あの人と同じ事を言った
あの人と同じように喜んだ
もう一度だけで良い
貴方を通して
あの人に会いたかった
24時間の恋人 日番谷side
「責任取れませんよ?」
解ってる
「俺はデータが取れりゃ構いませんが」
困るのはあなたですよ?
何度も阿近が確認してくる
俺は構わないと頷いた
「では、こちらがご要望の義骸です」
基本的に義骸は俺達の姿に忠実に作られる
子供が大人の服を着ても、大きすぎて着こなせないように
魂魄に合わない入れ物では色々と不具合が起こるらしい
しかし、今回俺が阿近に頼んだ義骸は今の俺には合わないモノ
今の俺とはかけ離れた、少し大人の・・・少女
「一応霊圧は出せないようにしました
まぁ、それでも解る奴にはあなただと解るでしょうが・・・」
どうしてこんな義骸を頼んだのか
どうしてこんな事を望んだのか
それは、あの日のあの病室での出来事があったから
藍染、東仙・・・そして市丸
彼らが尸魂界を裏切って数日
卯ノ花に怪我を癒された俺だったが、暫くは通院するようにと言われ
四番隊で卯ノ花の診察を受けに行った時の事
状態は良好
ただ、雛森を守れなかった事と、親しくしていた藍染らに裏切られた精神的ショックがあり、そのカウンセリングも兼ねてもう暫くは通院してほしいとの説明を受けていた所だった
「失礼します!卯ノ花隊長!」
卯ノ花とお茶を飲みながら他愛ない話をしていると、飛び込んできた四番隊隊員
その慌て方から卯ノ花の手を借りねばならないほどの怪我人でも出たのか と緊張が走る
すぐに卯ノ花は隊員に連れられて出て行く
俺はここにいては邪魔になるだろうか と席を立った
すると、すぐに先ほどの隊員が戻ってきて助けを求めた
「・・・・情けない・・・」
俺の目の前にはぐったりした死神達
そのすべてが十一番隊
全員熱射病だという
なんでも今回の騒動の一端
旅禍 黒崎一護と勝負がしたいが為に、彼と炎天下で長時間にわたって追いかけっこをした結果だそうだ
馬鹿としか言いようがない
四番隊隊員が俺に求めたのは彼らの治療を手伝ってほしいと言う事だった
氷雪系斬魄刀の俺の力で冷やしてほしいと
運悪く、同じ氷雪系である副隊長の虎徹が休みのなのだそうだ
良いだろう
当分馬鹿な追いかけっこが出来ないように全身を凍らせてやろうじゃないか
「霜天に坐せ! 」
「で、どうしてこうなるんだ?」
結局俺はいまだに四番隊にいる
あの後、今度は涅の所で実験の失敗があったとかで、怪我人が大勢運ばれてきた
こんな状態で瀞霊廷は大丈夫なんだろうか・・・と思ってしまうほど四番隊は大混乱だ
他隊の隊長でも元気ならば応援要員なのだろうか
俺は目の前で意識を失っている黒崎一護の看病を言い渡された
「いつまでいれば良いんだ?っつか、こいつ起きねぇし」
独り言を言いながら、じっと黒崎を見つめる
旅禍
オレンジ髪の死神
聞いていた通りの死神
綺麗な色だな
俺は黒崎の髪に触れた
少し硬いけれど、その色は心を暖かくしてくれるような気がした
あの人は・・・柔らかくて・・・冷たい色をしていた
「・・・ぅ・・・んぅ?」
「!!」
今・・・俺は何を思った?
どうして今更アイツの事なんか!
