「・・・・おやすみ、冬獅郎」




一護は小さな声で囁くと
冬獅郎を布団に横にさせた


抱きしめられたまま眠ってしまった冬獅郎を見て
一護は微笑んだ

冬獅郎の表情は穏やかで、見ている一護も幸せになってくる




数回髪を撫でた後、一護は音をたてないように部屋を後にした






卯ノ花の離れから、本館へと向かうと
そこには松本と卯ノ花の姿が


二人ともとても驚いた様子で、何かあったのか?と尋ねてきた




「大丈夫っす、冬獅郎が寝ちゃったんで・・・ちょっと・・・」




何か言いにくそうにしている一護を見て松本は
このまままた現世に帰るつもりなのでは?と
心配になった

やっと再び心を通い合わせたばかりなのに
やっと冬獅郎が落ち着き始めた所なのに

と不安そうな松本を見て、一護は苦笑した




「大丈夫ですよ」
「・・・・」
「冬獅郎が元気になるまでは帰れと言われても帰りませんから」




だが、どうしても聞いておきたいことがあった

それは冬獅郎は眠っている間でなければ出来ないと思った




「乱菊さんに聞きたいことがあるんです」
















愛のカタチ

















冬獅郎の熱が下がって十日
やっと今日から隊に復帰する事となった

本当は今日一日はずっと冬獅郎にくっついていたかった一護だったが
冬獅郎に『現世に帰って学校へ行け』と言われてしまった

それが、ずっと一護を自分の傍に居させてしまい冬獅郎が罪悪感を抱いているからだ と解っている為
大人しくそれに従った

副隊長の松本や、十番隊の席官たち
卯ノ花といった面々に『冬獅郎をよろしく』とちゃんとお願いして帰ってきた




しかし、一護は冬獅郎が望んだように学校へは行ってはいなかった

現世に帰ってきた時点でお昼前で
『今更行ってもなぁ』と行く気が起きなかった事

それともう一つ



『彼』が来そうな気がしたからだ




これは予感ではなく、確信だ


『彼』はきっと自分に会いに来る




そう思ったら足は自然と浦原商店へと向かった

ここにある地下の勉強部屋
そこで『彼』を待つことに決めた

ここならば尸魂界に悟られないで話が出来るだろう

そう思った











「黒崎サン」




ただぼんやりと座って荒野を眺めていた一護に
後ろから浦原が声をかける


浦原には『彼』が来たらここへ案内するように頼んでいた




「・・・いらっしゃいましたよ」




浦原の後から現れたのは長身の男




「・・・来ると思ってた・・・」




市丸ギン だった


















『では、後はお若いお二人でごゆっくり』




見合いじゃなんだけど?
と一護が心の中で思わず突っ込んでしまうようなセリフを残して浦原は外へと帰った


一護と市丸は、二人並んで浦原が持って来たお茶と煎餅を食べている




(・・・傍から見れば変な光景だろうな・・・ここで煎餅食ってるなんて)




