「居てくれると良いんだけどな・・・」
俺はブツブツ言いながら隊長執務室を目指した
もし居なかったら・・・その時はその時だ
「あ。黒崎さん」
「あ?ああ、アンタか」
廊下を歩いていた俺に声をかけてきたのは十番隊の隊員
俺がココに遊びに来る時によく話をする死神の一人
「今日はどうされたんです?」
ニコニコと笑顔で話しかけてくるその隊員に俺は冬獅郎は居るか?と尋ねた
「隊長なら執務室ですが」
「そうか。で、ちょっと会いに行ってもいいかな?」
やっぱり仕事の事で慌てて帰ったのか
あの冬獅郎が慌てて帰ったんだ、余程大変な仕事があったんだろう
それなら会わない方が良いんだろうけどほんの少しで良いから会っておきたかった
「うーん・・・どうでしょう?とてもお忙しそうなんですよね」
暫く考えた後、副隊長に聞いてみます
と乱菊さんに尋ねてくれることになった
「いらっしゃい一護」
数分後、上位席官達の執務室に通された俺の元に乱菊さんがやってきた
「こんちわッス」
俺は挨拶もそこそこに冬獅郎と会えないか、と尋ねた
「私は良いけど隊長は今仕事の邪魔されたくないかもね〜」
「仕事って今日は休みだったんでしょ?休み返上までしなきゃならないほど大変なんですか?」
「え・・・・とねぇ・・・エヘ」
乱菊さんの笑顔がぎこちないものになった気がした
何だ?なにかあるのか?
「実は・・・隊長の三連休は嘘なの」
「は?」
「本当は今日だけお休みで明日と明後日はちゃんと仕事の予定なのヨ」
なんだってそんな事?
俺は乱菊さんから事情を聞くことにした
すべてはある祝日が原因だった
『敬老の日』それは老人をうやまい長寿を祝う日
この尸魂界では殆どの者が年齢から考えるとかなりの年寄りだが・・・それは置いといて・・・
この敬老の日は十三隊の隊長たちにとって一年で最もやってきてはほしくない日であった
それというのも、この日は『隊長たちで総隊長山本元柳斎重国の長寿のお祝いをしなければならない』と誰がいつ決めたか分からない暗黙の掟が存在するからである
毎年、隊長たちは頭を悩ませていた
総隊長はどうやらこの日はとても天邪鬼になるようで、手土産を持って祝いに行けば「年寄り扱いするなワシはまだまだ若い!」と怒鳴り、ならばと何も贈らなければ「よいか?敬老の日とはの・・・」と延々と説教をされる
「どうしろっちゅーんじゃ!」とよく隊長たちは総隊長の居ないところでキレていた
だがある年、救世主が現れる
その人物の名は草鹿やちる
彼女は見事『総隊長の孫』という役目を果たし、その年は妙な掟始まって以来の穏やかな敬老の日となった
しかし、それも長くは続かなかった
基本的にやちるは更木と行動を共にする。むしろ更木命だ
その彼女が敬老の日とはいえ更木とほぼ一日離れていられるわけがない
案の定、総隊長を放ったまま居なくなるという最悪の事態が起こった
隊長たちが八つ当たりされたのは言うまでもない・・・
そこで隊長たちは人員(孫)の増員を図った
目標はその年に入隊したばかりの日番谷冬獅郎
霊術院を過去最速で卒業し、入隊直ぐに上位席官という将来期待のルーキー
さっそく話を持ちかけたがスッパリ拒否された
まぁ当然の反応だが、隊長たちも諦めるわけにはいかなかった
なんせ被害を受けるのは自分達・・・必死だった
何度話しあいをしても平行線をたどるだけだったが、ある日五番隊隊長藍染(当時)がかつて日番谷の幼馴染が使ったある方法で彼に強制的ではあるが、孫役を承諾させた
「冬獅郎の幼馴染が使った・・・ってまさか」
「誕生日のアレの敬老の日ばーじょんヨ」
冬獅郎・・・騙されすぎだろう?
俺は頭が痛くなってきた
ってかイイ玩具になってるな・・・アイツを尸魂界に置いといて大丈夫だろうか?
敬老の日、それは老人を敬い長寿を祝う日
この尸魂界一番の長寿といえば山本総隊長
総隊長は死神の長
当然死神は総隊長を祝わねばならない
だがお祝いできるのは『子供だけ』
通常死神にお子様はいない
その為総隊長は長い間『誰からもお祝いされていなかった』
なんて『可愛そうな』総隊長!!
我々(隊長達)も祝ってあげたかったがなんせ『子供しか』祝ってあげられない『決まり』
君や草鹿君も『すぐに大きく』なってしまうだろうからせめて『今だけ』でも良いからお祝いしてあげてくれないだろうか?
藍染は『』の部分を強調しながら日番谷にうんと言わせた
そして敬老の日の決まり事として
一日何でも言う事を聞くこと
必ず笑顔でいること等付け加えた

