「夏祭り 行こうぜ」
一護に誘われた冬獅郎は「うん」と頷いた
屋台が並んでいる辺りまでやってきた二人
祭りのメインである花火の打ち上げまでまだ時間があるからか
たくさんの人間でにぎわっている
一護たちも時間まで何か食べながら過ごすつもりだった
はぐれたりしない様に
としっかりと手を繋いだ二人は人ごみを掻き分けて進む
「冬獅郎、何食べたい?」
「そうだな・・・・あ、あれは?」
冬獅郎が指差したものは「フライドポテト」と書かれた店
「よっしゃ、まずはアレにするか」
フライドポテトにりんご飴
フライドチキンに焼きそば
お好み焼き
カキ氷
串焼き
イカ焼き
焼きとうもろこし
ベビーカステラ
一体この食べ物は何処に吸収されているんだ
と聞きたくなるくらい食べ続ける冬獅郎
思わず一護は聞いてしまう・・・
「冬獅郎さん・・・まだ食べるので?」
「?うん。あ、黒崎」
りんご飴を齧りながら
冬獅郎は店を指差す
「たいやき?」
「阿散井から「俺のお勧めです」って前に貰った」
「へ〜恋次がねぇ」
「かすたーど味が美味しかった」
「はいはい」
見かけと違って大食いなんだなぁ
と思いつつ、一護はたいやきを購入する
冬獅郎ご希望のカスタードと自分用の餡子
たいやきが作られていく様子を楽しそうに冬獅郎が見ていたからか
オマケしてあげるよ、と更にもう一つ入れてもらう
嬉しそうに笑うのを見て
こういう所は子供なんだなぁと外見年齢相応の姿が見れて
少し嬉しい一護であった
「そろそろ花火が見れる所に移動しなきゃな」
「この向こう?」
冬獅郎が指差した方向は皆が向かっている花火観覧場所
しかし、一護は首を横に振った
「違う。あそこは混んでるからな
なるべく人のいない所に行こうぜ」
「そんなとこ在るのか?」
「ああ」
一護に手を引かれてやってきたのは
先程までいた所から少し離れた丘の上
成る程、一護の言ったとおり人はあまりいない
「・・・ここってもしかして」
「そう、有名な心霊スポット」
一護と冬獅郎の周りにいるのは人ではなく霊ばかり
しかし、心霊スポットともなれば、肝試ししようと何人か人間が来ていそうなものだが
一護たちから少し離れた所にいる浦原商店の面々の仕業か
一般人は誰一人としてここにいない
こんな事をして良いのだろうか
と冬獅郎は考えたが、直ぐに花火が上がり始め
その事を忘れた
色取り取りの光りが夜空を明るくする
現世のは色んな形があるんだな
と感心していた冬獅郎だったが、ふと あの日の花火を思い出した
それは冬獅郎が一護と出会う前の
まだ、何も知らなかった頃の
あの日の思い出
(松本と雛森と・・・・・藍染・・・)
どーん と一発の花火が上がる
その時になって初めて一護は冬獅郎に話しかけた
「なぁ、今のってハート型だったよな・・・・・冬獅郎?」
隣で楽しんでいるものだと思っていた冬獅郎は
その場にうずくまり、花火を見てはいなかった
「どうかしたのか?具合でも悪くなった?」
一護は優しく話しかけるが、何も返事はない
一護たちの異変に気がついたのか
浦原が近寄ろうとするが、一護はそれを眼で必要ないと答えた
「冬獅郎?」
「・・・・・だと思ってた」
「え?」
再度名を呼ぶと、今度は冬獅郎が何か答えてくれた
しかし、ハッキリと聞き取れなかった
「冬獅郎?」
「・・・ずっと・・・続くと思ってた
仕事して、松本に怒って、雛森と話をして・・・・
雛森は藍染の話ばかりだけど、俺もアイツの事は理想の上司の姿だと思ってた
東仙は真面目で融通の利かない奴だけど、困った事があったら何時でも頼っておいでと言ってくれた
市丸は変わった奴だったけど、必ず三時にはおやつを持って十番隊に来てた・・・」
そこまで言うと、冬獅郎は顔を漸くあげた
その眼から涙を流しながら
「・・・・」
「あれは演技だったのか?藍染も東仙も市丸も
あの毎日も、全部嘘?」
それは誰に問いかけているのだろう
きっと自分ではないのだろうが・・・
そう感じながら、一護は冬獅郎を抱きしめる
「どうして・・・?」
一護の肩に額を押し付けて
冬獅郎は声を殺して泣き始める
(泣かないで・・・)
泣いてほしくない
ずっと笑っていてほしいのに
どうすればこの涙が止まるのか、その方法が解らない
一護はかけてやれる言葉が見つからず、ただ抱きしめていた
どのくらいそうしていたのだろう
一護は冬獅郎を抱きしめる腕の力を緩め、呼びかけた
「・・・・冬獅郎、顔あげろ」
しかし、冬獅郎はなかなか顔をあげようとしない
しきりに眼を擦っている所から、何とかして涙を止めようとしているのだろう
だが、止まらない
それをもどかしく思った一護は顎に手をやり、無理矢理顔をあげさせた
「ぇ?」
冬獅郎が驚いてそう声を出したのを一護は聞いたような気がした
黒崎が呼んでいる
顔をあげろといっている
早くそうしないと、と思っているのに涙は止まってくれない
焦れば焦るほどどんどんあふれてくる
どうしよう と思っていたら、黒崎に顔をあげさせられた
顔をあげた冬獅郎の視界には一護しか見えなかった
どうして?何で?
ぼんやり考えていると、唇から自分のものではない体温を感じた
驚いて眼を見開くと一護の顔がすっと離れていった
「っし!泣き止んだな」
ニッと笑う一護
冬獅郎は何度も瞬きをしながら、そっと自分の唇に手をあてた
「・・・く・・・ろさき?」
今のは?と聞こうとした冬獅郎を一護は再び抱きしめる
そして「ゴメン」と謝った
「何も言ってやる言葉が見つからなくて・・・
一つも気の利いたこと言えないけど、俺はお前に泣いてほしくないんだ」
ぐっと一護の腕に力がこもる
自然と冬獅郎も抱きしめ返していた
「守るから・・・お前が泣かないように
俺がずっと側に居て守るから」
だから、泣かないで
一護はそう呟いて再び冬獅郎に口付けた
(・・・あったかい・・・)
冬獅郎はぽろりと一粒の涙を流す
だがそれは悲しさからくるのではない
一護の暖かさが、優しさが涙を流させていた
不思議と
先程までグルグルと混乱していた心が落ち着いていく
きっと
今一緒に居るのが一護だから
他の者ではこうならない
(黒崎は暖かくて、俺に安らぎを与えてくれる
黒崎のキスは
・・・・・やさしいキス)
あの後はお互いが照れてしまい
花火を見るどころじゃなくなってしまった
自然と視界に入った浦原がニヤニヤと笑っていたのに一護は気がつく
取り合えず笑って誤魔化したが
後日、しっかりとからかわれた一護であった
終
中途半端に終りです・・・申し訳ありません(汗)