藍染から夕飯に誘われるのは初めてではなかった

俺が隊長に就任する前から、なにかと眼をかけてくれていて
いや、学生の頃からだったか・・・
色々と世話になっていた


幼馴染の雛森ではないけれど、藍染は目標とする死神の姿だったように思う


だけど・・・あんな事を言われるなんて












恋をしよう 第二話

























「はぁ・・・」





俺は自室に戻るとすぐに大きく息をはいた
そしてそのままペタンと座り込んだ




「・・・どうしよう・・・」




どうすれば良いのか解らない


頭の中にあるのは先ほど藍染に言われた言葉・・・









『僕と付き合ってほしいんだ』
『へ?』




藍染に誘われて夕飯を食べに行った
すると居たのは藍染だけで、雛森の姿がなかった

尋ねてみると、現世任務中なんだそうだ

ここ最近会ってなかったから会いたかったな と思いつつ料亭へ


そこは貴族や護廷の隊長格なんかが良く利用する高級料亭だった
俺としてはもっと気軽に食べれる場所が良かったんだが
藍染がどうしても と言うのでそこに入った

店はほぼ満席だったようで、藍染は本当なら個室が良かった
らしいが、普通の椅子席に案内された


そこでいつもどおり仕事の話をして
いつも通り俺に色んなアドバイスをしてくれた


藍染の表情が変わったのは、食事も終り
店を出ようかとなった頃


いきなり『付き合ってほしい』と言われた
それが『どこかへ一緒に行って欲しい』という意味だったのか
『交際してほしい』だったのか解らなかった俺は
当然前者の方だと判断した




『ああ・・・いいぜ』
『・・・本気?』
『?ああ、何処に付き合えば良いんだ?』




すると藍染は一瞬驚いて眼を丸くした後
くすくすと笑い出した




『・・・なんだよ?』
『・・い・・・いや、ごめん・・・
そうじゃなくて、君が好きなんだ』
『え』
『そういう意味の「付き合ってください」なんだよ』
『・・・・・』




今度は俺が眼を丸くした

まさか男に
藍染に申込まれるとは・・・




『ゆっくり考えて、それから返事をしてほしい』




藍染に部屋の前まで送ってもらって
別れた

二人で並んで帰ってきたのだが、何を話していたのか記憶にない
頭が混乱していて、変な事を言ってなければ良いけど・・・











そして現在に至る








「・・・・はぁ・・・」




また、ため息

どうしよう・・・
藍染は尊敬しているけれど、そんな眼で見たこと無かった
考えた事無かった

ってゆーか、何で俺なんだ?
俺は男で子供で
藍染に似合わないのに・・・・


どうしよう
こんな事、誰に相談したら良いんだろう

まさか雛森にも出来ないし




(・・・・)