ぼりぼり と無言でちょっぴり固めの煎餅を食べる




どうして市丸が一護の元にくると思ったのか

答えは『ただそう感じただけ』なのだが
必ず来ると確信してた


何故なら、自分は今日、十日ぶりに現世に帰ってきたから

どうして十日ぶりかといえば、冬獅郎の看病をしていたから


きっと気になっているだろうと思った
自分なら気になってしょうがない
本当は聞きたくないけれど
知っているはその人だけ
だから仕方がない
聞きに行くしかない






「・・・あの子・・・どうしてるん?」




やっぱりな と一護は心の中で笑った
気にならないわけがない

たった一人の大切な人




「その前に、アンタのセリフを訂正してもらえるか?」
「?」
「『退屈しのぎに十番隊長さんをからかっただけや』
・・・・コレは本心じゃねぇだろ?」




あの日、市丸が一護たちに発した言葉

それを聞いて一護は激しい怒りを感じた
遊びだったという市丸を殺そうと思った



だが、一護は気がついてしまった




「俺も・・・お前と同じような事したかもしれねぇ」




市丸に襲われた冬獅郎を見て
『他の男よりも自分が先に』と冬獅郎を襲いたくなった

なんとか自分を抑えることが出来た一護だったが
冷静になって解ったのだ




『市丸も同じ気持ちになったのだ
そして自分を抑えられず、こんな真似をしてしまったのだ』と




「俺達は同じ なんだよ」

















『好き・・・だったはずよ
隠してたつもりだろうけど・・・解っちゃったのよね』




松本は寂しそうに笑うとゆっくりと眼を閉じた

きっと過ぎ去ってしまった過去を思い出しているのだろう



松本の言葉を聞いて、一護は自分の思った事は間違いないと確信した

市丸は冬獅郎を深く傷つけてしまった
それは許される事ではない

しかし、今の一護にならその気持ちは十分に理解できた


冬獅郎が嫌いなわけでも憎いわけでもない


好きだから、愛しているからこんな事をした




『こんなに愛しているのに、どうして相手が俺じゃないんだ?』














「間違ってないだろ?」
「・・・・・」




ずっと沈黙していた市丸だったが、ふぅ とため息をはくと
穏やかな微笑を浮かべた




「その通りや・・・ボクはあの子を愛しとる」




一護も市丸にニッと笑いかけた








日番谷冬獅郎を誰にも渡したくない
この腕に抱いて、二度と放さずに
一生自分の傍に・・・・



一護と市丸
起こした行動は違っていた
けれど、想いは同じ・・・




「ボクはあの子を傷つけてしもうた
・・・・どんなに憎まれても、殺されても文句は言わんよ
でも、やった事は後悔してへん」




ギュッと拳を握り締めている市丸を見て
(本当は後悔してるくせに)と一護はため息をはいた






一護は市丸に、冬獅郎が数日間高熱で苦しんだ事
今は回復して今日から復帰している事を告げた



熱を出していたと聞いた時の市丸はとても辛そうだったが
復帰したと言うと少しホッとしたようだ







また暫くの沈黙が流れた

お互い妙な気分だった


敵同士のはずなのに
恋敵であるばずなのに

どうしてか心は穏やかだった






「・・・今日は・・・確かめたい事が二つあったんよ」




一つは冬獅郎の事


そして、もう一つは・・・




市丸は真剣な表情で一護を見つめた




「君にあの子を託して良いもんかどうか・・・」
「・・・・・」




一護もまた、市丸を見つめる




「あの子の為に、命懸けられる?
悲しませへんと、泣かさへんって誓える?」
「ああ」




当たり前だ と一護は頷く




「冬獅郎は俺が命懸けで護ってみせる
・・・たとえ相手がお前だったとしても」
「・・・」




自分達は冬獅郎に関しては同士かもしれない
けれど、市丸はやはり敵

彼が藍染に加担している以上、いつかは闘わなくてはならない

最悪、市丸と冬獅郎が闘う事があるかもしれない


誰が相手でも冬獅郎は死なせはしない
傷つけさせたりしない

必ず護ってみせる





「・・・・良う言うた」
「・・・・」
「ほんの少しだけ・・・安心したわ」




穏やかに笑う市丸に、一護も笑ってみせた


















「・・・ご馳走さんでした、浦原はん」
「いえいえ」




尸魂界の死神達や虚圏の者達が見たら呆れてしまうほど
暢気に会話をしながら、市丸は帰っていった

その後ろ姿を見つめながら一護は市丸との会話を思い出していた







『戻ってこないのか?』




このままでは冬獅郎の敵のままである市丸に、思わずそう声をかけていた
愛している者と闘うなど、辛いだけではないか
苦しいだけではないか

帰って来い、一緒に冬獅郎の傍にいよう

そう話した


しかし、帰ってきた答えはNO




『ボクがそっちに行ったら、あの子が殺されてしまう』




市丸の話では藍染の駒となっている者はまだ瀞霊廷に存在するらしい
いくら市丸と一護が冬獅郎を護ろうとしても、やはりどこかで隙が出来
冬獅郎に危害を加えられる可能性がある




『あの人は恐ろしい人や、きっとあの子をこれ以上ないくらい
傷つけて・・・苦しめて殺してしまうやろ』




『死んでほしくない・・・
生きていてほしいんよ
笑っていてほしいんよ
幸せでいてほしいんよ

たとえそれが、ボクの傍でなくても・・・』




悲しそうな笑みを浮かべる市丸を見ながら
一護は自分だったらどうしただろうと考えた


自分ならきっと
冬獅郎を連れて行く

腕の中に閉じ込めて
誰からも、何者からも護り通す




しかし市丸はそれをしなかった




『あの子がそれを望んでないからや・・・
言うたやろ、幸せでいてほしいんやって』




『あの子は君を選んだ
君を望んだ
やから君に預けるんや・・・・あの子を』



















「でも、良かったですねぇ
一つ問題が解決して」
「?何の?」




何か解決したっけ?と一護が首を傾げる
すると浦原は「またまた〜」といやらしく笑った




「『君にあの子を預ける』って
市丸サン・・・恋敵が身を引いたってことでしょ?」
「ああ・・・」




なんだ、その事か
一護はクスリと笑った




「『今は』俺に預けてくれるらしい」
「・・・今は・・・ですか?」
「ああ」




一護たちと市丸達

これから先、闘うだろう
傷つけあい
殺しあう


今は冬獅郎は死神として闘う事を望んでいる
一護と共にある事を望んでいる

だから連れては行かない


けれどここから先
未来で一護達瀞霊廷側が負けるような事があれば
冬獅郎の意思を無視してでも市丸は向こうに連れて行くだろう


『死なせたくない、生きていてほしい』


という市丸の望みを叶える為に






「ますます気が抜けなくなった
だってアイツ、俺が冬獅郎を悲しませたら『向こうに連れて行く』とか言うし」
「・・・貴方なら大丈夫ですよ」
「ああ、誰にも渡したくねぇから」









俺は常に傍に居て
抱きしめて
囁いて

愛しい人を護っていく




お前は離れた所から
見守って
時にはその手を伸ばして

愛しい人を護っていく




それぞれの愛のカタチ



違うけれど同じで




同じだけど違う









愛のカタチ
























余談あります・・・作品の雰囲気を壊されたくない人は見ないほうがよろしいかと・・・