あの、藍染らが空に姿を消したあの日から丁度一ヶ月が経った
未だに多少の混乱は見られるものの
何とか通常業務を行える程には落ち着いてきていた
しかし、それは全ての隊がそうではなく
やはり自隊の隊長が姿を消してしまった隊などでは
まだまだ時間がかかるであろうと予測されていた
「死神代行のところへ?」
「はい」
いつもなら昼休憩に出たら最後
二時間は戻ってこないサボり魔の副官が、いつになくニコニコした表情で
一時間キッカリに戻ってきた時 「何かあるな」と予想はしていた
「やはりコレがあった方が連絡も取りやすいですし」
「・・・それはそうだが・・・」
『コレ』とは伝令神機の事
死神が尸魂界からの指令・情報等を受け取る事の出来る端末
確かに、コレを渡しておけば有事の際に迅速に指示を与えられるだろう
しかし・・・
と、サボリ魔の上司である 日番谷冬獅郎はどうしても腑に落ちない事があった
「どうしてウチ(十番隊)にその命令が回って来るんだ?」
やさしいKISS
「どうしてって・・・そんなの隊長と一護が恋人同士だからじゃないですか」
「!!・・・な・・なななな」
あっさりと自分と一護の関係を言われ、顔を真っ赤にする冬獅郎
副官の乱菊は「何を今更」と呆れていた
「まさかとは思いますが、誰にもバレてないと思ってたんですか?」
まさかバレているとは思っていなかった冬獅郎は、コクコクと頷いた
その上司を見て、乱菊はガクリと肩を落とす
バレないわけがないのだ
たとえ、一護と冬獅郎が会って話した時間が短くとも
お互いを見る視線
話をする時の声色、表情
そして一護が現世へと帰った後の冬獅郎の態度
常に冬獅郎の側いた乱菊だけでなく
十番隊の隊員達
そして今まで冬獅郎を見てきた隊長達も殆どが気がついている
「・・・残念ですがもう手遅れです」
「・・・///」
「ですから、これから死神代行に関する事は殆どがウチ(十番隊)に回ってくると思っていてください」
さて
と、乱菊は話を元に戻す
「まぁ、そんな理由で一護に伝令神機を渡しに行く命令が我が隊に下されました
しかし、隊長もご存知の通りウチの隊員は五番と九番のフォローをやっています」
五番隊は隊長が姿を消し、副隊長は倒れたまま
そして九番隊はお隣の隊
このままでは隊がガタガタになってしまう
と危惧した冬獅郎が、隊員を各隊に応援として送っているのだ
勿論、自隊に影響のない人数ではあるが
「ハッキリ言いますと『このクソ忙しい時に現世にお使いかよ』って感じでしょうか・・・」
「・・・・」
「この命令、本来なら十三番隊辺りが妥当なんですけど・・・ねェ・・・」
つまり自分に行け と乱菊は言っているのだ
冬獅郎も乱菊達 十番隊の皆にかなりの負担をかけている事を申し訳なく思っている
隣の隊の九番隊はともかく
五番隊に関しては、殆ど自分の我儘と言ってもいいだろう
大切な姉の所属する隊
彼女の心がこれ以上傷つかないように・・・・
せめて五番隊だけでも守りたかった
「・・・・解った。俺が行こう」
冬獅郎はため息をはきつつ席を立ち上がった
冬獅郎が一護の自宅へ行くのは今回が初めてだった
いや、彼らが知り合ってから、冬獅郎が現世へと下りる事自体が始めてだ
時刻は午後三時を少し過ぎたところ
まだ一護は学校から帰宅していない
さて、どうしたものか
と冬獅郎が黒崎家の前で腕組みをして考え込んでいると
「あの・・・」と遠慮がちに声をかけてくる者が・・・
(・・・確か、資料に載ってた・・・)
「もしかして『冬獅郎』君?」
自分の名を何故か知っている少女
冬獅郎は尸魂界で眼を通した、黒崎一護の資料と
一護から聞いていた情報から彼女が誰であるか解った
「アンタは・・・一護の妹・・・の」
「遊子です。やっぱりお兄ちゃんの友達の『冬獅郎』君だよね?」
もうすぐ帰ってくると思うから
と通された一護の部屋
意外と片付いている
以前、松本と行った阿散井の部屋はもっとごちゃごちゃしていた
『男の部屋なんてこんなもんですよ』
と阿散井は言っていたけれど・・・
やっぱりアイツが特別片付けが下手なだけなんだな
よし、帰ったら朽木に一言言ってもらおう
と冬獅郎がグッと握りこぶしを握った時
階下から聞きたかった声が聞こえてきた
「ほんっっとうに冬獅郎なのか!?」
「お兄ちゃんが言ってた容姿と同じだったし、『うん』って頷いたし」
帰宅した一護に遊子が冬獅郎が来ている事を告げたのだろう
一護はさっきから何度も「本当か?」「本人か?」と尋ねている
徐々に声が大きくなっている所をみると
階段でも上っているのだろう
(アイツの声・・・久しぶりだ)
自然と顔が綻ぶ
もうすぐ・・・
一ヶ月ぶりに黒崎に会える
「伝令神機・・・本当にコレ貰って良いのか?」
「ああ」
冬獅郎が頷くと一護はニッと笑った
どうやらルキアが持っていたのを見て、自分も欲しかったらしい
楽しそうに説明書に眼をとおしている
ぱらぱら と
ページをめくっていた一護は、説明書に挟まっていた一枚の紙を見つけた
「?なんだこりゃ?」
よくある、説明書の訂正箇所を書いたものか?