ふっとある男が頭に浮かんだ

藍染とは違う、俺を気にかけてくれている人物
少し・・・いや、かなり鬱陶しいが
あいつならきっと相談に乗ってくれるだろう
























「あ!冬獅郎じゃないかっ!
良く来たねVv」




あいつ=浮竹を翌日尋ねた俺は
やはりと言うか、何時もの様にお菓子を振舞われた

子供はお菓子を食べるものだ

と思っているようで、俺や草鹿には必ずお菓子を渡そうとする
あいつは兎も角、俺は要らないって言ってるんだが・・・




「で?今日はどうしたんだ?」




けれど、やはりこいつも大人というか、腐っても隊長というか
俺が何か相談事があってココに来た事を察してくれたようだった


それも個人的なことだと解ってくれているんだろう
三席達を下がらせて、呼ぶまで来ないように言ってくれていた




「・・・相談したい事があって」
「珍しいな・・・」
「ああ・・・」




すっと出された茶を一口飲んでから
ある人に告白されたんだ と告げた

浮竹は驚いた表情も見せないでニッコリと笑っていた




「・・・・どうした?」
「いや・・・もっと驚くかと思ってたんだが」




意外と冷静なんだな と言うと浮竹は妙に慌てて
「そそそそんな事無いぞ!うん、ビックリした」
とワザとらしい反応をした

おかしいな と思いつつ
どうしたら良いか?と尋ねてみる

こいつに相談したのはやはり間違いだったかもしれない





「・・・・冬獅郎はどうしたい?」
「・・解らない」
「その人の事が、嫌いか?」




藍染の事は嫌いじゃない
好きだと思う
けど、それは浮竹に対しての気持ちと同じ
好意を持てる相手であって
恋愛感情ではない




「だったら、そう言えば良いんじゃないか?」
「そうか?」
「ああ、好きでもない奴と一緒に居る必要 あいてっ!」
「?」
「ななな何でもないよ〜」




浮竹は、何故か涙を浮かべてお尻の辺りをさすっている
何だ?と思いながら
俺は藍染に断る事に決めた





「冬獅郎は・・・」
「?」
「誰か好きな人はいないのか?」
「好きな人・・・」




ぐっと手を握った

好きな人・・・・は、いる

だけど、一生気持ちは伝える事がない人
どんなに好きでも・・・忘れないといけない想い




「・・・・いない」
「・・・その間はいるって言ってるもんだぞ?」
「五月蝿い」





すくっと立ち上がった俺は浮竹の部屋を出て行くことにした
相談になったのかならなかったのか、些か疑問が残るが
気持ちは固まった




「邪魔したな」
「ああ・・・・冬獅郎」




襖に手をかけたとき、浮竹から呼び止められた




「好きな人がいるなら気持ちは伝えた方が良い」
「・・・いないって」
「どんなに望みがない恋だったとしても、言わないでいるよりは
言って振られた方が良い」
「・・・・」
「あの時告白しておけば良かった、行動しておけばこんな事にはならなかったのに
って後悔するよりは行動して後悔しろ」





「・・・なんだそりゃ?」
「その方がお前に合ってると思うぞ」
「・・・・浮竹にしてはまともな事を言うな・・・」























浮竹に『好きな人はいないのか』と聞かれてドキリとした


好きな人は・・・いる


三番隊隊長 市丸ギン


殆ど話をした事のない同僚











あの人と出会ったのは護廷に入ってすぐの頃
その頃の俺は常に一人だった

まだ学生だった頃から護廷内に流れていた噂のせいだ


入学前から卍解が出来ただの
本当は総隊長よりも年上だの
男じゃなく女だの

どこから出てきたんだ?と聞きたくなるような噂がたくさん・・・


毎日うんざりしていた
噂が一人で行動しているようで
誰も実際の俺を見てくれていなかった

皆一歩引いた位置で俺と接して、俺を異端者扱いしていた


ある日、新人死神の懇親会が開かれた
一応俺も新人
勿論参加するつもりだった(強制の懇親会なので断れない)

予定されていた場所に向かうと
・・・・誰もいない


俺には知らされていなかったが、場所が変更になったらしい

これ幸いと、行かないでおこうかとも思ったが
行かないと俺が怒られる

しかし場所がわからない


困り果てていると俺の頭の上から声が聞こえた







「どうしたん?君」
「・・・・・」
「あれぇ?その紙」




市丸隊長だ
すぐに解った
独特の訛り
銀髪の狐顔で長身の男
話に聞いていた通り




あの人は俺から懇親会の紙を奪うと「成る程」と呟いた




「お父ちゃんかお母ちゃんが死神なんやね」
「は?」
「何かあったらここに呼びにおいでって言われてたんやろ?」
「いやっ違っ」




死神は俺だ!
誰がお父ちゃんかお母ちゃんを捜しに来た子供だ!
つか、死覇装着てるだろうが!!




文句を言う前にヒョイを抱き上げられる





「うわぁ!」
「場所が変更になったんよ」




連れてったるわ
とそのまま瞬歩で移動

当時の俺なんかとは比べ物にならない速さの瞬歩

ああ、これが隊長なんだ と実感した










「ここやで」
「・・・有難うございます」




ペコリと頭を下げて別れを告げると
手を取られた




「えっ?」
「君・・・・死神になり」




俺、すでに死神なんだけど?と思いながら何も言わずにいると
元々笑っている顔が更に笑った




「君、強うなれるよ」
「・・・・そう・・・でしょうか」
「うん。君は必ずボクと同じ場所に立てるよ」




同じ場所・・・隊長位?




