●● 繋がる指先 --- 1 ●●
「何時の間に日番谷隊長とそんな仲になったんだ?」
どことなく、少し悔しそうな恋次の言葉を聞いて一護はあの頃の事を思い出した
藍染らが消えた日
尸魂界は混乱していた
隊長格三人が裏切って大虚と共に消えた
「皆混乱していた・・・それは解ってる・・・だけどな」
夜中という時間帯の為、一護は小さな声で喋る
「なんで俺はこんな所に入れられてんだ?」
こんな所=四番隊の病室
一護の怪我は確かにひどいものだった
しかし、織姫の回復術により完治とまではいかないものの、入院しなければならないほどではなかった
一護は何度も四番隊の者に退院?させるように言ったのだが聞き入れてもらえず
挙句『同室の方に迷惑ですから静かにしてください』と睡眠薬を盛られて先ほどまで眠らされていた
流石にこの時間に騒ぐ事も出来ないので、不満に思いながら今晩はここに居る事を決めた
「・・・暇だ」
今まで薬で眠らされていたので全く眠る事が出来ない
ここを出て散歩でもしたいが、もし見回りにでも来た時自分が居なかったら騒ぎになるかもしれない
「はぁ・・・」
一護はため息を吐いて、隣のベッドを窺う
「・・・」
隣で眠る彼はここに運ばれてきた時と全く変わらない状態でそこにいた
「日番谷って言ったっけ」
本人に聞いた訳ではない
彼は一護が知る限りでは、一度も眼を覚ましていない
一護と同じく藍染に斬られて負傷したのだ、と様子を見にやってきた彼の副官の松本が話してくれた
もう命の危険性は無くなったが、まだ意識が戻らない
そのことを松本はとても心配していた
「早く起きて松本サンを安心させてやれよ」
一護は日番谷のベッドまで行き、側にある椅子に座る
(外見的にはウチの妹達と同じくらいか?)
退屈だったから、話し相手が欲しかったからなのか
「・・・起きろ」
一護は日番谷に呼びかけていた
「・・・何やってんだ、俺」
一護が何度呼びかけても、何の反応も示さない日番谷
何を必死になっているのかと苦笑する
「・・・あのな日番谷」
しばらく考えて一護は眠る日番谷の手を軽く握り、再び話しかける
「俺は尸魂界に来て、色んなヤツと出会って話して戦った
だからって訳じゃないんだけど
俺、お前に会ってみたいよ
その為にはお前が起きないと・・・俺たち、出会うことさえ出来ないんだぜ」
一護は祈るように眼を閉じた
「どんな夢見てるのかは知らないけど、いい加減俺を見てくれないか?・・・冬獅郎」
どのくらいそうしていたのか
一護は微かな感触に気がついた
「冬獅郎?」
一護の握る日番谷の指が僅かに握り返している
もしかしたら、と一護はもう一度日番谷を呼ぶ
「冬獅郎!起きろ!眼を開けろ!!」
一護の声に反応するかのように、先程より強く握り返してきた
「俺の声、聞こえるか?お前の目の前にいるんだ!頼むから眼を開けてくれ!!」
一護の声が五月蝿かったのか、少し眉根を寄せた日番谷は
小さく深呼吸した後、ゆっくりと眼を開いた
(・・綺麗だ・・・)
ようやく開かれた日番谷の眼を見て一護は心からそう思った
一方、日番谷は目覚めたもののまだ頭がはっきりしないのか、ぼぅっとしていた
「よぉ、おはようさん」
日番谷が天井ばかり見ているのか面白くなくて、一護は声をかけた
すると日番谷の眼に一護がやっと映った
「・・・」
「眼が覚めて良かったな。松本サン、心配してたぞ」
それが嬉しくて
一護は相手がようやく目覚めたばかりの病人だという事を忘れて話していた
「俺、お前と話がしたかったんだよ
明日にはここを出るつもりだったから、間に合って良かった」
「・・・か・・」
「ん?」
じーっと一護を見ていた日番谷が何か言ったのだが、聞き取る事が出来なかった
一護は日番谷の口元に耳を近づける
「・・・うる・・・い・・か」
(うるさい、馬鹿?)
「っ!お前な!」
文句を言う前に日番谷は一度だけ一護を睨み、顔を背けて再び眼を閉じてしまった
「あ!おいコラ!なにまた寝てんだよ!?」
何度か話しかけたが、その夜日番谷が眼を開ける事は無かった
(可愛くねぇ!顔は可愛いけど・・・可愛くねぇ!クソガキめ!!)
一護は自分のベッドに戻り、布団を頭からかぶってイライラしながら眼を閉じた