俺が一人で混乱していると、黒崎が眼を開けた
茶色の眼が俺を写す
俺は先ほど事で動揺していたが、それを悟られないように出来るだけ虚勢を張って
「熱射病だなんて、子供か」と言ってやった
気がついたし、後は起き上がれるまで寝ていれば良いだろう
仕事もあるし、松本一人にしたら終わるものも終わらねぇ
そう思い席を立った俺を引き止める声
黒崎だった
もっと話をしよう
まだここに座れ
黒崎の目はそう語っていた
思っている事を隠すのが下手糞なんだろうな
それに気がついて思わず笑ってしまった
「んじゃ、冬獅郎が俺を助けてくれたんだ?」
「日番谷隊長だ!・・・まぁ、そうなるな」
「ありがとうな」
満面の笑みを向けられて俺も笑う
人の事は言えないけれど、目つきが悪いから笑わないかと思った
「なぁ?」
「なんだ?」
身体を起こした黒崎が俺の背にある氷輪丸を指差す
そして、懐かしい言葉を放った
「氷が作れるなら雪も作れるか?」
『氷が作れるんやったら、雪も作ってみてくれへん?』
黒崎の言葉と共に聞こえてくる声
それは俺とあの人が出会って間もない頃の出来事
夏の暑い日
今の黒崎と同じようにあの人も倒れた
同じように四番隊に運ばれて、その時もここに居た俺があの人の看病をした
当時はまだ席官だった俺にとって、すでに隊長だったあの人は雲の上の人
こんな近くで見れるとは思ってなかったから、緊張した
その後、気がついたあの人は『何かお礼をせなあかんね』と優しく笑ってくれた
いろんな話をして色んな事を教えてくれた
俺の斬魄刀が氷雪系だと知って、あの言葉を言った
「・・・ああ」
「マジ?じゃあ見せてくれるか?」
「・・・・・・・」
『そうやねぇ・・・雪兎はどうやろうか?』
『雪兎・・ですか?』
『季節外れやけど』
すぐに融けてしまわないように霊力を込める
あの時は半日で融けてしまった
今の俺なら夏でも一日くらいは融けないでいられる物を作れるだろう
「・・・・ほら、これで良いか?」
「すっげぇ!マジで作ってくれたのか?」
本来ならばユズリハを耳に、ナンテンの実を目にするんだが手元には無い
あの時もそうだった
だからちゃんと耳も雪で作った
「ありがとう冬獅郎」
「っ!」
黒崎に向けられた笑顔が
あの人に見えた
『有難う、大切にするな』
あの日から毎年のように作って渡していた雪兎
今年はもう作ることは無いと思っていたのに
黒崎は・・・あの人を思い出させる
それから黒崎が現世に帰るまで、俺はアイツを避けた
何も似ていない
性格も容姿も似ていない
なのにあの人を思い出させるアイツが嫌だった
だけど、アイツがいなくなると逆にアイツを探し出した
アイツを想うようになった
あの人と同じ所をアイツの中から見つけたくて
少しで良いからあの人の事を思い出させてほしくて
駄目だ
黒崎はあの人じゃない
あの人はもういないんだ
俺を・・・尸魂界を裏切って行ってしまった
黒崎をあの人の代わりにしちゃいけない
ずっと自分にそう言い聞かせて、なんとか耐えてきた
けれどもう限界だった
雪が尸魂界に降ったから・・・・
『何処に行ったんかと思うたら、雪だるまつくっとったんかいな?』
夏は雪兎
冬は雪だるまを作った
雪だるまは空から降ったきた雪を使って・・・・
『見せて?・・・ああ、見てみ?手がこんなに冷たい、真っ赤かになって震えとるし』
俺の手をあの人は自分の手で包んで暖めてくれた
俺はそれをしてほしくて、必ず素手で雪だるまを作った
でも・・・今年は暖めてくれる人が・・・いない
「休暇は何日取られてるんでしたっけ?」
「二日だ」
「では二日目の夕方になっても戻られない場合は十番隊と総隊長にお知らせしますんで」
「・・・わかった」
俺は義骸へと手を伸ばす
もう一度だけで良い
あの人に会わせて
貴方を通してあの人に会いたい
「ご気分はいかかですか?」
「・・・・卯ノ花隊長?」
気がつくとそこは俺の自室だった
卯ノ花が微笑みながら俺の額に手をやる
熱が下がったようだと告げられた
体調が悪かっただろうか と考える
いや、ここ最近は調子が良かった
「どこかおかしな所はありませんか?」
おかしな所・・・そういえば頭が痛い
吐き気もする
そう訴えれば卯ノ花は数回頷いた
そしてどうしてそうなっているか解るか?と問われた
どうして?
俺は記憶を辿る
「!」
「・・・・御無理をなさいましたね」
そうだ!俺は魂魄に合わない義骸を使って現世に行こうとして・・・・
そして?
「あの・・・」
「はい?」
「俺は・・・現世に行ったのでしょうか?それともすぐに倒れたのでしょうか?」
「・・・・」
卯ノ花は少し考えた後、すぐに倒れたと言った
魂魄に合わない義骸だった為、拒絶反応が出たのだという
すぐに義骸から出されたが熱を出し意識不明となっていたと説明された
俺の記憶は十二月二十四日までで、今日が二十六日だから二日は寝ていた事になるのか
それにしても、今思うと馬鹿なことをしようとしたと自分を笑う
黒崎は黒崎で、あの人はあの人で
他の誰でもない
解っていたはずなのに、解らなくなっていたんだろう
卯ノ花や松本にきっと迷惑をかけた
ちゃんと礼を言わないといけない
俺は身体を起こし、布団から出ようとした
その時、自分が何かを持っていることに気がつく
「?何だ?これ・・・・は・・・?」
ぎゅっと握り締めた右手
その中には少し青味ががったガラスの指輪
こんな物をいつの間に?そう思いながら、何となく指にはめる
子供の俺には少し大きな指輪
それを見ながら聞こえてきた 優しい 声
『これは・・・ずっと一緒にいる約束の指輪だ』
『独りにしない・・・・離れたりしない』
「そんな・・・・・・」
ぽたり と頬を伝った涙が落ちる
『・・・・ユキ・・・・』
「・・・一護・・・・」
俺は一護との一日を思い出した
続