「君には力がある
とっても大きな力や・・・・それを目覚めさせて、ボクに会いにきて」
「・・・・うん」
「約束や・・・・」




あの人は俺の前で屈むと顔を近づけてきた
「え?」と思ったと同時に口付けされていた




「〜〜〜っ」
「・・・・約束のしるしや」









あの人はすぐにその場を去った
俺は暫くその場で固まったままだった




あの日から俺はさらに修行に励んだ
あの人に会うために

会って、一発ぶん殴る
そう決めていた
他人のファーストキスを無断で奪っていったアイツを・・・



・・・・違う
本当は見て欲しかった
強くなった俺を


あなたの言ったとおり俺は隊長になれた
あなたの隣に立つ為に頑張った

約束どおり会いに来ましたって

伝えたかった













辛い時、苦しい時
あの人の事を思い浮かべてた

不思議と頑張れた
力がでた




あの人の事が好きだ と気がついたのは隊長就任一週間前だった



























『気持ちは伝えた方が良い』
『後で後悔するくらいなら行動して後悔しろ』




そうだな
浮竹の言う通りかもしれない

藍染に告白されたのもちょうど良い機会だ




俺は勇気を振り絞って市丸を呼び出した










普段あまり話をしない俺達
俺は緊張していて話が出来ないだけなんだが
市丸は気がついていない

そして市丸はもう一つ気がついていない

それは・・・俺の事


あの日の事等すっかり忘れてしまったんだろう
隊長就任時の顔合せでも
その後何度か顔を会わせても

アイツは何も言わない
思い出さない


アイツにとってはその程度だったのか
と落胆したが、不思議と嫌いにはならなかった

俺はとことんアイツが好きなんだな と自分を呆れた









「好きだ」




俺の告白にアイツは驚いていた

無理もないか
俺は男で、子供だ
そして向こうは昔交わした約束など忘れている


俺は顔見知り程度の・・・ただの同僚・・・




「・・・ありえへん」




その言葉で十分だった


そうだよな、こいつが俺の気持ちを受け入れてくれるなんて
あるわけない

そうだよな・・・






俺は今日の事は忘れてほしい と精一杯の笑顔をアイツにむけた



















昨日の夜、市丸に降られた後
不思議と涙は出なかった

だから普段どおりに出勤して
普段どおりに松本を叱って


だけど・・・

心は普段どおりじゃなかった




市丸への想いは断ち切らなきゃ

そう思う度に逆にアイツが恋しくなる


忘れなきゃと思うほど

アイツの姿を捜してしまう



これじゃ駄目だ
駄目なんだ



思い悩む俺に
藍染がもう一度二人きりで話を持ちかけてきた




藍染には市丸に告白したその日に返事をじた

『付き合えない』と











「ボクと付き合ってほしいんだ」
「・・・付き合えないって返事をしたと思うが・・・」




場所は俺の執務室
ちょうど隊員たちの終業時間で、辺りはざわついていた
俺たちはソファで向かい合って座った





「解ってる
でも、今君に必要なのは僕なんじゃないか と思ってね」
「・・・・何の話だ?」




藍染は俺の隣に移動すると俺の手を取った




「市丸・・・」
「!」
「忘れる為に・・・ボクが必要だろうってね」






どうして藍染が俺が市丸の事を好きだった事を知っているのか
疑問に思ったが、確かに藍染の言うとおりだった


誰かに支えてほしかった
誰かに忘れさせてほしかった




「君の傍に居させて欲しい」






俺は藍染の手を握り返した





















「君は藍染はんに逃げとるだけや」




ああ、そうだ
藍染が差し出した手を取った




「好きでもないくせに」




その通りだ





俺と藍染が二人でいるところを見たのか
噂を聞いたのか
市丸が俺の執務室へとやってきて

「好きでもない人と付き合ってはいけない」と諭し始めた



お前の言うとおりだ

俺は藍染を利用した

悲しかったから
苦しかったから

お前を・・・忘れたかったから・・・



なのに、何で俺の前に姿を現すんだよ
何でそんなに優しく言うんだよ


このまま・・・お前がいたら、俺はずっとお前の事
忘れられないじゃないか・・・


















市丸に抱きしめられて思い切り泣いた日から二ヵ月半経った

何を考えているのか
アイツは俺を追い回すようになった

話すと辛いだけだし
恥ずかしかったし
俺は必死で逃げ回っていた

でもそれが最近なくなったように思う

やっと諦めてくれたか、と安心していると
松本から飲み会に誘われた





俺は基本的に飲み会に参加しない

行っても酒は飲ませてもらえないし
周りから可愛い可愛いと言われて玩具にされるからだ


勿論一回は断った
しかし『少人数ですし、最近元気がないでしょう?』
と言われてしまった


毎日傍に居る松本に随分と心配をかけていたのは知っている
もしかしたら俺の為に計画してくれたのかもしれない




仕方ない
俺は了承の返事をした