と思ったがそうではないようだ
良く見ると文章の始めに
『日番谷隊長へ』
とある
「どうかしたのか?」
何か問題でもあったか?と冬獅郎が一護に近づいた
一護は挟まっていた紙を冬獅郎に差し出す
「お前宛だ」
「は?」
渡された紙は冬獅郎宛
その文字は毎日見ている副官のもの
『日番谷隊長へ
隊長がこの手紙を読んでいるって事は
ちゃんと一護の所へ行っているみたいですね
照れたり意地張ったりして行かないんじゃないかと
十番隊の皆で心配していたんですよ〜
さて、実は隊長に言っておかなければならない事があるんです
今回の一護の所へのお使いなんですが、本当は十三番隊のルキアか
六番隊の恋次が行くはずだったんです
でも、それを無理矢理隊長に行かせてもらえるように代わってもらったんですよ
どうして?と言っているでしょうね
理由は、私たちが貴方を大好きだからです
隊長、ずっと休みなく仕事してたでしょう?
私たちには「休め」と言ってくれる
でも隊長は少しも休まない
忙しいのは解ってます
私たち部下を大切に思って「休め」と言っているのも解ってます
だけど、知ってました?
私たちも隊長の事、大切に思ってるんです
隊長は「休んでください」と言っても休まないだろうから
それならせめて、一護の所へ行かせてやろうと考えたんです
明日の夕方にはこちらに帰ってきてもらわないとなりませんが
一護の所でゆっくりしてきて下さいね
十番隊を代表して
松本乱菊』
乱菊からの手紙を丁寧に折りたたんだ冬獅郎は
「勝手な事をしやがって」と呟いた
しかしその顔は微笑んでいた
「十番隊の皆って良いヤツばっかだな」
「だって・・・俺の部下だから」
ニコリと笑う冬獅郎を
一護は背後から抱きしめる
こうして冬獅郎に触れるのは一ヶ月ぶり
まるでそこに在るべきものだと言わんばかりに
すんなりとその体は一護の腕の中に納まる
冬獅郎も一護に体重を預け、擦り寄ってくる
何も話す必要のない
穏やかな時間が過ぎる
しかし、その時間を壊す者はやはり現れるもの
「おにいちゃーん」
「「!!」」
階下から 妹 遊子の声
とたとたと階段をのぼる音がする
どうやら一護の部屋に向かってきているようだった
「入るよ?お兄ちゃん・・・・・・・?」
「よ・・よぉ、何か用か?」
遊子がドアを開けると、兄とその友人は
まるで磁石か何かが反発したかのように、部屋の隅に離れて立っていた
二人とも引きつったような笑顔で笑っている
そんな二人に疑問符を浮かべた遊子だったが
それも一瞬で、直ぐにここへ来た用事を思い出した
「あのね、今日お祭りだから夏梨ちゃんとお父さんと行ってくるから」
「あぁ・・・今日だっけ?」
「うん。ご飯も各自でって事になったから」
「おぉ、解った」
再びとたとたと遊子が階段を下りたのを確認してから
漸く二人は一息つくことが出来た
「ビックリした」
「だなぁ・・・そうだ、冬獅郎」
「ぅん?」
「夏祭り行こうぜ」
