遊びかもしれない
冗談かもしれない


でも


それはたった一日だけの・・・・













「しろちゃん、母の日はどうするの?」と


十一番隊の副隊長で死神の中で俺よりも幼いとされる・・・
つまり子供であるやちるが十番隊を訪ねてきたのは、こどもの日から数日経った頃だった







勿論 俺ややちるに母はいない
松本にも阿散井にも雛森にもいない
それは決して珍しい事ではない
流魂街出身なら殆どの誰もがそうなのだから
だから昔は母の日なんて関係なかった


でも今は違う






確かこどもの日について総隊長に命令された次の年だったか?


十一番隊に新しく入った死神がやちるに母の日の話をしたことから始まる
彼はあの隊に所属している割に、見た目も正確も穏やかな人物だった
とても母親想いで、毎年母の日には花を贈っていたらしい


それを聞いた(ちょうど母の日の前日だった)やちるは
「自分も花を贈りたい」と駄々を言い出した


しかしやちるに贈る母親が居るはずがなく
彼女は酷く落ち込んだ


それを聞きつけた総隊長が、なんとかやちるを元気づけようとしたのだが出来なかった
困り果てた総隊長は卯ノ花と(当時は良い人を演じていた)藍染に相談した


そこで「卯ノ花を母親に見立てて花を贈れば良い」と結論が出た


たった一度だが、その日一日は卯ノ花はやちるの母親となった
そしてやちるは念願叶い、母親に花を送ることが出来たのだった







ここまでは良い
俺も「良い案が出たな」と思ったのだから


問題はやちるに花を貰った後の卯ノ花だ


彼女はにこりとやちるに笑いかけ礼を述べた


だがその後、俺の方に向き直り(何故か付き合わされてその場にいたのだ)
「冬獅郎からは何が頂けるのでしょう?」
と言ったのだ


「は?」
「母の日は、子供が母親に日頃の感謝を込めて、何かしらの贈り物をしてくれる日なのではないのですか?」


あなたも子供でしょう?


そのときの卯ノ花の顔は、笑っているが眼が笑っていなかった
気のせいだと思いたかったが、卯ノ花から黒い霊気が立ちのぼっているように見えた
子供と言われて色々と言い返したかったのだが、そうすれば命は無いな、と感じた
そして俺には答えは一つしか残されていなかった


「・・・す・・・すみません・・・用意するのを忘れました」


こう答える他に・・・






それからは毎年何らかの贈り物を卯ノ花にしている


まぁ、彼女には怪我や病気の時に世話になっているので、その時の礼を兼ねて贈っているのもあるのだが・・・








「そうか、もうすぐに母の日か・・・」
「そうだよ。ねえ、去年はどうしたっけ?」


去年の母の日は卯ノ花がピクニックがしたいと言い出した為、三人で双極の丘に出かけた
双極の丘って所が卯ノ花らしい・・・


今年はどうするか・・・


「・・・思いつかん!・・・卯ノ花に直接聞きに行くか」
「はぁーいVv」






やちると二人で四番隊へと歩く


こいつはいつも少し歩いただけで何かを発見し止まる
それは花が咲いてるだの散ってるだの
鳥が何羽あそこにいるだの
おいしそうな匂いがするだのと様々な理由で



ちょうど今もそう
面白い形の雲が流れていると言って立ち止まって空を眺めている


普段の俺なら放っておいて一人で行くんだが
きっとそれをしないのは・・・






「あのねしろちゃん」
「しろちゃん言うな!・・・なんだ?」


言っても無駄なんだろうが
一応「しろちゃん」と呼ばないように注意する


「あたしね、たった一日でもお母さんが出来て嬉しいんだ」
「・・・そうか・・・」
「その日だけは、卯ノ花さんがお母さんでしろちゃんが兄弟で
それは家族ごっこかもしれない、遊びかもしれない・・・でもあたしは嬉しい」
「・・・・」


何も言わないでいるとやちるが「しろちゃんは?」と見上げてきた
眼をキラキラさせて
俺の答えを待っている


「ねぇ?しろちゃんは?」


中々答えないでいたら再度問われた


馬鹿だな
嫌だったらやりたくないなら翌年にはきっぱりと断るぞ



今までもこれからも一日だけかもしれないけど
卯ノ花の子供で、やちるの兄でいても良いと思ってるんだ







「・・・面白い雲はなくなったな・・・」
「え?・・・あ〜!」


やちるが見ていた雲は風に煽られたのか
消えてなくなっていた


「もっと見ていたかったのにな〜」


残念がるやちるだったが「仕方ないね」と立ち上がる


そして「あ」と声をあげた


「しろちゃん、答え聞いてないよ」


上手くはぐらかしたと思ったんだがな・・・
俺はため息をはいた


やちるを見てみると ぷぅっと頬を膨らましている
俺は再度ため息をはくと
彼女に向かって手をさしだした




「ほら、さっさと『母さん』の所に行くぞ やちる」
「!」
「今度は寄り道なんかしちゃ駄目なんだからな?」


そう言って笑うと、やちるも溢れんばかりの笑顔でかえしてくれた


「うん!」














遊びかもしれない
冗談かもしれない
たった一日だけの家族かもしれない


でも


俺たちにとってその日は大切な日



その日だけは素直になって
『母さん』に
こう言おう











『お母さん ありがとう』