※「君の笑顔と日常」とは違うギンとヒツです※































このくらいが丁度良いんだ










「日番谷はん、こんにち「帰れ」」
「酷っ!言い終えてないのにっ」


いつものように市丸が十番隊へやってきた
休憩と称して長時間居座る為だ

そしてこちらもいつものように「帰れ」と言う日番谷
市丸が執務室にいたのでは、気が散るし松本が仕事をしなくなる為だ

そんな二人をクスクスと笑いながら見守る松本
「帰れ」「嫌や」
と目の前で言い争っている姿を見ながら
よくもまぁ毎日同じ事をやれるものだ と感心してしまう


言い争いを始めて五分
その頃になるとお互い喉がカラカラになってくる
それを見計らって松本が二人にお茶を入れ、結局三人で休憩を取る事となる

いつも日番谷は十分程で再び席に戻り仕事を始める
松本と市丸はそんな日番谷を気にかけることなく無駄話を続け
市丸が来て30分経てば吉良が迎えにやってくる


「市丸隊長!!!」
「時間ピッタリやな、イズル」
「何が時間ピッタリですか!その時間に縛道が解ける様にしておいて!
さあ、帰りますよ!!」
「へいへい
ほな、日番谷はん 乱菊
また明日なぁ」
「来るな!」
「たまにはお菓子の一つでも持って来なさいよ」


三番隊の二人が何やら言い争いをしながら隊に戻っていく
そのやり取りが聞こえなくなった頃
松本は何事もなかったかのように仕事をする上司に話しかけた


「隊長は市丸隊長の事、お嫌いなんですか?」
「嫌いだ」
「・・・・(嘘だ)」

市丸が十番隊へやってくるようになったのは日番谷が隊長に就任してから
ある日、隊首会から帰ってきたかと思えばウンザリ顔の上司
そしてその後ろには幼馴染の姿

どんなに帰れと言ってもついてくるんだ
と額に青筋を浮かべて忌々しそうに言ったのは随分前の事

余程気に入られちゃったのね
とその時はまだ小さい上司を気の毒に思った

でも

市丸は本当に日番谷が嫌がっているのなら無理には来ないだろう
飄々としているがあれで他人の感情には敏感だ
本気で来て欲しくないと思われている相手の所には行ったりはしない

つまり日番谷は口では「来るな」と言っているが
本心から言っているのではないと言うことになる

ならもう少し優しく
又はたまには気持ちよく迎えてやってはどうか
と乱菊は思う

この上司は何故か市丸との間に距離を置こうとする
それも無理矢理



「アイツは嫌いだ
鬱陶しいし馴れ馴れしいし
仕事の邪魔するし
・・・俺より背が高いし」
「ップッ!何ですかそれ?」


五月蝿い!と顔を赤くして怒る上司に乱菊は更に噴出してしまう
背が高いから嫌い では
副官の自分も含め、死神全てが嫌いになってしまうではないか


「隊長、可愛いですね」
「喧しい!!残業を言い渡されたくなかったら仕事しろ!!」


隊長のいじめっ子
とぼやきながら乱菊は書類に意識を集中させた

日番谷はそれを気配で確認し
乱菊に気が疲れないように息をはいた




市丸は嫌いだ

鬱陶しいし馴れ馴れしいし
仕事の邪魔するし
俺よりも背が高い


そして俺に居場所をくれようとする

居場所

安らげる場所

無理に大人ぶらなくて良いんだ
力を抜いて良いんだ
自分の前ではそうしていて良いんだ
と手を広げて待っている

俺が必死で作り上げてきた
『十番隊隊長 日番谷冬獅郎』
を崩そうとする

その一つが毎日の十番隊への訪問

ここにおいで
と実際には差し出されていないけれど
市丸は俺に手を出している

俺はその手を取りそうになるのを必死で抑えている


だから市丸は嫌いだ


俺が望まない事をするから














でも本当は嫌いじゃない


心の底では望んでいるんだ
市丸に
俺を子供に戻して と

せめてお前の所でだけでも良いから と




言った事はない
聞かれた事もない

俺の声にならない声を聞いて
俺の望みを叶えようとするアイツは嫌いだ




嫌いだ

そう言い続けていないと

俺は市丸の所に飛び込んでしまう

そうならないように

少しだけ距離を置く




離れすぎないように
でも近づきすぎないように






俺にとって丁度良い距離を








そう
このくらいが丁度良いんだ