎へ向かう途中で藍染はんに呼び止められた
なんとなく予想はついとった

何故なら、十番隊長さんは気がついてなかったみたいやけど
この人はボクとあの子が抱きしめあってた所を目撃しとる

一瞬だけやけど、霊圧を感じた

この人らしゅうない・・・・動揺した証や




「・・・泣いとる子をあやしとっただけですわ」
「・・・それだけかい?」




探るような眼
十番隊長さんがボクを好きやったって知っとるんやろうな

それで心配してるんや
取られたりせんかって・・・




「それだけや
他になんか?」
「・・・別に・・・悪かったね」




ボクは再び隊舎へと歩いた
藍染はんの横を通り過ぎる時、思わずボクは口を開いとった









『あの子、あんたの事好きとちゃうで』








藍染はんは何も言わんかった




そう
あの子が好きなんはボクや

藍染はんとちゃう
あの子はまだボクを好きでいてくれとる




昨日、腕の中で泣くあの子を抱きしめながら
ボクは喜んどった

そして何故喜んどるんか考えた



ボクは、この子に惚れてしもうたんやと気がついた





















もっと早く気がついとったら良かったわ

そしたらこんなに苦労せんで良かったし
あの子も泣かんで済んだのに・・・




苦労・・・
それは十番隊長さんから徹底的に避けられとって
全く会えんっちゅーことや


あの日以降、会えとらん

隊首会では会うんやけど、終わって近づこうとしたら
瞬歩使って逃げていきよる
ほな、隊舎に行ってみようかと思えば
さっきまで居ったはずやのに、扉開けたら姿を消しとる


『顔見たくない』
と言われたし、あの時の事も照れくさいんかもしれん


そんな状態が続いて半月

流石にボクも焦りだした

やって、藍染はんと十番隊長さんが深夜、二人きりで居るところが目撃され始めたからや

まだあの子は子供や
藍染はんも無茶はせんと思うけど
もしもの事がある

それに、藍染はんが望まんでも
あの子がボクを忘れる為に抱かれる事を望むかもしれん

グズグズしとる場合やなかった









「乱菊!イズル!
協力せぇ!!」




ボクと十番隊長さんの一番近くに居る二人に協力を仰いだ















ボクが十番隊長さんに惚れてしもうたと伝えたら
イズルは驚いて固まってまうし
乱菊はたっぷり五分間笑い転げた
なんでも、今までにないくらい真剣な表情で話すものだから
どんな一大事かと思えば、恋愛話だったなんて
だそうだ
余程オモロイ顔しとったんやねぇ、ボク


でも、
「あんたでも人を好きになるのね」


と快く協力を約束してくれた









「チャンスはこれきりよ」
「わかっとる」
「吉良、藍染隊長のスケジュールは?」
「その日は現世任務が入ってますから、尸魂界にはいらっしゃいません」




十番隊長さんと話をする為には、あの子を騙してボクと会ってもらわないかん
その為に乱菊に十番隊長さんを呼び出してもらう事にした

けど、その手が使えるんは一回きり
騙されたと解ったら、あの子は二度とこの手にはのらんやろう
ヘタをしたら十番隊の信頼関係にもヒビが入ってしまう
乱菊には申し訳ないことを頼んでもうた


「私たちなら大丈夫よ」


そのことを詫びると、乱菊は笑ってこう言ってくれた
エエ子やな、乱菊




それと、藍染はんの予定も調べておかなならんかった
ここ最近、あの人と十番隊長さんは時間さえあれば会って話をしている
それは藍染はんから会いに行ったり
あの子から会いに行ったり、とその時によって違うけど
あの人が居らん時の方が邪魔されんでええという事になった




「私たちが出来ることは隊長をアンタの所に連れてくるだけよ」
「わかっとる」
「このチャンスを生かせるも殺すも
アンタ次第だからね」
「任せとき」




そう
チャンスはこれ一回だけ



気がつくと、あの子から告白されて四ヶ月が経っとった