「どうや?十番隊長さん、気がついとる感じやった?」
「全く気づいてないわね」
「ちゃんといらっしゃるでしょうか?」
「大丈夫よ
約束は守る人だから」




松本がそう断言したと同時に
店の店員が日番谷の到着を告げた

慌てて松本達は襖を開けて隣の部屋へと逃げる


これで部屋には市丸だけ




「・・・やっと会えるな、日番谷はん」


















恋をしよう 最終話













「・・・待っとったで・・・」
「!な・・・んで?」




「先に行く」と松本は日番谷よりも30分先に出た
日番谷が仕事を終わらせて飲み会の場所に着き
襖を開けると、そこには市丸しか居なかった


驚いて固まったままの日番谷を市丸は引き寄せて腕に抱きとめた




「!放せ!!」
「嫌や」




ジタバタと暴れる日番谷を力いっぱい抱きしめる
さすがにお互い場所が場所(一般の死神もいる)だからか
霊圧を開放してどうこうするつもりはないようだった


と、なると腕力では子供の日番谷が大人の市丸に敵うはずがない

暴れてなんとか逃れようとするが腕の力は弱まるどころか強くなる一方だった




「話があるだけや・・・お願いやから、逃げんといて」
「・・・っ・・・」




日番谷が大人しくなったのを見て、市丸は少しだけ腕の力を緩めた
とはいっても開放したわけではなく、軽く抱きしめた状態ではあるが・・・












市丸は日番谷を膝の上に座らせ、二人は向かいあっていた

しかし、日番谷は顔を俯けており決して市丸を見ようとはしなかった


それでも良い と市丸は微笑んだ
やっと二ヵ月半ぶりにまともに会えた
しかもこんなに近くで触れ合えている

それだけで満足した







「・・・・最初に・・・この間はゴメンな」
「・・・」
「ボク、君を傷つけてばかりや
反省しとる」




ぎゅっと日番谷は手を握った
今更何の話があるというのかと思えば
あの時の詫びを入れにきたのか

ふっと日番谷は笑った

こんな風に抱きしめられていると
まるでこの男と自分が恋人同士のように思えてくる
それほどまでに自分は今の状況に喜んでいた
離れたくない
ずっとこのままで・・・
そう思うほどに


実際はそうではないのに
この男は自分をなんとも思っていないのに

ここで「気にしていない、もう忘れよう」と言えば
それで終り


出来ることならこのまま時間が止まれば良い
この瞬間で世界が終われば良い




けれど、そうならないのが現実


いつまででも夢を見ていてはいけない




「・・・気にしてない・・・」
「そうか」
「・・・そのことも、俺との事は全部忘れてくれ」




さあ、俺を放して
俺を現実に戻して










「嫌や」
「え?」




日番谷はぱっと顔をあげる
すると、市丸はにっこりと微笑んだ




「やっと顔をあげてくれた
やっと君が見れた」
「・・・」




至近距離で市丸と眼があって
日番谷は慌てて視線を逸らす

しかし、それさえも市丸にとっては可愛らしい仕草だった

思わず、日番谷を引き寄せる




「!ちょっ」
「気がついたんよ」
「?」




耳元で囁くように小さな市丸の声
日番谷は暴れるのを止め、次の言葉を待った






「ボクが・・・君を好きなんやって事を」
「!!」





今、この男はなんと言ったのだろう
聞き間違い?
いや、確かに聞いた

聞けるはずのない言葉





「今・・・」
「ん?」
「・・・何て言った?」




眼を合わせて市丸は微笑む
日番谷の眼には涙が溜まり始めていた










「ボクは、君が・・・日番谷冬獅郎が好きや」






「っ!」





ぽろり と日番谷から涙が溢れた
それを指で拭いながら
市丸はもう一度「好きや」と告げて、日番谷に口付けた



































「ボクが言うから君は来んでええよ」
「いや、俺がはっきりと断らなかったせいだ、俺が言う」




やっと落ち着いた日番谷と
日番谷をずっと抱きしめていた市丸は「藍染」について話していた


想いが通じ合ったのだから彼との事は無かった事にするべきだ
と市丸が強く主張した為
どちらが藍染に話しに行くかで揉めていた


手を差し出されたからといって、恋愛感情を持っていなかった藍染を一時的に選んだのは
日番谷だ
けじめをつけるためにも自分が話しに行くと言い
別れるなんて言ったら最後、押し倒されてしまうかもしれないと心配した市丸が
自分が行くと言い
平行線をたどっていた

では二人で行けば良いのではないかとも思うが
この時の二人には思いつかなかったようだ・・・




「頑固やなぁ・・・君」
「てめぇもな」




二人がにらみ合っていると
かすかに聞いた事のある声が聞こえた






























「この部屋で良いかな、卯ノ花隊長」
「ええ、藍染隊長」




((!?))




それは卯ノ花と尸魂界にいないはずの藍染だった

二人は市丸達の隣の部屋に入っていく


襖一枚で仕切られた部屋
隣の会話はこちらが静かにして聞き耳をたてていれば十分に聞くことが出来た




(どうして・・・藍染が卯ノ花と?)




現世に行くと言っていた(一応)恋人に日番谷はショックを受けていた
もしかして自分は騙されていたのだろうか と












市丸と日番谷が隣で聞き耳をたてている事を知らずに
二人は楽しそうに会話をしていた


そして




「・・・そう言えば藍染隊長」
「?何ですか?」
「あの小さな隊長さんとの仲はどうなのですか?」




(!)




ぴくっと反応した日番谷を市丸は抱き寄せる




「ああ・・・上手くいってますよ」
「まぁ」




クスクスと卯ノ花の笑い声が聞こえた




「お可哀相に」
「そうですか?」
「ええ」




(可哀相・・・やて?)




「だって、騙していらっしゃるんでしょう?」
「・・・」
「仰っていたではありませんか『天才児と謳われる子供を本気にさせたら、面白そうだ
暫く黙って見ていてもらえますか?』と」




((!!))




ガタガタと震える日番谷の身体をギュッと抱きしめて
市丸は藍染がいるであろう場所を睨んだ

最初から嘘だったなんて
日番谷はどうして?と青ざめていた

落ち込んでいた自分を優しく支えてくれたのに
どうか、嘘だと言ってほしかった









「ええ・・・もう少しで手に入りそうなんですよ
手に入ったら手酷く捨ててしまおうかと思っているんです」




「「!!」」








とうとう市丸の限界がきた





「ふざけんなや!オッサン!!」




すぱーん
と襖を開いて市丸は日番谷を抱きしめたまま隣の部屋へと怒鳴り込んだ
藍染と卯ノ花は一瞬驚いたが
すぐに何時もの笑みを浮かべる




「おや、市丸に日番谷君」
「お元気なのは宜しいですが、他の方もいらっしゃるんですから、お声は控えた方が宜しいかと」




あまりに普通に返されて、ガクリとなった市丸だが
すぐに気を取り直す
そんな市丸の腕の中で日番谷はある存在を発見した




「・・・・・」




ぽかん と口を開いた日番谷はどうなっているんだと
混乱したが、そこは天才児
何かしら察してしまった





「何アッサリしとんねん!ちっとは焦らんか!!」
「何に焦るんだい?」
「せやから、今二人で話しとったことについてやなぁ!」
「・・・・市丸」




クイクイと日番谷が市丸の死覇装を引っ張った
どうしたのか と目線をやると日番谷は自分達のいた部屋を指差していた




「は?・・・・はぁ!?」




市丸が見たものは
護廷十三隊の残りの隊長達(総隊長以外)の姿だった


































「『恋のキューピッド大作戦in尸魂界』?
何これ」




「説明せぇ!」
と怒り狂った市丸を押さえ
一番隊隊首会会場に集まった一同


手渡されたのは一枚の紙

それにそう書かれていた





「片思いの方、両思いなのに気持ちを伝えられない方
そんな方達をサポートし、恋愛を成就させる偉大な作戦ですわ」




ニコニコと笑う卯ノ花を見て
ああ、自分達ははめられたのだ と認めたく無かった事をやっと認めた




「大変でしたのよ
藍染隊長が日番谷隊長に告白なさる場所を朽木隊長に貸し切ってもらったり」




貸切にして六番隊を始めとする各隊の『お喋り』な隊員達を招待し
噂を一気に広めてもらった




「きっと日番谷隊長は浮竹隊長に相談なさるでしょうけど
あの方、途中まで役目を忘れて本気で藍染隊長を振るようにアドバイスなさるし」




ああ、そう言えばどこかおかしかったなぁ と日番谷は改めて思った




「日番谷隊長が市丸隊長に告白なさる時は、一番隊を一時立ち入り禁止にしましたし」




四番隊隊長と十二番隊隊長の二人で「新種のウイルスが出た」と騒いだらしい
そりゃ誰も入ろうとしないわな・・・
言われてみれば誰も居なかったなぁ
と当時を思い出した






「ですが、お二人が晴れて恋人同士になれて本当に良うございました」




ニコニコと微笑みかけられて
市丸と日番谷は「はっ!」と気がついた





「も・・・もしかして」
「あんた等・・・全部覗いとったとか言わんよな?」





まさか、あの十番隊でのやりとりや
今日の告白と・・・キスを・・・





「ええ・・・勿論、デジタルハイビジョン ハンディカムで記録いたしましたわ」
「「!!」」
「後で総隊長にお見せする約束ですの」











「「やめろ〜!!」」































「マジであいつ等信じらんねぇ!」




ぷりぷりと怒りながら一番隊を出てきた日番谷と市丸
日番谷の手には録画された彼らの映像が納められていた

それをグシャっと握りつぶした日番谷に
市丸は「ちょっと勿体無かったかも」と一瞬だけ思った




「・・・まぁ、お陰で両想いになれたもんやし」
「そうだけど・・・さ」




顔を真っ赤にする日番谷を抱きしめて市丸は囁く





「ボクの気持ちは嘘やないよ」







「君が好きや・・・・・愛しとる・・・冬獅郎」




真剣な表情で改めて言われると照れてしまう
日番谷は思わず俯いてしまった




「あれ?どないした?」
「お・・・お前が・・・んな事言うから・・・恥ずかしくて」




市丸は日番谷の髪に口付けた後、もう一度囁いた




「恥ずかしならんようになるまで、何度でも言うたるよ
・・・・君を愛しとる」
「うん・・・・俺もお前を愛してる」






やっと顔をあげてくれた日番谷と
そんな日番谷を優しく微笑んで見ていた市丸は
暫く見詰め合った後、ゆっくりと互いの唇を重ねた